第3話 オアシスにて
お気に入りの寝床で休んだおかげか、それとも魔法の酒の力か、はたまた風が良かったからなのか。ウェルリアデスは昨日5時間かかった道のりを今日はたったの3時間半で飛んでみせた。
その快速ぶりはリオにペンダントのことをすっかりわすれさせるほどだった。
今日のオアシスは既に先客がいた。
リオは商人の一人に話しかける。
「やあ、どこまで行くんだい?」
「ああ、とりあえずはカーまで。」
「おや? 俺はちょうどカーから来たところだよ。」
リオの返答は彼にとって喜ばしいことであった。
「なんと! この先の天気はどんな感じだったかな?」
「雲ひとつない快晴だよ。ありゃ水を多くもっていったほうがいいね。」
「そうか助かる。……少し待っていてくれ。」
商人は荷の一部を解くと、ゴソゴソとやっている。しばらくして彼は振り返った。
「礼と言ってはなんだが、これをあげよう。」
差し出した小さな木綿袋の中には乾燥させた
「こんなに? 悪いね。」
中身を確認したリオは少し驚いた様子を見せたが商人は何ともないふうに答えた。
「いいんだ、ドラゴンライダーは助け合いだろ?」
「ああ、じゃあ他のライダーにでも会ったら分けてやることにするよ。」
ドラゴンライダーは助け合い。砂漠や海、そのほか厳しい自然の中で長い距離を移動する彼らにとっては見習いの頃から自然と身に染みついている言葉である。水や食料、情報を融通しあうことでお互いの旅路を確実なものにしていくのだ。
特に高空から遠くを見渡せる飛竜乗りのもたらす気象情報は非常に重要なものとされている。そのためリオも隊商をみかけると度々声を掛けているのだ。
「(リオ、おはなしすんだ?)」
ひとしきり水浴びを済ませたヴェルがうなる。
「おっと、相棒が呼んでる。それじゃ、よき旅を!」
「おう、よき旅を!」
リオがヴェルのもとに駆け寄ると、ヴェルは得意げに黒くて丸いなにかを見せた。
「げぇっ、
「(うん、砂漠にいるくせにあまくておいしいんだ。)」
「いいよ、甘いものは今もらったから!」
「(リオ、好き嫌いは良くないぞ。)」
言い終わるが早いか竜はパリパリとその甲虫を食んでいる。
「お前ってやつは……。」
リオは半ばあきれたようにデーツを一つ頬張ると咀嚼しながら水筒に水を満たした。
そしていつの間にか隣で喉を潤している相棒の背中に、降ろしていた荷物を再び手際よくくくりつけていく。
「(もういくの?)」
「水浴びはもう済んだんだろ?」
リオは有無を言わさなかったが、竜の方も特に気にする様子はないようだった。
一度大きく伸びをしてからヴェルは相棒を背中に乗せた。
「よし、じゃあもうひとっ飛びだ!」
デーツの種を吐きだしながら青年は飛行帽のゴーグルを下げる。
彼の飛竜も楽しそうに一度吼え、翼を広げて助走に入る。そして大きく羽ばたくと、風を掴まえ一気に上空へと舞い上がった。
目指すはデー・ルーの街。
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