第3話 イデア全焼事件
◆◆◆
「う……」
目が覚めたとき、俺は見知らぬ場所にいた。
「蓮! 目ぇ覚めたか!」
「英治……ここは……」
「近くの病院だよ。お前を追って捜したら、倒れてたんだぜ」
気を失ってたってことか……。
「それより! 雨宮は!?」
「は? 雨宮……って誰?」
「放火魔だよ! 今回の事件の! あれはあいつに間違いない!」
「……何言ってんだよ。今回の火事は自然災害だぜ」
嘘だ……。それはありえない。だって、あんな湿気の強い場所でどうやったら自然に火が燃え上がるんだよ……!
「てかその雨宮って……もしかして黒髪ロングだったりする?」
「み、見たのか……?」
「見たもなにも……蓮をここまで運ぶの手伝ってくれた人だぜ。放火魔なんて、絶対ありえないから」
「は……?」
英治の方こそ、見間違いなんじゃないのか……?
だって、雨宮だぞ? 俺を裏切った雨宮がどうして俺を助けたりするんだ…?
しかも、放火魔じゃないってどういうことだよ……。
「そいつは今どうしてる」
「え?」
「雨宮は今どうしてるかって聞いてんだよ」
「そりゃ……帰ったけど……」
「チッ」
思わず舌打ちをする。――決めていたのに。4年もの間、ずっと誓ってきたことなのに。
“次にあいつに会った時、必ず復讐をすると。”
まさか助けられるだなんて、思ってもいなかった。
「そっか! お礼がしたいのか!」
「お礼?」
英治が唐突に訳のわからないことを言い出す。
「うんうん。女に興味を持たないお前が、どうしてその人にこだわるのかようやく理解できた。助けられたお礼がしたかったのか!」
英治は何を理解したと言うんだ。だが、お礼という名目を使えばあいつの今の居場所が分かるかもしれない。絶好のチャンスじゃないか。
「あれは間違いなく、三日月高校の制服だね!」
即解決だった。
「さんきゅー英治」
「おう! 粗相のないようにな!」
ケッ! 何が粗相のないように、だ。バリバリ粗相とやらをかましてやるよ。聞きたいことは山ほどある。
なぜ俺を裏切った? なぜ俺を助け出した? 炎の中で何をしていた? 放火魔はお前か?
挙げだしたらキリがない。その日の帰宅はいつもより少し遅い十時頃になった。部活が終わって火事を見に行ったのが七時半頃で、病室で目を覚ましたのが九時頃だから、約一時間半もの間、気を失っていたことになる。そして、英治は何も突っ込まなかったが、俺は怪我を負っていない。だがあの時確かに俺は火の中に飛び込んだ。怪我をしていないなんて、おかしくないか?
あの時のことについて詳しく調べてみる必要がありそうだ。そして必ず、雨宮紅愛が放火魔だと立証してみせる……!
この時間、家に親はいない。もともと片親で父と二人暮らしだが、その父は夜勤のせいか、ほとんど姿を見せない。別段寂しいと感じたことはなく。俺は一人暮らしでもよかったぐらいだ。親の顔なんて見たくもない。練習時間が他のどの部活よりも長いバスケ部を選んだ理由だって、なるべく親と顔を合わせたくないからだ。リビングを素通りし、奥にある自室へと入ってすぐにパソコンを起動した。暫くしてネットに繋げると、思った通りさっきの火事はニュースになっていた。
『怪奇現象か? イデア全焼』
イデア……あのショッピングモールの名前だ。そこには、メディアの解釈を含めた今回の事件の概要が書かれていた。
20XX年1月25日午後7時25分頃、大型ショッピングセンターイデアが全焼するという事件が発生した。
近隣の住民の証言によると、同時刻に急に大きな炎が上がり、イデアを飲み込んでいたという。
警察の捜査によれば、このイデア内に爆発物等の痕跡は見られず、現場も爆発は起きなかったと告知しているが、消防団が消火活動を施しても火が消えることはなかったという。
そして、いくら水を蒔いても消すことが出来なかった炎が、午後7時40分頃、一瞬にして消滅した。
また、現場には引火の原因となるような証拠も未だ見つかっておらず、放火魔の仕業として現在も引き続き捜査を行っている。
この事件による死者は271人、負傷者は28人発見された。
一体、誰がどのようにして引き起こしたのだろうか。そしてどのようにして炎は一瞬にして消えたのだろうか。
早くもネット上では「怪奇現象」や「悪霊の仕業」、「黒魔術」などと囁かれているようだが、専門家は「自然現象」として分析を進めている。
「……」
やっぱり、おかしいんだ。死者と負傷者の桁もおかしい。自然現象なら、死者のほうが多いなんて普通おかしいだろ?
これは、誰かが意図的に起こしたものとしか考えられない。きっとあいつが……。
そういえば、あの時現れたあの青い紋章はどうなっているだろう。パソコン上でカメラを立ち上げ、モニターで確認した。
「残ってる……」
これはただの直感なんだけど。この紋章が、この事件に関与しているのかもしれない。『黒魔術』……?
「はは……厨二くさ……」
口ではそんなことを言いつつも、少し確信めいたものがあった。突如現れた大きな炎。突如現れた謎の紋章。そして突如として一瞬で消えた炎。そうやって今回起こった奇妙な出来事を一列に並べてみたら、全て関連性があるように思えてきた。本当に関連しているのかもしれない。内心オカルトだと思いつつも、これらを関連づけるストーリーを思い浮かべてみた。
突如、ショッピングモールが炎に包まれる。それは紋章が引き起こしたもので、この炎を止められる力を宿す青い紋章が現れる。その青い紋章に選ばれたのが――俺。紋章の力によって炎は消えた。それと同時に、力を消費したことで俺は気を失ってしまった。
これだと少し納得がいく。そして炎を起こした人物が雨宮紅愛だと仮定するなら……あいつも紋章を持っているはずだ。あくまで仮定だが……。俺には青の紋章が宿った。炎を止められる力なら、きっと水とかその辺りの属性なんだろう。だとすると、雨宮は炎を起こす、赤い紋章を宿している?
ゲームやライトノベルにありがちな設定だが、あってもおかしくはない。もう現実に、起こりえないことが起こってしまっているのだから。
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