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外はすっかり暗くなってました。
「音楽教師って結構遅くまで残ってるとおかしくないですか」
「知らん」
「ボクより先に出てもらえますか」
「何するつもりだ」
疑っているような顔をされました。というか間違いなく疑われています。あんなことまでした仲なのに信用ゼロのようです。
「ちょっと歩けないだけですよ」
「初めてじゃあるまいに」
呆れたようにため息を吐かれて、少しイラッときましてですね。えっと。隠し通すつもりだったけど、意地悪をしたくなりました。ボクは悪くありません。
「男の人そのものは初めてでしたよ」
「はぁ?」
その時、ボクはどんな表情をしていたのでしょう。
ボクはにへらと笑ったつもりでしたが、満面の悪い笑みだったかもしれません。
はい、舌打ちいただきましたー。
「種明かしすると大人のおもちゃでディルドというのがあってですね」
「頭おかしいんじゃないか」
「そりゃ好き好んで先生と寝るくらいですから」
「早く帰れ馬鹿野郎」
※
途中何度か休憩を挟みながら、どうにか家に帰りつきました。高倉先生は鬼か悪魔だと思います。こんな状態のボクを送りせずに追い出すなんて。冗談じゃなく地獄に住めばいいのに。
折れそうな安い合鍵を回せば灯りのない我が家でした。
暗がりに鞄だけを置いて、テーブルの上の野口さんを掻っ攫います。枚数を確認してみれば一人ですか、しけてますね。文句を垂れながらも弁当と野菜ジュースを買って来て、目のチカチカする電灯を点けました。何もない畳の部屋にビニールのくしゃりと潰れる音が転がります。
いただきます。ごちそうさま。ゴミを捨てて、布団を敷いて。おやすみなさい。また明日。
※
3つのサラバンドという名前だったそうです。この前先生が弾いていた曲は。週末の休みに渋谷のタワレコでふらっとクラシックコーナーに足を踏み入れたボクは、その曲を含んだCDを探しました。
まさか在庫なしとは。あまり有名な曲でもなかったのかもしれません。仕方なくその作曲家の別のCDでも買おうかと、棚の前にしゃがみ込みました。
視界の端に妙な動きを感じて顔をあげます。
明らかにこっち見て方向転換しましたよね?
「どうして逃げるんですか」
棚の向こうに回りこむと、案の定そこにいたのは高倉先生でした。苦虫を噛み潰したような顔が上手ですねこの人。
「ここで何してる」
「この前先生が弾いてた曲を探しにきました」
「嘘つけ」
本当なのに。ウソっぽいのは自覚してますけれどね。
「なかったんですよ」
「だろうな」
「なかったんです」
嫌そうな顔をされました。先生もだいぶボクの言動が読めるようになってきたみたいで嬉しいです。
「先生の家にCDありますよね?」
「ない」
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