第14話 逃げるわけないだろ
状況は圧倒的に不利、まだ勝ち目は見えない。
「牙、アンタは逃げなさい」
「逃げるわけないだろ」
「だったら、水菜を呼んで来なさい」
「呼んでくるうちにお前絶対死んでるだろ」
「うっさいわね、人がせっかく親切にしてやってるのに」
「余計なお世話だ馬鹿」
こんなピンチの時に限って、理沙はそう言う事を言い奴だ。
分かっていた。
口が悪いし、手が出るし、態度が悪い彼女で、特訓の時も散々「才能ない」とか「根性なし」とか罵声浴びせてくるやつだけど。
それでも、本音の部分では優しい奴だってことを。
逃げる?
そんなの今更だ。
ここに来た俺に言うセリフじゃねぇよ。
本当に何を言い出すのか。
「全部全部余計なお世話なんだよ、かいがいしく特訓に付き添ってくれやがって、指摘も細かいし、悪口は尽きねぇし、蹴るし殴るし暴力振るってくるし」
「……」
「けどな。そんなでも、お前は俺の事、ちゃんと思って言ってくれてるんだろ。いつだって、今だって。なら見捨てられるわけないだろ」
「……ふん、後悔しても知らないんだから」
するもんか。
するとしたら、それは俺がお前を見捨てた時ぐらいだろうよ。
「お喋りが好きなようだな」
「余裕ついでに高みの見物さんきゅな、感謝してねーけど。ついでに今から愛の告白するから、それも見逃して」
「え、ちょ。はぁ!?」
理沙が慌ててる。
思い浮かんだ可能性を考えるには、今はこれしかない。
だって他にうまい時間稼ぎの仕方、思いつかんかったし。
騙すような感じで何か悪いが、必要だ。
理沙には後で死ぬほど謝ろう。
「な、なによ。急に、そんな……うぅ」
彼女は、赤くなったって慌てながら、こちらに視線をチラチラ。
うーん、謝ったくらいで許してもらえるか?
でも、時間を稼いだかいはある。見えかけた突破口が繋がった。
「理沙」
「は、はい!」
「愛してる! あと、フォローよろしく」
「えええっと、まずは友達から。……って、え?」
発言と同時に俺は走り出していた。
駆け出しの俺だけどな、身近に煩い先輩がいるもんだからどうしても覚えちまった事があるんだよ。
「無駄な事を」
藤堂が拳銃を向けた。
最初の一発は運だ。
銃声。
肩に当たった。
「っ」
だが動ける。
痛みがやって来る前に、奴の前に辿り着く事を優先に。
「らぁぁぁぁ!」
俺が懐から出して、構えたのは武器でも何でもない、何の変哲もないボールペンだ。
学生服に入れっぱなしだったやつ。
「なんっ」
驚け。
弱っちい弱っちい俺だが、有難い事に、理沙達が最初に叩き込んでくれたのが、護身術なんでね。
まず化物退治より、不審者から身を守れるようになれとか……思ったけど俺過小評価されすぎだろ。実力その通りだけど。あと、理沙お前、過保護すぎ。
接近した俺にスプレーを吹きかけようとする。
それは力を使って、凍らせた。
ここまでは俺でも対処できる。
初見じゃなかったからな。
問題は、ここから。
「小僧が……!」
接近してきた俺を警戒すべく藤堂は、次へと行動。
いくらインドア派でも、それくらできるよねやっぱり。
腕を掴んで投げ飛ばそうとしてきた、または足をひかっけて転ばそうとするか。
それをわざ受けて、受け身。
スパルタ教官たちに似たような事何度、やられた事か。
俺は即座に起き上がり、転がっていた鞭を手にした。
そして、意味ありげにニヤリ。
「喰らえ」
理沙の動きをまねて、振りかぶった。
「くそ、こいつもかっ!」
おそらく相手はこう思っただろう、俺も鞭を使えるのか。
応えはノーだ。
それはフェイク。
情報の無さを逆に利用させてもらう。
「牙!」
理沙から投げられた、おそらく身だしなみ用のそれを受け取る。
「今日の天気は晴れえぇぇぇ!」
本命は左手に持っていた鏡だ。
本日午前の降水確率はゼロ。雨じゃなくて良かった。
我ながらありえないほどダサい掛け声だと思いつつも、朝日の力を反射させ目つぶし。
動きを止めた相手を思い切り殴り飛ばした。
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