第13話 生命奪取



 集めた情報によると、藤堂の能力は、生命奪取ライフスティールだという。

 半径十メートル以内にいる人間の生命力をじわじわ削り取っていくと言うもので、殺傷能力はそんなに高くはない。


 この部屋の大きさは、ちょうど十メートル。

 逃げられないのは確定しているので、勝つ為なら早期に決着をつけるしか方法はないだろう。


 だが、それだけが相手の力ならば苦労はしないだろうが、相手は長年抗体組織にいた人間。

 エージェントではなく研究職らしいが、銃器の扱いには長けているとの事だ

 戦闘が始まってさっそく。


「ぼさっとしてない!」


 俺は、理沙に蹴り飛ばされた


 理由は単純。

 少し前まで経っていた場所を銃弾が通過、床のマットに穴をあけたからだ。

 藤堂は銃を手に持っていたのだ。


 撃ったらしい。


「うおおっ!」


 遅れてその事に気づく。

 風穴開くとこだった。

 どうしても、普段緊急の場になれてないからか、初動で一歩遅れちまうんだよな。


「下がって大人しくしてなさい」

「おい、ちょ……」


 で、遅れなかった理沙は鞭を取り出して、相手へと接近。

 そして、おそらく能力を使おうとした。


「時間を……っ!」


 彼女の能力は、少しの間だけ対象の時間を止めるという異能。

 対人戦闘ではこれほど有利となる力はそうそうないだろう。

 これで本人が、もっと優秀だったら文句なしだが、それは置いとく。


 そういうわけで、理沙はその能力を発動させようとしたのだが、その集中をかき乱す様に藤堂は攻撃を放ってきた。

 銃弾が一発。

 反射神経を駆使して、先読みするかのように理沙は回避した。


「っ!」


 彼女は、拳銃には冷静に対処しているようだ。


 だが……。

 小型の筒の様な物を取り出して、理沙の方へと向けたのはスプレーだった。

 中身の水滴が噴射される。


 ふわりと漂うそれの正体は分からない。

 柑橘系の匂いが漂ってくるが、それが香水なのか薬品なのか区別がつかないのが痛い所だった。


 おまけに軽い霧状のそれは、長く空気に滞空しているので、その一帯を通り抜けられなくなってしまう。


 理沙は、バックステップで回避した。

 そして、助力を求められる。


「こいつっ、牙! 凍らせて」

「あ? おおっ!」


 まさか当てにされるとは思っていなかったために反応が遅れてしまった。


「いけっ」


 俺のダイアモンドダスト……凍らせる能力を使って、ギリギリ人が死なない程度の冷気が部屋に満ちる。

 その光景を見た藤堂が、腑に落ちたといった様に頷く。


「そうか、こいつ例の新人か。データが無いのは不便だな」


 最近は言ったおかげで、ノーマークだったようだ。

 新人だという立場に助けられた事をう喜べばいいのか、ちょっと複雑だ。

 そんなやり取りの間にも、理沙が接近していく。


「これでっ!」


 彼女は相手に近づく。

 意識をかりとろうと鞭を振りかぶるが、またしてもその一手は遮られる。


「なっ」


 藤堂がかざした右腕。

 それはとっさの行動ではなく、攻撃する為のものだった。

 腕時計の機械部分から、細い針の様なものがでて、理沙の右手に刺さった。

 振りかぶっていた右手が、動かなくなる。


「っ、速攻性の麻酔!」


 今度は薬品だったようだ。

 理沙はやむなくその場から離れる。

 その際に鞭が床に落ちた。

 左手で針を引き抜くが、右手は動かせないようだ。

 五分が経過。


 ちょっと体がふらついてきた。

 これ以上時間をかけるとまずいかもしれない。


 弱ったまま勝利しても、他の黒服達をかいくぐって、先程の録音した証拠品を本部へ届けられなければ意味が無いからだ。


「おい、理沙。大丈夫か!」

「平気よ、耐性はついてる。毒じゃなかっただけマシね。用途は護身用といったところかしら」


 冷静だな。

 こういう時に、動じない姿を見ると、曲がりなりにもやっぱりプロなんだろう事が分かってしまう。

 しかし、これだとまずいな。

 そろそろ俺まで本格的に動かなきゃいけない気がする。

 ただでさえへっぽこ戦力だったのに、ここからどうやって持ち直せば良いんだ。


「時間を稼ごうとしても無駄だ。その薬は一時間は効力が持続する。それだけあればケリをつけられるだろう」


 余裕の声が室内に響く。

 藤堂はもう、勝った気でいるようだった。

 その堂々過ぎる態度とか、途中で結果が出た気でいるところとか、徹底的に俺の『気に入らない人間シリーズ』の中心をヒットしてくな。お前何様なの。


「ムカつくな、そういうの。間違った強者が正しいとか、そんなの反吐が出るね」

「世の中は綺麗事だけでは、回らないのだよ少年」

「はっ、綺麗事言わずに正義の味方目指せるかよ」


 死ぬほど辛い訓練に耐えてるのも、学校の成績落としてでも、それでも目指したいものがあるから頑張ってるんだ。

 自分の言葉を、自分で信じられないのなら、叶えたいものも叶えられんねぇよ。

 その割には、地味に何回も折れかけたけどな。


 どうする。

 どうすればいい、何か考えろ船頭牙。


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