第二章 流水の絆

第1話 日常がハードな件について



 春に起きた生命の危機を乗り越えて早一か月。

 この度抗体組織のエージェント見習いとなった、船頭牙(せんどうきば)こと俺は……。


「し、死ぬ……」


 それだけの期間が経った今でも、トレーニングルームで死にそうな顔していた。


 げしげし。


 それも美女に足げにされながら。

 訓練を初めて早一ヶ月、生きているのがちょっと不思議。





 あれぇ、おっかしいな。

 ちょっとは慣れると思ったのに。

 慣れるどころか、こなすので精いっぱいだよ。

 なんでだよ。


 訓練開始、バタンキュー。で、床で潰れていると、理沙が足蹴にしてくるところまでがもう恒例になっちゃってるよ。

 せめて、大人しく蹴られてやるもんかと転がろうとするが、進路先に足がズドン。


 うぉい。

 お前暴君か。


「情けないわね、もうちょと頑張れるでしょ」


 ついでのようにそこで蹴りころがそうとしないで、俺もうライフポイント残ってないから、瀕死だから。


「無理、無理です。これ以上頑張ったら、俺死んじゃう」


 ツインテールで残念な体型の理沙はなおも構わず、偉そうにしながら人の事を足気にしてくれる。

 そんで、喜々としてこちらを罵ってくれちゃったり。


 お前どSだろ。とんだ美少女詐欺だな。

 まあ、お前に関しては出会ってから割と数秒でそこが知れてたけどな。

 それに代わって……。


「少し休憩した方が良い」


 離れた所に立っている水奈がこちらの様子を見かねてか、そう提案してくれる。


 水菜は優しいよな。

 どこかの悪魔とは大違いだ。

 戦闘力あるし、冷静だし、恰好いいし。


「はぁ、もう……しょうがないわね。今日はこれくらいで、勘弁してあげるわ」


 そんな水奈の言うことには、なぜか素直に従う理沙。

 友達であり、仲間であるという関係を考えてもそれは、少し奇妙に思えてこちらに圧力をかけていた靴をどけながら俺は、真上のドS残念系美少女に尋ねた。


「なあ、お前水奈に何か頭が上がらない理由とかあんの?」


 すると真上にあった美女の顔が、「ん?」っとなって、「はっ!」となって、「むっ!」と言う感じになった。


 感情分かりやすっ!


「ちょっと、どこの誰から何を聞いたのよ! 人が何かやらかしてその尻拭いをさせた事悪く思ってる、みたいに言わないでよ」

「言ってねえだろ。つか、何だその具体的な反論は」


 まさかの自爆発言に今度はこちらが呆れる番だ。

 喋れば喋る程、接すれば接する程残念な所が露呈する理沙ちゃんは、どうやら過去にやらかした事があって、その尻拭いを水菜にさせてしてしまったようだ。


「水菜はこんなに恰好良いのにな、お前って結構ドジっ子なの?」

「う、うるさぁい!」


 俺の率直な一言によって、真っ赤になった理沙は片足で踏んずけてくるどころか、その場でジャンプしてこちらを踏み砕きに来やがった。


「うおっ、あぶね。それ死ぬだろ。ばっか、お前」

「うるさい、砕かれちゃえばいいのよ。美女に踏んでもらえるなんて幸せなんでしょ、あんたら野獣にとったら」

「知るかよ、お前のそんなん喜ぶのは一部の特殊性癖さんだけだわ」

「私の……って、水菜だったら良いってわけ。この変態、よるな。変態がっ」

「なんでそうなんだよ!」


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