第7話 アニアイザーの使命とは!
厳冬の北秋田市。ボランティアの若者たちが、民家の屋根の雪下ろしをしている様子を、離れたところから涙ぐみ感謝の合掌をして見守っている老婆が居た。
N「2月に入って過疎化の悲劇がクローズアップされた。例年にない降雪量で、男手のない民家の屋根の除雪が遅れ、その重量で建物はミシミシと悲鳴をあげ、雪崩落ちる雪の下敷きになって、大勢の老人が命を落としていた。県内でも300名を越える犠牲者が出てしまった。しかし、その影でさらに恐ろしい危険が忍び寄っていた」
初老の松橋二三夫と藤島悦治は、
二三夫「今年もたいした行方不明者出でるな」
悦 治「禁猟の時期に密猟だば自業自得だべども、山菜採りもな」
二三夫「これがら山菜採りの行方不明者も出るべな」
悦 治「よそがら毎年無断で山さ入る業者にも困ったもんだでば」
N「山菜採りには翌年の収穫を見越した一定の採り方がある。地産資源の保護のためにも、地元に居住しない他所からの山菜採りを目的とした入山は、禁止されている区域も多い」
二三夫「営林署なぐなってがら、山が荒れ放題で熊が下りで来るようになったな」
悦 治「昔だば植林した杉が、集落どの分げ目になってけだがらな」
二三夫「杉だば、熊の餌っこになる実が付がねがらな」
悦 治「熊が下りで来て、里まで荒らす事だば、めったにねがったものな」
二三夫「里荒らすようになってがら二昔も経づべが…」
悦 治「んだな。おらえの裏の栗の木に毎年来る熊えるども、多分、代々同じ熊の家族だな。今年も親子連れだでば」
二三夫「里山さ住みついでる熊も増えだな」
悦 治「山菜採りどが観光で山さ入る連中が、食い物の残りカスを平気で捨てるべ」
× × × × × ×
若い男女の尚斗とのぶ子が、山中を歩いていた。
のぶ子「このパンまずい…」
尚 斗「山で食ったら何でもおいしいんじゃなかったのか?」
のぶ子「だって、まずいものはま~ず~い~ッ!」
尚 斗「じゃ、捨てろよ」
のぶ子「コンビニのない町って考えられる?」
尚 斗「自然を満喫したかったんじゃねえのか? こんなド田舎より安い海外いっぱいあっただろ」
のぶ子「バス・トイレが付いてない宿ってありえないし~!」
尚 斗「共同であるだろ」
のぶ子「今時、和式のトイレだよ」
尚 斗「広い温泉があるだろ」
のぶ子「パンフレットと違う! 加齢臭がする温泉なんて入りたくない!」
尚 斗「帰るか…遊ぶとこもねえし。9時過ぎると真っ暗になる町にいてもしょうがねえしな」
× × × × × ×
元の幸屋渡マタギ小屋。
二三夫「山で喰い残し捨てるもんだがら、それも味っこ覚えでしまって、人ば怖がらねぐなってるな」
悦 治「元々、熊は雑食だべ。木の実どが虫ば食ってだはずだども、最近、カモシカどがも熊に襲われるらしいでば」
二三夫「
悦 治「臆病でも確実に肉食系になってきてるな」
二三夫「そえだば人襲うのも無理ねべ。肉の味っこ覚えでしまってるえたばな。人が肉に見えでるえてねが?」
× × × × × ×
山道に捨てられてた菓子パンの袋を踏み付けて、尚人らの背後に気配が近付いた。
× × × × × ×
元の幸屋渡マタギ小屋。
二三夫「余所者は熊知らねんて運悪ぐ熊さ出会ってしまったら、ただ騒ぐもんで襲われるんだ。地元の人間だば、どうひばええったがほどんと知ってるべ」
悦 治「黙って熊の目睨むごどどがも知らねべな。熊が用心深えふて臆病だどがも」
二三夫「動がねで睨んでれば去ってけるのにな。そえでも襲って来たら、熊の弱点の鼻先ば思いっきり叩けば何とがなるがもしれねしな」
悦 治「ただ大騒ぎして逃げようど背中見せだら噛み殺さえるだげだでば」
× × × × × ×
尚人が血まみれでのたりのたりと山道を歩き、ついに倒れて絶命した。
× × × × × ×
元の幸屋渡マタギ小屋。
二三夫「まどもに戦って勝てるわげねえものな。熊さ会ってしまったら、やっぱし睨み合いっこしかねな。睨みつけながら、ゆっくり足元さリュック置いで、そろっそろっと後じさり…次は上着置いで後じさり…」
悦 治「それが一番だな。リュックも上着もパンツもな~んも勿体ねぐね。命あってのものだねだ。明日死なねばなねふても、取りあえず今熊に殺さえてぐねものな」
二三夫「熊だば目悪いんて人間の臭い付いだもの置げば、何とが遠ざかる時間稼ぎっこ出ぎるべ」
悦 治「んだでば。おがげ様で目悪いごどに感謝だでば」
二三夫「誰が熊の生態系ば変えでしまったんだがな。クマは、山の神様がらの授かりものだ。熊はなんも悪ぐね」
悦 治「元はど言えばみんな人間が悪いんだな」
突然、外の気配で二人に緊張が走った。二三夫と悦治は、ほぼ同時にナガサに手が伸び、静かに柄を握った。影に引き摺られるのぶ子の死体が小屋の前を通り過ぎ、山に向かった。二三夫と悦治は、影が去った気配を確かめ、ナガサを納めて座り直した。
二三夫「禁猟期間でこっちは手も足も出ひね」
悦 治「人の味っこ覚えだ熊ば野放し。マナーの悪い人間も野放し」
二三夫「山知らね役人が決める規則で、だんだん山が狂ってぐな」
悦 治「どれ、これ呑んだら駐在どごさ行がねばな」
そう言いながら二三夫は小屋の覗き窓から気配の姿を窺った。その目に映ったのは、のぶ子を引き摺って山道を登るドケーン将軍以下、ゾクギ団一行だった。二三夫の顔面は蒼白となった。
悦 治「どした?」
二三夫「シーッ!」
悦 治「(小声で) どした?」
二三夫「見でみれ…」
悦治は覗き窓から覗いた。
悦 治「…熊どごろの騒ぎでねな」
× × × × × ×
遠くに見える森吉連山全景は美しい。
N「この数年、雪解けの4月から若芽の出る5月にかけて、北秋田市近郊の山での行方不明者の遺体が、凍死や熊に襲われたらしき形跡で発見されていた。そして今年の行方不明者はさらに増加していた」
空に銃声が響いた。ひとりの猟師が、血まみれに仰け反って息絶えた。その前に立ち、ドケーン将軍の黒い妖爪から滴る血が残雪を染めた。
ゾクギ・青「いつまでもウロチョロしやがって! 規則は守れ!」
ドケーン将軍以下、ゾクギ団一行の
× × × × × ×
姫ヶ嶽山中で複数の猟師の遺体が救助隊によって運び出されていた。
× × × × × ×
アニアイザー本部の森川が待機する『白い鷹号』に指令を出した。
森 川「アニアイザー出動!」
× × × × × ×
N「アニアイザーは犠牲者の死因にゾクギ団の関与がないか調査に乗り出した」
アニアイザー地下基地格納庫で『白い鷹号』が目覚めた。
田 島「姫ヶ嶽までお願いします!」
N「標高651m…姫ヶ嶽。山頂から東に阿仁合集落を一望できる。姫ヶ嶽には薬師さまが祀られている祠があり、古の村人は、
『白い鷹号』が姫ヶ嶽に急行した。機長の田島は姫ヶ嶽上空でオートパイロットに切り替えた。
田 島「よし、山中で二手に別れよう! シェルターでワープするべ!」
一同はワープシェルターに入った。
× × × × × ×
姫ヶ嶽の山深く苔生した薬師さまの祠に続く獣道は、草木に蔽われている。三人の密猟者たちはその獣道を殺気立った足取りで通り過ぎて行った。
N「この時期、この一帯はかつて、“春クマ狩り“ といって、冬眠から覚めたばかりの熊が穴から出てくるのを狙う狩りの最盛期だった。しかし、現在、狩猟法により、狩りが許可されているのは、11月15日から翌年2月15日までの、いわば熊の冬眠期間である」
発砲音が響いた。
密猟者2「よっしゃあ!」
三人の密猟者たち子連れの親熊のほうをしとめた。密猟者2は逃げる小熊を追った。
密猟者2「あっちは生け捕りだ!」
密猟者1「それはやめとけ!」
密猟者2「放っておいたって死ぬだけだろ、それじゃ一銭にもならねえ。生け捕りにして熊牧場にでも売り払えば金になる!」
密猟者1「山神さまの祟りがあるぞ」
密猟者3「そんなものあるわけねえだろ」
密猟者2「もたもたしてる間にあんな遠くまで逃げちまった! 邪魔するな!」
密猟者3「ウゴエの癖に足の速えヤロウだ」
密猟者2は斜面を駆け下りた。
N「マタギたちは春に生まれた小熊のことを “ワカゴ” といい、年が明けて2歳になると “ウゴエ” と呼ぶ。“ウゴエ” は夏までに親熊と別れて暮らすようになるため、毎年6月下旬頃から大切な子別れの時期が待っている」
密猟者2「仕方ねえ、撃っちまえ!」
密猟者3が猟銃を構えて小熊に狙いを定めた。
密猟者1「おい、正気か!」
密猟者2「邪魔すんじゃねえ! てめえを撃ったろか、このヤロウ!」
密猟者3の照準の中に一匹の白い犬が現れた。
密猟者3「ありゃ、なんだ?」
密猟者2「どうした!」
密猟者3「犬だ!」
密猟者2「やべえな…他にも誰か猟に来てるやつがいるのか!」
密猟者3「パトロールじゃねえだろな!」
密猟者2「誰がこんなとこまで見回りするか…たぶん、オレらと同類だろ」
犬の視線が密猟者たちを捉えた。
密猟者2「ちくしょう、犬に気付かれた!」
密猟者2は、犬の首に下がった美しい首飾りに顔色が変わった。
密猟者2「おい、犬の首に金目のものが巻かれてるぞ!」
密猟者たちはその首飾りを取ろうと犬に近付いて行った。
密猟者2「おとなしくしてろよ。おまえはそんなものいらねえだろ」
密猟者2は、犬の首に手を掛けた瞬間、咬まれた。
密猟者2「ギャッ! ヤロウ!」
密猟者2は逃げる犬に猟銃を構えた。山に数発の銃声がこだました。
× × × × × ×
姫ヶ嶽洞窟に棲む
× × × × × ×
白い犬は雪上に血痕の足跡を残しながら姫ヶ嶽山中を走った。密猟者たちは血痕の跡を追った。
× × × × × ×
姫ヶ嶽洞窟。
手負いの犬・ギョクが、洞窟の奥の薙屡夜姫のもとにヨタヨタと現れた。
姫 「ギョク! 何事ぞ!」
姫のもとに逃げて来た白い犬は、よたよたと神棚に祀ってある御神刀に近付き、それを咥えて姫の前に崩れた。
姫 「誰にやられたのじゃ!」
薙屡夜姫がギョクを抱き上げた。
姫 「ギョク…おまえの願いしかと、あいわかったぞ」
ギョクは姫の言葉を聞くと、そのまま息を引き取った。
姫 「3年間連れ添ったわたしの大切なギョクを…我が仇! 思い知るがいい!」
× × × × × ×
密猟者たちが薬師さまの祠の前に辿り着いた。
密猟者2「祠があるぞ! この奥に何かありそうだ」
× × × × × ×
密猟者たちが洞窟に入って来た。
姫 「なにもの…」
密猟者2「 おまえの犬か…しつけが悪いな。オレを咬みやがったぞ、その犬」
姫 「手傷を負わせたのはおまえたちか…」
密猟者2「 先に咬みついたのはその犬だ!」
姫 「あさましき俗物め…」
薙屡夜姫目に怨念の涙が溢れた。
姫 「おまえたちは存在の値なし。覚悟せよ」
密猟者2「 偉そうにてめえ!」
姫 「愚かしきこそ我が仇なり…思い知れ!」
薙屡夜姫はギョクが咥えていた御神刀を抜き、密猟者2を一刀のもとに切り捨てた。
密猟者3「気でも狂ったか!」
姫 「狂っているのはおまえたち! なぜ解禁を待てぬ!」
密猟者3「そんなのを待ってたら、土地のマタギ連中に先を越されちまうじゃねえか!」
姫 「山の掟を守れないおまえたちのような族には、例えこの山の草の葉一枚の命たりとも渡せん!」
密猟者3がいきなり薙屡夜姫に発砲した。弾丸は薙屡夜姫の胸を貫いたが手応えがない。
密猟者3「・・・!」
密猟者3は続けざまに発砲するが反応がない。
姫 「なんということを…」
密猟者3「おまえはバケモノか!」
姫 「バケモノはおまえたちの腐った性根だ!」
薙屡夜姫は素早い動きで密猟者3をも御神刀にかけた。それを見ていた密猟者1は観念して正座した。
密猟者1「山神さまの祟りだ…申し訳ないことをしました。私の命も捧げます…本当に申し訳ないことをしました」
密猟者1は両手を突いて薙屡夜姫に平伏した。
姫 「おまえにはまだ良心が残っているようじゃな…これからは友を選べ。すぐにここから立ち去りなさい」
× × × × × ×
雪中の斜面で密猟者1が己を失って呆然としていた。傍には熊の死骸と密猟者2・3の遺体が転がっていた。彼らの遺体には薙屡夜姫によって受けたはずの傷跡がなかった。現場には田島、京子、鎌沢兄弟が居合わせていた。
田 島「凍死だな。(密猟者1に) 何があったのですか?」
密猟者1「・・・」
丈 雄「来たか…」
救急隊員らが田島らを発見し、駆け付けた。
救急隊員「ご苦労様です! (無線に) 生存者発見! 生存者1名います!」
犠牲となった密猟者らの妻や仲間たちも駆け付けた。
田 島「では我々は引き上げよう」
京 子「了解」
去って行く田島らに被害者の妻が騒ぎ出した。
妻 「あなたたちは死人を放って行くんですか!」
田 島「救助隊の方がいますから」
六 郎「我々は二次被害を防ぐため小熊を探します」
妻 「死人より熊のほうが大切なんですか!」
丈 雄「山は平等です。親を殺された熊の子はどうなると思います?」
妻 「どうなるって…そんなもの放っとけばいいでしょ!」
丈 雄「親を失うと子熊はひとりで育つのは困難なんです。放っとけば死ぬしかないんです」
六 郎「あなたも自分の子が放っとかれたら平気じゃないでしょ。それに空腹で民家を襲うこともあるんです」
妻 「それならさっさと撃ち殺したらいいじゃないですか!」
六 郎「その言葉をこの土地の人たちが聞いたら、どうするでしょうね」
妻 「どうっするって…」
丈 雄「この土地の人たちにとって、熊は山神さまからの神聖な贈物なんです。そんな言葉を聞いたら、この土地からは生きて出られませんよ。山は神聖で平等なんです。あなたのお身内が何をしたか…その親熊の遺体の前でよく考えてください」
妻 「何も悪いことなんかしてません!」
田 島「この人たちは密猟者です。犯罪を犯してるんです」
妻 「死人に対してそんな言い方はしないでください!」
警察レスキュー隊が到着した。アニアイザーの姿はなかった。
警 察「家族の方?」
妻 「はい! 早く家に連れて帰らせてください!」
警 察「密猟と不審死ですので、三名とも身柄は警察がお預かり致します」
妻 「そんな!」
警 察「それから、あなたたちをここで保護します」
妻 「保護って?」
警 察「山道入口に下りれば分かりますが、あなたがたはこの土地の住民たちに危害を加えられる恐れがあります」。
妻 「・・・!」
× × × × × ×
山道入口に救急車やパトカーが停まっている。それを取り囲むように集落の住民が大勢で殺気立っていた。
× × × × × ×
密猟者1が辿った足跡を遡って、雪山斜面を登る田島、京子、鎌沢兄弟が薬師さまの祠の前に辿り着いた。
京 子「伝説と同じだわ」
六 郎「伝説?」
京 子「おばあちゃんによく聞かせてもらった…姫ヶ嶽の姫と犬の伝説…」
六 郎「姫と犬?」
京 子「昔、あるマタギが山中で一匹の白い犬に出会った。飼い犬かどうか確認しようと犬の首を見ると、美しい首飾りをしているのに気付いた。マタギはその首飾りが欲しくてたまらなくなった。あろうことかそのマタギは弓を取り出して白い犬に矢を射った。白い犬は矢を受け、苦しみながらも山中へと逃げて行った。マタギは犬の血を辿った。白い犬はやっとの思いで飼い主のもとに辿り付いた。この姫ヶ嶽の守護神・薙屡夜姫よ。そこに犬を追ってマタギが洞窟に入って来た。姫は犬が咥えていた御神刀を取り、マタギを一刀のもとに切り捨てたの」
田島がギョクの血の跡に気付いた。
田 島「これは?」
丈 雄「近くに洞窟があるのでは…」
六 郎「もうすぐ日が落ちる…」
田 島「とにかく行ってみよう」
三人は血の跡を辿って奥に進んだ。
× × × × × ×
姫ヶ嶽洞窟で薙屡夜姫とドケーン将軍が対峙していた。
姫 「おまえもあの密猟者らの仲間か!」
将 軍「おまえに代わって、この山を支配する者だ」
姫 「たわごとを…その目に覚えがある。そなたは森吉の悪鬼に誑かされておるな」
将 軍「我々と手を組めば今までどおりこの山に棲ませてやらないでもない」
姫 「立ち去れ!」
将 軍「では仕方がない」
ゾクギ団戦闘員・黄、ピンク、青、緑が現れた。
姫 「近来、山を騒がす新参者とはおまえたちのことか!」
将 軍「滅せよ!」
ゾクギ団戦闘員が薙屡夜姫に襲い掛かった。薙屡夜姫が振り下ろす刃先の妖気で、戦闘員・青が一刀のもとに絶命した。怯むゾクギ団戦闘員を襲う妖剣を、ドケーン将軍の黒い妖爪がかわした。
姫 「その爪か…熊の出没これ幸いと、山に分け入る余所者を血祭りにあげている爪とは…」
薙屡夜姫をドケーン将軍の黒い妖爪が激しく襲った。
姫 「悪鬼の封印を解いて何を得た! そして何を失った! よく考えよ!」
黒い妖爪をかわしながら、じりっじりっと追い詰められた薙屡夜姫を戦闘員が包囲した。
将 軍「これまでだ。山を明け渡して立ち去れ!」
ドケーン将軍の両手から黒い妖爪が唸りを上げて薙屡夜姫を捉える寸でのところで、その攻撃がはじけ飛んだ。黒い妖爪の妖気を吸って特殊ナガサ『タキオン・ギア』が岩に刺さった。
将 軍「・・・!」
別働隊の陽昇と愛が現れた。
× × × × × ×
その頃、田島たちは藪に埋もれた獣道を進んでいた。
× × × × × ×
元の姫ヶ嶽洞窟内。
ゾクギ団戦闘員らが陽昇と愛に襲い掛かるが、二人の俊敏な動きにかすりもしない。
将 軍「手を出すな、オレがやる!」
立ち向かおうとする愛を陽昇は制した。
愛 「わかったわ」
愛はゾクギ団戦闘員らと対峙して、陽昇とドケーン将軍の一騎打ちの場を作った。
将 軍「あの武器を取れ」
陽 昇「必要ない」
将 軍「そうだな、どっちにしろ必要なくなる」
ドケーン将軍は黒い妖爪を構えた。そこに田島たちが現われた。ゾクギ団・黄が田島たちに襲いかかろうとするのをドケーン将軍は間髪入れずに殺傷した。
将 軍「手を出すなと言ったろ…」
双方が認める二人の決闘の場となった。ドケーン将軍の黒い妖爪の唸りから激しい戦闘が始まった。様々な破壊波が幻をともなって陽昇を襲った。陽昇はそのうちのひとつの攻撃の波動にロックされた。
愛 「・・・!」
陽昇は静かに呪文を唱えた。
陽 昇「森吉の霊力よ、
ドケーン将軍の黒い妖爪の唸りが静まって行き、岩に刺さった特殊ナガサ「タキオン・ギア」に、薄っすらと静かな輝きが現れた。陽昇はヒタチナイトに変身していく。『重ね撃ち竹五郎』『一発佐市』『疾風の長十郎』『背負い投げ西松』ら奥羽のマタギ勇者の魂が憑依した。
再び激しい攻防が始まった。突然、ヒタチナイトの首から御守が垂れ下がった。それを凝視して、ドケーン将軍の攻撃が止まった。
将 軍「それは!」
両者はさっと距離を開けた。
陽 昇「・・・?」
二人はしばらく睨み合った。
将 軍「おまえは・・・・・引け!」
ゾクギ団・ピンク、緑が将軍に続いて撤退した。アニアイザーたち追わなかった。
姫 「なぜ追わぬ…」
田 島「あなたは薙屡夜姫さまでいらっしゃいますね。お騒がせして誠に申しわけありません。私は鷹巣神社の…」
姫 「知っておる…三代家光公開基の時以来よのう。おまえはなぜその身に白鷹を宿しておるのじゃ。そしておまえらは何者じゃ!」
薙屡夜姫とアニアイザー双方がしばらく無言で対峙した。陽昇が岩に刺さった特殊ナガサ『タキオン・ギア』に手をかけると、薙屡夜姫は戦闘モードに入った。
愛 「待って下さい! 私たちはあなたと戦いに来たわけではありません」
特殊ナガサ『タキオン・ギア』は、陽昇の手で一瞬の強い光を放ち、岩からスッと抜けた。特殊ナガサの輝きが鎮まり、陽昇の変身が解かれた。
愛 「それに、あなたがゾクギ団でなければ尚更、戦う理由はありません」
陽昇の手から特殊ナガサ『タキオン・ギア』が消えていった。
姫 「ゾクギ団とは何者じゃ?」
愛 「この北秋田市全域を征服の拠点に改造しようとしている組織です。私たちは彼らの活動を阻止するために立ち上がった仲間です。アニアイザーといいます」
田 島「このままではいずれ自然は破壊され、人も動物も棲める土地ではなくなります」
姫 「なんと! この姫ヶ嶽の自然も失われるというのか!」
愛 「そうです。あなたはこの一帯を守っておられる伝説となった姫ヶ嶽の薙屡夜姫さまですね。ゾクギ団に屈しないならば私たちにとっても、それは願うところなのです。私たちはあなたの敵ではありません」
姫 「なれば…さっさと立ち去れ!」
愛 「分かりました」
薙屡夜姫は引き上げようとする陽昇に問うた。
姫 「待て! (ヒタチナイトに) そなたは…あの者を知っておるのか?」
陽 昇「・・・」
姫 「知っておるのじゃな」
陽 昇「いえ、知りません」
姫 「あの者はそなたの首に下がる御守を見て刃を収めたぞ。どうしてじゃ!」
愛 「・・・!」
陽 昇「分かりません」
引き上げるアニアイザーを見送りながら薙屡夜姫は佇んだ。
姫 「アニアイザー…」
薙屡夜姫は優しいもとの容姿に戻った。
× × × × × ×
山道入口では警察レスキュー隊が車に遺体を運んでいた。密猟者の家族たちは、集落民の殺気に曝されて無言で遺体に付き添った。そのうち、集落民らは密猟者の家族を追い出すように呪文のようなものを繰り返し唱え始めた。
集落住民「アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ。アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ。アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ。アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ。アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ…」
N「自然の摂理を侵して、その命を奪おうとするものは、己の命を捧げる事も覚悟せねばならない。アニアイザーの使命は人間の甘えを救うことではない。北秋田市を守ろうとするものの魂を救う事のみにある」
パトカーの回転灯が回り出すと、住民たちが車の進路を開けた。ゆっくり走り出したパトカーに続いて、救急車がサイレンを響かせて去って行った。車窓から集落民たちの姿が遠ざかって行った。厳冬には珍しい焼けるような夕陽が沈み、集落はまた闇に包まれた。
( 第8話 「妖怪・安兵衛」 につづく )
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