第8話 妖怪・安兵衛

N「大覚野峠…比立内から5キロほど南、国道105号線沿いに、海抜600m弱の峠がある。そこがなぜか心霊スポットとして全国から訪れる若者が増えているという…」


 日没前の国道105号線・仙北市西木町あたり。初春の夕陽を浴びて北秋田市方面に向かう一台の品川ナンバーの車があった。助手席の小森沙希が目を覚まし、運転する杉本一成に気怠く話し掛けた。

沙 希「なんか霧っぽくない?」

一 哉「日が落ちるのも早え~…鬼ノ子村の民宿に着く前に真っ暗になりそう」

沙 希「連絡入れとこうか?」

一 哉「そうだな、入れといて」

 沙希は携帯を出した。

沙 希「…圏外なんだけど」

一 哉「マジ?」

沙 希「この辺どこ?」

 一哉はカーナビを確認した。

一 哉「明日周る予定の心霊スポットに近いな」

沙 希「え~~~、なんかマジでザワつくんだけど!」

 一哉たちの車は国道105号線上の大覚野峠に差し掛かっていたが、急な濃霧と日没で闇に包まれ、ヘッドライトを点けて慌てて車を停めた。

沙 希「どうしたの!」

一 哉「あぶね~ぶつかるとこだった…」

 いつの間にか前方が木々の生茂る行き止まりになっていた。

沙 希「いつ脇道にそれたの?」

一 哉「いや、国道をまっすぐに走っていただけだから、行き止まりになるはずないんだけど…」

沙 希「どういうこと? 道に迷ったってこと?」

一 哉「わからないよ!」

沙 希「怒鳴らなくてもいいでしょ…」

一 哉「やべえ、結構やべえっぽい」

沙 希「あれ何?」

 木々生茂る右のほうに、私道のような山道が伸びていた。山道の先には霧に包まれて薄っすらとした灯りが見えた。

沙 希「民家かしら?」

一 哉「…かも…行ってみるか。道を聞けるかも」

 車一台がやっと通れる山道を、灯りを頼りにゆっくりと進むと、霧の中から『安兵衛茶屋』の看板が見えてきた。

沙 希「お店だわ!」

一 哉「助かった!」

 一哉は安兵衛茶屋前の広場に入って車を停めた。

一 哉「誰か居るのかな?」

沙 希「看板の灯が点いてるから居るんじゃない」

 二人は車から降りた。一哉が茶屋のドアに手を掛けると…

声  「いらっしゃい…」

 背後からの声に二人は驚いて振り向いた。茶屋の主・安兵衛が立っていた。

安兵衛「何かご用ですか?」

一 哉「いえ、道に迷って…」

安兵衛「そう…」

一 哉「ここは、どの辺りでしょうか?」

安兵衛「大覚野峠です」

一 哉「そ、そうですよね! おかしいな…国道をまっすぐ走って来ただけなんですけど、ここを戻ったら国道に出れますよね」

安兵衛「ええ、出れますよ」

一 哉「(沙希に)じゃ、戻るか…」

沙 希「こちらで食事は出来ますか?」

一 哉「食事すんの?」

沙 希「緊張したらお腹空いたのよ。(安兵衛に)食事できるかしら?」

安兵衛「(優しく微笑み)ええ、できますよ」

沙 希「(一哉に) 霧が濃いからもう少し晴れるまでの時間つぶしね」

一 哉「それもそうだね…(安兵衛に)この霧、もうすぐ晴れますよね?」

安兵衛「さあ…どうでしょうねえ…」

沙 希「そんなのご主人に分かるわけないでしょ」

一 哉「でも地元の人だからさ、分かるかなと思って…」

安兵衛「ここは峠だもんで…山の天気は変わりやすいもんでね」

沙 希「そうよね」

一 哉「じゃ、様子見で」

安兵衛「どうぞ、中へ…」

 安兵衛の案内で二人は店に入った。中は古民家調の洒落た作りになっていた。店の中央には自在鉤の吊られた囲炉裏の円卓があり、鉄瓶の口から湯気が出ていた。

沙 希「素敵!」

安兵衛「お好きなところへどうぞ」

 沙希はどこに座ろうかと店内を見渡した。窓際の一角だけが他の客が食事を済ませたばかりの器が残っているだけで、他の席は空いていた。

沙 希「わたし、あそこがいい!」

 沙希は最初に目が行った中央の円卓の席にすることにした。

沙 希「ねえ、見て! ほんとに炭が入っててあったかいよ!」

 一哉も隣りに座った。

一 哉「鉄瓶、いいよね! この湯気の感じいいな~…」

 囲炉裏の縁に 『この席はお子様連れはご遠慮下さい』 の文字。

一 哉「この席、子供は駄目なんですか?」

安兵衛「ええ、お湯が危ないので、万が一のためにこの席だけは…」

一 哉「あ、そっか! でも我儘な客がいたりして文句とか言いませんか?」

安兵衛「いえ、ここにはそんな気難しいお客さんは来たことありませんので…」

沙 希「頭脳が子供でも駄目なんじゃない?」

一 哉「はあ?」

沙 希「メニューとかありますか?」

安兵衛「メニューは置いてないんですが、壁に…」

 壁にメニューの木札が5枚だけ掛けられていた。木札には右から順に、『桜』『もみじ』『牡丹』『イタズ』『日の丸』の文字が書かれていた。

沙 希「おっしゃれ~ッ! …だけど料理の想像つかない…」

一 哉「あれって何ですか?」

安兵衛「すき焼きです。うちはすき焼き専門なんです」

一 哉「すき焼き専門!」

沙 希「…ってことはあれは肉のこと?」

安兵衛「そうです、肉の種類です」

沙 希「あ、じゃ分かるかも! 『さくら』って確か馬の肉ですよね!」

安兵衛「そうですね」

沙 希「でもって、『もみじ』は鹿の肉!」

安兵衛「はい」

沙 希「それから 『ぼたん』は…『ぼたん』は何だったけ?」

一 哉「オレに聞かれても…」

沙 希「知らねえのかよ」

一 哉「エ~~~ッ? 知らねえと悪いのかよ!」

安兵衛「イノシシです」

一 哉「あーッ、イノシシだ! あとは分かりません」

沙 希「『イタズ』って、イタチちとは違うんですか?」

安兵衛「『イタズ』は、この土地で熊のことを指します」

一 哉「え、どうして?」

安兵衛「この地域伝統の『マタギ』と呼ばれる猟師たちが、熊のことを『イタズ』と呼ぶんです」

沙 希「そうなんですか! あの『日の丸』って全く想像付きません」

安兵衛「日の丸の旗は、白地に赤…白地の体に赤い目なので、うさぎです」

一 哉「あ、そうか! エ~~~ッ…うさぎ食べるんですか!」

安兵衛「うさぎは1羽2羽と数えますが、鶏肉よりずっと美味しいですよ。秋になると毎年この先の大仙市では『全国ジャンボうさぎフェステバル』 というのが開催されてます。『日本白色種秋田改良種』 という食用のうさぎの品評会です」

 一哉と沙希はメニューを見たまま無言になった。

一 哉「あれだよね…」

沙 希「なに?」

一 哉「みんな美味しそうだけど、あそこに書いてない普通の肉とかもありますよね」

安兵衛「普通の肉ですか?」

一 哉「牛とか豚…そうそう、秋田だったら確か比内地鶏とかもありますよね!」

安兵衛「このメニューはここではどれも普通の肉ですよ。まあ、敢えてこの土地で肉といえば馬肉のことを指しますね」

一 哉「…馬か…そうすると…牛とか豚はないですよね」

安兵衛「ありません」

沙 希「旅先なのに普段食べているのを食べるなんて馬鹿じゃね」

一 哉「…だよね。じゃボクは馬で! 沙希は何にする? まさか鹿じゃねえだろうな?」

 一哉はひとりで馬鹿ウケした。

沙 希「馬鹿じゃないの? 私は熊…マタギの里に来たら『イタズ』にしないと!」

安兵衛「かしこまりました」

 安兵衛は窓際の器を片付けた。

一 哉「あの…ご主人?」

安兵衛「はい…」

一 哉「お客さんがいたんですか? 来る時には擦れ違わなかったけど…」

安兵衛「ああ、これは宿泊のお客さんです」

一 哉「ここ宿泊もできるんですか!」

安兵衛「ええ、もともとが民宿ですから…」

一 哉「あ、そうなんだ…」

 安兵衛は奥の厨房に入っていった。

一 哉「ねえ…」

沙 希「なに?」

一 哉「ここ、なんか気味悪くねえか?」

沙 希「肉が?」

一 哉「肉じゃねえよ、全部だよ…」


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 安兵衛茶屋の外は、霧が這うように蠢き、月が姿を現した。


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 元の安兵衛茶屋店内。

 鉄板代わりの本物の “すき” に乗った馬肉と熊肉が、ジュージューと食をそそる香りと肉汁をはねてテーブルに運ばれて来た。付け合せは、丸ごとの焼きジャガ、香のものは山ぶどうドレッシングで合えた山菜の甘塩漬け物サラダ、そしてきのこづくしのスープには、塩付けの桜花が浮いていた。全てが地産ものだった。

沙 希「うわー凄ーッ! この四角い柄の付いたような鉄板は?」

安兵衛「これは農具の『鋤』というものです。土地を耕す道具です。すき焼きというのは、この鋤で肉を焼いて食べたのがルーツだという説もあるんですよ」

一 哉「本物のすき焼きじゃねーかーッ、凄ーッ!」

安兵衛「本当のところは分かりませんけどね」

一 哉「でもなんか感動!」

安兵衛「お客さんがそう言って喜んでくれるもんで、いつの間にか、うちの定番になったんです。鋤もすき焼き用に特注したものです」

沙 希「特注 !?」

安兵衛「ナガサ職人の鍛冶屋さんの作品です」

沙 希「ナガサ職人 !?」

安兵衛「マタギ漁師が使うナイフをナガサといいます」

一 哉「そうなんだ…ビールありますか!」

沙 希「車でしょ!」

一 哉「泊まろうよ! もう遅いし、電話通じないし」

沙 希「あ、そうだ! 電話ありますか?」

安兵衛「生憎、雪で断線してるようで、まだ通じないんです」

一 哉「急でも泊まれますか?」

安兵衛「ええ、この時期は泊り客は少ないですから」

 夜も更け、霧の晴れた安兵衛茶屋は月あかりに照らされていた。裏庭にある雪化粧の泉からは渾々と清水が湧き出ていた。


N「大覚野峠は、阿仁鉱山が発見されてのち、享保元年(1716年)佐竹藩の産銅が国内第一位を占めた時代、仙北から阿仁に向かう山師や鉱夫、そして、彼らの生活必需品を供給する商人ら人の往来が激しくなった。米代川を利用した水運が発達しただけでなく、厳しい山越えの山道も開かれていった。そんな中、泉の湧く峠の一角にできた安兵衛茶屋は、疲れ切った人馬の休息の場として愛されていた」


 泉から少しの距離にある草叢の奥には沼があった。その水面に映る月の光が僅かな波紋に揺れていた。沼の岸から黒い物体がゆっくりと沈んでいった。


N「安兵衛茶屋にはかつて『つり天井』など、旅人の命を奪ったという恐ろしい伝説も残っている。しかし現在は建物跡も泉の跡も定かではなく、沼の跡だけが峠から少し西木町方面に入った辺りに残っているということだったが…」


 深夜、一哉と沙希は安兵衛茶屋の宿の一室でスヤスヤと眠っていた。一哉がふと沙希のほうに寝返ると、沙希の体もゆっくりと一哉のほうに向いてきた。一哉が静かに目を開けると、じーっと見つめた安兵衛がニッコリ微笑んだ。

一 哉「ギャ~~ッ!」


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 翌早朝、大覚野峠近くの沼跡で三人の遺体が発見された。沼跡の近くでは、遺体の発見者であるバッケ(ふきのとう)採りの老婆が、警察官と話をしていた。遺体は身分証から杉本一哉と小森沙希、そしてもう一体はリュックを背負ったままの旅客らしき身元不明男性の遺体だった。


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N「アニアイザーは犠牲者の死因にゾクギ団の関与がないか調査に乗り出した」


 夕方、霧の大覚野峠・国道105号線に六郎の運転する車が姿を現した。濃霧になり、いつの間にか前方が木々の生茂る行き止まりとなった。六郎は車を停めた。

六 郎「あれ? 道に迷ったのかな…」

 車から降りようとする六郎を、助手席の京子が制した。

六 郎「え?」

京 子「国道をまっすぐに走っていただけだから行き止まりになるはずはないわ」

 行き止まりの右に私道のような山道が伸びている。山道の先には霧に包まれて薄っすらとした灯りが見えた。

京 子「灯りだわ」

六 郎「さて、どうするか…ここは普通の携帯は圏外」

京 子「そうね…一応、本部に連絡して、建造物の確認を取ってみるか」

 京子がインマルサットで本部に連絡した。


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 アニアイザー本部に連絡が入った。

田 島「はい、本部」

京子の声「私達の車の位置を確認して下さい。それと…半径200メートル圏内に建造物があるか調べて下さい」

田 島「了解!」

 田島はすぐに衛星画像を京子たちの車に送った。

田 島「車は国道105号線上、大覚野峠。それと…200メートル圏内に建造物はないですね」


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 濃霧の大覚野峠に京子たちの車が停まっていた。

京 子「200メートル圏内に建造物はないって…」

六 郎「ない? …じゃ、あの灯りは何? …もう少し近付いてみるか」

 六郎は、行き止まりになった濃霧の国道105号線から右奥に入る私道のような山道を、ライトを頼りにゆっくりと車を近付けた。霧の中から『安兵衛茶屋』の看板が見えてきた。

京 子「お店? …ここで停めて!」

六 郎「・・・・?」

 六郎は車を停めてヘッドライトを消した。

京 子「本部、『安兵衛茶屋』という看板のレストランのような民宿のような建物が見えますが…どうぞ」

田島の声「建物? 衛生画面では確認できない。どういう事だ…」


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 田島はアニアイザー本部の衛星画像を再度確認していた。

田 島「やはり、モニターには何も映ってない」

京子の声「どういう事?」

田 島「一応、そのまま待機して下さい。丈雄さんが向かっています」

京子の声「了解…待機する」


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 京子たちは濃霧の大覚野峠で待機した。霧はさらに濃くなっていった。しばらくして、車の窓をノックする音がした。

京 子「誰か窓をノックしている」

六 郎「応援にしては早過ぎる…」

 再び車の窓がノックされた。

六 郎「どうする?」

京 子「誘いね…」

 京子たちの車は霧以上の危険に包まれたようだ。

六 郎「あんちゃ、この場所に辿り着けるのかな…」

京 子「とりあえず、車をもう少し建物に近付けてみるか」

 六郎はノックを無視してゆっくりと車を安兵衛茶屋の玄関前まで進めて停めた。次第に霧が薄くなり、周囲が見えてきた。車の周囲には誰もいない。

京 子「あのノックは何だったのかしら」

 二人は車内から茶屋の中の様子を探った。

京 子「人の気配がないわね…誰か居るのかな?」

六 郎「門灯は点いてるけど…」

京 子「本部応答願います」

 応答がない。

京 子「本部! 本部! おい! …応答がない」

 すっかり霧の晴れた周囲は緑に囲まれ、目の前には瀟洒な民宿が静かに佇んでいるだけだった

六 郎「行ってみますか?」

京 子「そうするしかないみたいね」

 二人は車から降りた。京子が茶屋のドアに手を掛けると…

声  「いらっしゃい…」

 背後からの声に驚いて二人が振り向くと、茶屋の主・安兵衛が立っていた。

安兵衛「お泊りですか?」

六 郎「いえ、道に迷って…」

安兵衛「そう…」

京 子「ここは、どの辺りでしょうか?」

安兵衛「大覚野峠です」

六 郎「おかしいな…国道をまっすぐ走って来ただけなんですけど…ここを戻ったら国道に出ますよね」

安兵衛「ええ、出ます」

六 郎「じゃ、戻るしかないか…」

京 子「こちらで食事はできますか?」

安兵衛「ええ、出来ますよ」

六 郎「オレ、腹減ってないですよ」

京 子「私が空いたのよ。一人前でもいいですか?」

安兵衛「ええ、いいですよ」

六 郎「オレは?」

京 子「車で待ってるか?」

六 郎「今、腹が空いてきた、丁度」

京 子「あ、そうなんだ」

安兵衛「どうぞ、中へ…」

 二人が民宿の中に入ると再び霧が濃くなってきた。車はすっかり濃霧に包まれた。トランクルームがカチッと開いた。隙間から光る目が、そしてその目がハッとした。安兵衛茶屋に向かう黒い足の集団が音もなく小走りに移動していた。その集団を見送ってからトランクを開けて出て来たのは、宮司姿の子供だった。田島の子・鷹虎である。


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 国道105号線、濃霧の大覚野峠を鎌沢丈雄のオートバイが走っていた。


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安兵衛「おまえらは大切な餌だ」

 安兵衛茶屋の地下室で京子と六郎が老人たちに囲まれ拷問に遭っていた。二人の顔は苦痛に歪み、六郎は気を失った。京子は薄れゆく意識の中で、鬼ノ子川、“雨降りさまの下”で、幼き日の京子の妹・里子に起こった悲しい出来事が蘇っていた。


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 京子の回想。

 里子が川に流されていく。

京 子「里子ーッ、里子ーッ、里子ーッ!」

里 子「ネッチャ!」

 里子を助けようと京子も川に飛び込み、二人はそのまま流されていった。


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 アニアイザー本部の田島の携帯に妻からの緊急連絡が入った。

田 島「何! 鷹虎がまだ帰らない? GPSで探したのか…え? 大覚野峠が発信先? なぜ、そんなに遠い所…まさか!」

 田島は確信した。

田 島「あの馬鹿、きっと車のトランクに!」

愛  「危険です! 『白い鷹号』を発進させて早く救助しないと!」

田 島「家庭の事情で『白い鷹号』を発進させるわけには…」

森 川「いや、連絡が途絶えた以上、丈雄さんの到着を待っているわけには行かない」

田 島「しかし…」

森 川「鷹虎クンは未来のアニアイザーだ。万が一のことがあっては大きな損失になる。救助だ!」


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 『白い鷹号』操縦席に田島、愛、陽昇がスタンバイした。

田 島「大覚野峠までお願いします!」

 光る『白い鷹号』がワープした。


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 安兵衛茶屋地下室で水を浴びせられた六郎は意識を戻された。しかし、京子は朦朧としたままだった。


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 京子の回想。

 幼い京子は川に流されながらも気丈に里子を追った。

京 子「里子ーッ、里子ーッ!」

 里子は浮き沈みしながら流されていった。


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 安兵衛茶屋地下室では容赦ない老人たちの拷問が続いていた。

安兵衛「うまく罠に嵌ってくれたな」

 老人たちは変化を解き、ゾクギ団戦闘員の正体を現した。

ゾクギ・P「おまえらにはまた基地に戻って働いてもらう。だがその前に、アニアイザーの本拠地の在処を言ってもらわなければならない。話す気になるまでもてなしてやれ!」

 再びゾクギ団らの拷問が始まった。京子と六郎はサンドバッグのように連打の嵐を受けた。


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 京子の回想。

 京子は流されていく里子のすぐ後ろまで追いついた。

京 子「里子ッ、もう少しだから! 里子ッ、手出してッ!」

 里子は京子に気付いた。

里 子「ネッチャ! ネッチャ! 助けで!」

京 子「里子ッ!」

 京子はやっと里子の手を捉まえることができた。しかし一瞬だった。里子はすぐにまた激流に捉えられて京子からどんどん離されていってしまった。

京 子「里子ッ!」

里 子「ネッチャッ! なして手離した…」

京 子「里子ーッ!」

 里子は流れに飲み込まれて消えた。


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 安兵衛茶屋地下室。

 意識朦朧とした京子の目の前にぼんやりと顔が浮かんだ。

声  「ネッチャ…」

京 子「里子…」

声  「なして手離した?」

京 子「里子…ごめんね…」

声  「なして逃げだ?」

京 子「え?」

声  「どうして裏切ったんだ、てめえ!」

 目の前の顔に焦点が合った。京子はそれがゾクギ団・ピンクであることを識別した。

ゾクギ・P「いい加減にアニアイザー本部の在処を吐け!」

京 子「殴られ過ぎて忘れちゃったよ」

ゾクギ・P「クソッ!」

ゾクギ団・ピンクの手が、京子の喉に激しく食込んだ。


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 鷹虎が安兵衛茶屋前で戦闘員らに囲まれていた。戦闘員に捕まるすんでのところで、『白い鷹号』のワープシェルターが降り、田島、愛、陽昇が現れた。

田 島「二人は中へ!」

 愛と陽昇は安兵衛茶屋に入った。

鷹 虎「おとうちゃん!」

田 島「鷹虎!」

 田島が呪文を唱えた。

田 島「森吉の霊力よ、やす御滝おんたきに宿りて我が身清め給え、南無アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ…」

 田島はタカノスバルに変化し、前頭葉の辺りが渦巻き、その中から白鷹が現れてゾクギ団戦闘員たちを翻弄した。

田 島「鷹虎、逃げるぞ!」

 行く手を阻む安兵衛がドケーン将軍の正体を現した。

将 軍「逃げるのか、卑怯者!」

鷹 虎「なんだと!」

田 島「構うな、さあ、逃げるんだ!」

鷹 虎「いやだ! 逃げない! ボクは卑怯者じゃない!」

田 島「逃げたって卑怯者じゃないんだ、鷹虎!」

将 軍「逃げたら卑怯者だ、うわっはっはっは、逃げろ、逃げろ、卑怯ものめ!」

 鷹虎が呪文を唱えた。

鷹 虎「森吉の霊力よ、安の御滝に宿りて我が身清め給え、南無アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ…」

 鷹虎の前頭葉の辺りに渦が撒いた。田島親子を包囲しゾクギ団戦闘員たちは構えた。ついに鷹虎の前頭葉から飛び出した。

「ピョーッ!」

 ひよこは鷹虎にフンをかけて消えた。ゾクギ団戦闘員たちは一気にコケて一瞬戦意を失う間に、タカノスバルは鷹虎の襟首を捕まえて『白い鷹号』に退避した。

将 軍「 逃がすな!」

 安兵衛茶屋からゾクギ団・青が投げ出された。続けざまにゾクギ団・黄、緑が投げ出された。ヒタチナイトとアニアイドルが六郎を救助して出て来た。カヤクサンダーに変化した京子が、ゾクギ団・ピンクの首を捕まえて出てきた。

京 子「冥途のみやげに外の空気吸わしたろか」

 そう言ってゾクギ団・黄の首を一気にひねり折った。

将 軍「貴様ら! やれ!」

 別働ゾクギ団戦闘員らとの格闘が始まった。丈雄がオートバイで駆け付け、戦闘に加わった。

丈 雄「どうした、六郎! 大丈夫か!」

六 郎「これぐらい、平気だ!」


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 戦闘現場の上空では『白い鷹号』が待機していた。

田 島「ここでおとなしくしてなさい、いいね!」

鷹 虎「はい、おとうちゃん!」

田 島「それが返事だけだったら、また滝にあたる修行のやり直しだな」

鷹 虎「はい、喜んで!」

 タカノスバルは再び戦闘に向かった。鷹虎は操縦席を物色し始めた。

鷹 虎「これがボイス指令のマイクだな…ゾクギ団を攻撃せよ!」

白鷹号「お断わりします!」

鷹 虎「・・・」


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 安兵衛茶屋前の鎌沢兄弟が呪文を唱えた。

鎌沢兄弟「森吉の霊力よ、安の御滝に宿りて我が身清め給え、南無アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ。本地ほんじ合体!」

 鎌沢兄弟は合体変化した。

将 軍「揃ったな、アニアイザー! ならばこちらも手加減はせん! ダンゴー攻撃開始!」

 ドケーン将軍を含む5色の特殊部隊がアニアイザーを包囲し、高速回転を始めた。アニアイザーは背中を合わせて円陣を組んだ。

 ドケーン将軍が回転に波動を送ると、ゾクギ団らの姿が消えた。アニアイザーは見えない敵から次々傷を受けた。アニアイドルが中央から浮かんで、田島から受け取った人形ひとがたを五枚飛ばした。その人形は見えない敵に貼り付き、敵の姿が現われた。ゾクギ団の陣形が乱れた。アニアイザーの攻撃で戦闘員が息絶えた。別働隊の4色のゾクギ団戦闘員が再び陣形を組んだ。

将 軍「無駄だ、引け!」

 ゾクギ団は引き上げたが、アニアイザーは追わなかった。

田 島「帰還!」

 一同はワープシェルターに入り、『白い鷹号』に回収された。


×     ×     ×     ×     ×     ×


 田島は『白い鷹号』操縦席に就いた。

田 島「安兵衛茶屋を浄化せよ!」

 地上の安兵衛茶屋は『白い鷹号』の妖力で浄化され消滅していった。


×     ×     ×     ×     ×     ×


 ゾクギ団基地。

悪 鬼「オレの命令に身が入らぬようだな、ドケーン将軍。何を迷っておる、この腑抜けめ! アニアイザー如きにてこずるとは何事!」

 悪鬼はドケーン将軍に苦痛を与えた。ドケーン将軍は右目を押さえて激痛に耐えた。

悪 鬼「市民どもにもっともっと目先の甘い汁を吸わせるのだ! 外面のいいボランティア工作員を送って、市民の依存心を煽り、アニアイザーの悪評を流させろ。市民の欲でアニアイザーを潰すのだ!」


N「ついにアニアイザーとゾクギ団の戦闘が本格化する! 戦いの行方はどうなっていくのか! 北秋田市民は悪鬼の目論見どおりになってしまうのか! 子孫のために自己犠牲を払える市民であり続けられるのか! 人に優しい活気が蘇る日は来るのか! 森吉の神がアニアイザーに託した祈りは叶えられるのか!」




( 第9話 「マドコの大将」 につづく )

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