第4話 誕生秘話・Ⅲ「御守りのマーク」

 院長室に看護師の吉田絹子が駆け込んで来た。

吉 田「先生、愛ちゃんが意識を取り戻しました!」


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 薄暗い廊下の物陰で、看護師の畠山弥生が注射器を隠し持って立っていた。畠山は愛のいる病室に近付き、そっとドアを開けて “ハッ” となった。目の前に陽昇が立って睨んでいた。

畠 山「あら…いたの?」

陽 昇「・・・」

愛  「畠山さん…ありがとう…」

畠 山「あら、起こしちゃったかしら?」

愛  「やっと手術ができるって…」

畠 山「ほんと…良かったわね」

 そのやりとりを聞きながら、陽昇は畠山を睨んでいた。


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 看護師の吉田と畠山が見送る中、愛を搬送する救急車が出発した。


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 アキラと森川医師、そして陽昇が救急車に同乗した。陽昇はアキラにチラッと視線を送った。それを受けてアキラは窓外の畠山を捉え、陽昇に視線を戻して薄く微笑んだ。陽昇は安心して愛の側に付き添った。


N「愛の本能が鬼ノ子山へと駆立て、実の父との再会を遂げた。そして命が繋がれる…しかし、妻・百合の死も受け入れなければならないアキラは、必死に闘っていた」

愛  「救急車に乗ったことある?」

陽 昇「ない」

愛  「ずっと愛の側に付いててくれる?」

 陽昇は頷いた。

愛  「治ったら一緒に遊ぼ!」

陽 昇「うん!」

 森川医師の携帯が振動した。

森 川「あ、山下先生!」


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 北秋田大学病院で山下博士が待っている。

山 下「こちらは準備が出来ています! いつでも大丈夫です!」


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 内陸線と並走して救急車が走る。


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N「数年の歳月が流れた…」


 内陸線が走る。すっかり元気になった愛が、鬼ノ子山の御堂に現れた。陽昇が出迎えた。

陽 昇「ほんとに来たのか。熊に襲われても知らないぞ」

愛  「陽昇が助けてくれるもん」

陽 昇「・・・」

愛  「どうかしたの?」

 御守を出す陽昇。

愛  「御守り? …あッ!」

陽 昇「えっ?」

愛  「愛はどこかでそのマークを見たことある!」

陽 昇「どこで!」

愛  「・・・」

陽 昇「どこでだよ!」

愛  「そうだ、うちの病院の近所!」

陽 昇「病院の近所?」

愛  「桜庭建設のマークだよ」

陽 昇「桜庭建設?」

愛  「なんで陽昇がこのマークの入った御守を持ってるの?」

陽 昇「・・・」

愛  「・・・」

陽 昇「愛の本当のお父さんはボクのお父さんだよね」

愛  「そうだよ。だから陽昇は私の弟だもん」

陽 昇「ボクはお父さんの本当の子供なのかな…」

愛  「どういう事?」

陽 昇「・・・」

愛  「・・・」

陽 昇「このマーク…別のところでも見た」

愛  「どこで?」

陽 昇「山を壊して凄い基地が出来て…」

声  「そこに行ったのか!」

 ギクッとして振り向くと、アキラが立っていた。

陽 昇「お父さん!」

アキラ「そこに、いつ行ったんだ!」

陽 昇「時々…」

アキラ「もう行くんじゃない!」

陽 昇「どうして?」

アキラ「危険なんだ! …そろそろ、おまえ達に話す時が来てしまったな…」

 雨がポツポツと木の葉をはじいて、激しい雨が御堂を包んだ。三人は狭い御堂の中に入った。


N「アキラは、愛と陽昇にかつてのマタギ猟の忌まわしい話を聞かせた」


アキラ「…その人は…赤ん坊を残して…そのまま息を引き取ったよ」

陽 昇「・・・」

アキラ「陽昇…おまえの…お母さんだ」

陽 昇「・・・!」


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 アキラの回想。

 赤子の陽昇を抱いて命からがら鬼ノ子山に登って来た八重が、山頂の御堂に辿り着いて倒れた。そこに、猟を終えたアキラが、いつもの参拝のためにお堂に寄って、うずくまっている八重を発見した。

アキラ「誰だ!」

八 重「この土地が大変な事になります。自然破壊を許してはなりません。森吉山に悪魔が支配する恐ろしい基地が建設されています。夫は魂を売ってしまいました」

アキラ「夫?」

八 重「私は桜庭建設を経営する桜庭泰治郎の妻です」

アキラ「そうでしたか…」

八 重「このままではこの子の未来も…」

アキラ「あの基地を見でしまった事で、私の仲間も全員殺されました。私も命を狙われ家族とも離れ離れです」

八 重「…許して下さい…ごめんなさい…」

アキラ「あんだのせいでだばねえがら…」

八 重「どうか、この子を…」

 八重はそのままアキラの腕で息絶えた。固く握られた八重の手が開き、御守りが現われた。


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 陽昇は一点を睨みつけてショックに耐えていた。愛はそんな陽昇を見て、じわじわと涙がにじんだ。

アキラ「そして…おまえの本当のお父さんは…桜庭泰治郎という人だ」

愛  「桜庭? …桜庭建設!」

アキラ「ああ…あそこの社長だ」

 陽昇がゆっくりと御守りに目をやった。

アキラ「その御守りは、おまえのお母さんの手に握られていたんだ」

陽 昇「嘘だ!」

アキラ「・・・」

陽 昇「嘘だ! 嘘だ! 嘘だーッ!」

アキラ「・・・」

陽 昇「嘘だって言って…お父さん!」

アキラ「・・・」

愛  「嘘でしょ! 陽昇は私の本当の弟でしょ!」

アキラ「・・・」

陽 昇「お父さん!」

 アキラは陽昇を強く抱き締めた。

アキラ「嘘だばえんども…嘘でねえ、陽昇…」

陽 昇「嘘だ! 嘘だよね、お父さん!」

アキラ「それでもおまえはオレの子だ!」

陽 昇「お父さん!」

アキラ「…陽昇」

 御堂に滝の水が落ちるような雨音がする。

アキラ「この手に抱き上げた時からおめだばオレの子だ。日の出だった。だから陽昇と名付けたんだ」

愛   「お母さんのこと、初めて聞いたから…泣いたって恥ずかしくないよ、陽昇」

陽 昇「泣かない…愛だってお母さんがいないけど泣かないじゃないか!」

 陽昇はそう言って愛を睨んだ。

愛  「…泣かないよ」

陽 昇「泣かないよ、ボクだって!」

 愛は唇を震わせて強く結んだ。その目からは涙が溢れ出ていた。

陽 昇「ボクは悪魔を倒す! それが本当のお父さんでもボクは許さない! 悪魔を倒す!」

 クマゲラのさえずりが聞こえてきた。アキラが立ち上がった。

アキラ「雨がやんだようだな」

 アキラたちが御堂を出ると、びしょ濡れの森川医師が現われた。

森 川「山の天気にはかないませんな」

アキラ「お待ちしてました。陽昇、森川先生ど一緒に行ぎなさい」

陽 昇「どうして?」

アキラ「先生ど話して決めだんだ。しばらぐおまえを預がってもらうごどにした」

陽 昇「いやだ! ボクは行かない! ボクは今すぐお父さんと一緒に悪魔を倒す!」

森 川「陽昇クン、君は戸籍上存在しない。それは、きみの命を守るためにやむを得ない事だったんだ。しかしこれからきみは学ばなければならない。悪魔を倒すには準備と冷静さが必要なんだ。敵を憎んでいる間は絶対に倒せない。今はその逸る心を抑えて、しばらくは私の学友の山下博士の下で過ごしてみないか?」

アキラ「先生の仰るとおりだ陽昇。勇気だけでも、正義感だけでも、悪は倒せね。敵に勝る知恵がねば…」

陽 昇「お父さん! ボクと一緒に戦って! 今すぐ倒さねば取り返しが付がねべ!」

アキラ「陽昇、しばらくの別れだ」

陽 昇「お父さん、ボクは!」

 アキラに近付こうとする陽昇の足元にナガサが刺さった。

陽 昇「・・・!」

アキラ「そご越えれば、おめば殺す」

 陽昇はアキラを睨んで見る見る目に涙が溢れた。

陽 昇「お父さんはボクを殺さない! 絶対殺さない! お父さんはボクのことが大好きだから! お父さんはボクを絶対殺さない!」

アキラ「…んだ…大好きだ…お父さんはおめのごどが大好ぎだ! 大好ぎだがら…敵に殺されるくれだら、オレのこの手でおめば殺すんだ、陽昇! そごを越えで、今こごでオレど一緒に死ぬが、それどもおめが強ぐなってがら一緒に敵ば倒すがだ! どっち取るえった、陽昇!」

 二人は対峙した。

アキラ「分がらねったが、陽昇!」

 アキラが地面に刺したナガサを抜こうと手にかけると、愛が陽昇を庇って、アキラの前に立った。

愛  「強くなってから陽昇と一緒に戦わせて下さい!」

 アキラは地面からゆっくりとナガサを抜き、鞘に収めた。アキラは百合に抱かれてご機嫌な赤子の愛を思い出していた。

アキラ「(モノローグ) 愛…百合に似できたな…」

 陽昇は愛の後ろで力なく呟いた。

陽 昇「ボク…自分に負げだぐね…行ってくるよ、お父さん…」

 アキラはゆっくり頷いて応えた。アキラと陽昇の脳裏を思い出が駆け巡った。山中でアキラに鍛えられる幼い陽昇が次第に成長していく道程や四季折々の楽しげなお互いの笑顔…

アキラ「陽昇…競争相手は自分だからな。人の足を引っ張っても、誰にも勝でねど。自分に負げだら駄目だ」

 愛が陽昇に手を差し出した。その手を陽昇は握った。

森 川「陽昇クンをお預かり致します。では…」

 アキラは丁寧に一礼した。

陽 昇「ボク…強ぐなる!」

 アキラは陽昇に笑顔を送った。愛も涙の笑顔でバイバイの手を振った。アキラは優しく頷いた。

アキラ「愛!」

愛  「はい…」

アキラ「陽昇ば頼むな」

愛  「はい!」

 愛と陽昇は、たどたどしい足取りの森川医師の後に続いて山を下りて行った。鬼ノ子山の御堂から見る麓の田園風景が夕陽に染まっていた。

アキラ「陽昇… 愛…」

 鬼ノ子村の紅い空に、百合の笑顔が浮かんだ。

アキラ「百合…」

 無表情に立つアキラの目から止めどなく涙が溢れて来た。


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 森川、愛、そして陽昇は、鬼ノ子村診療所に入って行った。三人を乗せた高速のエレベーターが暗やみ深く降りていった。愛は陽昇の不安な表情を気遣った。

愛  「怖いの?」

陽 昇「なんも…」

 エレベーターのドアが開くと、アニアイザー準備本部が現れた。原子物理学の権威・山下剛健教授が笑顔で迎えた。

山 下「ようこそ、陽昇クン!」

陽 昇「・・・?」

森 川「今日から君の家庭教師になって下さる山下剛健先生だ」

陽 昇「…宜しく…お願い…します」

山 下「こちらこそ」


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 桜庭土建の前に大勢の住民が列を作っていた。会社建物には求人広告が貼られていた。


『農閑期に現金収入!』

『リゾート開発にともなう各種作業員募集!』

『一日一万円から!』


農民①「一日一万円だば大したもんだべ」

農民②「仕事容易でねったべが?」

農民①「なんも簡単な作業ばりらしいがら年寄りでも大丈夫だど。おらの隣の佐藤のジッチャも働きに出でるども、三ヶ月もしねうぢに羽振りっこえふてな。家っこ、直して新品だでば」

農民②「んだてな!」

農民①「ほら、佐藤のジッチャが肩で風切ってきた…あれ、孫娘だべ?」

 佐藤富松が垢抜けた服装で歩いて来た。そのあとに、中学になる身だしなみのケバい孫娘の泰子が付いて来た。

農民②「何だがジッチャ変ったな」

農民①「ええもの喰ってれば変るべ」

農民②「んだな」

 富松は並んでいる農民たちに見向きもせずに建物の中に入って行った。


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 訓練生たちがアニアイザー準備本部内の訓練室でトレーニングに励んでいた。その中に陽昇と愛もいる。二人は幼いながら、瞬発力・打撃力などずば抜けて優れていた。時には山下博士から実験の指導を受けるなど、二人は年月にスライドして成長していった。


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 ゾクギ団の基地の建設現場では、鬼ノ子村で集められた労働者たちが戦闘員らに厳しい扱いで作業を強いられていた。

桜 庭「役立だじばりだな!」

 そう言って桜庭は、タバコを投げ捨てた。そこに悪鬼が現れた。

悪 鬼「工事が遅れている! 何をもたついてる、桜庭!」

桜 庭「申しわげねし!」

悪 鬼「責任取ってもらうしかないな…」

桜 庭「責任?」

 悪鬼が特殊部隊員に顎で指令すると、桜庭は連行された。

桜 庭「な、何事だべ! ちょっと待ってけねべが!」

 桜庭はそのままホールから連れ出された。


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 アニアイザー準備本部・山下博士の部屋に陽昇(17歳)と、愛(18歳)が呼ばれた。森川も待っていた。

山 下「陽昇クン、よく頑張った! 君は非常に優秀な生徒だった。教える事はもう何もない。そして、愛ちゃん、陽昇クンのサポートをありがとう! 君たちは私の誇りだ。あとは…」

森 川「キミらのようなメンバーが揃えばえんだども…」

山 下「んだしな…松橋アキラさんがらの連絡待ちだども…」

陽 昇「父の?」

森 川「この計画は山下博士と私と、陽昇クン、キミのお父さんの三人で建てた計画だ。今でごそ規模も充実してるども、何せ、勇者が揃わない事には始まらねった」

陽 昇「勇者!」

森 川「アキラさんという人は、マタギ衆の間では神様ど思われでる人だ。あの事件以来、この北秋田市の雲行ぎが段々怪しぐなって来たもんで、みんなアキラさんに頼るしかねぐなったんだ」

陽 昇「あの事件?」

森 川「誰がが森吉の悪鬼の封印を解いでしまったえた」


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 森吉山中で突然、桜庭の足に縄が絡まった。その強力な力で山中を引き摺られ、苔生した石の前で止まった。

声  「解け…」

 誰かの声に、辺りをキョロキョロするが誰もいない。

声  「おまえの前にある石の封印を解け…」

 声のままに見ると、すぐ目前の藪の中に、石に腐って張り付いた注連縄が、今にも千切れそうに垂れていた。

声  「早く解け!」

 泰治郎の右目に激痛が走り、再び血まみれに変化していった。泰治郎は痛みに呻いて目を押さえながら、慌ててその縄を解くと、閃光が走り、地鳴りが轟いた。


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 元のアニアイザー準備本部・山下博士の部屋。

森 川「松橋さんがら話っこ聞いで驚いだもんだ。松橋さんらマタギの一行は、偶然、建設中の悪鬼の基地を発見したんだ。それが不運の始まりだった。全員、死を覚悟する中、マタギ一向は、まだ若かった頃の松橋アキラさんをなんとか生き残らせようと決めだんだ」


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 森吉山中でシカリが仁王立ちになって立ちふさがった。集中砲火の一瞬先に、シカリの前に和夫が立った。

和 夫「シカリーッ、逃げでけれーッ! 迷惑ばり掛けで根性なしのオレば許してけれーッ!」

シカリ「バガワラシ!」

 和夫はシカリを庇ったまま、集中砲火でボロボロに被弾していった。崩れそうな和夫を庇って金治が抱きかかえ集中砲火の的になった。

シカリ「金治! おめまで!」

金 治「シカリ! 早ぐ逃げでけれ…もう持だねでば!」

声  「シカリ、早ぐアキラば!」

 シカリとアキラは山中を駆け抜けた。シカリの右頬に一本の鋭いかすり傷が走った。

シカリ「タツがやられだ武器ど同じやぢだ! 当たれば殺さえるど、アキラ! 今すぐこっから飛び降りれ!」

 さらに連続して射抜いてきた。

シカリ「急げでば!」

 シカリはアキラを強引に滝の上に連れ出した。攻撃が激しくなる。シカリは滝の上でアキラを庇って立ち塞がり、銃弾を浴びながらアキラを滝に突き落とした。アキラは滝しぶきに叩き付けられながら落下していった。


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 元のアニアイザー準備本部・山下博士の部屋。

森 川「アキラさんは必ず勇者を連れて来てくれる! そして悪鬼を倒す日がきっと来る!」

 重い空気が流れた。

山 下「久し振りに散歩でもして来たらどうだ? こっちも念願の特殊ナガサがもうすぐ完成なんだ。二人が散歩から帰る頃には、もしかしたらできているかもしれないぞ!

愛  「そうですか! じゃ、行こう、陽昇!」


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 鬼ノ子村診療所の外来入口から、陽昇と愛が出て来て大きく深呼吸した。

陽 昇「散歩なんて久し振りだ」

愛  「こうしてのんびり空気を吸う時間なかったね」

 看護師の吉田絹子が笑顔で見送りに出て来た。

吉 田「気を付けてね!」

愛  「は~いッ!」

 吉田は嬉しそうに手を振る愛に満面の笑みで応えた。

吉 田「ああ~わだし何だがドキドキする。お似合いだものな~あの二人。(妄想)愛ちゃん、僕はキミが好ぎです…わだしも…愛ちゃん、オレど結婚してけれ…はい、陽昇さま、こんな私で宜しげれば…そうなったらど~しるべ、わだし。何がが起ごりそうで、もう胸が…心臓が止まらない! 心臓止まったら死ぬな。何言ってるんだが、わだし」

 大笑いで大興奮の吉田を物陰から畠山が窺っていた。

畠 山「胸揉んでる…」


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 愛と陽昇は阿仁合駅沿いの阿仁川のほとりを散歩していた。

愛  「夏になると、ここで花火大会があるのよ。訓練ばっかりだったけど、今年は観たいね」

陽 昇「…ああ」

愛  「そろそろ、お父さんに会いたいね」

陽 昇「・・・」

愛  「今度、比立内太平山に登ろうか!」

陽 昇「…山下先生の武器が完成する頃かもしれないから、もう少し散歩したら帰ろうか」

愛  「そう? …まだかなり時間が掛かるんじゃない?」

 歩く二人を、影が付け狙っていた。

戦闘員C「やっと出て来たか…やはりこの病院にいたか…あのガキが桜庭の息子だな」

畠 山「そうよ。病院ではたまにしか顔を見ないけど、間違いないわ」

 畠山が戦闘員Cに指示を出し、ゾクギ団ピンクの正体を現した。戦闘員Cら配下が愛と陽昇を包囲し始めた。


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 悪鬼の基地では、桜庭泰治郎の人体改造が行われていた。丁度、桜庭がドケーン将軍として蘇ったところだった。配下のゾクギ団・黄が桜庭に鏡を手渡した。自分の顔を見た桜庭は驚いた。最早人間の顔ではなかった。

悪 鬼「今日からお前はドケーン将軍だ」

桜 庭「ドケーン将軍!」

悪 鬼「おまえはその命果てるまで私の奴隷だ。さて、もうすぐおまえの宿敵になるであろう息子に会わせてやる」


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 阿仁川のほとりを散歩する陽昇と愛の陰で、彼らを襲おうとする戦闘員が音もなく次々と倒されて行った。

陽昇・愛「・・・?」

 陽昇の足が止まった。

愛  「止まらないで歩こ…」

 陽昇は愛に追い付いて一緒に歩いた。

愛  「…付けられてるわね」

陽 昇「二人…か…」

 ゾクギピンクと戦闘員Cが二人を襲おうとしたのを察知し、愛と陽昇はほぼ同時に振り向いた。

陽昇・愛「・・・!」

 誰もいない。

陽 昇「・・・?」

愛  「確かに殺気が…」

 二人は再び歩き出した。その二人の遥か頭上の木の枝に、戦闘員Cが首を吊られて絶命して揺れていた。その弦を引っ張ったアキラが草むらに忍んでいた。傍には、ゾクギ団戦闘員ピンクが、樹木にナガサで胸を貫かれて絶命していた。

陽 昇「・・・!」

 陽昇はとっさに枝を見上げた。首吊り死体は既に消えていた。

陽 昇「(モノローグ)…父さん? …まさか…」

 愛が遠くに視線を送った。農家の老人がヨタヨタとリヤカーで満載のワラを運んでいた。


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 鬼ノ子山の御堂に戻って来たアキラが、いつもの場所に腰掛け、村の夕景を眺めていた。

アキラ「(モノローグ)立派になったな、陽昇…愛…」

アキラに突然、影が襲い掛かった。アキラは辛うじてかわした。

アキラ「・・・!」


N「マタギラーに襲い掛かる影! ついに森吉の悪鬼の手が鬼ノ子山の御堂にまで伸びて来てしまったのか!」




( 第5話 誕生秘話・Ⅳ「訪問者」 につづく )

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