テッピとデータディータとジェノベーゼのお話
彼の名前は
TeP・tepi・Tepy
これでテッピ・テッピ・テッピと読みます。
名前がテッピ、父親の名前もテッピ、名字もテッピです。
ニガム国の中でも1番の田舎だと言われている県の、さらに田舎で生れました。
パサパサに乾いた飼い葉色の髪と、ニガム人の中でも珍しい琥珀色の目がとても魅力的な男の子でした。
それはそれとして。
ある日どこかで、とても偉い人達が世界地図に線を増やしたり、減らしたりすることを決定しました。
この時までグマジマは、ニガムとよその国の間に引かれた線のニガム側にいたのですが、偉い人はその線をちょっとばかり東へ動かして、グマジマをよその国の中に入れてしまおうと考えたのです。
そういうわけですから。
当然こういうことになるのです。
テッピの父親は戦争中によその国の兵隊に捕まり、捕虜収容所で裸にされて、クソを塗りたくられ、顔に『ウンコ』と入れ墨を入れられ、頭にマシンガンを押し付けられて病気の犬をお嫁さんにすることを強要され、お嫁さんから病気を移されて動けなくなり、一度でいいから人を撃ってみたいんだ! と常々語っていた収容所の所長の馬鹿息子の射撃の的にされて死にました。
そういうわけですから。
テッピの母親は戦後に占領軍からスパイ容疑をかけられ、占領軍のキャンプにつれていかれ、男しかいないテントに裸で投げ込まれ、首輪をつけられて散々可愛がられた末に、黒、白、黄色の赤ん坊を孕んでは腹を蹴られ、孕んでは腹を蹴られして、頭がおかしくなった所で容疑が晴れてお家に戻ってきました。なんとラッキーなことでしょう。お家に帰ってこられるなんて。
でも戻ってきた次の日に静かに死んでいきました。
そういうわけですから。
テッピは母親の死体を家の庭に埋めました。
これからは本当に1人で生きていかなければいけないんだと思いました。
『世界で最高の母親、眠りの中で安らかに』と書いた木の板を土に立ててお墓にしました。
テッピの家の前を通りかかった占領軍はテッピをとても可愛く思ったので、スパイ容疑をかけてキャンプに連れて行きました。
テッピは母親がどんな風に可愛がられたのかをきちんと教えてもらいました。
余すことなく全て。
キャンプにはテッピの他にもスパイ達がたくさんいました。
女の人と女の子が多かったけれど、男の人や男の子もいました。
みんな兵士達に首輪を付けられていました。
若い女の人は頭がおかしくなっていました。
若い男の人は頭がおかしくなっていました。
女の子は泣くだけでした。
男の子は泣くだけでした。
テッピと同じテントにいた女の子が逃げようとしました。
すぐに掴まりました。
どこかに連れていかれました。
もう帰ってきませんでした。
テッピが首輪をつけられてから3日後に、怒り狂った人達がテントに車を突っ込ませてきました。
花火も投げ込まれました。
テッピは同じテントにいた小さな男の子を連れて混乱に乗じて逃げ出しました。
半日も経つと、それはそれは大きな戦車がやってきて、怒り狂った人達はみんな死にました。
小さな男の子は家に帰りました。
小さな男の子はその子の父親に殺されました。
可愛がられてしまった子は汚れているから、生きていてはいけないのだと昔神様が言ったんだそうです。
テッピはそのまま町を出ました。
可愛がられた事は忘れようと思いました。
無理でしたけども。
大人になったテッピは、人を傷つけたり、自分を傷つけたりするようになりました。そうすると少しは可愛がられた事が自分から遠くなったからでしたが、本当はただ人を傷つけたくて、ついでに自分も傷つけたかったのかもしれません。
本当のことは誰にもわかりません。
テッピ本人にもわかりません。
そこがテッピにとって一番辛いところでした。
テッピは10年ぶりに、今はもうパスポートがないと入れなくなった故郷に帰りました。
テッピの家はマクドナルドになっていました。
テッピはマックシェイクを飲みながら、母親が埋まっている辺りの椅子に座りました。
窓ガラスの向こうの通行人が全員死んでしまえばいいのにとテッピは思いました。
テッピの隣の席に同じくらいの年の男が座りました。
男はどこから来たの? 旅行かい? と気さくに話し掛けてきます。
テッピは言いました。
昔、ここは僕の家が建っていたんだよと。
男は黙り込んでしまいました。
それも少しの間だけではありましたが。
男はデータディータと言いました。
占領軍と可愛がられた人の間に生まれたのだと言います。
ということはテッピより幾らか年下です。
老けてみえたのはお髭のせいでしょう。
データディータはこの解放区の若い人間はみんなそうやって生まれたんだと言いました。
子供を産んだ後で、可愛がられた人達は、汚れているので神様がみんな焼き殺したそうです。
テッピは神様も可愛がられてみればいいんだと思いました。
データディータも同感だと笑いました。
そういうわけですから。
テッピはデータディータの家に招かれました。
データディータの家は小さな可愛らしい2階建ての家で、蔓薔薇に覆われていました。
データディータのお母さんを可愛がった誰かしらは、それなりの地位にいた人のようだとテッピは思いました。
データディータ・オグジ・ドゥーラは濡れたようにみえるツヤツヤのチョコレート色の髪と、混血児にありがちなカスタード色の目をしていました。
肌の色も程よく焼けたパンの色だったので、テッピにはデータディータがチョコレートをたっぷりかけられたカスタード入りのシュークリームの妖精にみえました。
テッピはデータディータと飲みました。
データディータが言いました。
君が好きだなぁ。
テッピはふーんと言いました。
ずっと一緒にいてくれたらと思うよ。
テッピはふーんと言いました。
データディータは黙り込んでしまいました。
以降、データディータはテッピにそういう事を言うのを止めました。
そういうわけですから。
テッピとデータディータは友達になって一緒に暮らし始めました。
観光ビザは切れていましたが構いませんでした。
テッピは月々食費と光熱費をデータディータに手渡し、データディータはそれで腕を振るって料理を作りました。
テッピにはふわふわした巻き毛のガールフレンドが出来ました。
マフ・エニュー・テイウというその子の目もやはりクリーム色でした。
マフはテッピのその目が大好きだと言いました。
ずっと側にいて見つめていたいと言いました。
テッピはマフと別れました。
昔テッピを可愛がった兵隊達もテッピの目玉をそういって舐め回したからでした。
テッピは別れる時にマフを殴りました。
その後で家で手首を切りました。
でも切ったばかりの時にデータディータに見つかってしまい、とても怒られました。
そんなに怒る事じゃないよ。
何故手首を切ったのか聞かれた時にテッピがこう答えたので、データディータは増々怒って部屋に閉じこもってしまいました。
夕食時になっても出て来ないのでテッピはドアの外でお腹をグーグー言わせました。
口でも言いました。
グーグー。お腹すいたよー。グーグー。
データディータは子供じゃないんだからとブーブー言いながら部屋から出て来て、ジェノベーゼパスタを作ってくれました。
唇を緑色に汚しながらテッピは言いました。
君の料理が食べれる内は死ぬのはやめとくよ。
データディータは少し嬉しそうでした。
それから何年か2人は一緒に暮らしました。
それなりに色々ありました。
マフがデータディータをテッピの恋人だと勘違いして怒鳴り込んできたりもしました。
テッピに新しいガールフレンドが出来て、やっぱり殴って別れたりもしました。
データディータにモデルの恋人が出来て、結局別れたりもしました。
データディータは何度かテッピにそれとなくアプローチしました。
テッピはふーんとしか言いませんでした。
データディータはその度落胆しましたが、2人の生活が割と気に入っていました。
ある日テッピは町で身なりのいい男に呼び止められました。
男は藍色のスーツに特級軍人のバッジをつけていました。
特級軍人バッジは昔この町を占領して平和的に戦後混乱期の町を統治した兵隊に送られる名誉あるものです。
テッピは軍人に誘われるまま軍人の家に行きました。
軍人の手料理を食べました。
データディータのオムレットが食べたいなと思いました。
それから眠くなってしまったので、そのまま眠りました。
目を醒ました時、テッピはちょうど軍人に可愛がられているところでした。
テッピは抵抗しませんでした。
軍人は上機嫌でした。
たまには年増もいいもんだ。
それにしてもお前の目は美しいな。
軍人は笑いました。
テッピも笑い返しました。
テッピが家に戻り、データディータに今日あった事を洗いざらい喋ると
データディータは激怒しました。
何を考えているんだ! 一体何を!
僕は何も嫉妬して怒っているんじゃないぞ! どうしてそんな酷い事を!
相手はあいつらなんだぞ! あいつらなんだ!
僕と、君と、町をおかしくしたあいつらと寝るだなんて!
のこのこついていくなんておかしいだろう!
あいつらは僕達を所有物だと思ってるんだ! 何してもいいと思ってるんだ!
今月だけで僕達が何人あいつらに殺されたと思っているんだ!
ここでは報道されやしないけど、8人も殺されているんだ! あいつらは直ぐに基地に逃げて、それで「犯人は調査中です」って言って、それでおしまいなのに!
それだけじゃないぞ!
あいつらは8人の僕達が死んだなら、8人の僕達を作ればいいって考えて、それで、それで、どうせならあいつらの国では絶対に許されない事を楽しもうって、小さな小さな女の子をレイプしたり、子供の目の前で母親をレイプしたり、それで、それで、妊娠させて、あいつらの病院で産ませたりしてるんだ! 僕も、君の前の恋人もそうやって生まれたんだ! そうやって! そうやって!
それなのに君はあいつらに足を開いたのか!
金に困ったわけでもないのに! 脅されたわけでもないっていうのに!
テッピはふーんと言いました。
データディータはテッピを殴りました。
テッピはデータディータに言いました。
あの日、僕に起きた事がどういうことだったのか知りたかったんだ。
テッピは可愛がられた話をしました。
今でも夢に見て飛び起きる事があるといいました。
それから小さい頃怖がっていたモンスターも大人になればただのきぐるみなんだと気が付けたように、可愛がられた事も大人になれば恐くなくなるんじゃないかと思ったと言いました。
全然恐くなかった。
あの男はただの変質者だった。
怖がるような相手じゃなかった。
僕や母さんを可愛がった連中も、きっと同じような程度の相手だったんだ。
テッピはほっとした顔でいいました。
これで僕はやっと幸せになれるよ、データディータ。
これで僕はやっと悪夢を見なくなるよ、データディータ。
これで僕はやっと人を愛せるようになるんだよ、データディータ。
だって僕に起きた事は、全然大した事じゃなかったんだから。
データディータは黙りました。
もう怒っていませんでした。
ただとても悲しそうな顔をしていました。
テッピはお腹がすいたといいました。
あいつの料理はゲロのような味だったよ。
君のオムレットが食べたい。
データディータは言われた通りにオムレットを作りました。
テッピはとても満足でした。
データディータは何か言いたげでしたが、テッピがあまりにも幸せそうなので口を閉じました。
その日の夜。
テッピは自分の部屋の窓に全速力で体当たりして、2階から庭のプールへ飛び込みました。
昨日の雨でプールに水が張っていなければ、テッピは腕を骨折しただけではすまなかったでしょう。
データディータがどうしてそんな事をしたのか聞いてもテッピは何も答えませんでした。
それからしばらくはいつも通りに時間が過ぎました。
でもある日、またテッピが幸せそうな顔をして帰ってきました。
データディータは酷く不安になりました。
またあいつらの所に行ったんじゃないかと思いました。
そしてデータディータの思った通りだったのです。
やっぱり全然恐くないんだ、データディータ。
なんてことなかったよ、データディータ。
テッピは幸せそうでした。
なんとなく嫌な予感がして、データディータはその日の夜にプールに使わなくなった毛布やら枯れ葉やら空気を入れて膨らませたゴミ袋やらを入れておきました。
そしてデータディータの用意した物は、再び2階から飛び下りてきたテッピを助けたのでした。
テッピは擦りむいた所をデータディータに消毒されながら言いました。
もっと可愛がられるのに馴れなくちゃいけないんだ。
そうだよ。馴れなくちゃいけないんだ。
そうすればもうこんな事にはならないんだ。
僕は乗り越えられるんだよ、データディータ。
僕はがんばって、あれに馴れないといけないんだ。
そうすれば僕は幸せになれるよ。
誰かを好きになれるんだよ。
データディータは君は間違ってるよと言いました。
テッピはふーんと言っただけでした。
テッピは特級軍人達が集まる場所に出かけるようになりました。
軍人達や軍人達の愛人はテッピをなんでもやらせる軽い男娼だと思っていました。
テッピが何を乗り越えようとしているのかはデータディータ以外は知りませんでした。
データディータはテッピを何とか助けてやろうと思いましたが、人間が人間を助けられるかと思ったら大間違いです。
驕り高ぶった思い違いです。
テッピはどんどんおかしくなりました。
一度おかしくなると勢いづいてどんどんおかしくなります。
放っておくと何度でもどこからでも飛び下りようとするので、データディータはテッピと同じ部屋で眠るようになりました。
何度、窓からダイブしようとしているテッピを引き止めたか、何度、風呂場で手首をきろうとしているテッピを押さえ付けたかわかりません。
テッピがどうしょうもなく落ち込んでしまった時、データディータは特級軍人を呼びに行きます。
そして特級軍人を家に送り届けた後は2時間程町を散歩します。
テッピが軍人に可愛がられているのを想像するだけでデータディータは凶暴な気分になりました。
今では口にだして口説く事はなくなりましたが、データディータはテッピが好きでした。
恋愛としての好きではなく、友達として、そして家族としての好きではありましたが。
そういえばデータディータには今まで、家族など1人もいなかったのです。
彼のお母さんは大分昔に死んでしまっていましたし、彼のお父さんとはお母さんの葬儀で顔を合わせただけでした。
恐らくは、お父さんなのだろうとデータディータが思っているだけで、実際はどうかわかりません。
でもお母さんお墓にお花を持ってきたのはその人だけでしたし、家をくれたのもその人でしたし、データディータと同じチョコレート色の髪をしていました。
ですからデータディータはその人をお父さんだと思っていました。
でも家族ではありません。
家族になることもありません。
ある日、いつものように散歩を終えたデータディータが家に戻ると、テッピが恍惚とした顔で玄関先に立っていました。
軍人に可愛がられた後はいつも幸せそうなテッピでしたが、その日はあまりにも幸せそうなのでデータディータは逆にぞっとしました。
何かとても悪い事が起きたのではないかと思いました。
このまま家に入らないでどこかへ去りたいと思いました。
テッピは笑いながらいいました。
大丈夫。
僕は乗り越えたんだよ。
最初からこうすればよかったんだ。
これでもう誰も僕を好きなように出来ないんだ。
家の中で、特級軍人が脳みそにガラス瓶を刺されて死んでいました。
データディータはすぐに荷物をまとめて、テッピを連れて家を出ました。
特級軍人殺しだなんて、死刑百回分の刑罰に値します。
2人は逃げました。
どこまでも逃げました。
そして、逃げ切る事が出来ました。
おめでとうございます。
でもテッピは増々追い詰められてしまいました。
あいつら殺したのに、あいつらまだ夢に出て来る。
あいつらただのクズなのに、あいつらまだ追い掛けてくる。
あいつらまだ僕を可愛がりにくる。
あいつらまだ僕で遊んでるんだ。
あいつら殺したのに。
あいつら殺したのに。
僕はもう安全なのに。
あんなことをしたくはなかったのに。
でもやっと、やっと、乗り越えられたのに。
あいつらまだ僕を閉じ込めているんだよ。
あぁ。
僕はあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな 奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな奴らとあんな 奴らとあんな奴らとあんな奴らを楽しませてあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴 らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴 らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らをあんな奴らを。
データディータはオムレットを作ります。
ジェノベーゼも作ります。
テッピと一緒に食事をします。
時々確認するために言います。
僕の料理を食べる内はいなくなったりしないでね。
テッピは最近あまり返事をしなくなりました。
テッピとデータディータは時々映画を見に行きます。
数カ月前は「ダイブ・トゥ」というハリウッド映画を見ました。
恋人を悪党に攫われた男がマシンガン片手にニューヨークを爆破していく映画でした。
恋人は「無事」に助けられて、最後はハッピーエンドでした。
今日は「パトリシアという女」というイギリス映画を見ました。
妹を誘拐された女が臓器密売組織から妹を取り戻そうともがくけれど、妹は変質者にレイプされて、それを苦に自殺しました。
女が変質者をぶち殺し、妹の墓に花を供えて終わりました。
テッピは言いました。
どうしてハリウッド映画のヒロインは、レイプされないんだろう。
レイプされたけど、生き残る事が出来ただけでも幸運なのに、どうしてそれをハッピーエンドの一つにしてくれないんだろう。
どうしてレイプされた人は死ななくちゃいけないんだろう。
どうしてだれも、それを乗り越えて幸せになる人を見せてはくれないんだろう。
僕が言っているのは「レイプされた人が乗り越えてハッピーエンド」の映画の話じゃないよ。
逃げようともがいたけど、逃げられなかった人に「それでも幸せなんだよ」って囁いてくれる映画が見たいんだ。
データディータはビデオ屋にいって、ヒロインが最後にレイプされてしまうハリウッドのハッピーエンド映画を一生懸命探しましたが、見つかりませんでした。田舎ですから仕方ないですね。
ある日、データディータはいいニュースを見つけました。
とうとうあの町で大きな暴動が怒り、特級軍人がみんな殺されたというニュースです。
データディータはきっとテッピが喜ぶと思いましたが、テッピはふーんと言うだけでした。
今さら何がおきても、あの過去のテッピは助からないのです。
今日もデータディータはテッピのために料理を作りました。
ジェノベーゼでした。
データディータは緑に汚れた唇をテッシュで拭きながらいいました。
僕じゃだめなのかなぁ。
テッピは少し笑ってから言いました。
僕に初めてキスをしたのはあいつらだった。
だから誰かとキスをするとあいつらを思い出すだろう。
僕に初めてファックを教えたのはあいつらだった。
だから誰かとファックしてもあいつらを思い出すだろう。
もし、君と僕とが一緒になったらね。
僕は君とキスするたびにあいつらを思い出すよ。
そして君を殴りつけるよ。
僕は君とファックする度にあいつらを思い出すよ。
そして君を殴りつけるよ。
いつもいつも誰かを好きになるとそうなるんだよ。
そしてみんな僕を置いて行くんだ。
データディータは小さく肩を竦めました。
じゃぁ、キスとファック以外のあいつらがしてない事を君にするよ。
テッピは緑色の歯を剥き出しにして大笑いしました。
そんなものはないよ! ないんだよ!
だってあいつらは思い付く限りのことを全てやってくれたんだから! 全て! 全て! 全て!
だから君に出来ることは何もないんだよ!
データディータは首を傾げていいました。
あいつらが君にしてないことがまだ2つあるよ。
テッピは笑うのを止めました。
僕は君のために美味しい料理を作れる。
それから、多分初めて君を愛するんだよ。
テッピとデータディータはまだ一緒に暮らしています。
テッピはよく窓からダイブするので眠る時は腰にバンジージャンプ用のゴムを付けられます。
テッピには恋人がたくさんいます。たくさんいる恋人をたくさん殴ります。
そしていつも別れます。
テッピには愛とか恋とかが良くわかりませんでしたが、データディータが自分にしている事が多分愛なんだろうと思うようになりました。
例えばどーでもいい話をだらだらしたり、下らないコメディアンのジョークも2人で見ると楽しかったり、一緒に寝転がってる時にオナラするのも平気なくらい気楽だったり、他の誰かがデータディータの悪口を言うと物凄くカチンときたり、そういうのが愛なんだとテッピは思いました。
君が教えてくれた愛を、僕は他の人で実践するかもね。
そしたら君はどうするの?
テッピが聞いた時、データディータは物凄く不機嫌な顔で「君が幸せならそれでいいよ」と説得力のない言葉を言いました。
テッピはデータディータのこういうバカッぽいところを好ましく思いました。
テッピはまだあの恐ろしい3日間の夢を見ます。
悲鳴を上げて飛び上がります。
とても恐いと思います。
とても恐いのだと思えるようになりました。
だから、「大したことじゃない」と嘯いて、間違った事をしなくなったのです。
進歩した点と言えばこれくらいです。
あとは何も変わらない、テッピとデータディータです。
明日テッピはデータディータにジェノベーゼでも作ってやるつもりです。
喜んでくれたらいいなぁとテッピは思います。
データディータはテッピを救う事など生涯出来ないし、テッピも過去を忘れたり、克服したりする事は出来ませんが、お互いのためにジェノベーゼを作れます。
賢くも正くもない人間2人で、お皿1杯分だけお互い幸せに出来るのなら、
人間の中では中々上等なもんですよ。
※自tumblerに掲載している同名タイトルの調整作です。
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