第25話 見倣うべき意志
(星の王の鎖?)
カーラは洋介達の会話を注意深く聞いている。どうやら、今のライツの首には星の妖精王リッツが用意した鎖が巻かれているようだ。
それはもともと、リッツがライツを子どもの姿に戻すために用意したものである。星妖精は子ども時代に経験したことが、大人になった時に強く身体に影響を及ぼす。まだ、ライツには学ぶべき事があるというリッツの判断によるもの。それが、ライツを子どもに戻すという行為であった。
それを成し遂げるのが、ライツの持つ金色の鎖とリングである。
(なるほど、そういうことか)
ようやくカーラの中でパズルのピースがそろった。一つ一つ、関連性のあるものを組み立てていくと大きな絵ができあがっていく。
いくらカーラの想像をしのぐ強大な力を持つ者と言えど、ライツ相手に遠隔で効果を発揮し続けることのできる呪いなんて不可能だと思っていた。しかし、ライツがもともと『縛られている』のなら話は別だ。
(星の姫への施しが裏目にでたんだな)
カーラはリッツの用意した鎖が、何者かの手によるものだと結論づけた。
リッツは伝説の名に違わぬ力の持ち主である。妖精界で、彼女に敵う者など存在しないだろう。しかし、それは直接対峙した時の話だ。
リッツの強みは、その無限の可能性。どんな相手であれ、相手にとって不利な状況を生み出すことができる。逆に言えば、自身の得意分野で勝負すれば上回ることができる者もいるのではないか。
(もちろん、そんなものは机上の空論に過ぎぬが)
実際は、そんなことをさせてもらえないからこそリッツは伝説なのだ。しかし、彼女の手を離れた……娘に渡した装飾品ならどうであろうか。
(変容させることは、できるだろうな)
そうした、他者を縛る力、その一分野でリッツを上回る者がいたのなら。それは、かなり数少ないであろうが、いないことはない。その中の誰かが、リッツが鎖に持たせた意志を改ざんさせて、違う効力を発揮するものへと変えてしまったのだろう。
(そう考えると全てスッキリする)
ふぅ、と小さく息を吐くカーラ。
問題はここからだ。もし、カーラの想像が本当だったとする。それであれば、大事なのはどうすればライツを解放できるかだ。得意分野であれば、伝説の
カーラは自分が勝つ想像ができない。代わりに思い出すのは、初めてカーラと対峙した時のライツの姿だ。
ライツはカーラが用意した結界の中で、もがき苦しんだ。全てがカーラに有利に働く世界で、ライツは大人の姿になったばかりなこともあって力を浪費し続けた。しまいには、空になった体を気力で持たせているような状態になった。
凄まじかったのは、その気力だ。彼女は決して気力を無くさなかった。目の輝きを失わなかった。
そして、ずっとカーラに向けて言い放ってくるのだ。
あたしの全てでぶっとばす、と。
「ふふ」
カーラは思わず笑みをこぼした。
(そうだな。ここは星の姫に
やれることはやってやろう。諦めるのは、それからでいい。
カーラが笑ったことに気づいた洋介がこちらを見ていた。そんな彼と視線を絡めて、カーラは口端を歪めた。
「星の姫がご執心なのが貴様、ということは変わらなさそうだ」
レイラが言うには、洋介の存在が邪魔だとのこと。つまり、ライツに術をかけた側の思惑とは違う行動をとっている。それが、ライツが洋介の近くに行ってしまうということなのだろう。
「……それは、ライツがまた僕のところに来るってこと?」
洋介の察しの良い答えに、カーラは満足げに頷いた。
「ああ」
ライツはきっと、再び洋介の前に現れる。姿の見えない彼女を追うよりも、よっぽどそちらの方が遭遇できる可能性が高い。
言い方は悪いが、洋介は餌だ。カーラはそこで待ち受ける猟師。大変なのは罠をしかけることも難しければ、獲物は猟師より遥かに大きな巨獣であるということ。
しかし、今のライツがどれだけ脅威であろうと、カーラのやることは彼女の中では決まっていた。
「その時に、星の姫がつけてる鎖を引きちぎってやればいい」
「鎖を?」
洋介は首を傾げる。ライツが鎖について話をしていたことを思い出していた。
「あれ、ちぎろうとしても無理そうだったけど」
前に洋介が試してみた時も、かなり強固でびくともしなかった。金属っぽいが、どこか温かみのある鎖。一見柔らかそうに見えるのだが、同時に鋼よりも強い頑丈さを感じた。
「洋介殿。何をしてるんですか?」
「いや、ライツがね。やってみてー、とか言うからさ」
確かに悪ふざけだったと洋介も思う。ルーミに睨まれるのも仕方ない。洋介は体を小さくさせていた。
「星の王の意志は、そうなのだろうな。しかし、今は別の者の意志に変わっている。さすがに自分では外さないだろうが、他の者が手を出せば、どうかな?」
当然のことだが、今、ライツの首に巻かれている鎖が壊せるとは限らない。それでも試してみる価値はある。ライツを縛り続けるのは相当力が必要だ。鎖の強さにまで力を注いでいる可能性はもちろんあるが、手を抜いている可能性も高かった。
「そういうことだ。だから、私はしばらく地上にいよう。星の姫が現れるまでは、太陽の力が薄くなっている間は貴様の近くにいる。なに、貴様は気にせず日常を過ごしていればいい。焦ったところで、星の姫が自分で姿を見せるとは思えないからな」
隠れようとライツが思ったら、全力で隠れきってしまうだろう。来るとしたら、夜だ。とりあえず、今日はこの家の周辺を散策しておこうとカーラは思っている。
「ん~、それしかないなら僕はそれでいいけど」
焦るな、と心の内を読まれた洋介は渋々納得する様子を見せる。
「
納得できていないのはルーミだ。カーラに
いざとなったら斬りかかれるぐらいに、今この場で気を張り詰めていたのもそのせいだ。
「なんだ。貴様は、領域の対処もしなければいけないだろう。レイラとやらも追わないとな。同族の力を探知するのは貴様の方が得意だ。星の姫が現れてからでも、貴様なら間に合うはずだが」
「確かにそうなんですが」
力を使ってさえくれれば、ルーミは他の星妖精の居場所を感知することができる。レイラの元へとたどり着けたのもそのせいだ。
確かに、カーラの言うことには一理ある。ルーミに反論の余地は少ない。しかも、どれも感情的な反論であるからカーラには通用しないことがルーミにだって分かっている。
(う~ん、洋介殿を任せたくないってのはただの
眉根を寄せながら悩むルーミは一つ、論理的な理由が見つかった。それをカーラにぶつけてみることにした。
「闇妖精は、地上の空気が苦手だと聞きます。貴方は平気なんですか?」
地上に妖精族がいなくなった理由は様々あるが、闇妖精に関しては明確だった。もちろん高度な感情を持つ者であれば人には限らないのだが、人の負の感情に影響されやすい彼らは自分の体が変容することを恐れているとルーミは聞く。
それはカーラだって例外ではないはずだ。すぐには変わらないとはいえ、影響は徐々に心身を
「ああ、それな」
しかし、カーラはあっけらかんとした様子で答えた。
「私はある事情で平気なんだ」
今回の事態を闇妖精側が対処しようとした時、地上行きを志願したカーラを誰も止めず、むしろ推した理由もそこにあったのだった。
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