第24話 黒幕を探る
「少ないように思えるけど……けっこう、多いのかな。それ。全員に聞くことはできないの?」
洋介が五名、という言葉に反応した。可能性がある相手が絞れるのであれば、そこから突破口が開けるのではないか。彼はそう思ったのだ。
「無理な話だ」
カーラはそんな洋介の問いに、小さく首を横に振った。洋介の考えているほど、簡単な問題ではないのだ。
「そもそも、そいつらは闇の領域に関係の無い場所で生息している。闇の妖精王とは、基本的にそりが合わないからな。その
「話もできないって。なんで?」
その話に、洋介が納得できない表情をしている。ライツのことが解決できるのなら、できるだけのことはしてほしいと洋介は思っているのだ。
その気持ちも分かるのだが、難しいものは難しいのだ。カーラは首をすくめてから、話を続けた。
「もし、もしも、だぞ。話をしてみて、それが、あらぬ疑いだとしたら、そいつはどう思う?
そこまで言い切って、カーラはふと天井を見上げた。
「ああ、でも」
何かを思い出したようで、しかし、すぐに首を横に振った。
「一名、ふらふらと闇の領域内をうろついている実力者もいるが。そいつは関係ないな。疑えばきりが無い」
そもそも、その一名が今回カーラが地上に行くことを推してくれたのだ。闇の妖精王の友人と言える。友情、などという不確定なものであるが、今のカーラには十分信用できていた。
それに
――地上に行ったら、まず洋介のところに行けばよい。なに、力は無いが意志は強い子での。きっと、側にいれば道が拓けるはずじゃ。……なんじゃ、その顔は。
ここで、彼の名を出すと言うことは、少なくとも自分と同じくらいには洋介のことを信頼しているのだ。カーラには、それで十分だった。
「ところで、洋介。貴様が狙われたことに心当たりはないか。はっきり言うが、そこまでの価値は貴様にはないのにな」
「本当にはっきり言うなぁ」
カーラの口から出る「洋介」は、やはり懐かしい響きがあると思いながら、洋介は少し落胆した様子を見せて頭をかいた。
カーラに言われたからではないが、実際に洋介は不思議だった。何で、レイラはあそこまで自分を追い詰めてきたのか。
思い出そうとすると、恐怖が邪魔をしてくる。時々、ぶるっと体を震わせながら何とか洋介は今日のことを振り返る。
はっきりと思い出せないが、それでもいくつか気になる点を見つけることができた。
「いると、邪魔とは言われたな」
「洋介殿がいると面倒、とは言ってましたね」
その点にルーミも同意を示す。
邪魔だの、面倒だの、ひどい言われようだ。あらためて、洋介は大きく溜め息をついた。
「そういや、ライツがここに来た原因が僕だって。あいつ、ライツのこと、
洋介はその響きに、ライツが物扱いされていることを感じ取った。それは絶対に許せない。
「ええ、ライツをどうすることもできない、とも」
「……自分でやったんだろ。何を言ってるんだ、あいつ」
「はい、すみません」
「なんで、ルーミが謝るのさ」
洋介が多少、苛立った返事をしたことでルーミは恐縮して体を小さくする。洋介からすれば、今日の事件を思い出すことで心の余裕がなくなっているからなのだが、ルーミには自分が怒られているように感じたのだ。
「ふ~ん」
カーラは気のない返事をしている。多少、真剣味を感じない態度ではあるが彼女は彼女なりに一生懸命考えている。努力が表には出てこないのが、カーラが人間だった頃から損していた部分なのだ。
(洋介がいるから、星の姫がここにいる、か。そんな術者の思い通りにならない呪いがあるか?)
カーラは己の記憶から呪いに関することを引っ張り出している。
かつて、闇の領域で騒動を起こした際に、他の闇妖精が持つ知識を引っ張り出した。もちろん、今は繋がっていないが、呪いに関してはカーラの得意分野だ。生かせるかもしれない、と他者の知識を自分の知識として、その分野のものだけは蓄えておいた。
(あるには、ある。しかし、まだ情報が足りないな)
カーラはある程度候補を絞り込んでから、洋介達に確認する。
「貴様等、星の姫に変わったところはなかったか。中身はいい、見た目の話だ」
「見た目、か」
洋介が真っ先に思い出すのは、ライツの冷たい表情なのだが、それは中身の問題だろう。そう考えて、どうしてもライツのことを思いやってしまう心を抑えつけて、できる限り客観的な視点で夜天に浮かぶライツの姿を思い返す。
「全体的に、色が濃くなっていたような」
ライツの虹色の
「ふ~ん。それは、たぶん、闇の力が濃くなっていたせいだな」
カーラはやはり、真剣味のない返事を洋介にする。それに、ルーミは顔をしかめるが、洋介は気にしていない。
(闇妖精の術なんだろうが。それだけでは、はっきりしない)
もし、ライツの
カーラはこれ以上、想像できなかった。ライツの欲望、というものを知らなかったから。
きっと、ライツの欲望を知っていたら『誰の目も気にせずアイスクリーム食べ放題!』なライツを想像しただろう。
「他にないか。その……装飾品とか」
ライツほどの力を持つものを拘束できるとしたら、一回の術では難しい。
結界によって上昇した力を全て相手を縛る呪いへと注ぎ込んだ『
ライツは比較的、呪いの類いには弱いだろう。それは分かる。しかし、彼女を支配し続けるには常に新鮮な力を送り続けている必要がある。それこそ、ライツのすぐ側から。
「装飾品?」
それには、ルーミが反応した。彼女は、洋介とは見る場所が違っている。だから、気づけた。
「ライツの首に鎖が巻かれてましたが……なるほど、それですか」
「鎖って。ライツがいつもしている、リングのついたやつか」
しかし、それはライツが子どもの姿を保つためにしているものだと洋介は聞いている。
リングと鎖は、ライツの母が、未来を思ってライツに贈ったもの。その未来が、どうやらライツのものというよりも星妖精全体のことを指しているように感じたので、その話を聞いた洋介は釈然としない気持ちを抱いたものだ。
つまり、鎖はライツが子どもの姿の時にしか存在しない。大人の姿になったら、元に戻るためにリングとして彼女の指で出番を待っているはずなのだ。
「あの子が、あの姿で。しかも、鎖が首に食い込んでいた。おかしい、と思わなきゃいけなかったんですね。もー、何だって、いつもボクはこうなんでしょう」
ルーミは自身の至らなさを嘆いた。どうも、焦ると視野が狭くなってしまう。あの時、気づいていたからといって何かできるわけではないのだが、それでも後悔は尽きない。
「おまえ、よく首なんか見れたな」
洋介は素直に感嘆する。あれだけ、はっきりと昨夜のライツは思い出せるのに首に何か巻かれていたことなんて洋介には分からない。
それもそのはず。ライツの体に対して、鎖はとても細い物だった。なぜ、それにルーミが気づけたかと言えば。
「ボク達も、首は急所ですからね。狙うつもりはなくとも見てしまうんですよ」
つまりは、ライツと退治している真っ最中、隙あらば首が狙えるようにとルーミの無意識は見ていたということだ。
(悪いけど、それは恐いな)
洋介は背筋に冷たいものを感じて、自分の首を隠した。
「洋介殿、急にどうされたんです?」
そんな洋介の恐怖には気づかず、ルーミは小さく首を傾げているのだった。
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