第19話 ここに立つ理由は
「闇妖精!」
カーラの姿を初めて目視したレイラの目が
レイラの邪魔をしに来る者、洋介に手を貸そうとする者、そういった存在は何名か想定していた。とはいえ、数少ない情報からの推測であるため具体的な名前は挙げていなかった。それでも、あらゆる可能性を考えてきたつもりだ。冷静に対処できるように。
しかし、こうして初めて目の当たりにすると驚きの方が増してしまう。なにせ、相手は闇妖精だ。心のどこかで、闇妖精は自分の味方だと思い込んでいたらしい。
「ほう」
そんな動揺を、カーラに見透かされていた。カーラは突き刺すような、挑むような視線をレイラに向ける。
「どうした。もしかして、闇妖精全てを味方にしたつもりでいたのか」
その物言いからレイラが察するに、カーラはどうやらレイラの背景をある程度は知っているらしい。レイラのクナイを握る力が強くなる。
「闇の重鎮と手を組んだ、としてもな。それで、闇妖精を全て掌握したつもりでいるのなら勘違いが
「手を組んだ……誰と?」
洋介が救出されたことに安堵し、それを成し遂げた者の正体を
そうではなくて、カーラが言うには闇妖精の誰かの手引きがあったとのこと。未だにレイラが加わっていることを嘘だと思いたい気持ちはあるが、ルーミは納得できる。
(リッツ様達は大丈夫でしょうか)
そして、『反乱』のことを考え出すと今更、星妖精の領域の現状が気になってきた。今、どんな状況なのか心配である。
「まぁ、私らも『誰か』までは特定できていないんだが」
カーラは残念そうに首をすくめる。反乱の規模から考えて、それを実行できる者はよっぽどの実力者なのだろう。しかし、後先を考えなければ、それを実行できる者は幾らでもいる。ざっと数を絞ってみてみても、妖精王も含めて闇の領域では五名ほどにしかならない。
「貴様は知っているのだろう。さて、教えてもらおうか」
レイラはカーラの問いには答えない。表情は、カーラを初めて見た時と変わっていない。
「ああ、そうか。貴様もしや、『同じ闇の徒として協力しよう』とか言われた口か」
黙ったままのレイラを見て、カーラはにやりと笑って話を続ける。
「根源を重視する。確かに必要な時もあるが、それはどちらかと言えば光側の論理だろう?」
生まれや血筋、そういったものを重視して秩序を作り出すのが光の神の得意技だ。闇とは相反する考え方。そう、闇はそういった縛られることを嫌うというのに。
「私らは、やりたいことをやるだけだ。闇妖精は、自分も同じ闇だから、などと言う理由では動かない。貴様も心のどこかでは思っていたのか、そいつの言っていたことは
そこまで言われても、レイラは黙ったままだ。これはもう確信に近いと、カーラは察する。だったら、カーラがやるべきことは決まっている。
さて、さらに続けようかとカーラが口を開こうとした時、久々にレイラが言葉を発した。
「じゃあ、あんたは何でこんなところにいるのさ」
レイラの口からは出てきたのは、カーラに対しての答えではなく彼女への疑問だ。
レイラの反応を待っていたカーラは目を細める。レイラの目から動揺が消えていた。ここまでの沈黙は、自分の心を整理するためだったらしい。
カーラはやりたいことをやる、と言っていた。そのやりたいことが、ここにあるというのなら言ってみろとレイラの目は伝えてくる。
(ふん、これ以上は無駄なやりとりか)
これ以上突っついても、カーラが望む情報はレイラの口から出てこないだろう。カーラが想定していたものよりも、レイラは手強い。しかし、相手がどうでようが、やはりカーラがやるべきことは決まっていた。
「決まっているだろう。言ったとおりだ。闇は闇らしく、私がやりたいことをしにきているだけさ」
「だ・か・ら、そのやりたいことって何なのさ」
レイラの多少苛立った返しに、カーラは「ふふ」と声を出して笑う。やはり、レイラがどれだけ取り繕うが、精神的に優位に立っているのはカーラの方だ。その事実を確認して、カーラは嬉しくなった。
「貴様は知っているのだろう。星の姫を縛った者が誰なのか。さぁ、それを教えてもらおうか。そして、星の姫を解放してもらおう」
カーラは胸を張り、腰に手を当てて尊大な態度で言い放つ。上から見下ろすレイラを睨み付けるカーラの目が輝いた。
「……む~」
しかし、すぐにカーラは小首を傾げて悩み出した。先程まで真っ直ぐにレイラを見ていたというのに、今は顎に右手を添えて誰もいないところを見つめている。
緊張感が一気に霧散する。その場にいる誰もが、カーラの態度を見て呆気にとられていた。
「なんか、しっくりこないな。そうじゃないんだ」
「そんな悠長な」
ここでようやく呼吸の戻った洋介がカーラにツッコミを入れる。こんな緊迫した場面で、彼女はとても自分本位な時間の使い方をしている。
そんなカーラを見て、洋介は不思議な印象を持つ。そして、こう思った。これが、本来のカーラが持つ空気なのだと。
母に再会するために己を律し続けていた時とも違う。絶望から生まれた制御しきれない怒りに翻弄されている時とも違う。洋介の知っている彼女は、常に焦っていた。だから、これだけマイペースなカーラを見ていると不思議な想いになってくるのだ。
「ああ、そうか」
何かしら思いついたようで、一人納得して頷いているカーラ。ここまで、周囲の者は置いて行かれたままである。
「失礼。言い直そう」
再び、レイラを見上げて彼女を指差し言い放った。
「さぁ、返してもらおうか。我が友を」
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