第8話【鈴香という少女】6
鈴香と男達の会話を聞きながら、健は自分が賭に勝ったことを悟った。
ポケットに入れたまま通話状態を維持して110番に繋がっている携帯電話を慌てて切ると、どっと全身から汗が噴き出すのが分かった。
(……バイト……遅刻だ……)
現実から逃避するように携帯電話の時刻を眺めていると、男達が遠ざかっていく気配がした。
そっと茂みから顔を出すとそこからは男達の姿は愚か彼女の姿すら無くなっている。襲われていただけのようにも思うが、彼女も警察沙汰はごめんということだろうか?
(それもそうか)
ほぅっと、ため息が出た。長いこと呼吸を忘れていたような感覚。が、次の瞬間、激痛とともに腕をとられて背後から地面に押し付けられた。
──しまったっ!
内心で悲鳴を上げる健はミシミシと肩が音を立てているような気がする程激しく関節を決められながら、声を出すことも出来ない。ゴリッと後頭部に無機質な感触が突きつけられた。
(アイツ等、逃げたんじゃなかったのか?!)
去来する動揺を耳元に降ってくる声が掻き消す。
「
耳朶に響く、甘美な声。
「み、美咲さ……」
肺から強引に声を絞り出そうとして、後頭部に突きつけられた感触に力が籠もったのが分かった。
「
声の響きが変わった。自分の知っている彼女の声から、
「抵抗すれば撃つ。逆らっても撃つ。私は警察が来る前に帰りたいの。OK?」
彼女の言葉に微かに首を動かして肯定の意思を伝えると、言われるままに立ち上がる。
「そのまま着いてきなさい」
●
ファンファンとけたたましくサイレンを鳴らしながら数台の警察車両が歩道を歩く健と鈴香の脇を通り過ぎて行った。車道から見れば高校生のカップルが仲睦まじく腕を組んで歩いているように見えたのだろう。その実、健の腕は鈴香にしっかりとホールドされその身を預けるように肩を寄せていた。ゴリッと脇腹に感じる無骨な感触がなければ、どれだけ嬉しい状況であることか。
歩きながら、鈴香は質問を続けた。
「それで、なんでただの【クラスメート】の乾君が私を助けに来たの? オリハルコンって、何? 貴方は何者なの?」
矢継ぎ早の質問。もっと正確に言えば、詰問。もしくは、尋問。
「だから、バイトに行く途中にたまたま通りががって……」
「馬鹿言わないで。頭のイカれた
銃を突き付けながら健に言い放つ鈴香の言葉はどれも正論である。
銃を持った相手に玩具で立ち向かうなど普通の精神状態の人間がする事ではない。それが仮に
格好をつけたかったのだろうか? 玩具のピストルを振り回して? そう考えただけで、健の顔が真っ赤に染まった。
ブルブルとポケットの中で幾度となく震える携帯電話。多分、店長だ。もう19時に近い。平日とはいえ食事時だ。きっとアルバイト先は忙しいだろう。怒られるだけで済めばいいが。あぁ、もしかしたらクビかもしれない。
自分が好意を寄せている相手から
さっきもそうだった。本当に死ぬかもしれない。そんな状況だったのに、酷く冷静だった。成程、彼女の言葉の通り
フルメタル・パニック!RS 新一郎 @shin-ichi-ro0415
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