第7話【鈴香という少女】5

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 健が偽物の銃エアガンで敵の一人を無力化したときには既に鈴香はリーダー格の男と一対一の撃ち合いへと持ち込んでいた。敵の間抜けな三下は右膝と左肩を撃ち抜かれ呻き声をあげながら転がっている。


(へぇ。やるんだ)


 玩具オモチャで一人を無力化した少年に内心驚嘆しつつ茂みブッシュから発砲。こちらの相手は流石に玄人プロだ。そう簡単にお互いを近づけさせない。敵もじれていた。

 次の行動プランを考えながら、移動を繰り返す。

 断続的な発砲。

 戦闘開始から約五分が経過している。


『ちっ……お前等、引き上げだ!』


 パトカーのサイレンが遠くに聞こえ、リーダー格の男が吠えた。時間を浪費した上に部下二人を無力化され、撤退を決めたらしい。


『ふざけんな! 餓鬼二人に良いようにヤられてこのまま引けるかよ?!』

『黙れ。コイツは命令だ。民警が騒ぎを嗅ぎつけてるんだぞ。万一にでも引っ張られてみろ。ミスタ・Agシルバーは俺達を簡単に切り捨てる。そうなりたく無きゃ黙諦めて指示に従え』

糞がぁシットッ!』


 鈴香の耳に届く怒気に満ちた声。

 大の男が揃いも揃って小娘一人攫えなかった。玄人プロにあってはいけない失態だろう。


 ──素人アマチュアね。


 怒りを露わにする男を冷静にそう評する。リーダー格の男以外は問題にならない。


『覚えてやがれよ! 次は絶対にブチ殺してやるっ!!』


 そう吠えながら三下が先に遠のき始める。その背中を確認してから、リーダー格の男が鈴香に言った。


『また来るぜ。俺達の商売は雌餓鬼に舐められたままじゃ終われねぇからな。必ずとっ捕まえて、俺をおちょくったことをそこのガキと一緒に後悔させてやる。必ずだ』

『フン。好きにすれば? あの男は私の仲間じゃないもの。自殺志願者が自ら死地に赴いたところで手向けてやる花は無いわ。それに、お前達みたいな三流以下じゃ私は殺せない。私が欲しいなら“お姫様”に夢中になってないで、自分で来なさいって貴方達のボスに伝えてくれる?』


 そんな男たちの遠吠えを鈴香は鼻で笑う。

 その間にも、サイレンの音が近づいてくる。これ以上の接触は奴ら自身の身を危険に晒すだけだ。

 気配が遠ざかり始めた。

 こちらも可及的速やかに撤収しなければならない。如何様にも言い逃れをする自信はあるが、鈴香には時間が惜しかった。


(もう嗅ぎつけられるなんて。連中も切羽詰まってる、ってことか)


 アレ、、の完成を急がなければならない。

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