第2話【恋に落ちたサバゲー少年】2
「あぁ~疲れたぁ……ハァハァ…」
「うぃ~、お疲れ~」
だらけた声を出しながら、健と啓汰はのそのそと自分の荷物の側にへたり込んだ。
サバゲーチーム【オリハルコン】。練習の締めは必ず走り込みである。本日の走破距離は十キロ。日によってまちまちだが、長いときには二十キロ以上の距離を、それも装備品を身につけたまま走ることもある。本物の自衛官さながらのハードな
健は一度だけ何故そこまで必要なのかと噛み付いた事があるが、トレーニングプランを考えた亮司と啓汰に『サバゲーはスポーツだよ。俺らはアスリートなの。それに生死がかかった極限状態で勝ち負けを左右するのは、結局の所、体力と気合いなんだよ』と丸め込まれた。
「いやいや、今日もよく走ったねぇ」
そう言いながら首からかけたタオルで額を拭くのは、一番の優男にしか見えない亮司。彼は【オリハルコン】の三人の中ではずば抜けて体力がある。
「亮司はタフだよなぁ」
ペットボトルに入ったスポーツドリンクを喉に流し込みながら、呆れたように啓汰がぼやく。
「まぁ、昔から随分鍛えてたからねぇ」
肩をすくめて応じる亮司。
どうやら格闘技をやっていたらしく、亮司の肉体に積載された筋肉はまるで程よく絞り込まれたアスリートそのものである。いわゆる、ソフト・マッチョ。何気に顔も良いから、こんなオタク趣味でも結構モテるらしかった。
「あー、その余裕ムカつくなぁ。ちょっとはバテやがれってんだ。なぁ、健?」
そんな啓汰のコメントに返事をする余裕もなく、健はぜーぜーと仰向けに倒れ込んでいた。
「おい、健。お前この後バイトだろ? そんなんで大丈夫なのかよ?」
言葉とは裏腹に大して気にしている様子も見せずに笑いながら啓汰が健の方へと向き直った。
「ハァハァ……今……何時……?」
顔にタオルをかけ、肩で息をしている健は仰向けのままで啓汰に訊き返す。
「今か? ちょっと待てよ」
健に訊き返された啓汰は自分の荷物をごそごそと漁り携帯電話を取り出して、時間とメールの有無を確認しなが応えを返す。
「十六時だな」
「ハァハァ……なら、平気……バイト十八時からだし……二時間……休めれば……ハァハァ……」
「なら、大丈夫か」
啓汰も話をしながら自分のタオルを取り出していた。なんだかんだ言いながら、啓汰も意外と体力はあるのだ。中学までは野球少年で、朝から晩まで野球漬けの生活を送った賜物。
「最初のうちは健、筋肉痛で練習の日はバイトどころじゃ無かったからなぁ。そう思えば成長したよな、うん」
「だよね。けーたに連れられて初めてたけちゃんに会った日はどうなることかと思ったけど。なんだかんだで『コンバット・ドラゴン』の大会でも準決勝まで行けたし、まだまだ頑張れば上は目指せるよね」
など二人で勝手に頷きあい納得している。
二人の言葉を否定は出来ない。一番体力が無いことなど、健自身が十分過ぎる程思い知っているからだ。
ようやく呼吸が落ち着き、上半身をなんとか起こしてペットボトルに口をつけた。
ふぅ、とようやく人心地着いて、談笑をしている二人に週末の合宿について訊いておくことにした。
「ところで、合宿の事なんだけど」
「おぉ、それな。会場はここだよ。俺達のホームだからな。負けられねーぞ」
「マジで? 亮司、大丈夫なの?」
「あぁ、問題ないよ。どーせまだ暫くは両親帰ってこないし」
亮司は簡単に応えた。しかし、健には流石に気が引ける。なにせ、ここは亮司の家なのだ。
豪邸。そう、豪邸だ。亮司は金持ちのボンボンなのである。金持ちの両親が建てた私邸のだだっ広い庭に設けられた
「でも合宿って皆で寝泊まりするんでしょ? 陣代高校のサバゲー同好会って、結構な大所帯じゃない?」
「おう、確か10人以上居るはずだな」
「大丈夫、大丈夫。部屋も余ってんだし、
「それってどーゆー……? あ、もしかして掃除が使用料代わりてこと?」
「そーゆーこと」
涼しげに言う亮司。
その返答で健が理解できたのは『金持ちの考えてることは良く分からない』という事実だけである。
「ま、父さんや母さんの仕事仲間もそーゆーの目当てに来ることあるし、絶対叱られたりしないから安心してよ」
健の表情を見て苦笑しながら告げる。どうも、健がそういう心配をしているのだと勘違いしたらしい。敢えて否定する事でもないので 、「ん、了解」とだけ返事をした。
その後も合宿時の訓練内容や必要事項をあれやこれや。しばらく話し込むうちに時計の針はその脚を随分進めてしまっていた。
「っと、おい健。時間!」
「おわっ! 悪い亮司、シャワー借りる!」
「たけちゃんのバイトファミレスだもんねー。そんなに汗臭くちゃ店長にどやされるでしょ? どうぞー」
そんなやり取りをして、健はサバゲーフィールドの片隅に備え付けられた更衣室兼シャワールームに駆け込むのだった。
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