海の脅威
馬もすっかり元気になり、順調にディーダに向かっていた。
「マスター、ユキさんもうすぐディーダに到着します」
長い長い馬車生活も終わりが近付いていた。
民家などが見かけられるようになったいた。
「そう言えば、この馬車はどこに置いておけば良いんだ?」
普通は借りたら返さなければいけない。
「マスターそこは心配ありません。あの店は世界の様々な所に店がありますので、ディーダにも同じ名前の馬車屋がありますよ」
なるほど、借りて行き先の店で返す。そのまま次の人に貸し出す。
いつでもどこでも馬車がある状態に出来るって事か。
この世界の人は頭がいいな。
長い馬車の旅も終わりである。
僕達はやっと馬車屋の前にたどり着いた。
「お疲れ様、お前のおかげで楽だったよ」
僕はそう言って、馬の頭を撫でてあげた。
言葉が分かるかのように、嬉しそうに目を閉じて頭を下げた。
「馬さんありがとうニャー」
ユキが馬の前に立つと、馬はユキと頬ずりしていた。
こいつ人間の言葉分かるんじゃないか?
「馬は頭が良いからもしかしたら、分かっているのかも知れないですよマスター」
お前はなぜ心を読めるんだよ!
「まあ、良いとして、とりあえずこの街を少し歩き回ってみようか」
二人に言ってみると、二人ともノリノリだった。
さすが港町だな。すぐ目の前には紅い海、無数の船、今まで魚を捌いていたであろう競り市場。
海が紅い事以外は、いつものような街の風景が広がっている。
「サリナ、海が染まってしまった原因はモンスターなんだよね?」
「そのようですね。今までもモンスターが出現する事はあったようですが、おそらく紅いオーラを纏ったおかげで、いつも以上に染めてしまったのでしょう」
そう言うとサリナは、近くの建物に飾られていた絵を指さす。
そこには、船の上で書いたであろう絵が飾られている。
その絵には、一部が紅く染まった海が描かれていた。
「普通ならこのぐらいで、ここを避ければ問題無かったのかな」
「そうでしょうね」
現在の海を見てみると、漁港から見えるのはどこまでも紅く染まった海であった。
「倒しに行くにしても、ユキたち水中で呼吸できないニャー」
「問題はそれだよね」
当然ながら、僕達は肺呼吸しかできない。
そんな僕達が海のモンスターを倒すなんて出来るのだろうか?
「あっ、私の魔法で海でも、陸と同じ動きができるようになりますよ」
魔法かよ!
「魔法ですよ」
だから、心を読むなって!
「これで、安心して海に潜れるニャー」
両手を上げて喜んだユキに、サリナが一言付け加える。
「でも、この魔法の効果時間は、およそ十分ですよ」
ここに来て、いきなりそんな制限があるのですか?
さすが異世界、俺達がスムーズに進み始めた瞬間に阻害しよって。
「私の魔力を使いますので、戦闘に参加する場合はもう少し短くなるかと」
「マジかよ、五分ぐらいで仕留めなければ、戦闘が厳しくなってくるのか」
「結局、どういう事だニャ?」
理解出来ていないユキのために、簡単に説明してやる。
「それは辛いニャ!」
やっと理解出来たようだ。
「まあ、とりあえず情報収集するか」
敵を知らない事には戦えないので、地元の人達に聞き込みをすることにした。
「いきなり、海が染まったんだよ。それで、漁に出てた仲間の船が沈められて、そいつはなんとか帰ってきたんだが、それっきり漁に出た人間は居ないな」
漁師の人数人に聞き込みをしたが、ほぼ全員が同じような事を教えてくれた。
突然であったこと、船が沈められたこと、ここは誰に聞いても同じであった。
「マスター、どうしますか?」
どうしようもない、それが正直な感想であった。
「うーん、せめて相手がどこにいるのか分かれば少しは対策できるのにな」
「漁師の方も、沖あたりで、どこかははっきりしないみたいですね」
「マスター、どうするニャ?」
ほんとにお手上げ状態である。
「とりあえず、誰かに船を借りて近くまで行ってみるか」
「でもマスター、もうすぐ日没ですよ」
海は太陽に照らされ、本来の紅い夕焼けの海になっていた。
あれ、なんで今は本来の紅になってるんだ?
夕焼けに照らされ、元の色に戻った海。
「なるほどな、少し分かった気がする」
「マスター、どうしたんだニャ?」
「いや、少し攻略法がわかった気がするんだよ」
「とりあえず、宿を探そうか。そこで、説明をするよ」
日没なので、とりあえず宿で一休みする事にした。
やっとの事で見つけた民宿。
「てか、泊まるところ少なすぎだろ!」
ここを見つけるまでに、どれだけさまよった事か。
「仕方ないですよマスター。この騒動が世界に知られてしまって、ここに来る人が減って、今は休業してる店が多いですから」
これが天使ネットの脅威か。まあ、危険と分かっている所に来る人間は少ないよな。
「それでマスター、何を思いついたんだニャ?」
ユキが急かすように聞いてくる。
「まず、なんで夕方に普通の色に戻ったかだ。俺の予想は、あのモンスターは夜は活動しない」
それは、漁師の人の話から推測できた事ある。
夜は海が元の色に戻っていると言っていたしな。
「なるほど、ではマスター、そこからどうするのですか?」
そう、ここからが重要だ。夜活動しない事が分かっているなら作戦は一つしかない。
「夜に奇襲をかけて、殲滅する」
なんともわかりやすく、効果的な作戦だ。
「じゃあ、いつ開始するんだニャ?」
「さすがに、今日は休もう。明日にでもやってみようか」
今日来て、今日やるのは、疲労から失敗するかもしれないから、明日にする事にした。
「じゃあ、今日はマスターの腕で寝るニャー」
ユキが僕の腕に抱きついてきた。
「ちょっ、ユキ、それはさすがに」
「ユキさん」
「ニャウ!?」
サリナが笑顔でユキに声をかけると、ユキの体が固まった。
「それは、やりすぎなのでは?」
ユキは固まった体から、なんとか言葉を発した。
「サリナも逆側で同じ事をやれば、まったく問題ないニャ」
「なるほど、ユキさん頭良いですね」
そう言って、サリナは逆の腕に抱きついてきた。
二人ともお願いだから、僕の事も考えてよ。
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