11 『桜咲く学校』

 今日は日曜日だ。では何日か?11日と12日の間を行ったり来たりしていたから11.5日?冗談ではない。来て7日目ということだけは分かっている。仕事をしていないと、日付も曜日も月さえ忘れる。必要がないのだ。

 ここはテレビもニュースしかないし。みなは毎日どうしているのだろう?毎日、図書館、酒場だけとはいかない。そもそも、街の建物も人影もほとんど見ない。霧の中を歩いて行くと、突然図書館が見え、酒場が見える。

第一、酒場に来る人たちは何処に帰って行くのだろう。ホテルは2つしかないと言っていたし。何処で眠るのだろう。何でそんなことを最初に考えないのだろう。やっぱり俺の頭はどうかしている。


 珈琲を飲んで慌ててママの店に来た。8時きっかり。ママはすでに来ていた。

「お早うございます」

「お早う。よく寝れたみたいね。では行きましょう」

 すぐ前の学校に出向いた。学校の前が酒場か、いや酒場の前に学校ができたのだ。そんなことを思いながら校門をくぐると、桜の木が3本、綺麗な花を咲かせていた。

 春、4月なのだ。海の町にも桜が咲く。田村は感動した。桜を見上げている田村を見て、ママが云った。

「綺麗だろう。4月の学校といえば桜だわ。夕べ作ったんだよ。5本にしたかたんだけど、皺が増えたらいけないから3本になっちゃった。花を切るのは好き。花びらを作るのは好き。コツがあってね。一度にいっぱい作れるの。これから花の季節ね。いっぱい咲かせるわよ。作るのは花だけにしてくれないかなぁー」

 この桜はママが咲かせたのだ。


「桜の美しさはママに似ている」いつにない田村。

ママは乙女のように紅く頬を染めて、「嫌だぁ~。田村さんは口説き文句が上手いだからぁ~」「褒めただけで、まだ、口説いてませんよ」という言葉は飲み込んだ。

校舎の玄関には『夢の学校』と可愛い看板?がかけられていた。

「わたしがつけたの」今日のママはお店のママとはまるで違う。

「いい名前ですね」

「ありがとう」

校舎の造りはあとでゆっくり話そう。入口近くの職員室らしきところに入った。

そこには、すでに机に座って、一人の女性が仕事をしていた。

「先生、ご紹介します。こちらが先日お話した田村ジュンさんです」

椅子から立ち上がった女性を見て田村はびっくりした。一昨日のマニッシュ・ショートカットの君ではないか。

「初めまして。深見ミエと申します」

「た、たむらです。田んぼの田、ムラの村。ジュンはカタカナです。よろしく」

何が、初めましてだ。女はこれだから・・・。

「紹介しましたわよ。新学期は7日でしたね。あと5日あります。それまでよく相談してね。こちらはこちらの準備を進めます。深見先生なんでも遠慮なくおっしゃってね。では、では」とママは出ていった。


「田村さんの席はここ」ショートカットの横に並んだ机だ。

「初めましてだなんて・・」

「じゃー、どう云います。ママの前で〈指きりしましたわねー〉って云います」

「そうじゃないけど、何で指きりしたのです?」

「酒場で会ったときすぐ田村さんだとわかりました。ママから田村正和さんそっくりと聞いていましから」と言って下を向いて、クスクスと笑った。そして

「又お会いしましょうの指きりよ。こうしてお会いできましたわね」

「光栄です。先生はあなたと、私の二人ですか?」

「そうみたいですね」

「校長先生は?」

「いります?」

「いえ、別に。指導要領とかはあるんですか?」

「いります?」

「いえ、別に。校則は?」

「いります?」

「いえ、別に」

「先生と生徒がいれば・・十分と思いません。それと・・」

「情熱!」

「当たりです。田村先生でよかった。これからは田村さんと呼びますね。先生同士が〈せんせい〉と呼ぶのは好きでないのです」

「僕は?」

「深見でも、ミエでも」

「深見さんと呼びましょう」


 そして、深見ミエは田村に校内を案内しながら、生徒は60人、高学年組と低学年組に別けて高学年組は田村が、低学年組は自分がと提案した。田村には異論はなかった。音楽は深見ミエが、美術は田村がと言われてほっとした。田村は、楽器は引けない、歌わせば漬け物がなんとかの口であった。


 校舎を説明しよう。平面図はまず、二重丸を考えてください。内円と外円の間は3等分に別れ、正面は下駄箱だのロッカーだののスペースと職員室。左右が2つの教室。内円は食事したり、くつろいたりするスペース。ピアノは深見ミエの教室に置かれてある。内円の天井は高く、明かりが内部にふんだんに取り入れられるようになっている。天井と柱と床は木で作られていたが、壁は貝殻が貼られているのが海の学校らしかった。ママの苦心作である。昼食は給食で、センターから運ばれてくる。この町の食事は基本的にセンターから供給される。


田村は深見ミエとなら楽しく学校運営がやって行けそうに思えた。

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