第39話霧を止める者の騎士 3
グウィネビア王国の
キョウはギリッと歯を噛み締めた。
まったく、どいつもこいつも自分の事ばかりで、いい加減腹がたつ。もっと、皆が考えれば、リオがここまで来る必要はないし、命の危険も無かった。
なのに、誰もリオを助けようとはせず、邪魔ばかりする。
「騎士よ、まずは
キョウは大振りの剣を、ガンと床に突き刺し、その上に両手を乗せた。
誰であろうと、この先を行かせるわけにはいかない。
「俺は法国オスティマ本国に、たてついてなどいない!」
デルマンは大袈裟に笑う。
この兵士の数を見て、やっと相手が自分の
「今さら
キョウは
デルマンが右手を上げ、「かかれ!」と合図する前に、キョウは右手を差し出し、デルマンに問い掛けた。
「その前に教えてくれ。俺達は何をした? 俺達は霧を止めるためにここにいる。それは、法国の考えに
何とか戦闘は
キョウに少しだけ希望が
兵士達は内容を聞かされて居なかったのだ。
兵隊とは本来その様なところだ。情報は上部のみで、
敵は若い騎士、それも
たった一人に対して、最初は五百名もの兵。
内容を知った兵士は、あきれを通り
「そうだ! 法国の
兵士達はデルマンの言葉に、お互いの顔を見合い、もう一度キョウを見た。
キョウの表情は変わらない。
「そうか。………今、俺の姫が霧を止めるために、霧の多い場所で命を掛けて、必死に
この台詞に、兵士達には
キョウは覚悟を決めると、ゆっくりと片刃の大剣を担いでいく。
「国民が命の危険を感じず、暮らせる時代が後をわずかで来る! それでも、霧を止めることを、気に入らない
いつもの構えを取った、キョウの殺気が一気に上がる。
例え、敵わなくても、キョウは最後まで
傷だらけでもいい、何としてでも生き
兵士達は、もう片方の、信じられない者を見るように、キョウを眺めた。
こちらは二百名の兵士だ、彼は数秒と持たないだろう。そんな事は目の前の若い騎士にだって解っているはず。なのに、彼は
敵ながらに、何が彼をそこまでさせているのか理解できないが、デルマンよりは正しく思えた。
キョウとしても、二百名の兵隊を相手すれば、先はないと解っている。だが、ここは
キョウの言葉に、兵士達の
だけど
リオともう一度会いたい。
「お主は、何をぬかしておる! お主は法国の、全世界の敵なのだぞ。者共、かかれ!」
デルマンの合図に、数人が前に出ようとして、隣の者が動かないのを見て、足を止める。
兵士達も誰もが
国民が安心して暮らせる時代と、
法国の兵士と言えど、霧を望んでいるわけではない。霧により、大切な者を失った者も多いし、そう言った者を見てきた。
霧を止めるとは、
あれを閉じれば霧が現れない。
自然とそう思う。
それを予感させるように、穴のふちに、ユキナの取りこぼした霧がいくつも現れる。
キョウは横目でそれを見ながら、城壁を越えるように、三次元では解らない飛びかたをしたのだと理解した。
ハンモックなど安全ではなかった、霧には高さなど関係なかったのだ。しかし、今さら霧になど恐怖を感じない。意識をしっかり持とうとしなくても、十分にしっかりしている。
ただ、目の前の兵士達はどうだか解らない。
初めてかもしれない。助けられた気がする。
今まで、憎み苦しんだ霧にたいして、キョウは感謝した。
これで時間が
霧は一つ、また一つと現れ、キョウの横をすり抜けていく。
それだけのことで、デルマンは
一つの霧が気まぐれを起こしたのか、キョウに近付いてくるが、キョウは瞳だけを向け、
「ここでは意識をしっかり持てよ」
キョウは敵に対してアドバイスを送る。
「か、かまわん! 霧など捨てておいて、早くあやつの首を………」
デルマンが
「聞け! 今、俺の姫が、本当にこの霧を止めるために、あの穴を閉めようとしている! 見ろ!」
キョウは近場の霧に斬りかかる。当たり前だが、剣は霧をすり抜け、霧は何事も無かったかのように、兵士達に向かっていく。
誰もが知っていることを目の前でして、兵士達はキョウが何をしたいのか解らない。
「霧を倒すのは、
兵士達もここに来るまで見てきて、知っているのだろう。やっとキョウの言いたいことが解った。
「世界はいずれ、そうなるかも知れないぞ! それでも、俺達を止めるのか? 本当に安全な未来はいらないのか?」
キョウの問い掛けに、誰もが目線を外した。
兵士達の耳にはデリマンの言葉より、
どちらに命を預けるのか?
数人は剣を下した。
それでもやはり、キョウの思った通り、法国に命を預けているものもが中にはいた。
その者達は、
キョウは何かに気付いた様に、
来た!
心の中で一言だけ
この者達に
五人の暗殺者達だ。部隊の名をサツと言う。
デルマンの話は、あまりにも馬鹿げた内容なので、
たかだか子供二人に対して、暗殺部隊全員が動く訳がない。しかし、彼等は帰ってこなかった。
子供二人に、高い成功率を
それは有ってはならないこと。
サツ達は、王族に絶対の信頼を
帰ってこなかった二人も、けして能力が劣っていたものではない。
セリオンにより、暗殺者の二名が倒された事を知らないサツ達は、自分達の
今までの信頼を無くすわけにはいかない。こんな状況で悪いが、それでも目の前の若い騎士を殺さなくては、自分達に未来はない。
息を整え、標的に狙いを
その時だった。横殴りの斬激が彼等を襲った。
若い騎士にばかり集中していたので、全く対処できなかった。
目に写るのは流れる風景で、自分が飛んでいると解るのにしばらくかかった。
キョウはその光景を、じっと見ていた。
キョウが感じ取ったのは、暗殺者達ではない。それ以上に
記憶でもその
二百名の兵隊の後ろでは、突然の竜巻が起こったように、人が宙を舞っていく。
右へ、左へ。
キョウは、目の前の光景が信じられなかった。
どこまで腕を上げれば、そこまでの者になれるのか
完全武装の、鎧をきた人間が
それも、一度に五人単位で。
魔法と言った方が、まだ理解できるだろう。しかし、それは魔法によって行われているのでない。
一本の剣により行われている。
大振りのバスターソードで。
あまりの出来事に、兵隊達は慌てふためき、左右に別れ道ができていく。デルマンは慌て、さらに兵隊達の奥に身を隠した。
兵隊達は、もうキョウを見ていなかった。
後ろを向き、その男を見ている。しかし、
その者は、数人の騎士を引き連れて、その中をゆっくり歩いてくる。
正式な騎士の鎧に、大振りのバスターソードを右手に
アイストラ王国で出会った男。
出会ってはいけない男。
その者がキョウの前に、再び姿を現せたのだ。
キョウは一言だけ
「――――セリオン!」
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