第19話時代の狭間に吹く、新しい風 4
「と、まぁ、こんな事が有りましてな」
バーカードは話終えると、話ながら切っておいた、春キャベツのソテーを口に入れた。
テーブルには豪華な食器類の上に、その豪華さに負けない料理が並ぶ。三人で食事を取る、それほど大きく無い部屋には、十人もの給仕女達が、飲み物を注いだり料理を変えたりと忙しく働いていた。
そもそも本日は、セントエレフィス領の独立の話をするために集まったが、未だにその話は一切出てこない。
「成る程、中々面白い話ではあるが、
バーカードよりも少し若い、六十代半ばのライディア法王は、
それは法王が本気で考える時に見せる
「さぁてな、どんふり
「………大いに。他国より早めればより大きく」
「そこまでか?」
この中で一番若いローランド皇太子は、自分の考えとは違った答えに
まぁ、この二人の中に入れば、ある
「ローランド皇太子よ、遣り方にもよりますし、初期投資は
バーカードはそれでも構わないと言ったようにニヤつく。
「いったいどうする?」
ローランドは
「この法国を
バーカードは嬉しそうに、手まで使い話をする。そんな姿は
法王はそんなバーカードに対し、いたずらっ子のように鼻で笑った。
「まるで惚れた女の様に話するよな」
「法王、おたわむれを」
焦るバーカードは、一度は否定するが「いや」と笑い頷いた。
「確かに、孫よりも幼い二人の姫に、年甲斐もなく熱くなりました。この案はそこまで楽しい」
バーカードは年老いても、若い者に負けない活力がある。しかし、何度も「楽しい」と口にする今は、まるで若い頃に戻っているようですらある。
その様子に給仕女達も驚いている。
最近集まれば、難しい議題ばかりで誰もが目を
まるで大臣に成ることを
「では、戦争をしなくとも、他国の利益が入って来ると申すか?」
ローランドも、最近は王としての自覚も経験も出来てきて、一早く話の裏を理解する。
法王は嬉しそうに目を細めた。
王位を受け渡すのは、時間の問題かも知れない。後は、自分にとってのバーカードの様に、右腕が出来れば良いが、そこだけが心配だ。
「はい、しかも始めのうちは独占です。どうでしょう?」
バーカードは前のめりになる。
「そうだな、後はその風船が本当に実用向きかか」
法王はそこが一番気がかりだ。ローランドも両腕を組み頷く。
「その事なんですが、原案はレナ姫に任してみてはどうかと」
「レナにか。少し気か乗らんがな………」
バーカードの案に法王は渋る。
確かに頭が良く、法王自体も可愛がってはいるものの、年齢的に早いと思うし、何より他の皇太子達や大臣達が納得しないだろう。レナ姫に皇太子番号を付ける時ですら、かなり荒れた。その時は無理矢理こぎつけたが、これ程大きくなるなら
大体、年老いた法王よりも若いくせに、みんな頭が固すぎるのだ。しかし、ローランドは否定的では無かった。
「レナか。面白いかも知れませぬな」
「そうでしょう、レナ姫は話を聞いただけで、中に入れるガスを当てとりました。もっとも良い形状も直ぐに考え付くと思います」
二人共、少しレナ姫を過大評価をしているとは思うが、確かに今から原案を練る段階なら、失敗しても惜しくはない。
法王は渋々に了解した。
「あぁ、ただし内密に進める事を約束せよ」
「それはもう」
二人して頷く。
リオの発言によってレナ姫は、本人が知らぬ間に重要ポストに成ってしまった。
「それと、後はレナ姫のお願いですかね」
意地悪くバーカードは笑う。流石とも言うべきか、話の流れを支配するのは上手い。
「解っておる。我々に対し、外交の様な妙な駆け引きを使うな。レナを使わなくとも良い案には変わり無い」
法王は
苦笑いのバーカードは再度口を開く。
「後、もう一つ。エドワードを私の下に付けることをお許し願いたい」
「エドワードをか?」
法王やローランドは驚く。
色々な大臣と
バーカードはそんな二人に、真顔になり
「あ奴はもう一度、教育し直さなくては成りません」
成る程と二人は納得する。
バーカードの言葉は未だ続いた。
「それに、私ももう年です。いつ何が有ってもおかしくない。多分、人を育てるのは最後に成りましょうぞ」
バーカードの台詞に、法王は寂しそうに目を細めた。
その言葉は聞きたくは無かった。しかし、お互い年老いた。いずれの覚悟は必要だ。
ローランドは問いかける。それこそ先程の驚きの場所と同じだからだ。
「何故、エドワードだ? もっと他におるだろ」
バーカードは皮肉のように笑う。
自分を笑ったのだ。
「若いからですよ。これから、ローランド皇太子は法国を
バーカードは遠くを見つめるように目を細めた。
リオの案を聞いたとき、それが突然胸に沸き上がってきた。自分では、そんな一か八かのギャンブルの様な案は出てこなかっただろう。しかし、未来を想像するとリオの風船は当たり前のように
法王とローランドの二人は黙り込んだ。バーカードが言わんとしている事は解る。
そんな二人にバーカードは話し掛ける。その口調は、何時ものハキハキとしたものに戻っていた。
「しかし、だからと言って、まだまだ若い者に負けませんぞ。もっと口うるさく行きます!」
その台詞に二人は逆に困った。
「あまり張り切るなよ。若い者が倒れてはかなわん」
法王の心配した言葉で皆が笑う。
「よし、それならローランド、バーカードとエドワードと共に人選を集め、直ぐに学校と言うものの原案をまとめろ」
「はっ!」
それだけ伝えると、法王は黙り込んだ。
バーカードとローランドは、今度は学校についての議論を進める。その姿に、法王は時代の変わる
大戦が終わる時、霧が発生した時。その二つの時も国は揺れたし、議題は多くあがった。時代に着いていく大臣達の、一番大変な時でもあっただろう。バーカードもそうなのだろう。だからこそ、若い者に自分の知識を譲ろうとする。
「そろそろ霧が無くなった後のことを考えねば成らぬな」
法王の小さな呟きに、給仕女達が驚きの表情を浮かべていた。
デルマンは怒りに任せて早足で歩いていく。エドワードに何とか彼に追い付いた。
「デルマン皇太子」
エドワードの問い掛けにデルマンは振り向きもせず足を止めた。
「少し落ち着かれて………」
エドワードもバーカードに怒られた後で、内心は煮えたぎっていたがデルマン程ではない。
逆に、デルマンが怒りに打ち震えるのを見て、自分が落ち着か無くてはならないと自身を
デルマンは怒りに肩を震わしながら、
「………サツとゴードンを呼べ」
あまりにも小声で聞こえなかったエドワードは、「えっ?」と戸惑う。そんなエドワードに対して、デルマンはもう一度言った。
「ガキが舐めよって! サツとゴードンを呼ぶんのだ! 今すぐ俺の部屋に来るよう伝えよ!」
デルマンはそれだけを叫ぶと、一度もエドワードを見ずに去っていく。エドワードは驚きの顔のまま、デルマンの後ろ姿を見送った。
ゴードンは未だしも、サツは不味い。
サツとは、法国オスティマの中でも、確実性の高い暗殺者だ。法国オスティマの中で、最も
リオが
正気か?
エドワードはデルマンの背中に不安を感じる。今まで大臣として、上にあがるためにデルマンに
エドワードは身を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます