第13話所属国の無い騎士 3

 本などをまとめ、三階の部屋にやってくる。

 キョウと護衛兵の一人は部屋の前で足を止めた。

 キョウの愛刀は、階段を封鎖している兵士が預かる事となった。

 旅に出て、寝るとき以外は、常に肌身離さず持っていた物が無いと心細いが、リオの為だ仕方がない。それに、レナ姫と探した方がリオの探したい内容が見付かる確率は高い。

 それにしても、腰にいつもの重さが無く、妙に落ち着かない。

 キョウはいつの間にか、しきりに目だけを動かし、周りを見渡していた。無意識に無いはずの愛刀を探している。

 騎士の祝福の剣の話は、キョウにとっても嘘ではない。キョウも大切な絆を奪われたようで落ち着かなかったのだ。

 部屋に入り扉を閉めると、レナ姫はリオに駆け寄る。

「リオ、お主はやっぱり何処かの姫じゃったか!」

「えっー、違うよ」

「白を切るな。さきほどキョウが申したではないか!」

「あれは違うの。でもキョウが私の騎士は本当よ。キョウはどう思っているか知らないけど、私はキョウの事を自分の騎士だと思ってる」

「解るように話してみよ」

 ふてくされるレナ姫にリオは頷くと、まずは断りから入れていった。

「姫、ちょっとややこしく成るから覚悟してね。それからこれは誰にも言わないで欲しい内容なの」

「それは私が決める。怪しい者なら護衛兵に付き渡す!」

 リオは目を閉じて、思い返しながら、今までの話をしていった。

 リオとキョウには、イップ王女とセリオンの記憶が有ること。一人で旅を始めたが、ティーライ王国でキョウに出会ったこと。話をしていて思ったが、まだキョウと出会って一週間ほどしか経っていない。

 リオの話を、レナ姫は驚きの表情こそ有ったが、全く口をはさまず聞いた。しばらくして話が終わると、レナ姫は長い間考えている様に椅子から身動きを取れなかった。

 辺りは静まりが支配する。

 やっと口を開いたレナ姫の最初の言葉は、驚きではなく問い掛けだった。

「何故じゃ。リオは何故、私にこの話をした?」

「まだ、ワンピースが足りないの。それの切っ掛けが欲しくて、姫にも考えを聞いて欲しくて、話したの」

 レナ姫は違うと首を振った。それから真剣にリオの目を見つめる。

「お主が考えている以上に、霧をうらんでいる者は多いぞ。そんな話をすれば、信じた者に命を狙われる。私の近い者が殺されておったら、迷わず護衛兵に突き出していたぞ」

「解ってる。姫だから話したの」

 リオは責められたにもかかわらず笑った。

 レナ姫はその笑顔に真っ赤になったが、照れ隠しのように、わざとあきれた表情を作った。

「まったくお主は、抜けておるのか、度胸が有るのか解らぬ。解った、良いぞ、リオが解る所まで話してみよ」

 リオは先ず、王国ファスマの最下層に有った建造物を、紙に省略しょうりゃくして書いた。

「話が終わったら、この紙は全て燃やしてね。これは王国ファスマに有った建造物」

「音叉の様な形態けいたいじゃな?」

「そう、多分重力を操るもの。重力は場であり波だと思うから、こう言う形態けいたい

「なるほど、それで空間をねじ曲げたか。おろかなことじゃ。じゃが、エネルギーはどうした? その横に有るのがそうか?」

「違う、内部を見てみないと解らないけど、これは制御盤だと思う。記憶には無いから確信は持てないけど、エネルギーを作るか、溜めるものだと小さすぎる」

「なら、地熱エネルギーはどうじゃ?」

「地下にはこれ以上の施設は無かったから、それは無いと思う。それに、これが地熱からのエネルギーを変換する装置なら小さすぎる。あの場所にエネルギーは無かった」

「それは、あり得ぬ! 計算してみないと解らぬが、かなりのエネルギーがいったはずじゃ」

「私も気に成って色々考えて、そこで思い付いたの」

「何じゃ? エネルギー無しで、装置を動かせる理由は?」

「この辺りからは私の予測で話を続ける。正確に調査すれば、間違っている所も有るから、おかしい点は指摘してきして」

 レナ姫は頷いた。

「逆から開いた」

 ガタッと音がして、レナ姫は椅子から立ち上がった。

 真っ青に成りながら震えてリオ見る。

「開けたのは向こうの方、霧が開けたと言うのか!」

 リオは首を振る。

「解らない。でも、イップ王女の記憶もそこは曖昧あいまいだけど、儀式の途中に開いた様な気がする。そう考えるのが一番合理的よ」

「確かに、エネルギーが無いならそれしか考え付かぬ。しかし、それならその建造物は完璧では無かったのか? 止めることは出来ぬのか?」

 レナ姫は肩を震わせながら現状と戦った。

 開いた物があるなら、それを使って閉められる。しかしそれが機能していないなら、こちらから閉めるのは無理だ。

「姫、私はさっき向こうから開いたと言ったでしょ。今は………」

「繋がっている、向こうから閉めるのか?」

 リオは頷く。

 レナ姫はしばらく考え込んだ。何か一つ引っ掛かる。

 ようは、システムは重力。エネルギーを用意すれば、向こうから閉めれる。それに向こうにエネルギーが有るなら、エネルギーを用意する必要もない。現在も開いているなら、持続するため何らかのエネルギーは有ると考えられるからである。残りの足りないのは、動かすための操作。

「リオ、あの二万七千の言葉は………」

 リオは満足そうに微笑みながら頷いた。

 やはりレナ姫は頭が良い。

「そうとしか考えれない」

「それなら、もう一つ謎が生まれるぞ」

「私の探しているワンピースはそれなの」

 レナ姫は何度も首を横に振った。

「あり得ん! そんな事は歴史上存在せぬ!」

「私もそう思い何度も考えた。でも、他を考えても抜け穴が出来てしまう。今の考えが一番当てはまる」

 レナ姫はしばらく口を閉ざして再び考えた。

 リオは知らぬだけで、エネルギーは存在したとする。魔法使いを何人か集めて稲妻の魔法を唱えたのじゃ。それならエネルギーの問題は解決するじゃろう。しかし、稲妻の魔法をそのまま動力のエネルギーに使えないか。エネルギーを変換するものを利用しないと破壊するだけじゃな。この辺りはリオでも気づいておるじゃろう。

 ならば、向こうから開いたとして、………駄目じゃ。向こうの状態じょうたいも解らぬまま答えは出ぬ。しかし、それなら二万七千の言葉の意味はリオが言った通りになるじゃろ。

 あり得ぬ。

 何度も何度も思い描く。そしてそれを、何度も何度も否定して行く。

 答えは出せない。

 リオの理論が一番近いと思うが、それは全ての歴史が否定している。

 これまでの世界の歴史で、この世界以外の場所からの干渉かんしょうなんて存在しない。

 なのに、リオは二万七千の言葉が、向こう側の言葉と言っているのである。

「リオ、お主の理論そこだけを変える事は出来ぬか?」

「もう一つ有るけど現実的で無いよ」

「今の理論でも、現実的でないぞ」

 リオは一つ溜め息を吐いた。自分で違うと思うことを口にするのは恥ずかしい。

「姫は魔法使える?」

 レナ姫は、何を言われるのか瞬時に理解した。

「当たり前じゃ。私はレナ・オティアニアじゃぞ」

 何時ものように、レナ姫の言葉には覇気はきがない。言われる台詞が解っていたからだ。

「二万七千の言葉は魔法だった」

 それはレナ姫も考えて否定した一つだ。

「ねっ、違うでしょ。魔法なら意識が大切で、好きな名前を付けられる。それにもしも魔法で出来るなら あんな巨大な建造物や、システムは必要としない」

 リオの回答と、レナ姫の考えは一致していた。

「ならば、二万七千の言葉は、リオが考えてるほど重要では無かったらどうじゃ。本来、必要無かった」

「それも有り得るよ。でも、何故かイップ王女は開くと思っていた。それに考えは解らないけど、王族達や、使おうと建設したお祖父ちゃんは何故、その言葉を使ったのか? それと、あの形状は正しいと思う。でも、誰が考えた?」

「お主の理論なら、ぴったり当てはまるな」

 レナ姫は重い溜め息を吐いた。

 リオはこう言っているが、実は閉めるに当たって、リオの言うワンピース以外にも、もう一つの問題が有る。そのもう一つはどうも隠そうとして、話題にさえ触れていないが。

 理由は解るし、問い掛けても単純に答えるだろう。しかし、聞くのはもう少し後にして話を進めていく。

「ここまで話したという事はじゃ、要するに、この私、第七姫のレナ・オティアニアに、リオの探し物を手伝えと言いたいのじゃな」

 リオは素直に頷いた。

 レナ姫は、他人より科学を理解しているつもりだったし、最近では下手な学者より理解しているのを自覚している。しかし、リオはそれよりも頭一つ飛び出している。

 イップ王女の記憶が有ったところで、レナ姫一人では、ここまでの理論は出てこなかっただろう。

「まったく、お主は、イップ王女の記憶が有るから、ここまで度胸があるのか、お主自体が度胸が有るのか、お主の傍若無人ぼうじゃくぶじんは計り知れぬな」

 レナ姫の態とらしく呆れる態度に、リオは真っ赤に成って反論する。

「何度も言わせないで、姫だから話したの。私だって考えてるよ」

 その言葉に今度はレナ姫が真っ赤になる。真っ直ぐで気持ちの良い思い。

 今まで誰にも言われた事がない。そして、いつか誰かに言って欲しかった言葉。レナ姫の欲しかったものだ。

「でっ、では、それは、とっ、友達としてか?」

 目線を外し、何とも歯切れの悪い言い方でレナ姫は聞いた。

 鼓動こどうが早くなり、変な汗が出る。

 私は何を言っているのかと後悔した時、リオは明るく驚きの声を上げた。

「姫、友達に成ってくれるの?」

「おっ、お主がどうしてもと言うなら、考えてやらなくも無いが………」

「姫、どうしても。友達に成ろうよ」

「あっ、あぁ。まっ、なってやろうかの」

 リオよりも嬉しそうに、レナ姫は目線を外したまま頷いた。それから、真面目な顔でリオを見る。

「とっ、友達になるならもう一つじゃ。この質問に答えてから探し物は手伝う。………隠すなよ」

 レナ姫の、その言葉にリオはきびしい顔になる。

 二人はお互いに、きびしい顔のまま見つめ合った。

 しかし、どうしても言葉に出すのが辛いのか、レナ姫は結局けっきょく率直そっちょくなその言葉をけた。変わりに遠回しに聞く。

「キョウは知っておるのか? そして、キョウも一緒に行くのか?」

 リオはゆっくりと首を振った。

「キョウは知らないし、行かない。――――私だけ」

「今、とっ、友達の私が言っても止めぬか?」

 リオは頷く。

 幾度いくどと無く覚悟を決めてきた。

 レナ姫は口を開きかけて、そのまま黙り込んだ。

 ――――『後悔は?』愚問ぐもんだな。

「姫、お願い。キョウにはせててね」

「お主は私に頼み事ばっかりじゃ。なのに私の頼みは聞かん。それは本当に友達か」

 半場はんば呆れる様に、レナ姫は溜め息を吐いた。

 解っている。この世界とそれ・・を天秤かけたら、それ・・は対等にはならない。

「友達だよ。姫は心配して泣いてくれた。――――私の親友」

 レナ姫は慌てて、目元に指をやる。

 自分では気付かずうちに、涙が溜まっていた。彼女は何度も両手で涙を拭う。

「違う、これは………眠く成って、そうじゃ、お主の話が長いし、説明が解りにくくて、欠伸あくびをしたのじゃ!」

「えっー、ひどいよ。姫なら単純な説明をしなくても、理解できるはずだし」

 リオは解りながらも、態と文句を言う。それから真っ直ぐレナ姫を見て付け加えた。

「大丈夫。私にも考えが有る。まぁ、私の理論があっている前提の話しだけどね」

 リオがそう言っているのだ。レナ姫に出来るのは、それを確かなものにする事。

「まったく、お主は凄いな。私はその言葉を信じて手伝うぞ」

 レナ姫はどこか吹っ切れたように、勢い良く頷くと、シャツの袖口を腕捲りした。

 今はリオの言葉を信じよう。その為にはリオの理論を裏付ける何かが必要だ。

 ――――言わば痕跡こんせき

 もしくは、リオの理論を否定するものでも良い。リオは、さきほどレナ姫が丹念たんねんに読んでいた本を調べる。

 内容は歴史でなく経済関連だった。

 王国ファスマの経済と技術が示されている。元々、優れた技術が有った国ではあるが、それは十八年前の話だ。今から見てはやはり遅れている。時計や、電池のパイオニアでも有ったが、今では全世界に当たり前のようにある。

 科学についても、現代の基礎きそベースは王国ファスマの学会が作ったものから変わりは無いが、それ以外は今の方がもっと進んでいる。

 欲しい内容が無いのか、リオは本を閉じ机の上でうなだれた。

「姫、駄目だー。載ってないよ。後は目ぼしい本は無いかな?」

「難しいな………」

 レナ姫は考える。

 図書館の本を全て読んだわけでは無いが、リオが言っていることに、引っ掛かった記事は思い当たらない。

「城に有る書物にも無かった?」

「城にある書物は、政治的な内容ばかりじゃ。法国オスティマの歴史も有ったのじゃが、ここと内容はたいして変わらん。しかし、私も図書館の、王国ファスマの歴史関連はほぼあさったが、それに関連する内容は無かったぞ」

「ここの三階も政治的な内容ばかりだしね」

 リオは周りを見渡した。

「ともかく、取引のあった国の歴史も調べなきゃならんな」

「そうね」

 二人は良しと腰を上げ、手当たりしだい本を積んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る