第8話魔法と科学と過去 2

「それより、リオは何故、魔法が使えるんだ? イップ姫は素質が無かったのに」

 ティーライ王国は騎士の国で、魔法が使えるものが居ないが、王国ファスマでは世界最高位と呼ばれる程の魔法使いがいた。マグナ・ティウスと言う者だ。

 その者に何度か魔法の話は聞いたが、セリオンもイップ王女も素質が無く、話は聞き流す所も多かった。

 もちろんリオもイップ王女なので、そんなに詳しくは聞いていないはずだ。

「前世は無いって言ったでしょ。それに魔法に素質は要らない。要るのは時間と理解だけ」

 今までの聞いた魔法の話と、リオが言う魔法は解釈かいしゃくが違う。

「それなら、俺でも使えるのか?」

「えぇ、当然よ」

「本当か!」

 あまり期待していない答えが大当たりで、キョウは驚く。

「ただし、正しい理解と練習の時間がいるけどね。キョウも剣の知識があって、小さい時からセリオン並? 違うでしょ。知識があっても、筋肉も剣に慣れることも最初から出来ない。魔法も一緒よ、理解だけ有っても、最初から全て出来ない、練習が必要。ある一点を越えると使う種類は増えるけどね」

「なるほどな、そう簡単にはいかないか」

 少し淡い期待をしていたキョウは、がっかりと肩をおとした。

「私は三年かかったよ。基本魔法のマジカルアローと、自然魔法のいくらかを使える。でも、弱いから牽制けんせいぐらいにしか使えないけどね」

「自然魔法? 基本魔法は前にマグナに聞いて知っているけど、自然魔法は初めて聞く」

 キョウの問い掛けに、リオは両腕をくみ「うん」と頷いた。

「よろしい! では私が講義こうぎしてあげよう」

 リオは歩きながら、右手の人差し指をピンと立て「おっほん」と偉そうに咳払いをした。

 気にいっているのだろうか。

「一時間目、先ずは魔法の基本から。魔法はイメージが大切。一番初めは周りに魔法分子があると想定するの。それを集めるイメージ。自分のイメージの形と自然界の法則が正しければ、魔法として現れるわけ」

 まずい、一時間目の初めから解らない。

 キョウはそう思ったが、口には出さず続きを聞いた。

「基本魔法のマジックアローは、基本にして最強の魔法と呼ばれているわ。私の解釈かいしゃくは違うけど。ともかく、なぜ基本と呼ばれているかと言うと、本人の魔力のみを使って矢を作る。この魔法で、その人の魔力の大きさが解る」

「そこは聞いた事がある。魔法の矢は、長さ、太さ、大きさ、数、時間、それによってその人の魔力が解るんだよな」

 王国ファスマで見た、世界最高位の魔法使いマグナ・ティウスの放った魔法の矢は、空一面をおおうほどの数だった。まさしく最強の魔法だ。

「まぁ、魔力と言うか、正確には魔法分子を集める力だと思うけどね。そして、放つ時は力ある言葉を唱える。要するに名前ね。イメージさえしっかりしていれば、名前は何でも良い。そうすれば自分の意思通りに動かせるわ。ちなみに、人によって名前が違うの。ここ大切! よく使われるのは、魔法の矢とかマジックアローとかね。私はオリジナルの良い名前が思い付かなかった。だからマジカルアローなんて中途半端に…………」

 リオはよっぽど悔しかったのか、プルプルと震えた。

「そこ大切か? 名前なんて何でも良いだろ」

「まぁ、名前は後々考えるとして、二時間目、自然魔法」

 リオは再び「おっほん」と咳払いをした。

「魔法分子と自然界に有るものを融合する。正式名、自然界融合魔法しぜんかいゆうごうまほう。例えば火、水、土、大気など魔力と合わせる魔法ね」

 キョウは王国ファスマの燃える空を思い浮かべた。あの時、使われたのは火の魔法だった。

「あれ、そう言う名前だったんだ」

「一般的にも良く使われる魔法ね。さきほど集めた魔法分子に、自然界に有る分子を融合するイメージで出来る。私の様に魔法分子を集める事が苦手な者は、マジックアローより威力が上がるし、そもそも私は、こっちの方が最強魔法だと思うけどね。まぁ、その辺はもう少し研究が必要だけど」

 リオは一人頷き、短い指を三本立てた。

「三時間目、結界魔法」

 忘れたのか、行き当たりでやっているのか、今回は「おっほん」は無かった。

 統一性がない。

「結界魔法は、いわゆる防御魔法ね。正式名は自己結界単一魔法じこけっかいたんいつまほうと、遠方結界堅陣魔法とうほうけっかいけんじんまほうの二種類からなるわ。ようは自分の周りか、他の周りの作るかの差ではある」

「別に分ける必要を感じないんだが」

 キョウは頭をひねった。そろそろ会話に着いていくのがやっとだ。

「じゃ、質問! キョウ・ニグスベール君!」

 リオはいきなりキョウの方を振り向き指差した。キョウはいきなり名前を呼ばれたので、驚いて歩きながら背筋を伸ばす。

「はっ、はい!」

「自分を守る魔法と、敵を固定する魔法の違いは何でしょうか?」

 キョウは結界魔法を見たことがない。話も聞いたことがないのに解るはずが無かった。

「遠いか、近いか」

 キョウは簡単に答えたが、リオは呆れたような目でキョウを見た。

「それはさっき私が言ったよね? ヒント! 結界魔法の中からでも、攻撃魔法が放てる」

「なるほど、表と裏が逆だ」

「正解! キョウも解ってきたね。それにね、自分周りに場を作るのは簡単だけど、他の場所に場を作るのはむずかいし訳よ」

「場と言うのは?」

「その分子が作用する空間の事。この場合は魔法が作用する空間ね。魔法分子により大きさや固さが違うから、言われてみれば基本魔法と同じに思えるけど、以外にも自然魔法に近いわ。それと、結界魔法は使える者が少ない。私も見た事が無いし、理論は解るけど使えなかった。多分、純粋に魔法分子を集める力が足りないだけと思うけどね」

 確かに防御魔法が使えれば、旅をするにいたっても、大いに役に立っただろう。

「まぁ、これが解れば後はイメージの練習をするだけ。以上で本日のリオ先生の講義は終わり! あいさつ」

「えっ?」

「あいさつをするの!」

「あっ、有難うございました」

「よろしい」

 なぜか上機嫌でリオは歩いていく。魔法にも色々あり、リオはキョウの為にむずかいし所をはぶいて、簡単に説明したのだろう。魔法初級編と言ったところか。

「また、何か解らない事が有ったら、リオ先生に聞きなさい」

 偉そうに胸を張りながら、リオは鼻息交じりにそう言って、喋りすぎて喉が乾いたのか、歩きながら水筒の水をガブガブ飲んだ。

 キョウには、半分以上わからなかったが、それでも知っておいて損な内容ではない。頑張れば一応習得できるみたいだし、魔法が使えれば攻撃の幅も増える。リオの話からして数年は無理だろうが。

「あぁ、頼む、リオ先生。また色々と教えてくれ。どうも俺は、世の中の知らない事が多いみたいだ」

 キョウの素直な台詞が嬉しかったのか、少し頬を赤らめると、リオは水筒から口を離しにんまりと笑った。余りの笑顔に釣られて笑う。

 リオと話していると、自分がいかに何も知らないまま暮らしていたのかよく解る。王国ファスマや霧の事だけでなく、もっと多くの事も知らなくてはいけないと思う。

 セリオンだった時には感じなかった思い。

 最初はイップ王女の記憶がある、リオに会えて嬉しかったが、今はリオ自体に会えて良かったと思う。

 キョウは空を見上げた。

 剣だけじゃない。まだまだ俺にも出来る事がある。

 そこからしばらく歩くと、林の間に徐々に海が見えてくる。

 リトルラーニはもう直ぐだった。

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