おタネをください

らいちょ

第1話エロいメイドがやりにきた

「貴方の精子おタネが欲しいんです!」


 六畳半の古ぼけたアパートの汚れた畳に三つ指付けて、メイド服の女は深々と頭を下げた。

 端正な顔立ちと癖のある銀髪をなびかせる様は美人と言える。更にその美人がメイド服を着ていたともなれば、それはその筋にはたまらないシチュエーションかもしれないが、残念ながらこのアパートの住人、神野じんのハガネは、呆けた表情のまま、メイドを見ているだけだった。

 まだ自分の置かれている状況というものに理解が追い付いていないというのもある。


「貴方に受けた先祖のご恩、末代の私にまで美談として語り継がれております」


 頭を上げたメイドは金色の瞳でハガネを見据え、とびきりの笑顔で答えた。


 

 小さな幸せは、一つの善行から始まるというのが、死んだ母親の教えだった。

 親族の家を離れ、一人暮らしをするハガネはその人生の中で母の教えに倣い、人様に迷惑をかけず生きてきたつもりだし、小さな幸せを得るために些細な善行を積んできたつもりだと思っている。

 今日も掃除の時間中に、尻尾を切り離して教室中を逃げ惑い興味本位に男子生徒達に追いかけ回され嬲り殺されようとしていたヤモリを逃がしてあげた。ま、そのヤモリが恩返しに来るなんて期待はこれっぽっちもしていないが、それでもいつかはいい事があるかな~なんて思いながら晩御飯の準備をしていたのだが、唐突に狭い六畳間の畳に落雷が落ちてきて、炸裂音と共に立ち上る煙幕の中から片膝を付いたメイドが出てきたらどんなリアクションを取るべきなのだろうか。


「私は二十四世紀の未来から来た、νヒューマノイドです」

「は?」

「貴方が今日助けたヤモリの事は覚えていますか?」

「え? あぁ。確かに助けたけどさ……」


 昔話で助けた鶴が恩返しに来ると言うのはあるが、よもや助けたヤモリが恩返しに来るとストーリーは実在するのだろうか。しかもメイド服で自宅に押し掛けるとか。


「私はそのヤモリのず~っと後の世代の子供なのですが、私の代まで貴方の美談は語り継がれ、いつか貴方への恩返しをと我々一族は切望しておりました」

「や、そんな末代祟りのように思われても……、別にお礼だけでいいですよ。それにヤモリを助けたとしても貴方、人間じゃないですか」

「私は人間でありヤモリです。両方の遺伝子を引き継いだ人工生命体なのです。私の存在した二十四世紀では人類はその可能性を信じ、優れた身体能力、特性を持つ生物の遺伝子を人間の遺伝子と混ぜる事で新たなる人類を誕生させることに成功しました。それがνヒューマノイドと呼ばれる人種です」

「つまり……貴方もνヒューマノイドで、僕が助けたヤモリのご子息だと?」

「一族共々、人間になった暁には御礼をと願っておりました」


 メイドさんは今一度深々と頭を下げた。

 ハガネもつられて頭を下げてしまう。


「んで……、そのヤモリのνヒューマノイドの人が何故、僕の……」

「精子が欲しいんです!」


 真顔のまま顔を近づけられて、ハガネは思わず赤面してしまう。


「や、あの……女の子があまり精子、精子と口にするのは……」

「貴方の優性遺伝子が欲しいのです。どうか精液を出して頂けないでしょうか?」

「更に露骨な要求に変わったよ!」


 唐突に飛び出した露骨な要求にハガネは思わず吹き出してしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください。全ては話を聞いてからでしょう。――って、そんな手慣れた動きで布団を敷かないでくださいッ!」

「ご主人様はお風呂の方が御所望でしたか。生憎ローションは手持ちにないのですが……」

「早々に十八禁ネタに持ち込む気かよッ!」


 そそくさと布団の前にティッシュ箱を準備するメイドさん。

 何か途轍もなく間違った方向へ話が進んでいるとしか思えない状況に、ハガネは床に幾度も頭を叩きつけて、悪夢から目覚める準備をしてみるが、痛みが脳内を巡るだけでこの悪夢からは一向に覚める事は無い。


「待って。なんでそもそも君が僕の……、その……」

「精子?」

「そう。それを欲しがる必要があるんだよ」


 女の子にわざわざ精子と言うキーワードを言わせるのは、只のセクハラではないのかという罪悪感に包まれるが、一向に気にした様子の無いメイドさんは少々悩んだ表情を浮かべ「ん、と……」と言葉を漏らしているが、態度とは裏腹にベッドインする準備を確実に整えている。


「二十四世紀の世界、純血種と呼ばれる旧人類とνヒューマノイドは支配権の奪い合いという血で血を洗う闘争を繰り広げています……」

「いきなりシリアスな展開に飛んだね」

「我々の仲間は優れた資質を持つとはいえ、数が少なく多勢に無勢の旧人類には未だ戦局が押されている状況なのです。そこで我々は過去へと飛ぶタイムマシンを完成させ、過去の優性遺伝子を持つ人間から精液を頂いて、私達と配合したハイブリットヒューマノイドを完成させようとしたのです。様々な時代へ飛び、その時代の猛者と呼ばれた人達の精液を集め、強力なハイブリッドベイビー達を作り上げる事に成功しました」

「タイムマシンが成功したなら、旧人類側のトップを先に殺してしまった方が早いんじゃ……」

「この時代の人間には理解出来ないと思いますが、時流渦というものが存在していまして、タイムマシンがある時代から百年の期間は入る事が出来ないのです。つまり、二十三世紀と二十五世紀の世界には私のやってきた世界から行けない事になります」

「ふ~ん。その事情はとりあえず納得するよ。それでその優性遺伝子を集めてどうしたのさ。そもそも僕はそんな時代に名を残す優性遺伝子は持ち合わせていないと思うけど……」

「ハイブリッドヒューマノイド……我々は旧約聖書から、彼等をネフィリムと呼んでいますが、彼等の戦闘能力は凄まじいものであり、戦局を一気に好転させることに成功しました」


 旗色が良くなった報告だと言うのに、メイドさんの表情はどんどん曇っていく。


「――しかし、好戦的性格の彼等の行動は我等の予想を遥かに凌ぐ物へと変わった。彼等ネフィリムもまた、支配権を主張し、二十四世紀の世界は三つ巴の頂上決戦を演じつつあるのです。そしてこの微妙な均衡は間もなく崩れる」

「それは……、どうして……?」

「私達νヒューマノイドは泥沼の殺し合いに疲弊し誰も求めていない事を悟り、秘密裏に旧人類側との停戦協定を結び付ける事に成功しました。私達νヒューマノイド、旧人類それぞれが住み分ける事で平穏を保つ協定を結び、共通の敵を作る事にしたのです。そして、私達νヒューマノイドは多くの同志を失い、優れた統率者を求めています。過去のネフィリムという過ちを繰り返すのではなく、優しく寛大な心を持ち、私達を安息の地へと導いてくれる優性遺伝子も持つ人物。ヤモリ一族に伝わる伝説の恩人、神野ハガネ、貴方へと白羽の矢が立ったのです……」

「うぇぇぇぇッ!」


 あまりに突飛な告白にハガネは不気味な悲鳴を上げてしまう。

 世の中、唐突に貴方は世界を救う勇者だとかいわれて異世界に飛んでしまうとか、そういう話は聞いた事もあるのだが、たかだかヤモリを助けたくらいで二十四世紀の未来でνヒューマノイドの統率者に選抜されるなど、予想の遥か斜め上を行く状況には只々驚く事しか出来ない。

 メイドさんはびしっとハガネに向かって指を差し向ける。


「つまり……、私達の未来の為に、私を孕ませて欲しいのです」

「発言が回を追うごとに露骨になってない?」


 丁寧に敷かれた布団の上に正座をするメイドさんは、ポンポンと布団を叩いて合図をする。


「さぁ……、今から共に未来の平穏を築くために子作りしましょう」

「そんな状況で素直に応じるとでも思ったか!」

「ゴミ箱を受精させるくらいなら、私に受精させた方が人道的です」

「女の子がそんなウィットに富んだジョークを語るな」

「大丈夫。νヒューマノイドも人間と変わりません。それに私は仲間内でも床上手と評判でしたので、ハガネ様のどんな要望にもお応えする事が出来ます。あまり得意ではないのですがハガネ様の性的興奮が最優先ですので、縛る事や垂らす事でも、私は耐えて見せますよ!」

「そんな力強く拳握って見せられても……」


 そっち方面の趣味ではないし、そもそも唐突に子作りを要求されたとして盛りの付いた雄犬のように腰を振るなんて真似が出来る筈もない。


「やっぱ、そんなの無理です……」

「何故ですか。崇高な理念に伴う必要とされる仕事ですよ。ハガネ様は私が妊娠するまで気持ち良く私に射精するだけでよいのですよ……」

「また、物凄く露骨な表現を……。や、違う。そう言う事ではありません。二十四世紀のνヒューマノイドの倫理観はどうか知りませんが、ここは二十一世紀で、僕はその時代の倫理観を通して生きている訳です。そんな動物的理念で女性を抱く、なんて真似は僕にはとても……」


 ふるふると頭を振って拒否を示す。


「もしや、ハガネ様はヘタレどーてーというものなのでしょうか?」


 その一言にハガネは吹き出し、悶絶して床へと崩れ落ちた。

 その「かい心の一撃」という名の一言は、ハガネの心を再起不能なまでにズタズタに引き裂き、床へと崩れ伏したまま、床を涙で濡らす。


「申し訳ありません。私のデータベースにはヘタレどーてーという存在がどの様なものか書かれていない故、どう対応していいのか分からないのです。もしかしたら私の言葉が間違っていたのでしょうか、それとも蔑視の表現技法でしたか?」


 慌てた様子のメイドさんは崩れ伏すハガネの背中を優しく擦り介抱する。


「この時代の倫理観念というのは、男女間の恋人状態における性的行為の事ですよね。無論私達の時代にもありますよ。申し訳ありません。私は少々性急に事に臨んでいたのかもしれません。ハガネ様の意志も無しに事に臨む事は、失礼極まりない行為です。今一度謝罪を述べさせていただきます」

「や……、そこまで真剣に語るほどの事じゃ……、僕のヘタレぶりのほうが情けない訳ですし」


 金色の大きな瞳に涙を蓄えたメイドさんはその胸にハガネの頭を押し付けて優しく撫でる。


「少しの間ですが、私はハガネ様の恋人……ではダメでしょうか。二人で一緒に関係を築けるように成長していく。それが私達の出来る最善の選択だと思えるのですが」


 その甘い提案に、ハガネは物静かに頷く事しか出来なかった。

 すっ、とハガネの身体を引き離したメイドさんは向き合った体勢でとびきりの笑顔を向け、今一度ぎゅっと優しく抱きついてきた。


「私の名前はリコと申します。これから宜しくお願いしますね。ハガネ様……」

「うん……。なんか妙な感覚だけど、よろしく。リコ」


 そんなこんなで、神野ハガネ十六歳。人生で初めての恋人が出来た瞬間だった。

 人生善行を積んでいれば良い事があると言われ、守ってきた十六年。

 これもその良い事なのだろうかと少々悩むのだが、リコのとびきりの笑顔を見ていると、そうなのだと確信を持って口に出せる気がした。


「――では、ハガネ様。めでたく恋人同志になったのですから早速……」

「気が早すぎるわ!」


 や、前言撤回……。νヒューマノイドは動物的本能の方が強いのかもしれない。



「そうはさせない……」



 唐突に響いた声にハガネは身を竦ませ、リコは警戒してハガネを背に回して周囲を警戒する。

 少女の声。どこからかと言えば、ハガネの家の薄っぺらい玄関の戸板の先からしてくるのだが、そこに何故少女が居るのか、ハガネは皆目見当もつかない。

 ビィィィィンという金属音。鍵穴が振動し、突如巨大なドリルの先が鍵穴から抜け出てくる。


「なんじゃそりゃ~~~~!」


 あり得ない状況にハガネは悲鳴を上げた。

 玄関のカギ穴を巨大なドリルは火花を散らせながら貫通させ、鍵という機能をぶち壊していく。

 ドアノブが捻られ扉が開くと同時に少女が一人、土足で上がりこんできた。

 金髪のツインテールと赤い瞳の少女。ミニスカート調のメイド服に身を包み、気の強そうな吊り上がった目がハガネを捉える。

 黒と白のオーバーニーが幼さと色気を醸し出していて、ハガネは思わず息を飲んだ。

 右手は巨大なドリルを手にしていて鍵穴を強引に押し開けたせいか、ハガネの鼻腔には金属の焼ける嫌な匂いが伝わってきた。


「ふ~ん、精液の濃そうな男ね……」


 露骨な物言いは間違いなく、この少女も二十四世紀からの来訪者と言う証だ。

 つか、二十四世紀から来る時は皆、メイド服じゃなきゃいけないのだろうか。


「ハガネ様、ご安心ください。彼女は我々の仲間で旧人類のアイシアです」


 仲間と言うリコの一言にほっと一息つき、表情を崩すハガネとは裏腹に舐めるような視線でハガネを見続けていたアイシアは冷徹な表情のまま、淡々と語る。


「この男の優性遺伝子は人類も欲している所だ。νヒューマノイド、アイシア達との条件を忘れた訳ではなかろう。優性遺伝子は平等に分け合う事。それが同盟条件の筈だ」

「勿論知っていますよ。しかしハガネ様は義務的な性行為を望んでいないのです。この場合、恋人関係を結んだ私が条件の最優先とされるべきと思うのですが……」


 ぴくっと眉根を潜ませたアイシアがキッとハガネを睨みつけ、右手のドリルを捨てるとハガネの側へと歩み寄って胸倉を掴むなり、不意打ちのように唇を押し当ててきた。


「アイシア!」


 あまりにも唐突な状況にハガネも対応出来ず、指先を猛禽類の爪の様に尖らせたまま固まった。

 ぷはっと息継ぎをするように唇を放したアイシアは満足げな表情でリコを見やる。


「ハガネとのキスは済ませた? まだよねぇ。初めての相手はリコではない。このアイシアだ!」


 バァァーーンとSEが付きそうな状況の最中、唐突な状況の連続に頭が追い付かないハガネはへなへなと腰から崩れ落ちていく。

 キッと睨むリコに対し、身長の低いアイシアは腕を組み余裕を含んだ表情で見上げて、小さく鼻で笑った。

 対してリコは座り込んでしまったハガネの横に座って腕にしがみつく。


「ハガネ様の恋人は私です!」

「あぁ恋人でも構わない。アイシアはハガネとの肉体関係だけでいい。関係を重視するのなら愛人でも構わない。……ねぇハガネ、トカゲ女よりもアイシアと気持ち良い事、したいでしょう?」


 アイシアは逆の腕にしがみついて熱っぽい顔を押し付けてくる。

 理解不能の四文字がハガネの脳内を駆け巡った。

 小さな善行を積めばいずれ小さな幸せを得られる筈と信じて、ハガネは毎日を過ごしていた。

 でもこれは過剰フィーバーです、神様……。とハガネは心に思う。

 人生には少なくともモテ期が三度はあると言う。今までの人生でその傾向を全く感じなかったハガネにとって、この状況は人生初のモテ期になるのだろうが、それ故に対応が出来ずハガネの頭の中では先程からランバダが鳴り響いていたのだ。


「それともハガネはアイシアの事が嫌いなのか? お前の望む事なら全て応えてみせるぞ?」


 リコとは違うぺったんとした胸だが、すべすべして吸いつくような柔肌が腕に触れる度にハガネはゾクゾクッと背筋にのぼるものを感じた。


「お前の遺伝子は優秀だが、お前自身の資質もアイシアは十分に理解しているつもりだ」


 膝をついた姿勢でアイシアはハガネの頭を胸へと抱き寄せる。

 小さな胸の感触と共に衣擦れの音が響き、女の子特有の甘い匂いが鼻腔へと届いて、ハガネは頭の奥が熱くなっていくのを感じた。


「ダメです!」


 グイと頭を引き寄せられ、柔い感触の下へとダイブする。

 リコの大きなおっぱいに締め付けられたハガネは、その柔らかさに一瞬意識が飛びかけた。

 こんなにも感触良い存在がこの世に存在してもいいのだろうか。

 柔らかくて、ふわふわして、温かい……。


「肉体関係の優先順位は恋人である私が最初です。ハガネ様は私のものですからね」

「言うじゃないの、νヒューマノイド。だが答えを出すのはお前ではない。ハガネだ」


 グイと再びアイシアに腕を引っ張られ、ハガネの両腕は二人のメイドに引かれている状態になる。

 男なら一度は望むシチュエーションかもしれない。だが現実にその状況に陥るハガネは状況が理解出来ない内からいつの間にかどちらと肉体関係を望むのかと双方に問い詰められ、頭の中がグルグルと回ってしまう。

 女性に免疫が無い状態で、こんなにも密着状態になり、色気を振り撒いて積極的にアピールされてしまう状況なんて、十六年間の人生でただ一度すらない経験だけに、頭の中では赤色灯が旋回して警報を鳴らして「メーデーメーデー!」と叫び続けているのだ。


「ハガネ、夜伽の相手はどちらを望むの?」

「ハガネ様、私だとお答えください!」


 二人の熱い視線を受けてハガネは思わずうろたえてしまう。

 経験が無い状態ではヘタレどーてーは戸惑う事しか出来ない。

 それが唯一、ハガネが実感出来た教訓だった。

 ハァと小さくため息をつくのは、アイシア。

 キッと睨んだ表情のまま、ハガネに体ごとぶつかって床へと押し倒すと、蕩けた表情を見せたまま馬乗りになって、ハガネのシャツのボタンを上から外していく。


「答えたくないというならそれでもいい。お前の身体に聞くまでだ……」


 状況が理解出来ず身体をよじって逃げ出そうとすると、その腕をリコによって押さえつけられる。

 その真剣な表情にハガネの顔はみるみる青くなり、ふるふると頭を振った。


「アイシアが実力行使に移ると言うのなら、こちらもこうするまでです!」


 リコもまた蕩けた表情のまま、掴んだ腕を握り、ハガネの指を咥えた。


「にゃっ?」


 理解出来ないリコの行動にハガネは驚きの表情を浮かべるが、リコの口腔内という柔い感触を前に思わず口元が緩んでしまう。じゅぶじゅぶちゅぱちゅぱと妙にいやらしい音が響き渡ってハガネは思わず小さな悲鳴を上げるが、唾液と混ざったリコの舌がにゅるにゅると指の股をねぶる度に甘い声が思わず漏れ出てしまう。

 指を舌で絡めて舐められるという経験の無い感覚にハガネはその気持ち良さに飲み込まれてしまいそうになるのだが、必死に自制を促して抵抗を試みる。

 柔らかくて、ヌルヌルして、気持ちの良いリコの口腔内。指先の鋭敏な部分ばかりを責められ続けると脳内が灼かれそうな感覚に陥り、身体を暴れさせて必死に抵抗して逃れようとする。


「へぇ……、流石は男だな。胸板が厚い……」


 シャツのボタンを外したアイシアがはだけたハガネの胸板に頬を寄せて幾度も小鳥のようにキスの雨を降らす。柔い感触がちょんちょんと当たる度に脊髄にずきんと衝撃が走って、ハガネは陸に打ち上げられた魚のように身を跳ね上げた。


「これが男の匂い……」


 緊張のためか、首筋にじっとりと滲ませた汗を見たアイシアは首筋に顔を近づかせて、男の汗の臭いを嗅ぐ。女の子に密着された経験もなければ、首筋に滲んだ汗の臭いを嗅がれるなんて経験もない。この状況下は理性のたがが吹き飛ぶ寸前であり、ハガネは真っ赤な顔をしたまま目をグルグルと回していた。


「アイシアの頭の中がとろっとろになっていく。お前の匂いがアイシアの頭を犯していくのだ」


 とろんとした眼がハガネを見据え、小さなピンク色の舌が首筋を撫でた。

 滲む汗をすくいとるように首筋から顎下へと舌は滑らかに進み、その方向は耳朶へと突き進む。耳の裏まで舌で線を引いたアイシアがはむっと耳たぶを甘噛みして口腔内の唾液と混ぜてくちゅくちゅと音を立ててねぶっていく。


「み、耳が……、いやらしい音がいっぱいでおかしくなるッ!」

「ハガネ、お前の耳を犯し続けてやる……」


 耳たぶから唇を引き離すと、唾液が繋がりを持つかのように糸を引く。

 何をする気なのかと、ハガネは一瞬息を呑んだが、小さなピンク色の舌についた唾液の糸がぷつんと切れると同時に先を尖らせた舌が耳の穴へと侵入を始めた。

 小さな悲鳴と同時に思考が追い付く間もなく、身体が抵抗を始める。

 だが、片腕はリコにねぶられたままで動かせる事が出来ず、もう片方は抵抗を気取ったアイシアによってすでに封じられている。男の力で抵抗しようにも止め処なく続く快楽の刺激に腰の力が抜けて只唯一の抵抗として首を反らせて距離を引き離すのだが、片手で頭を押さえつけられ今までに経験した事もないような感覚が怒涛のように押し寄せてきて、自制と精神の糸が今にでも切れそうになっていた。

 指をいやらしくねぶられ、耳の穴を舐められる屈辱……。


「や、いや……」


 思わず漏れ出た言葉は女の子のようにか弱いもので、それがアイシアの可虐心を刺激したのか、舌の侵略を止めて、耳骨を犬歯で強めに噛みしめる。

 ビリッと電流が走るような激痛に「ひっ」と小さく悲鳴を上げるのだが、その声を聞いたアイシアの口角はみるみる内に上がっていき、痛みに目尻から零れ出た涙を舌ですくった。

 その行為こそがハガネの頭の中の何かをぷつん、と切ってしまった。

 消え入るような悲鳴と同時に拘束する腕を跳ねのけ、アイシアの身体を押しのけると未だ指をしゃぶるリコから指を引き抜いて逃げ込み、脱がされたシャツの胸元を必死に隠しながら部屋の隅で子猫のように震えた。

 未知への恐怖はハガネの頭をパニック状態にする。不思議そうな顔を見せる二人に対し猫のように毛並みを逆立てて「フー!」と威嚇してみせ、僅かな隙を見つけて壊れたドアに体当たりをして外へと飛び出してしまった。

 四本足ダッシュのまま……。


「ハガネ様、どこへ行かれるのですか?」

「まだ前戯の途中だぞ。これからこのドリルでお前の前立腺に刺激を……」


 ハガネの耳には届かない。

 獣を彷彿とさせる機敏な動きを見せて、あっという間に夜の闇へと消えた。



 一方その頃、ハガネの住む街のとある交差点の真ん中に唐突に落雷が落ちた。

 交通量が多い事で有名な交差点だったのだが、落雷の落ちた場所には煙が舞い、その中から片膝をついた少女が唐突に登場したことで、立ち往生していた住民たちは目を丸くする。

 黒髪のボブカットに切れ長の瞳。細身の体と何故かメイド服姿。

 何事……、とそれぞれ心の中で突っ込んでいたが、それ以上に何故メイドが……と誰もが心に抱いていたのだが、落雷が落ちた直後に現れるメイドと関わり合いになろうと言う者はおらず、慌ててエンジンを掛けてクモの子を散らす様に逃げていく。

 呆けた表情でそれを見た少女は、周りの状況をゆっくりと見回して呟いた。


「……座標固定を間違えた」




 犯されると判断した時、ハガネの脳は拒絶と同時に獣の如き身体能力を得て家から飛び出していた。

 どこへ向かって逃げ出しているのかなんてハガネ自身も分からない。

 只、内なる獣の逃走本能の赴くままに逃げだしているのだ。

 耐えられない。耐えられる筈が無い。ヘタレどーてーにあの状況から生み出されるのは恐怖だけ。

 そのままいい雰囲気になって、エロゲールート……なんてのは二次元の主人公だけであってヘタレ属性を持つハガネは例え稀代のモテ期へと突入したとしても、そのフラグを無事回収し終える事が出来ない。異性を意識し過ぎるが故にコミュニケーションが全く取れず、逆に積極的に接触されると対応する事が出来ないのでパニックを引き起こしてしまう。

 ダッシュがゆっくりとした足取りに変わり、立ち止まって、電柱の傍で丸くなる。

 恥ずかしくて、情けなくて、泣けてくる。

 せっかくのチャンスを潰して逃げだすなんて、ヘタレの中でもトップクラスのヘタレキャラだ。

 小さくため息をついて、夜空を見上げた。

 家へと変える事が正解なのか、ハガネは重いため息を吐きながら思い悩んだ。

 そりゃ、可愛い女の子とのあんな事やそんな事に興味が無い訳ではない。思春期の男子だ。そりゃ異性に興味バリバリな訳だし、大人の階段を上ってみたいとも思う訳だ。

 だが、現実を目の前に突きつけられ、それが半ば強制的な童貞脱却イベントともなるとエロい気が増進するどころか、それは恐怖へと変わり、結果としてハガネは獣の如く逃げ出してしまった。

 残ったのは女をその気にして逃げ出した不甲斐無いヘタレどーてーというレッテルだけである。


「もう死ぬしかないじゃねーか……」


 背後にどんよりとした重い空気を背負いながら、ハガネは呟く。

 思春期のデリケートな心からしてみれば今宵の失態は万死に値する。

 最早家に帰る事も、彼女達と視線を合わせる事すらハガネは出来ず、このまま富士の樹海へと旅立ってしまおうかと、ふらふらと立ち上がった。

 ぴこーん、ぴこーん、ぴこーん……と機械音が夜道から聞こえてくる。

 ケータイと着信音というよりはソナー音にも似た音に、ハガネは周囲を見回す。

 夜道にカッカッと靴音。次第に電柱の照明に照らされてその音の主はハガネの前に姿を見せる。

 黒のボブカットの少女。だがその服装がノースリーブのメイド服だった事でハガネは固まる。

 メイド服の少女は右手にコンパクトを出していて、そこから立体ホログラムで地図が表記してあり、ターゲットの項目の矢印がハガネを指し示したまま停止していた。

 パチンとコンパクトを閉じた少女は無表情のままハガネを見据える。


「……ターゲット、発見」


 その瞬間、ハガネは再び獣の逃走本能の赴くままに疾走を開始する。

 少女は素早く手を伸ばしてハガネのズボンのベルトを掴んだ。

 ハガネが状況を理解する前に少女は強引にハガネの身体を引き寄せて、そのまま抱き寄せる。


「……捕獲完了」


 少女は無表情のままそう告げ、お姫様だっこをしたハガネを見据えた。


「お、お前も二十四世紀から来たのか?」


 怯えた表情のまま少女に抱き寄せられたハガネは告げる。


「……私は二十四世紀の未来から来たハイブリッドヒューマノイド。親の種族からはネフィリムと呼ばれている。私個人を示す名前は千鳥十号……」

「ネフィリムって……、旧人類やνヒューマノイド達と袂をわかち第三勢力になったって」

「……我々ネフィリムはνヒューマノイドの手駒としての存在を離れ、独立を求めただけ。殺し合いはいがみ合う二種族間ですればいい。我々は早々に国を作り乱れた情勢を整備して今一度人類の発展を目指している」

「聞いていたイメージと随分違うな。んで、千鳥はなんで僕を?」

「……ネフィリムは二種族よりも遥かに数が少ない。これから国を作り、国を耕し豊かにするには多くの仲間が必要。その為に優性遺伝子を持つ神野ハガネの精液から子供を作り、偉大なる指導者として育てる計画が進んでいる」

「僕は二十四世紀でどれだけ神格化してんだよ!」

「……未来に求められる資質は強さではなく、思いやりの心を持つ事。大昔に滅んでしまった心の資質。述べ伝えられてきたその資質を持つハガネに我々は一縷の望みを託して、精液を求める」


 無表情のまま千鳥に見据えられてしまったことで、ハガネは思わず顔を赤らめてしまう。


「……ハガネ、我々の未来の為に私はお前の子供が産みたい!」


 今までにないアプローチにハガネは思わずうろたえてしまう。

 ハガネをお姫様だっこから解放した千鳥はぎゅっと抱きついてくる。

 ぎゅっと抱きついたままハガネの背に手を回した状態でクラッチを極めているので、暴れた所で逃れる事は出来ない。完全なる拘束術。その真実に気が付いた時にはもう遅く、千鳥はそのままハガネの身体を壁へと押し当てて、逃げられないようにしてそのまま強引に唇を押し当ててきた。

 本日の二度目。唇をこうも簡単に奪われるハガネは隙があり過ぎるのかと自暴自棄に陥りながらも、千鳥の柔い唇を感じて小さく呻く。


「い、いきなり何すんだよ!」

「……おかしい。キスを済ませたのに子供が出来ない」


 そう言った千鳥はクラッチを外してハガネの首に手を回すと再び唇を奪った。

 いや、今度は違う。

 にゅるりとした感触がハガネの口腔内に侵入し、千鳥の舌がハガネの舌と絡み合いにゅるにゅると口の中で踊り合う。唾液のねっとりとした感触と微かな千鳥の漏れる吐息がハガネの頭の自制のたがをどんどん緩めていく。

 このまま欲望の赴くままに貪ってしまおうか……と思えるほどにこのディープキスは衝撃的だった。

 ぷはっと息継ぎをするようにハガネから離れた千鳥は首を傾げる。


「……妊娠反応、無し。おかしい。キスをしたのに子供が出来ないのは何故?」

「や、キスじゃ作れないから……」


 ベトベトになった口周りを拭いながら、ハガネは突っ込む。

 無表情のままジト目でハガネを見る千鳥はシャツの襟首を掴んで締め上げてきた。

 表情の読み取れない上にハイブリッドヒューマノイドだからなのか、妙に力も強い。

 苦しさに顔を歪ませて手足をじたばたとさせると、唐突に拘束が解かれて、衝撃でハガネは尻餅をついた。


「……ハガネ、私を孕ませて!」

「………………は?」


 尻餅の痛さにお尻を擦っていると、ジト目のまま千鳥が顔を近づけてポツリと語った。

 や、それらしいフレーズは先程何度も聞いたが、天下の往来でその言葉はあまり伝えるべきではないと、ハガネは直感的に思うのだが、無論千鳥には伝わらず、「産みたいの!」と言葉を続けた事で、ハガネは千鳥の手を引いて慌ててその場を後にした。

 いや、もしその場に居てご近所さんに目撃されれば、ハガネはメイドさんを妊娠させた上に認知すらしない最低男というレッテルを貼られてしまう可能性があったからだ。

 や、違うよ。まだ童貞だからね。ヘタレだけど……と反論する勇気もないハガネに残された選択肢はここから早急に逃げだす事しかなかった。



「……どうやら知識を誤っていた。キスではハガネの精液を得る事は出来ない。精液を得る事が出来なければ、私も妊娠する事が出来ない。つまりハガネの精液を摂取する行為をしなくてはいけないと言う事になる。……だが、私はその情報を知らない」


 千鳥の手を引いてあの場を離れ、近くの公園に辿り着いた時にはハガネは肩で息をしていた。

 顔を見られたのではないかと言う一抹の不安を抱えながらも、人気の無い所へと無事移動出来た事でハガネは呼吸を整えると同時に額の汗を拭った。


「……ネフィリムは戦闘に特化した人間。他の知識に乏しい。性知識に関しても同様……」


 無表情で淡々と性知識とか言うと逆にこちらが恥ずかしくなると、ハガネは顔を赤らめる。

 がしっとハガネの手を握った千鳥は熱い視線を向けてきた。


「……ハガネ、私を妊娠させてください」


 ぶ――っと、吹いた。


「……言葉を間違えた?」


 無表情のまま首を傾げる千鳥に対し、ハガネはふるふると首を振る。


「……性に関する知識は乏しい。ならばその知識に富むハガネに委ねるしか方法が無い」

「や、そう言われましても……」


 ヘタレどーてーですから……と言葉が続けないのはハガネの男の部分の意地だろうか。


「……どうすればいい? 服を脱ぐのか?」


 メイド服のボタンをぷちぷちと外し始めた事でハガネはうろたえ始めてしまう。


「や、ダメダメダメ~。そのプレイは早すぎるって……!」


 慌てて千鳥の手を押さえて脱衣行為を必死に止める。


「屋外って……、何足飛ばしで大人の階段登らせる気だ!」

「……青天井下での姦淫では妊娠は出来ないのか?」

「なんでその知識はあるんだよ……」


 時折、二十四世紀から来た未来人達の偏った知識に疑問を抱く時がある。

 ぴこーん、ぴこーん、ぴこーんというソナー音。

 ハガネは千鳥の手を見るが、先程のコンパクトはエプロンドレスに収納されているので、この音の主は違う事になる。

 一体誰が……、とハガネは周囲を探すがその主は割とあっさりと姿を見せた。


「あっ。いました。探しましたよ~、ハガネ様~」

「まったく急に逃げるから、こちらに不手際があったのかと不安になっただろうが……」


 リコとアイシアが焦った様子で公園へとやって来たのだ。

 二人はぴこーんというソナー音の主、スカウターを装着していた。


「…………え、なに? 戦闘能力測るの?」

「何を言っているのだ?」

「これはハガネ様を捜索する携帯型レーダー、通称ハガネレーダーですよ。これでどこに行こうともハガネ様の場所を把握する事が出来るのです」


 スカウターをかけたままリコが胸を張って機能の説明をする。

 ハガネからしてみれば、メイド服の女の子がスカウターを装着すると言う非常なアンバランスな絵でしかないのだが、一通り二十四世紀の最新テクノロジーの素晴らしさを聞き流した後に千鳥のコンパクトも同様の性能を持っていたのかとハガネは把握した。

 ぴ、ぴ、ぴぴぴぴぴ……と、アイシアのハガネレーダーが激しく反応する。


「この反応、近くに凄い気を持った奴がいる筈だ……」


 その一言に二人はハガネレーダーの方角に注意を向けながら四方を警戒する。

 いや、多分、この子では……とはハガネは突っ込めず、背後にべったりとくっついた千鳥をそのままに暫しコントを楽しむ事にした。


「確かに凄く大きな気ですね……、二万、三万……いえ、もっと増えていく……故障でしょうか?」

「お前のは旧式タイプだ。きっと故障したに違いない……。アイシアのは最新機種だ。きちんと正確な数値が測れるはずだ。五万、六万、いや、六万七千五百、だと……」


 そこまで告げた所でアイシアのハガネレーダーが煙を出した直後に破裂して壊れた。

 じゃす、と砂利を踏みこみ、千鳥がハガネの前へと出る。


「何故、貴方がここに……」

「……優秀な遺伝子を求める。その考えはネフィリムも同様」

「ふん、ここにきてまさかの三つ巴の決戦が繰り広げられるとはな」

「ちょっ、お前ら……」


 その瞬間、ハガネは三人の発した殺気を前に一歩も動く事は出来なくなった。


「ハガネ、そこを動くな。今からこのアイシアがネフィリムを一体ぬっコロしてくるから……」


 ハガネレーダーを背後の闇に放り捨てたアイシアはエプロンドレスの中へと手を突っ込んで、ごそごそ何かを探していたのだが、その手を抜き取ると両手に無骨なカイザーナックルを装着して不敵な笑みを浮かべ、千鳥を見据える。

 確かに旧人類にとってネフィリムは仇敵ともいえる相手なので、アイシアの対応も間違ってはいないのかもしれないのだが、真夜中の公園でメイドさん達が物騒な武器振り回して殺し合いをする絵はとても想像できるものではないし、状況説明をしてもまともに取り合ってもらえないとハガネは直感的に思った。


「ここは同盟を結んでいる旧人類と組むべきでしょうね。ネフィリムの親としては胸が痛む思いですが、私達に反旗を翻し、勝手に国家独立を目論む種族はやはり生み出した者としてその責任を取り殲滅という手段を取らなくてはならないようですね」


 リコもエプロンドレスの中へと手を突っ込むのだが、そこからおおよそ物理的に入らないと思われるバールのようなものを取り出して肩へと担いだ。

 エプロンドレスのポケットは四次元ポケットにでもなっているのだろうか。


「……殺し合いの歴史は二種族ですればいい。我々ネフィリムは己の道を行く。只、その道筋を阻む者がいるとするならば……、全力で排除する」


 千鳥はそう告げて、拳をぽきぽきと鳴らし始める。

 ここにきて二十四世紀の頂上決戦が始まろうとしていた。



 最初に動いたのは予想外にもリコだった。

 構えすら見せていない千鳥に向かって、一気に距離を詰めると同時に肩に担いだバールの様な物を横薙ぎに振り払う。

 完全な奇襲に対し、千鳥は表情を崩すことなく僅かに半歩下がると同時に身体を仰け反らせる事でリコの一撃を回避する。

 否、それはカウンターへの序曲に過ぎない。

 身体を復帰させると同時に踏み込みを強めた千鳥の身体は強力なバネを仕込んだように一気に前へと突っ込む。一撃を空振りしたリコの身体に全力で体当たりする形で突っ込んだので予期せぬ反撃に見合ったリコの身体は大きく後方へ吹き飛ぶ形となるのだが、その行動をブラインドに使ったアイシアが千鳥との距離を詰めると同時に攻勢に出た。

 一気にクリティカルの攻撃に出ないのは先程の技術を把握していたからなのだろうか。

 無理に攻撃を繰り拡げるのではなく、華麗なステップを踏んで千鳥の回避間合いを殺していく。

 バックステップを踏む千鳥は攻勢の機会を伺うが、ピーカブースタイルのまま突っ込んでくるアイシアと真っ向からやり合うのは不利と悟ったのか、無理に攻め込む真似はしない。

 この場は公園。リングの様なコーナーは存在しない。つまりその戦法で攻め込んでいたとしても有利性が生まれる訳ではない。逆に千鳥からすればこの間合いを保ち続けている限り不利にはならないが、事が好転する事は無いという事である。時間稼ぎを狙っているのではない。今防戦に徹しているのはそのタイミングを図っているに他ならない。

 ……そして、そのタイミングは今正に訪れようとしている。

 一拍の間、アイシアは僅かに呼吸を整える。突っ込む際は常に攻勢に移れるように呼吸を止めて警戒するために、一定時間が過ぎれば呼吸を整えなければすぐに果ててしまう。

 だがその瞬間こそ、千鳥にとっての絶好の好機ともなる。

 アイシアが足を止めた瞬間、バックステップの足を大きく踏み込ませた千鳥が攻勢に出る。

 十分に距離を詰めてから繰り出した一撃は左の掌底。それはアイシアの胸へと向かって繰り出されたが、即座に防御に対応したアイシアはクロスアームガードにてその一撃を防ぐ。否、ネフィリムの戦闘能力は高く、強引に押しあてた事で反撃の隙すら与えず、みしみしと骨を軋む音を響かせながら大きく後退する。

 千鳥は更に踏み込んで後退したアイシアとの距離を詰めた。対してアイシアは両腕に走る激痛に唇を噛みしめながらも絶好のカウンターを狙って前へと出る。

 カイザーナックルを装着した拳はいつもよりも重い。その一撃は例えネフィリムといえども当たれば肉を打ち据え、骨を砕く。アイシアは迫りくる千鳥の右の掌底を素早く叩き落とすと、踏み込みと同時に千鳥のアバラ目掛けてボディを放つ。掠った感触と共にカイザーナックルにエプロンドレスの切れ端が引っ掛かる。

 一撃をパリングで崩された千鳥は一瞬の隙を伺って僅かに身を引かせた。その判断がアイシアのカイザーナックルのボディを掠らせる程度に留めたのだ。

 だが、アイシアの猛攻は続く。掠ったボディの体勢から踏み込み左のフックがガラ空きの顔面を捉える。翻した体勢からその一撃を手刀で払った千鳥は僅かに半身を引いてアイシアが踏み込み後にバランスを崩すのを待つ。事実、強引な体勢から放った左フックが手刀にて払われたアイシアのバランスは前のめりだったが故にもたついて隙を生み出してしまう。

 千鳥の反撃。踏み込みと同時に右手の人差し指だけを突き立てバランスの崩したアイシアの急所、喉を目掛けて指を突き放った。


「……貴方の相手は、旧人類だけではありませんよ」


 冷たい一言。千鳥は気配を察知してアイシアへの攻撃を止め、大きく後方へと飛び退る。

 バランスを崩したアイシアの背後からの掠める打撃。空を切った鈍器の音に着地した千鳥は表情を崩す事無く額の汗を拭った。


「一歩間違えていたらアイシアにも当たっていたぞ」


 片膝をついた体勢で忍び寄る陰に振り返る事無くアイシアは呟いた。


「あら、それは残念。ライバルが一人脱落したのに……」


 じゃす、と砂利を踏み抜いたリコはバールの様な物を肩に担ぎながら笑顔で告げる。

 二人は並び直して、体勢を立て直す。

 対して千鳥は、構えを解きノーガードのまま対峙した。


「待て待て待て待て~い!」


 事の一抹を傍観していたハガネはここでようやく言葉を挟む。

 と、いうよりもそれぞれの目的だった当人が裸足で超高等技術の応酬が続くバトルをただ傍観するだけってどうなのよ……とハガネは心の中で突っ込んでいたのだが、すでに闘争心に火のついた彼女たちの耳にはハガネの言葉は届かないようで、獣のような殺気を放ちながら敵を見据えて留まる。

 僅かにでも身体を動かせば、それが開始の合図だと言葉を交わさずとも彼女達は意識で照らし合わせて言葉を噤んだ。バールの様な物を握る手が、カイザーナックルを嵌めた手が、一撃を狙う人差し指が僅かに震え、喉を鳴らしてその時を待つ。


「待て、いい加減にしろ。ここは二十四世紀じゃない。僕の生きる世界だ。この世界でお前達の遺恨を持つ込む事はどうなんだよ。お前達は自分達の世界が殺し合いに塗れて疲弊している事で少しでも改善させるためにこの世界に来て、僕の所に来たんだろ。なんでその目的を持つお前達が今この場で殺し合いをしてんだ……?」

「私達の世界は、貴方の想像よりも遥かに複雑で辛辣なのです」


 リコはハガネに視線を合わせる事無く淡々と言い放つ。


「見敵必殺。それこそがアイシア達の概念だ。ネフィリムと出会えば殺し合う。それはどちらかの人種が滅びるまで続く。そこから生き残った者がお前の優性遺伝子を頂く。只それだけだ」

「生き残り、世界を優しさに溢れた指導者に導いてもらうためにここに来たんじゃないかよ」

「……その世界は、旧人類、νヒューマノイドの滅んだ後の世界で築く。私の目的を阻むのであれば誰であろうと敵とみなす。ハガネ、理解したか?」


 誰一人としてハガネに視線を向ける者はいない。闘争心を剥き出しにした獣の如く敵に向けて殺意を放ち続けていた。

 声の届かないハガネは悔しさに拳を握りこんだ。


「わからねぇよ。お前達みんなそれぞれの種族なりに立派に繁栄を願っていたじゃねぇか。殺し合いを望んでいる訳じゃねぇって言ったじゃねぇか。それなのに……、何故……」

「生きてきた世界が違う!」

「無益な殺生を求めている訳ではありません。生き抜くために殺すのです。無論正論だなんて思ってはいませんけどね。でも……、私達の世界は生き抜くために殺す事が道理なのです。理解してくれとは言いません。でも、貴方の世界観を押し付けてもそれは堂々巡りとなるだけです」

「違っ……! 僕は……」

「……私達は殺す事が必然なのだ」


 千鳥の冷淡な一言を前に、ハガネは二の句が続けなかった。

 握った拳が力無く落ちた時、彼女達はそれが合図だと気取った。

 踏み込みからの疾走は最速で相手の間合いへと踏み込む。

 リコがバールの様な物を肩に担いだ状態から横薙ぎに振り翳す。

 アイシアが拳同士を打ち据えて鼓舞したカイザーナックルを振り放つ。

 千鳥が鋭く突きだした人差し指を突き放つ。

 三者三様の攻撃に、ハガネは絶句した。

 しかし身体は思いとは裏腹に大地を踏みしめて、駆ける。

 理屈? そんなものハガネにはわからない。


「やめろォォォッ!」


 三人の間に割って入ったハガネはリコのバールのような物の一撃を側頭部に受けて呻く。同時に腹部を狙ったアイシアのカイザーナックルの一撃がボディを打ち据え、くの字に折れ曲がったまま苦悶の表情を浮かべて崩れるが、続けざま千鳥の人差し指の一撃が鳩尾へとめり込んだことで体中の空気を絞り出すかのように喉奥から震える声を出して膝から落ちた。


「ハガネ様!」


 割って入ってきたハガネの暴挙に慌てて攻撃を中止してリコ達は駆け寄ってくる。

 地面に崩れたハガネは衝撃の凄まじさに意識が朦朧とする中、涙を浮かべてハガネの様子を伺う三人を見て、ゆっくりと手を伸ばす。


「……理解出来ない。何故戦闘の最中に突っ込んできた?」


 伸ばした手をぎゅっと握り返してきた千鳥が無表情ながらも首を傾げて尋ねてくる。


「んなもん、戦って欲しくないからに決まってんだろ……」


 全身の激痛に顔を歪めながらもハガネは力無く呟く。


「二十四世紀の遺恨とか、種族間の争いとか、そんなものは僕には関係ない。僕は、僕を思ってくれる子が傷つけ合うのとか見たくないんだよ!」


 別に格好付けた台詞を語っている訳じゃないんだからね……とも付け加える。

 その一言が妙な空気を作ってしまい、三者三様に沈黙して視線を合わせた。


「つか、殲滅したいのか繁栄したのかどっちなんだよ……。こちとらそっちの理屈に強制的に付き合わされてエロエロな事態に巻き込まれているんだぞ」

「不満足なのか?」

「こっちの意志を無視したエロエロフラグは不満足だ!」


 強い語気で発した後、全身を巡る激痛に身体を丸めて小さく呻く。


「ハガネ様は私達に何を望んでおられるのですか?」


 リコの問いに、ハガネは激痛を軽減させるように深呼吸を繰り返して虚空を見上げる。


「別に何か特別な事を望んじゃいねぇよ。今日会ったばっかりで知らない事も多すぎるしさ」


 小さく嘆息。


「――でも、そんなお前達でも必死に自分達の未来考えてんだろ。未来の世界を少しでも良くしたいから、優性遺伝子を持つ僕の所へ来たんだろ。殺し合いの果ての世界を望むためにここに来た訳じゃないんだろ。……なら、なんで殺し合ってんだよ」

「それがアイシア達の世界だから……」

「言った筈だ。ここは僕の世界だ。……それに、そんな血生臭い歴史を変えたくてお前達は未来から来たんだろ。ならもう必要ねーじゃん。なんでお前達が戦う必要があるんだよ。僕はリコにもアイシアにも千鳥にも誰にも戦って欲しくない。無用な戦いで血を流して欲しくねぇんだよ……」

『………………』


 リコ達は言葉を詰まらせた。


「だからさ……、お前達はお前達の目的を……」


 視界がぐるりと回る。激痛は鈍いが逆に感覚が遠ざかって行き、次第に呼び掛けてくる声が遠ざかっていく。

 ハガネは意識が次第に薄れていくのを感じた。


「あれ? 死ぬのかな?」


「……本来なら致命にも近いダメージ。軽傷で済む理由が理解出来ない」

「そりゃ優性遺伝子の持ち主だからな。回復能力にも優れているという理屈はありえる。つまりそれは生殖能力においても同様……。生存能力の高い精液を保持していると考えられるという事だ」

「二人ともお静かに……。ハガネ様が目を覚ましてしまいます」


 夢現の中、ハガネは意識を覚醒させ見慣れた天井を眺めている事に気が付いた。


「死んでない?」

「軽傷は見られますが、脈、脳波共に正常値を保っています。あの状況下でのダメージとしては私達も正直驚きを隠せないのですが……」


 ハガネは痛む身体を触れて無事を確認する。激痛はまだ続くものの治療を施されていて、身体のあちこちに包帯や絆創膏を貼りつけられていた。

 因みに服装もいつの間にか寝間着に変わっている。

 ここは自宅。あの後自宅へ連れ帰ってもらえたのかとハガネは安堵のため息を吐くのだが、結局三人はあの後にどう話を纏め終えたのか、その結論を知らないままだった。

 当人達は布団に横になるハガネを囲んで心配そうな顔つきでハガネを見る。


「お前が眠っている間、アイシア達は今後の事に関して話し合った。結論としてこの世界はアイシア達の世界観を持ちこむべきではないという判断に至り、不戦同盟を結ぶ事になった」

「……ハガネ、お前が私達の戦を望まないというなら、私達はそれに従う。私達はハガネを求めてここに居る。お前の意向が全てだ」

「でも私達が不戦同盟を結ぶには一つの条件があり、その条件にはハガネ様が深く関係するのです。どうか私達に無意味な流血を求めないのであれば、この条件を承諾しては頂けないでしょうか」

「どんな条件なんだよ……」


 そんな事で三人が殺し合いを止めるというのなら安いものだと思うが、一抹の不安を抱いたハガネは条件を聞くことにした。


「ハガネ様は私達を平等に愛し、私達もハガネ様を平等に愛するという事です」

「…………え?」


 目を丸くして思わず聞き返してしまうハガネに対し、アイシアと千鳥も同意するように深く頷く。


「奪い合いではなく、分け合う事の大切さを盛り込んだのだ。素晴らしい条約だろう?」

「……ハガネの寵愛を分け合い、私達の寵愛をお前へと注ぐ。私達を末永く愛して欲しい」


 そう言われて「いいえ」と答える人など誰一人、いる筈が無い。

 ぐぬぬ、と表情を固めていたハガネも根負けし、「……はい」と力無く応えた。

 ぱん、と手を叩いたリコは笑顔でそそくさと動き始める。


「と、言う訳で早速ハガネ様には寵愛を頂きたい所なのですが……」

「この怪我で更に一夜をハッスルせよと?」

「ま、ヘタレだから当分その度胸もないのだろう……」


 小さく嘆息するアイシアがハガネの右側へと添い寝をする。


「……当面は我々が女性免疫を与えていくことで、ヘタレを解消する事にした」


 そう述べた千鳥が左側へと潜り込んできてハガネの身体はアイシアと千鳥に挟まれる事になる。


「ちょ……お前等……」

「失礼しま~す」


 アイシアと千鳥に布団の中で抱き枕の様に抱き締められて頭の中が混乱する最中、ハガネの枕を引き抜いたリコはハガネの頭を支えて膝へと置くと、その頭を優しく撫でる。


「まさかの女体尽くしッ?」


 膝枕+左右の添い寝という、ハーレムプレイとしては願ったり叶ったりの状況かもしれないが、ヘタレどーてーのハガネにしてみれば、完全に逃げ道を塞がれて捕縛されたという状況に過ぎず、緊張で全身の筋肉が硬直してしまう。


「……心臓の鼓動があり得ない速度になっている」

「少しは慣れろ。この先私達が妊娠するまで愛してもらうのだからな」


 アイシアがそこまで続けた所で、リコが頭をぐっと押さえた状態で笑みを浮かべて告げた。


「私達全員を満足させるまで、絶対に逃がしませんからね……」


 がしっと左右の手を布団の中でアイシアと千鳥に掴まれた。


「さて……」


 そう言って、リコが手を伸ばして電灯を消す。


「ぼ、僕……、食べられちゃうんでしょうか……」


 震える声でハガネはポツリと呟く。

 膝枕をするリコは優しくハガネの肩を叩いた。

 僅かに部屋の中へと漏れる月明かりが膝枕をするリコの姿を妖艶に映し出す。

 彼女は口の端を持ち上げて嗤う。

 それは、獲物を前にした狼の嘲笑にも似ていたかもしれない。


「大丈夫……。今日はゆっくりお休みください。きっととても気持ちの良い夢が見られますよ」


 リコのその言葉は催眠術の様にハガネの意識は夢の世界へと旅立ちつつあった。

 今日は色々あり過ぎたからかもしれない。

 怪我をしているせいかもしれない。気だるさが全身を包み込み、緊張は次第にほぐれてハガネの意識は次第に落ちつつあった。

 凛、と輝く三つの双眸。

 ハガネに気配を悟られぬようにアイシアと千鳥は絡めた腕からハガネの胸へと手を忍ばせ、ぷちぷちぷちと寝間着のボタンを外していく。


「あ、言っておくけど、寝ている間に変な事したら全員外へと追い出すから」


 寝る寸前、ハガネは最終防壁を敷いて眠った。

 チッと舌打ち。誰がしたのかハガネは分からなかったが、言わなかったとしたら何をされていたのだろうかと若干恐怖に震える。

 小さな善行を積む事が小さな幸せを得られる……。そう教えられて育ったハガネはその人生を倣う。

 一連の騒動は昼間に助けたヤモリへの善行から発した小さな幸せなのだろうか。

 そうだとしても、その幸せを知るのはまだまだ先だろうなと感じた。

 それでもいつも一人で眠っていた寂しい布団が、今日は暑苦しいほどの拘束を受けていると考えると、この小さな幸せを大切にしていきたいと、ハガネは最後に願った。



 夜が明けて、そっとアイシアと千鳥の拘束から抜け出したハガネは布団から起き上がる。

 枕元で舟を漕ぐリコには押入れから毛布を出して肩へと羽織らせた。

 結局、就寝中に三人から何も夜這いを受けず、貞操の危機から脱したハガネだが、冷蔵庫の牛乳を飲みながら未だ寝息を立てる未来人メイド部隊を見て、僅かに微笑んでいた。

 少々退屈だと思っていた自分の人生が大きく変わろうとしている。

 それも妙なエロ方面に……。そんな一抹の不安のあるのだが、彼女達の無垢な寝顔を見ていると頑張ればそれなりに楽しい人生が待ち受けているような気がしたのだ。


「ま、暫くはこのヘタレ属性を解消する特訓からだろうな……」


 そう言って小さく嘆息したのだが、外の階段からザッザッザッという妙な物音がする事に気が付いて慌てて玄関の扉を開けた。


 ――誰がこの結末を予期していたであろうか。


 外に出たハガネは目を疑った。外の道にはメイド服を着た少女がたくさんいたのだ。

 や、それは沢山という文字で表すべきではない。ハガネの家に続くこの街の全ての道にメイド服を着た少女はいて、この家を目指して一糸乱れぬ行進を続けている。


「……え? どういう事?」

「あ、ようやく後発部隊の到着ですね」


 いつの間にか目を覚ましたリコ達が玄関の惨状を見て笑顔で伝える。


「あまりこの事実を聞きたくないのですが、聞かなければ話がオチそうにないのであえて聞きます。アレはなんでしょうか……」

「リコがお前に伝えた筈だ。「ハガネ様は私達を平等に愛する……」と」

「私達とは、リコ、アイシア、千鳥の三人では?」

「……私達とはお前の精液を欲する者たち全てという意味。旧人類、νヒューマノイド、ネフィリム合わせて計百人の女を全て平等に愛して欲しい。それが不戦同盟を結ぶ条件」


 部屋の中へと上がりこんでくる女の子の集団。

 六畳間のアパートはすぐにぎゅうぎゅうになり、ハガネは女の子に包まれる形になる。


「さぁハガネ様、女の子がよりどりみどりひっかえとっかえな状況ですよ。四六時中女の子と居る状況に慣れれば、ハガネ様のヘタレもすぐに改善される事間違いなしですよ」


 女の子の中に包まれて、ハガネは頭痛のする頭を押さえた。


「神様ッ、フィーバーの機械壊れていませんかァ!」


 ハガネは必死になって天に向かって叫ぶのだが、神様から謝罪と修理通達の報せはない。


『ハガネ様! 私達の事、み~~~んな愛して下さいね』


 メイド服の少女達はウインクしながら笑顔でそう告げる。

 ハガネは嗚咽混じりに小さく「……はい」と呟いた。

 神野ハガネの幸せな受難はまだまだ先が長いのであった……。


END


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