1ー3

 永久から話してもらうことを頼んでから何分経っただろうか…俺はすることもなく一人でただただ何もない天井を見ていると永久から連絡が来た。結論から言うと信じてもらえなかったらしい。

「遥香にも話が聞えてたみたいだ…今…誰も信じたくない、もう誰とも話したくない、見たくない、聞きたくない、って叫んでる…」

俺はそれを聞いて無理もないと思った。もちろん親に話してもいきなり記憶が無くなるって言っても信用されない。もしくは風邪みたいにいつか治る軽い症状だと思われるかもしれないと思っていた。それでも今まで散々苦しんできたのにそのせいで記憶も消えかけてるのにそれなのに信じてもらえない…そのことが更に遥香のことを苦しめている…。

「なぁ…遥香に少しだけ変わってくれるか?」

俺は今の俺にしてやれることは話してやることだけだと思った。そしてそれだけしかできないことがとてももどかしかった。

「あぁ…わかった」

「やっほー」

遥香は明るくそう言ってきた。だけど俺にはそれがどうしても無理してるように見えた。

「無理すんな」

「…うん…ねぇ…彼方…さっきさ…記憶のこと切り離して考えろって言われた。切り離せたらこんなに悩んでないよ…幻覚見てないよ…気にしすぎって…忘れやすいんだからって…」

「遥香…大丈夫だよ、無理して言わなくてもちゃんとわかってるから」

俺は遥香が泣いているのがわかった。

「もうやだ!私なんていらない必要ない!もうやだやだやだやだ…」

彼女自身の心の痛みが伝わってきた。信じてもらえない、多くの人はたったそれだけって思うかもしれない…でも…信用されないと心は崩れていく。

「大丈夫だよ、大丈夫」

俺はそう言いながら過去に大人に信用されなかったことを思い出した。何もない教室、落書きされた机、教師は親と話し親は頭を下げる。帰ってから親は俺のことを蹴りながら「あんたのせいで」と言い続ける。俺じゃないと言っても信用されない。それから俺は大人を信じなくなった。俺は当時はなんで俺が…とずっと思っていた。だけど遥香は今、いや今までその苦しみをずっと経験してきた。だから遥香の痛みが多少なりとも分かった。

「遥香俺は信じてるよ。疑う理由もないし。それに遥香の目は嘘ついてないもん。」

俺は嘘偽りなく今までの遥香を見てきてそのうえでそう言った。

「そっか…ありがとう…」

遥香の顔は見えないが少し安心しているのかな、と俺は思った。

「そうだ、遥香日記かなんか書いてみれば?」

「日記…?なんで?」

遥香は不思議そうに訊いてきた。

「遥香がもし記憶が全部なくなっても絶対忘れたくないことを書いとけば多分困らないだろ?」

「うん…わかった。」

(君はあと何日俺のことを覚えていてくれるのだろうか?もし忘れてもいつか俺のことを思い出してくれるかな?)

俺はそう思いながら遥香と話し続けた。

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俺は何回でも君に恋をする 猫城 @kojyobooks

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