おっぱい揉ませて!

らいちょ

第1話おっぱいを楽しむ事こそが至高の人生である


 とある科学者は言った。

 おっぱいとプリンは同一なのであると。

 君達はプリンの至高なる食し方を知っているだろうか。大きなスプーンですくって食べる、お皿に盛りつけてプルプルと揺れる様を楽しみながら食す……。 や、まだまだそれは至高へは到達しない。

 今一度述べよう。プリンとはおっぱいだ!

 至高の食とは、つまりプリンをおっぱいになぞらえると言う事だ。

 プリンを皿へと移す。この時の皿は平たく白い丸皿が良いとされる。

 湾曲する様をより見栄え良くするため、そしてその平たさこそが女体のおっぱいと肋骨の差異を連想させ、我々を乳幼児の記憶へと回顧させてくれるのだ。

 皿の上へと盛られたプリン。黄色と黒のコントラストがさながら乳房と乳輪を意味している。

 乳輪は小さい方が、色素が薄い方がと言った性的嗜好はこの際置いておき、我々はこのプリンを見た時に駆られる衝動とはなんだろうか。

 ――そう。むしゃぶりつくことだ。

 白皿の上に盛られたプリンをおっぱいに見立ててむしゃぶりつく。

 だが、只吸いつくのでは芸が無い。カラメルの乳輪へと舌先を尖らせかつ筆のようなしなやかさを保ちながら、乳輪と乳房の境目を、円を描くようにレロレロレロレロレロレロ…………。


「やめんかッ! この変態オヤジがァッ!」


 台所でブツブツ語りながら皿に盛ったプリンのカラメル部分だけをレロレロしている父親を見て、藤巻蒼司ふじまきそうじは腰に強烈な膝蹴りを叩きこんだ。

 蒼司の父親、青三郎せいざぶろうは、膝蹴りの衝撃で海老反りになりながらシンクへと突っ伏す。

 小さく嘆息して着なれないプリーツスカートの裾をヒラヒラさせながら、今までにない足元がスースーする感覚に股間を押さえてしまうが、十六年間連れ添った相棒はそこにはない。

 逆に胸に装着されたブラジャーに先程から嘆息も止まらない。

 息苦しく締め付ける感触にすぐにでも取り外したいという感覚に捉われるが、異常成長を遂げた蒼司の胸はAやBなどというサイズに収まらず、Fというランクにまで急成長したため、ノーブラでは、走って揺れるたびに擦れて痛いという思いを経験して、仕方なくブラジャーを装着している。


「なにをするんじゃあお。ワシは今全国の読者向かって至高のプリンの食し方をレクチャーする練習をしておったというのに」

「朝一の台所で気色悪い事をしとったら、誰だってこうするわ!」

「ふん。ようやく女子用の制服を気慣れてきたようじゃな。どれ、下着の方は?」


 ペロンとスカートを捲って下着の様子をまじまじと眺める青三郎。

 無表情の蒼はスカートの裾を握る父親に目掛けて強烈な足刀を顔面へと叩きこんだ。


「違う、違うぞ、蒼ッ! ボクサーショーツとは何事だ。せっかくこのワシがお前のサイズにぴったりとあった下着を揃えてやったと言うのに。お前の今日のブラは水色じゃろうがッ!」

「何故お前がオレのブラの色まで熟知してんだよ!」

「水色のブラには水色と白の縞パン。これこそ至高の組み合わせじゃ! 脱げ、脱がんかッ! このように不浄な男性用下着など未だにつけおって。いい加減、己が女になった事を自覚し、そして女の下着を着んかぁッ!」

「誰のせいでこうなったと思ってんだッ、このボケェ~~!」


 蒼は重心を低くする。突き上げる衝撃に気を乗せた強烈な一撃を青三郎の顎へと叩きこんだ。

 がっしゃーん。

 青三郎の身体が台所の天井へと突き刺さる。スカートの裾を冷静に直した蒼は冷蔵庫から牛乳を取り出すと、シリアルと皿を持ってリビングへと向かった。


 藤巻蒼(♀)が藤巻蒼司(♂)だったのは今から三週間前の事……。帰宅した蒼司が冷蔵庫にあったペットボトルのジュースを飲んだ事から、この悲惨な事件は始まった。

 ま、全てはクソ科学者でもある父親のせいなのであるが、以来蒼司は蒼として生きることを余儀なくされてしまい、未だ戻る気配は無い。

 元々、父親の友人と言う奴が自分の息子が突如娘になってしまったとか、その娘が可愛すぎるのと焚きつけてしまったことで、何を勘違いしたのか、たった二日で性転換ジュースを開発してしまい、それを蒼司へと飲ませた事で今へと至る。

 ちなみに性転換した直後、ショックで父親にジャーマン三連発を決めた事で、記憶のどこかがショートしてしまい性転換ジュースの作り方を忘れてしまったらしい。

 今は蒼司の双子の妹、蒼として学校生活を送っているが、一刻も早く元の身体へと戻りたいという願いを神様は未だ叶えるつもりは無いようだ。

 何の因果で性転換しなければいけないのだと蒼は思う。


「そりゃ……、風呂の戸を開けた時に身体を洗っていた裸のお前とばったり出会って、キャーお父さんのエッチーというシチュエーションを体験してみたくてじゃな……」


 天井から落下してくる父親はにべもなく告げる。

 毎度のことながら、物理的衝撃という名のダメージがどこへ行ったのか気になる所だが、それを気にしてしまっては負けだと、蒼はシリアルを食べる手を進めた。


「しかしこの天才科学者、藤巻青三郎の作品はやはり素晴らしいものだな。作り方を忘れてしまったので複製する事は叶わぬが、これでワシの夢であった娘のおっぱいを揉んでみるという夢がかなう!」

「どんな夢叶えようと、無駄な時間費やしてんだよ……」

「ふん、お前にも言ったがお前の性転換された身体は特殊なホルモンに満ちておる。そのホルモンは特定の興奮状態を感じなければ活発化せず、特定の部位に触れることでより活発に活動する事がある。その箇所こそ、お前の中で異常成長したそのおっぱいなのじゃ。更にそのホルモンを活発化させることで元の身体へと戻せる可能性がある……。と、言う事は即ち……」


 青三郎はテーブルの蒼に向かって手をワキワキさせながらダイブする。


「このワシがそのおっぱいを揉んで揉んで揉みしだくしか、方法が無いじゃろ~」

「んなわけあるか!」


 飛び込んでくる父親の攻撃をひらりとかわした蒼は、素早く横へ回りこむと同時に強烈な膝蹴りを父親の鳩尾へと決める。「ぐぶぅ」という妙な声を上げた父親は身体をくの字に折り曲げて瞬間宙へと浮いたのだが、蒼が両手を絡ませて作ったハンマーナックルを父親の背中へと叩き込むとべちゃっという擬音と共に動かなくなった。

 性別が変更してから三週間。

これが藤巻家の日常になりつつある。



「おはよー蒼ッ」


 崩れ伏す父親を無視して登校した蒼が学校へと行く途中、声をかけられた。

 栗色のショートボブが傾げて揺れる。同級生の水無月裕子みなづきゆうこである。

 以前の蒼司の時には寄り付きもせず、同じクラスだったと言う接点しか持ち合わせなかった水無月も今では一緒に席を並べ食事を取る仲になっている。蒼としては違和感バリバリであり、今までマトモな会話すらしなかった級友との対応にどぎまぎとしてしまうのだが、それでもこの藤巻蒼という存在は藤巻蒼司とは違う存在と暗示をかけ、違う人格として接する。


「おはよ、水無月さん……」


 笑顔で手を振って一緒に登校なんて、蒼司の時代には到底考えられない行為だし、あの時代にそんな事をしていたら、怯えて逃げられるに違いない。


「おーおー、蒼ちゃんはお兄さんと違って健気で礼儀正しいねー」


 普通に朝の挨拶をしただけなのだが、水無月はがばっと抱きついて来て蒼の頭をガシガシと撫でた。

 性転換してから骨格が大幅に変化し、身長も今までよりも縮み、女子の中でも小さい部類に入る蒼は尽く可愛がられ、抱きつかれ、頭を撫でられる。

 彼女達が蒼と蒼司が同一人物だと知った時、どんな反応をするのか、そんな心配が蒼の脳裏に駆け巡るが、そんな事を気にも留めない水無月は女の子同士のスキンシップとぎゅーと抱きついて一緒に歩き始める。妙に甘い女の子特有の匂いにドキドキとするが、赤ら顔を隠す様に俯いて歩いていると、ほっぺたをぷにぷにと突かれてしまう。


「あーもー、蒼ちゃん可愛いなぁ。ちっちゃくて可愛いのにおっぱい大きいし、どんだけスキル高いんだって話よ。双子でもこうも雰囲気違うのねぇ……」


 実際は双子ではなく、同一人物なのであるが、その事実は口が裂けても明かす訳にはいかない。

 因みに学校には兄蒼司は、外国に武者修行に出ていて海外で別々に暮らしていた蒼が留学の為に日本に来日したという設定にしてある。


「お兄ちゃんってどんな人でしたか?」


 自分自身の噂を客観的に聞くという状況もかなり奇特なものだと蒼は思うが、興味があるのも事実で、ちらりと水無月の顔を伺うと、水無月は人差し指を下唇に置いたままう~んと唸っている。


「う~ん、蒼には悪いんだけどさ~。ウチのクラスの女子の中でも二極化していたのよねぇ。ほら喧嘩大王だったでしょ。女の子には優しかったけどさ。あれだから私も含めてお兄ちゃん怖いと思ってしまう子がいて、後はちょっとワルそうな所に憧れるとか思う子かなぁ。智子とかそうだったみたいだけどさ……」


 怖いと思われていた事に蒼はちょっとショックを受けた。喧嘩を売られる事はあっても売る事はまずない。買い専門の喧嘩屋蒼司と名は通っていたが、蒼本人が気に入っていた訳ではない。

 女には手を上げないし、きつい顔つきを気にしていたので、なるべく女の子の前では優しくしていたつもりだった。ま、あまり免疫のある環境に居なかったせいでぶっきらぼうな応対に徹していた事が災いしたのかもしれないけども。


「今は総合格闘技の修行でアメリカの猛者達と戦っているんでしょ。好きだねぇ蒼司君も……」


 いえ、あなたに抱きつかれています……とは言いだせず、とりあえず笑ってごまかした。

 三週間前は蒼司だった……と過去形になりつつある。スースーするスカートの感覚、締め付けられるブラジャーの感覚、女の子が平然と抱きついてくる環境。これらが違和感無くなってしまった時、蒼の中の蒼司という存在が昔になってしまう気がして、背筋に怖気が走った。

 一刻も早くホルモンを活性化させて元に戻らなければ、この違和感ある日常が当たり前に、藤巻蒼司が藤巻蒼となるのも時間の問題になってしまう。


 ……それは、皮肉にも青三郎の謀略通りの展開。

 それだけはなんとしてでも止めなければいけない。


 水無月には感づかれない程度の意気込みを見せ、蒼は小さく拳を握り締める。

 おっぱいを揉まれないと興奮状態にならず、ホルモンが活性化しないというこの状況。

 や、高校生男子なら願ったり叶ったりの状況かもしれないのだが、蒼の中の蒼司は硬派を貫いていた性質だけにこのエロコメ的な状況に素直に喜んで順応できない自分が居るのだ。


「今日の体育の着替えで蒼のおっぱい揉み揉みしちゃうよ~」

「ちょ、やめてくださいよ……」


 顔を赤らめて、慌てて両手で胸を隠してしまう。元に戻る為ならば理想的な状況なのだが、どうにも蒼にはそのエロシチュエーションが我慢ならず、一向におっぱいを揉む、揉ませるという行為に移行できないと言う悲しい事実がある。

 このままでは本当に残りの長い人生を藤巻蒼として過さなければならないと考えると、一刻も早く戻りたいと考えるのだが、そのためには誰かにおっぱいを揉まれて興奮状態にならなければ……。

 頭の中が沸騰しそうになって、立ちくらみがしてきた。


「蒼ッ、顔真っ赤だよ。大丈夫~?」

「あまり、人前でおっぱいおっぱい云わないでください。……恥ずかしいです」


 ぎゅっと胸を押さえ、紅潮した顔でうるうると瞳に涙を蓄えて蒼が訴えると、「んふ~!」と鼻息荒く興奮した水無月は、「あ~んもぅ~超カワイイッ!」と叫んで力強くぎゅ~っと抱きついてきた。


 水無月はどうやら日本語が通じないようである。



 校門前には巌と化した柔道着を着こむ大男が立ち尽くしている。

 名は蜂谷虎大はちやこだい、三年柔剣術部に在籍し部長として、門下三十名にも及ぶ部員を従える男であり、通り名・鬼の蜂谷として学校中に知られている。

 柔剣術部とは、全局面的戦闘において死地を脱する武術を磨く事を誉とし、スタイルに拘らずその場に適応した戦い方を用いることなのだが、蜂谷は三週間前に決闘を行い敗れたのだ。

 対戦相手の名は喧嘩屋蒼司こと、二年の藤巻蒼司。苛烈な戦いの末に敗れ病院にベッドの上で悔しさに枕を濡らす日々だったのだが、それでも拳を交えたいと言う気持ちは抑えられず、怪我の癒えた蜂谷は今ここで藤巻蒼司を待ち受ける。

 左手には荒々しい文字で書き殴った挑戦状が握られ、暑苦しいと言った眼差しを一身に受ける最中、藤巻の登校する姿を追うのだが、未だ現れる気配は無い。

 今一度出会った時には、病院のベッドの上で考えていた新技・御柱落としを見舞ってやろうとほくそ笑むのだが……、その不気味に微笑む姿を見て学友が一定の距離を開けて避けている事には気が付いていなかった。


「…………あ」


 妙に可愛らしい声を背中に受け振り返ると、女生徒に抱きつかれて登校する小さな女子が足を止めたまま大きくてクリクリとした瞳で見上げてくる。

 セミロングの黒髪と大きな黒瞳は童顔をより強調させるが、その小さな体格に不釣り合いな危険なおっぱいがより女としてのエロチズムを強調する。免疫の無い蜂谷はごくりと喉を鳴らしながらも、えっちぃ体格の少女を見下ろし、「何か用か?」と凄んだ。


「あ、あの、えっとその……」


 若干顔を赤らめて俯く少女。その仕草の初々しさに可愛いと思ってしまう自分を蜂谷は必死に抑制するのだが、もじもじと身体を揺らす少女を見るたびに抱きしめたくなる衝動に刈られている。


「……あ、蒼、柔剣術部の蜂谷先輩だよ。――え、でも確か三週間前に蒼司くんと決闘して負けたって噂があった筈だけど……」

「そうだ。俺は一度、藤巻蒼司と決闘を行い敗れた。だから今一度決闘を挑む所存だ」


 えっちぃ少女に抱きついていた女生徒は下唇に人差し指を押し当て「う~ん」と唸る。


「……お兄ちゃん、いえ、藤巻蒼司はアメリカに旅立ったので、決闘出来ないと思います」


 顔を赤らめて恥ずかしそうに語るえっちぃ少女の一言に、蜂谷は動きをピタリと止めた。


「What?」

「何故、英語?」

「そんなことはどうでもいい。今何と答えた、豊満な乳を持つ少女ッ!」


 その一言にえっちぃ少女は慌てて胸元を隠して、身を反らせて体のラインを見せないようにする。

 や、その動きこそが色気を振りまいているのだが、そんな事に構っていられない蜂谷はのしのしと歩み寄るとえっちぃ少女の肩を掴んで揺らす。


「喧嘩屋蒼司がアメリカに旅立ったと聞いたが?」

「はい。お兄ちゃんはアメリカで総合格闘技の修業をするそうです」


 肩を揺らす度に小さな頭と制服に窮屈そうに納まるおっぱいがぷるぷると揺れる。


「なん……、だと……?」


 突き付けられた現実を前に蜂谷はえっちぃ少女の拘束を解き、天を見上げて頭を抱えた。


「この三週間痛みに耐えながら、ずっとこの機会を待ち望んでいたと言うのに、奴はこの俺の気持ちを無視してアメリカに飛んだと言うのか。何たる屈辱、何たる侮辱。この決闘に臨んだ心をどこにぶつければいいと言うのだ!」

「や、そう言われましても……」

「む、貴様。先程藤巻蒼司の事を兄と言っていたな」

「そうですよ~。この蒼ちゃんは蒼司くんの双子の妹なんですよ~」


 蜂谷は再びえっちぃ少女の肩を掴むとその顔をじぃっと見入る。


「確かに……。どこか似ている部分もあるな、いや似ていない部分の方が多いが」

「あまり……、見ないでください……」


 恥ずかしそうに顔を背ける仕草に、蜂谷は思わず息を呑んだ。

 同時に小さく口の端を歪める。


「藤巻蒼司の妹。……この俺と勝負しろ!」


 その一言に二人は状況が飲み込めないといった表情を見せる。

 正直、蜂谷自身も何故そんな言葉が出て来たのか理解出来なかったのだが、身体が疼き己の格闘家としての直感がこのえっちぃ少女との対決を促す。

 何故かはわからないが、このえっちぃ少女からはエロオーラと共に喧嘩屋蒼司を彷彿とさせる武才のオーラをひしひしと蜂谷は感じていたからだ。

 今戦わなければ、永久に後悔する。

 そんな直感を蜂谷は気取り、悠然と立ち塞がり挑戦状を渡す。

 挑戦状を手にしたえっちぃ少女の目つきが変わったのと、空気がピリっとしたものに変わったのはほぼ同時であり、蜂谷は後悔無しと拳を握り締める。


「すみません水無月さん。荷物を少々預かって頂けますか?」

「へ? あぁ、うん。でもいいの?」


 促されるままに鞄を受け取った女生徒は蜂谷を見上げて小さく呻く。


「蒼司くんと互角に渡り合ったような相手だよ……。それに女の子だからって手加減するような人とは思えないけど……」

「大丈夫です。私は藤巻蒼ですから……」


 笑顔でそう告げ、挑戦状を胸の谷間へとしまうと、蜂谷を見上げゆっくりと蜂谷との間合いを測るように歩き始める。


「今一度自己紹介する。蜂谷虎大、三年。柔剣術部主将だ!」

「藤巻蒼。ただの女子高生です……」


 生徒が登校する最中、異質なオーラを纏った二人は円を描くように歩き、双方間合いを付かず離れずの距離で保ち機会を伺う。

 柔剣術部主将とロリ巨乳少女の決闘。そのアンバランスな組み合わせにたちどころにギャラリーは増えて、いつのまにか黒山の人だかりが出来上がっていた。

 蜂谷は羆のように両手を突き上げた構え、対して凛とした表情を崩さない蒼は軽く拳を握り顎の前で構える。ピリピリとした空気が周囲に張りつめ、ゆっくりと円を縮めていく動きを見て息を詰まらせた。

 先制は蜂谷から開始される。怒号の様な声を張り上げた直後、組技で勝負を仕掛けるために一気に間合いを詰めて右手が蒼の襟首を取ろうとするが、軽やかな猫のようにステップを繰り出す蒼はその一撃を払い落して逆に懐へと潜り込む。

 ステップインと同時に身体を反らし、右拳を沈める。

 蒼司同様の潜りこみからボディと察知した蜂谷は素早く右へと身体を傾けると同時に右足で思い切り地面を踏みしめ、強引な横っ腹へのタックルへと移行する。

 体重差のある状況でのこのタックルが決まれば勝負は一撃で決まる。

 ぶちかまし気味のタックルを視界で捉えるよりも先に耳で察知した蒼は、蜂谷の踏み込みと同時に右足を踏みこみ、向かってくる蜂谷の巨体の上を転がるように回避した。

 寸前でカウンターの一撃をかわされた蜂谷にしてみれば、蒼が突如消えた錯覚を引き起こす。

 実際にはトンボ返り気味に向かってくる蜂谷の背中を転がるように回避しただけなのだが、アクションスター顔負けのアクロバットな攻防に観客からの歓声も大きい。

 互いに一歩間合いを開けて、再び向き合いゆっくりと距離を縮めていく。

 その表情からは感情が伺えず、凛とした表情の蒼の瞳は巨躯の隙間を探すために忙しなく動いていた。

 対して、蜂谷の頬に一筋の汗が流れる。

 ――――強い。

 直感を信じて挑んだ女子は、目的としていた喧嘩屋以上の技術を持ち合わせている。

 力で攻め抜ければ柔の技術に翻弄される。体格有利と慢心してはならぬと、蜂谷はタックルの構えに変える。これだけで蒼のガードは下がる。

 このガードを跳ね上げてこその勝機。新技・御柱落としが決まる筈だと、蜂谷は一気に距離を詰めて胴タックルのモーションを見せるとギャラリーが一気に湧いた。

 女の子に抱きつくはおろか、そのまま巨躯を受ければ押し倒される事もままならない。

 そんな技を敢行した蜂谷に「羨ましいぞ~」「死ね、変態!」などの罵声が浴びせられるが、打ち倒す事だけしか頭にない蜂谷の耳には届かず、タックルは蒼の胴部を貫くが如く炸裂する。

 蒼も只茫然と事の顛末を見ていた訳ではない。すでに構えがレスリング選手の様に低い体勢に移っていた事で相手がタックルを敢行する事を予期していた蒼は蜂谷が胴タックルを敢行すると同時にバックステップを取りタックル切りのモーションに移っていた。タイミングはぴたりと合う。このまま上手くタックル切りが決まれば蜂谷の巨躯を地面に張り付け、顔面に向かってサッカーボールキックを決めるだけで勝負は決まる。

 だが、タックルに対応する事を予期していたのは蒼だけではない。

 一気に距離を詰めて大顎を広げた獣の如く両腕を蒼の胴部に潜らせた蜂谷は寸前、その右足を大きく踏み込ませて強烈な胴タックルに急ブレーキをかける。

 唐突な奇策に対応の出来ない蒼は咄嗟にクロスアームガードで防御に移るが、密着距離まで詰めた蜂谷は地面に触れるほどの距離から掌を真上へと突きあげる。

 それは下段から攻め、突如止まった事で敵のガードを誘い、そのガードを真下から払いのける戦略だった。だが、それは思いもしないセクハラ攻撃へと発展する。

 蒼の胸は結構大きい。それは制服越しにも見栄えするもので、立体的にその身体のラインがはっきりとわかるほどブラウスからはち切れんばかりに収まっている。

 下から上へ……、掌を突き上げること即ち、蒼の肘を突き上げてガードを弾く効果と同時に突き出たおっぱいを下から上へとなぞる行為へと発展する。

 ぷるん……と。ガードを弾かれ、両腕を突き上げられた蒼は胸をなぞられた瞬間、怖気が背筋を走りぬけて行った。

 柔い感触を掌に感じた蜂谷は何事か理解出来ない。だがこれは組技への好機とそのまま両腕を伸ばして蒼の制服の襟首を掴もうとした。

 戦闘中の事故とは言え、胸を触られた事で蒼の身体は接近に対する拒否反応を示す。

 掴みかかろうと伸ばした手に恐怖を覚え、僅かに身をよじってしまった。

 それが僅かに掴む手の軌道を反らし、蜂谷は蒼のはちきれんばかりのおっぱいを鷲掴みにする。

 全男子の願望を一身に受けるような行為……。Fカップ美少女のおっぱいを鷲掴み。

 その瞬間、世界の時が止まった。

 柔い感触が掌を伝い、蜂谷の脳髄に悦楽を運ぶ。大きなマシュマロに両手を包まれているような感覚にもっと揉みたい、揉みしだきたいという本能が働くが、目の前の少女の今にも泣き崩れそうな表情に罪悪感が蜂谷の身体を駆け巡り、蒼のおっぱいを鷲掴みにしたまま固まってしまう。


「いやっ……」


 蜂谷の手を払って両手でおっぱいを押さえて身体を反らせる蒼。

 その顔は真っ赤になって涙を蓄えた瞳で蜂谷を睨みつけた。


「これが、蜂谷先輩の戦い方なんですか……」

「や、違う。今のは違う! 俺は組技を……」


 おっぱいを揉んだままのモーションで固まった蜂谷は睨みつける蒼に対して、指先をワキワキさせながら慌てて弁解した。

 だが、周囲の視線が痛い。男子生徒は一様に表情を無くし、一同動きを揃えて首を掻っ切るポーズをして見せる。

 それは即ち残酷な処刑宣告。

 集団が一つとなって蜂谷に襲いかかった。口々に「死ね変態がァ」や「羨ましすぎるぞ」など叫んでいるが、その声も喧騒の中へとかき消されていく。

 只、「違う。誤解だッ、信じてくれ。俺は変態ではない。例え変態だったとしてもそれは変態と言う名の紳士だと言う事だァッ!」などと叫ぶ声がいつまでも聞こえていた。



「ハァ…………」


 教室へとようやく到着し、椅子に腰かけた蒼はおっぱいを机に乗せたまま突っ伏してしまう。

 重いので肩がこり、この方が楽なのだ。

 性転換化してから三週間……。今日ほど恥ずかしい思いをした事は無い。

 ただでさえ大きくて目立つおっぱいで、他人の目を気にして生きてきたと言うのに、大衆の面前で揉みしだくとは一体どういう了見なのだろうかと、蒼は思う。

 同時に自分の感覚の違和感を覚え始めていた。

 感覚の女性化……といえばいいのだろうか。今までは肉体の変化だけで心は蒼司のままだと思い込んでいたが、今朝の闘いの中で確実に女性の蒼の部分が目覚め始めていた。

 生理的嫌悪を抱き、おっぱいを守ろうと女性的衝動防御を取る。確実に心が女性化し始めている証拠である。ここはいち早く戻る算段を付けなければ本当に藤巻蒼になってしまうかもしれないと気持ちが高ぶるがどうすればいいのかの答えが見つからず、机に突っ伏したまま唸ってしまう。

 周りの女子は校門で登校早々セクハラをされた事のショックでああなったのだろう、あえてあまり触れぬように蒼との距離を取っていた。


「どうやら、未だ胸を揉まれても興奮状態には至らぬようじゃな……」


 聞き覚えのある声がやや曇った音ながら胸元から響いてくる。

 嫌な予感がした蒼はそっと制服のブラウスに手を伸ばすと、谷間に挟んだ挑戦状の隣、厳密に言えばブラジャーの隙間に小さいチップが挟まれていた。

 蒼は他の人に見られないようにチップと挑戦状を取り、席を立つと軽やかな足取りで教室を飛び出し、その場所の前で一度足を止めた。

 そして気合を入れて扉を開け中へと入ると、一番奥の個室へと飛び込んで鍵を閉める。


「ほぉ……、女子トイレに入れるようになったのか。もう立派な女の子じゃな」

「このナリで男子トイレに入ったらそれこそ問題だろうが……。んで、何でオレのブラジャーに通信機を仕込んでいたんだ?」

「お前を通して女子高生のキャッキャウフフ的な会話を盗聴するために決まっておるだろう」


 握り潰した挑戦共々便器の中へと流し捨ててしまおうかと考えるが、小さなため息をついた蒼はぐっと握りこんだ通信機を前に「――最近、心が女性化している」と漏らす。


「今日の晩御飯はお赤飯じゃな!」

「……違ぇよ。ぶっ殺すぞ。このハゲ!」


 久々に芽生えた殺意。今目の前に父親がいたなら蒼は確実にジャーマンを決め続けていた。

 君が泣くまで、オレはジャーマンをやめないッ……という奴だ。


「この三週間……肉体の変化に伴い、精神も徐々に女性化していると言う訳か」

「このままだと、おっぱいの大きな女の子として生きていかなきゃいけなくなるんだよ」

「何か不満でもあるのか?」

「あるよ……。大アリなんだよ。誰のせいでこうなってんだと思ってんだ、コラァ!」

「度し難い……。何を不満に思う。今の社会どちらかと言えば女性の方が生きやすい世の中じゃぞ。更に男性受けの良いロリ巨乳と言うスキルまで持ち合わせて、まだ不満だと申すか」

「違げぇよ。オレは女の子として生きたくはねぇんだよ。さっさと元の男の身体に戻りたいだけ。わかるか? 別にオレはこの女の身体に興味は無ぇの」

「……安心しろ。ワシは興味津々じゃッ」

「いっぺん死んでこいッ!」


 怒りに任せて通信機をぐしゃっと握り潰した。

 ダメだ。相談した相手は肉親だが、それ故にダメだった。

 もう頼れる人は誰一人としていない。元の身体に戻るには蒼自身の力で頑張るしかない。

 戻る可能性は体内にあるホルモンを活性化させる事。その為には興奮状態でなければホルモンは活性化しない。そして、そのホルモンが大量にある場所がおっぱい。

 ……つまり、おっぱいを揉まれて興奮しない限り、ホルモンが活性化しないと言う事。

 先ほど蜂谷に揉まれた時は興奮どころか生理的嫌悪を覚えたので、男におっぱいを揉まれるのはダメなのかもしれない。ちなみに蒼自身が揉んでみた事もあるのだが、ふわふわの感触は覚えたが、興奮状態には至らなかった。

 個室から出た蒼はゴミ箱に引き裂いた挑戦状と握り潰した通信機を捨てて、女子トイレから出た。

 今、解決しなければいけない問題は、蒼自身がどうすれば興奮するのかと言う事だ。

 教室へと戻る途中、朝練あがりなのか体操服姿の女子とすれ違う。

 その瞬間、蒼の脳裏に名案が思い浮かんだ。

 おっぱいを揉まれても違和感無い環境。更に興奮してしまう状況。それを鑑みて出てきた答えは次の時間に行われる体育の前の着替えだと判断した。


「……よし、揉まれて見るか!」


 頼るものがいない分、分の悪い賭けでも賭けなければならない。

 それで効果があったのなら儲けものだ。

 蒼はおっぱいを揺らしながら教室へと戻る事にした。



 とはいえ、硬派を貫き通してきた蒼司が唐突に女子と混ざってお着替えのイベントなんてそう簡単に慣れる筈もなく、当初トイレでこっそり着替えようとした所から考えれば一緒の更衣室で着替えているだけでも十分な進歩なのだが、今回はそれでは収まらない。

 今回の蒼の目的は別の進んだ所にある。


「今日の体育なにするんだっけー?」

「バスケだよー。あ、髪ゴム貸してよ~。忘れちゃったんだよね」

「きゃ~、ゆっこの下着超派手なんですけどー」


 背後の生々しい会話に蒼は先程からロッカーとにらめっこをしたままピクリとも動かない。

 予想はしていたが、こうも生々しい環境では怖気づく。

 顔は紅潮して、振り返る事すらためらってしまう。

 何故女子はあんなにも甘い匂いを振りまいているのだろうかと、蒼は思うが、今は自分も女なんだと納得し、ふにふにと巨乳を触って自覚すると、制服のブラウスのボタンを外して振り返る。

 異性に興味バリバリの男子高校生ならここはパラダイスなのかもしれない。

 制服を脱ぎかけの、体操服を着ている途中の女子達がそこらじゅうにいて、キャッキャウフフ的な会話を繰り広げているのだ。


「蒼~、何してんの~? 早く着替えなよ~って、うわっ!」


 ブラウスのボタンを全て外し、隙間からブラジャーがちらりと見える限りなくエロい状況の最中、着替え終わった水無月は着替え途中の蒼を見て驚いた表情のまま飛び退いた。


「エ、エロっ娘がいる! 何そのエロ状況は! 何なのその色気、何なのそのおっぱいッ!」

「どれどれ~? うわっ、エロッ」

「男子だったらこれ見て死んじゃうよ~」

「え、ちょっ、そんなに見ないでください」


 顔を真っ赤にした蒼は慌てて脱ぎかけのブラウスの隙間を閉じた。

 体をよじらせてブラウスをキュッと締め付けるたびに身体のラインが如実に現れ、ぴっちりとしたブラウスからおおきなおっぱいのラインがわかってしまうのだが、女子達の好奇な視線に耐えきれず蒼は再びロッカーとにらめっこを続けてしまう。


「ゴメンゴメン。別にバカにしているとかじゃないのよ~」

「どっちかといえば羨ましぃ~の類かな?」

「何で同い年の女の子なのに、こうも差が出るのかとか思うわよねぇ……」


 色々と意見が出ているようだが、どちらにしても蒼としてはあまり嬉しい意見ではない。

 視線が気になって胸がドキドキしている。


「お、おっぱい大きくても不便なだけだよ。下がよく見えないし、肩は凝るし……」


 ロッカーとにらめっこをしたまま、紅潮する頬を軽くなぞって蒼は応えた。

 ここから変えていかなくてはいけないと判断したからだ。

 予想通り好機の目に晒されている事で心臓がドキドキして興奮状態になっている。

 蜂谷の時のような生理的嫌悪もない。

 ブラウスを脱ぎ、その大きなおっぱいをブラジャー越しに披露する。

 小さな体型にアンバランスな小玉スイカのようなおっぱいが並んでいる様を見て、好奇の視線で捉えていた女子達は一同目を疑った。

 同性にも関わらず、ここまで違う存在が居てもいいのかという、軽い猜疑心が彼女達に働く。

 色白の肌と整えられた肉付き、くびれた腰、そして授乳機能以上の破壊力を持つおっぱい。

 否、これは兵器なのだと彼女達は無言の中で自覚した。

 正に連邦の白い悪魔がここに居る。

 言葉を詰まらせた彼女達はゾンビのような動きで蒼のおっぱいへと手を伸ばす。


「ひうっ!」


 そのあまりの不気味さに、思わず両手でおっぱいを隠してしまった。


「や、ダメだわ。男の子なら仕方ないなって思ってたけど、このおっぱいは魔物ね。見ていたら触りたくなるもん。揉みたくなるもん。揉みしだきたくなるもん。押し倒したくなるもん!」

「な、何する気ですか!」


 彼女たちの視線が怖い。あれは狩りをする獣の目だ。

 慌てて振り返り体操服を取って服の袖を通そうとすると、その手を押さえられてしまった。


「ちょっと……、ほんのちょっとだけだからさ……」


 ぎゅ~っと握り締める手が思いのほか痛い。

 どうやったらこんな力が出てくるのだろうかと蒼は思うが、妙に真剣になった彼女たちの表情が怖くて言葉が喉から先に出てこなくなっていた。


「大丈夫だよ~、私達女の子同士だからさ~」

「や、やめてください~」


 蒼は嫌な気配を感じて逃げ出そうとするが、即座に羽交い締めにされて、着ようとしていた体操服を床へと捨てられ、スカートのホックを外されて、蒼は下着一丁の姿にさせられる。

 別にいじめを受けている訳ではないのだが、皆一様に表情がおふざけという雰囲気ではない。

 興奮するのは蒼の筈だったのだが、その色気に惑わされ周りの女子の方が飲み込まれてしまったらしく、蒼が顔を真っ赤にしてバタバタと暴れて拘束から逃れようとするが、羽交い締めにされた状況ではまともに動く事すらままならず、床へと落ちたプリーツスカートを逆さになぞるように白く瑞々しい内腿を人差し指でなぞられて、蒼は思わず甘い声で鳴いてしまった。


「へ~、ボクサーショーツ履いているんだ~。最近流行っているもんねぇ。可愛いなぁ」

「あの……、変な気分になっちゃうから内腿をなぞらないでください」

「え? こんな風になぞっちゃダメって事なのかな?」


 泣きそうになりながら蒼が訴える中、八重歯を見せ不敵な笑みを浮かべる女子はショーツの下から円を描くように白い柔肌をなぞる。同時に蒼がキュッと内腿に力を入れると、別の手が蒼の無駄な脂肪が付いていない腹部へと伸び、すべすべの柔肌をなぞっていく。


「可愛いなぁ、蒼ちゃん可愛いなぁ……」


 呟く水無月は細く長い指で右のおっぱいをガシッと掴むと、小指から順々に力を入れて揉んでいく。


「ダメ……ですよぉ……、やめて……ください……」


 口から零れ出そうな甘い吐息を必死に噛んで堪えた蒼の表情を見て、水無月達はのぼせた表情で蒼の身体を貪り始めた。


「こんなの……ダメ……だよぉ」


 心はドキドキどころじゃない。胸を揉みしだいて、水無月は恍惚に浸った表情を浮かべる。

 時折「や~らか~い、や~らか~い……」と虚ろな表情で呟いているので「ふぇぇ」と蒼が小さく悲鳴あげると、羽交い締めにされて露になった脇に目掛けてふぅーと吐息を吹きかけられた。

 唐突な攻撃にピクンと体が反応し、甘い声が出てしまう。その声を聞き逃さなかった少女達は多足虫の如く蒼の白い肢体へ指を這わせ、全身をなぞってその反応を楽しみ始めた。


「さぁさぁ……蒼も我慢しちゃダメだよォ……。気持ち良いんでしょ」

「堕ちちゃいなよ。自分の感覚に素直になっちゃいなよォ」

「ダメぇぇぇッ!」


 必死に首を振って自制を促す。このままでは取り返しのつかないところ、明確には性的ないたずらまでいってしまうかもしれない。

 それだけは……。それだけは止めなければ……。

 例え男子高校生ならハーレムの状況は願ったり叶ったりだとか云われても、蒼にしてみれば望んだ状況でも無ければ予期せぬ責められた状況に思考回路がショート寸前なのだ。

 その手が蒼のボクサーショーツへと伸びた時、蒼の表情は恐怖に一気に青ざめた。


「そ、そこはダメぇ……。まだ……誰にも触れられてないの……」

「おぅおぅ初々しい反応だねぇ」

「気持ち良くなりたいんでしょ」


 そう言われ、蒼の口に細く長い人差し指と中指が突っ込まれ、口腔内を唾液と混ざった指が舌と踊りながら内側をなぞっていく。


「ら、らめぇぇぇぇぇっ」


 ボクサーショーツに触れた指が秘部へと潜り込む最中、唐突に更衣室内にチャイムが響き渡った。

 授業開始の合図。

 同時に蒼を拘束していた水無月達は我に返ったように正気に戻り、頭を押さえながら「あれ、何でこんなことしてたんだっけ?」と口々に告げて、更衣室から出て行く。

 へたりと床に座り込んだ蒼は両腕で胸を隠しながら、一人更衣室の中で荒い呼吸を続けていた。

 興奮したかもしれないが、あんな状況を続ける勇気はとてもない。

 嗚咽を堪え、鼻をすすった蒼は床に落ちた体操服を着直すと、ホットパンツを履いてトボトボと更衣室を出ることにした。

 女性があんなにも怖い存在だとは……。そんな心に深い傷を残す一幕だった。



 バスケットボールに勤しむ同級を只茫然とコート端に体育座りで眺める蒼は先程から数え切れないほどのため息を漏らしながら、これからの事を考えていた。

 作戦は失敗した。心はドキドキしたけど、おっぱいを揉まれるどころじゃない事までされてしまった体験は蒼の心にトラウマとなって深く残ってしまっている。

 あんな思いをするぐらいなら、もう女の子のままでもいいじゃないかとも思えるほどに心が疲弊してボロボロになって、転がってきたバスケットボールを抱えて試合を見学する。


「ふ……、どうやら己の体質を実感できたようじゃな……」


 聞き覚えのある声にブッと吹き出してしまうが、この体育館の中に本人の姿は見当たらない。

 ま、男子禁制の空間にいたらそれはそれで目立つのだが、父親の姿は体育館の中に発見出来ず、蒼は体育座りのままキョロキョロと周囲を探るのだが、一向に声の主は発見できない。


「コラ、キョロキョロするな。変に怪しまれるじゃろうが。今ワシはこの体育館のどこかへと姿をカモフラージュさせてお前を見張っておるのじゃ。今お前の持つバスケットボールに新しい通信機を付けておいた。ヘアピンに似せておいたのでそれを装着するが良い」


 ……いつからあの人は忍者みたいな活動をしていたのだろうかと、蒼は疑問に思うが、それでも情報のほしい蒼は溝の隙間に付いていたヘアピンを取り出すと髪の毛に装着する。

 そのヘアピンは骨振動を通して通信しているなどとか、長々と自らの発明品の自慢を並べていたので、蒼は流す様に無視をして、その話が終わるのを待つ。


「それで……、オレの体質ってなんだよ……」


 白熱する試合のおかげで、ボソボソと通話をしていてもその言葉を聞き取られる事は無い。


「お前の中の特殊ホルモンはな、興奮状態になるとより活性化する。同時に汗腺を通して体外へと発散され、そのホルモンを嗅いだ人間はある特定の状態になる事が研究で分かった……」

「なんだよ、その状態って」


 んっんっと咳払い。同時にカットミスをしたボールが蒼の側へと飛んできて、蒼は自分が抱いていたボールを投げ渡す。


「そのホルモンは同性、異性を問わずお前に魅了される究極のホルモン物質なんじゃ。つまり興奮状態でおっぱいを揉まれること自体、お前は周りの人間をメロメロにしていると言う事になる」

「な……、バカな……」

「究極のフェロモン物質とも言えるな。ま、効果は十分程度なので意味が無いと言えばそうなのじゃが」


 水無月達が途中からおかしな事になった理由が判明した。自分自身から発せられたホルモン物質を嗅いだだけで、のぼせた表情になりあんな情事を引き起こした。

 それは逆に言えば、この手法では揉まれている最中に何か大切な物を失う可能性があると言う事……。


「どうすんだよ。興奮状態でおっぱい揉まれたら、ホルモンがでて周りの人間はメロメロになるっていうんなら、元に戻るどころの騒ぎじゃなくなるだろ……」

「落ち着け。まだ研究は始めたばかりじゃ。これから他の解決方法だってあるわい」

「も~、なんかどうでも良くなってきたよ……」


 希望がボロボロに打ち砕かれて、蒼は自暴自棄気味になってしまう。


「このまま藤巻蒼として生きて、格好良い彼氏作って、結婚して子供産んで育てるっていう人生も悪くは無いかもな……」

「ちょっ、お父さんは彼氏なんて許しませんよ。結婚なんてさせませんからね」

「……何様のつもりだよ!」


 ため息交じりに適当に突っ込み、蒼は体育館にゴロンと横になって身体を捻った。

 ストレッチをしていると思わせていれば、教師に見つかっても怒られないのでそのまま身体を伸ばして天井を見上げる。

 女として生まれ変わって三週間。最初は異なる性別にドキドキもしたのだが、身体に馴染んで以来はおっぱいが重くて肩が凝る以外の事は、特に不便と感じることは無い。

 身体と心が次第に藤巻蒼司から藤巻蒼へと変わっていく。

 もう、正直どちらがいいのかわからない……。

 それが今の蒼の正直な気持ちだった。

 ふと設置された窓枠から外の景色を見上げて、雲が散り散りになった空を呆けた表情で眺めながら体育館の側にある校舎の屋上へと視線を移す。普段は立ち入り禁止になっているので人の出入りが無い場所……、何気なく視線をスライドさせて、見覚えのあるプリーツスカートを捉えて、蒼は慌てて記憶の巻き戻しを始める。


「……え?」

「どうした?」

「あ、いや……、女の子が校舎の屋上の先に立ってる……」


 父親に告げながら起き上がった蒼は体育館の鉄扉を開けて、校舎の屋上を確認する。

 体育館の窓からでははっきりと確認できなかった姿が今確実に見て取れた。

 屋上の縁に乗り上げた女生徒が青ざめた表情で立ち尽くしている。

 あと一歩でも前へ踏み出したら、確実に落下する位置。

 それは即ち……飛び降り自殺をしようとしているという事になる。

 それを確認した蒼はそのまま校舎の方角へと駆けて行った。


「おいッ、何をする気じゃ」

「決まってんだろ。自殺を止める!」


 唐突に飛び出した蒼に生徒達は不思議な顔つきで蒼の後を視線で追い掛けるが、未だ事の重大さには気が付いていなかった。



 校舎へと入れば、四階まで階段を駆け上がらなければならない。蒼司時代の筋力が未だ残っているとはいえ、おっぱいという脂肪の塊がこの時ほど邪魔に思えた時は無かった。


「お前が行ったとて何になる。早々に職員室に行けばよいだろうが」

「説明している間に飛び降りちまったらどうすんだよ。今やるべきは止める事だけだ」


 はぁはぁ……と荒い息遣いを交えながら、蒼は一気に階段を駆け上っていく。

 心臓はドキドキして興奮状態。このままおっぱいを揉まれてしまうと周囲に魅了ホルモンをまき散らして自殺を止めるどころの騒ぎではなくなるかもしれない。

 ぎゅっと体操服を握りしめ、三階の階段を駆け上がっていく。

 四階に辿り着いた時、普段施錠されている鍵がハンマーで打ち壊されている現場を発見した。思いのほかあの女生徒はアグレッシブな性格なのかもしれない。それは逆に言えばそれだけ強い意志で飛び降り自殺を決意していると言う事になる。

 息を整え、扉をゆっくりと押し開けた。

 光が虹彩の中へと飛び込み、思わず目を閉じてしまう。

 清々しいほどの青空と心地の良い風。ゴロンと横になって眠ればさぞかし気持ちのいい昼寝が出来るのかもしれない。最近胸の圧迫感を覚えて横になって眠る技術を覚えたばかりの蒼はそのまま屋上で横になりたいと言う気持ちを抑え、先程の少女を探した。


「誰ですか、アナタはッ!」


 拒絶するような叫び声にすぐに本人を発見する。ウェーブのかかった栗色のロングに人形の様な細身の少女。上級生や同級に見覚えの無い顔だと判断した蒼は「貴方、一年生?」と尋ねた。


「……はい」


 上靴をはいたまま屋上の縁へと立ち尽くす少女。僅かでも突風が吹けばその華奢な身体は木の葉のように屋上から飛び出してしまいそうで、蒼は小さく喉を鳴らしながらも笑顔を取り繕う。


「私、二年の藤巻蒼……。貴方は?」

「……一年の阿仁谷アリス《あにや》です」


 強張った表情が僅かに解れ、アリスは頬を赤らめる。片方の瞳はくすんだグレーの色をしていて、彫りの深い顔立ちと透き通るような白い肌に蒼はアリスの経緯を悟る。


「そこ、風が気持ちよさそうだけど、足場が悪いから危ないよ」

「いいんです。足場が悪かろうとなかろうと、私にはもう関係ないんです」


 表情を暗くしたアリスは前を向き、虚ろな表情で立ち尽くした。

 小さくため息をついた蒼は胸を押さえたまま、屋上の縁へと近づき、アリスからやや離れた位置でよいしょっとよじ登っていく。

 実は蒼は限りなく高所恐怖症なのだが、アリスの事を助けたくて必死になってよじ登った。

 ……そして後悔する。


「ちょっ、思ったよりも高ッ……。ダメ……、私、やっぱ高い所ダメ……」


 立ち上がろうと背筋を伸ばしてみたが、真下を見た瞬間身が竦んで動けなくなる。

 予想外を通り越して、怖すぎる。

 下手に動く事も出来ず、蒼は昆虫のように縁にへばりついてアリスを見た。


「え、何でこんな所で平然と立っていられるかな?」

「や、このくらいの高さなら普通でしょう。私の住んでいるマンション二十階建てですよ」

「それ無理。私ベランダ出られない。あと足が固まって降りられないんですけど……」

「何で登ったんですかッ!」


 間抜けな状況にアリスは思わず突っ込んでしまった。

 小さくため息をつき、腰を下ろすと、小さな手を差し伸べる。

 蒼はその手にすがるようにずりずりと身体をすり寄せて、小さな手を握り締めた。


「……私の自殺を止めようとしたんですか?」

「あれ? わかった? 全然説得できなかったけどね……」

「さっき体育館から飛び出してきたのをここから見ていましたから。本当は先輩がここに到着するまでに飛び降りてやろうと思ったんです。……でも、足が竦んで、動けなくなって」


 アリスは腰掛けた体勢のまま足をぷらぷらさせているが、蒼には到底真似できるものでも無く、びくびくとしながらアリスの手をぎゅっと握りしめる。

 我ながら情けないとも蒼は思うが、怖いものは仕方ない。真下を覗く度に心臓がドキドキして気を失いそうになってしまい、「ひっ」と小さく悲鳴を上げて視線を縁へと戻した。


「先輩は飛び降りたくないんですから、さっさと内側へずり落ちればいいですよ」

「でも、そうしたら……」

「勿論私は外へと落ちますけどね」


 淡々と物語るアリスに決意の固さを蒼は知る。

 怖いと感じて竦む身を必死に鞭打ち、ぺたんと座りこんだ形で背筋を伸ばした蒼は両手を拡げ、笑みを浮かべてアリスに向かって「……おいで」告げた。

 素直な笑みではない。恐怖で顔が引きつり、青ざめていたのかもしれない。

 それでも無言のアリスはにじり寄ってぽんと小さな頭を蒼のおっぱいへと預けた。


「私は、死んじゃいけない、きっと生きていれば人生はいい事があるなんて取って付けたような言葉を並べる事が出来ないから、そんな説得はしたくないんだけどさ。あの時、貴方を発見してここに駆けつけた事は後悔したくないから……。自分の人生を後悔したくないから今ここに居るの」


 抱きよせた頭を優しく撫でてあげると、アリスの強張った表情が次第に解れ、ぽたぽたと涙が零れ落ちていく。


「先輩、私ッ……」


 告げようとした唇を蒼は人差し指で押し当てる。


「辛い事なら言わなくてもいいよ。言わなくても私は側に居てあげるから、ね」


 嗚咽混じりに肩を揺らすアリスをギュッと力強く抱きしめると、アリスはおっぱいに包まれながら声を張り上げて泣いた。

 彼女にどんな事情があって泣いているのか、蒼は知らない。

 知る必要があるのだろうか。

 優しく頭を撫で、背中を撫でてあげる。

 只、彼女を助けてあげたいから、側に居てあげる。

 偽善的な言葉もかけてあげられないし、上辺だけの同情もしてあげられないけど……。


「今はあなたの味方でいてあげられるよ……」


 嗚咽混ざった声でアリスは何かを告げるが、言葉にはならず蒼は優しい笑みを浮かべてポンポンと頭を撫でた。

 アリスは蒼のおっぱいに包まれたまま、ぎゅっと力強くおっぱいを揉んでしまう。

 それは不意の衝動だったのかもしれない。自殺を決意するまでに冷え切った心に、ぬくもりを与えてくれた蒼の感触を確かめたいという本能だったのかもしれない。

 屋上の縁に居ると言う緊張感。すでに心臓はドキドキした状況。

 蒼は揉まれて甘い声で泣いてしまう。

 ……それは即ち、蒼の魅了ホルモンが発散されるスイッチだと言う事。

 小さくて細い指がおっぱいを揉みしごく度に甘い声が漏れ出てしまうが、その度におっぱいに包まれているアリスの表情が蕩けていくことを蒼は見逃さなかった。


「しまった!」

「お姉さま、私、お姉さまともっと深い世界へ……行きたい」

「お姉さまァッ?」


 状況は限りなく百合の世界へと邁進する。当然、蒼はそっちの世界には興味は無い。

 トロ~ンとした虚ろな眼差しでひしっと掴んだアリスは憂いた瞳で蒼を見つめ、唇を近づけてくる。頭をガシッと押さえた蒼は引きつった笑みを浮かべて「とりあえず降りようか」と告げてべったりと纏わり付くアリスを引き離し、屋上のコンクリートへと飛び移る。

 高所恐怖症の恐怖なんて、今ある危機感に比べたら大した事でも無い。

 弱点は克服したのだが、それ以上の恐怖が忍び寄る現状に、目的は済ませたから責任は無いと逃げ出そうとすると、背後から「お姉さま~」と叫ぶ声が聞こえ、振り返ると屋上の縁から飛びついてくるアリスが蒼の視界に飛び込んできた。

 蒼の身体は飛来してくるアリスの身体を抱き寄せながら地面を転がる。

 それはアリスが蒼を押し倒したような形になり、馬乗りになったアリスはトロ~ンと蕩けた表情のままおっぱいへと顔を埋め、そのまま舌先が身体をなぞり顎下に滲んだ汗を小さなピンク色の舌がすくう様に舐め取り、アリスの小さな口が首筋を甘噛みする。

 蒼は甘い声を漏らしながら必死に抵抗してもがくのだが、魅了のホルモンの虜になったアリスには蒼の声は届かないようで、蒼のおっぱいを揉みしだきながら耳たぶを嬲るように甘噛みして甘い吐息を吹きかけてきた。


「お姉さまはここが弱いんですねぇ……。いいんですよ。我慢しなくても……」

「ちょっ、本当に力抜けちゃうから……。やめて……」


 アリスが耳骨にかぷっと噛みつくと同時に「ひぃっ」と小さく呻いた蒼の身体が痙攣するように跳ね上がる。このままでは花びらが散るような世界へと行ってしまうかもしれないと思った蒼はバンバンと屋上の床を叩いて所在を知らせて助けを呼ぶ。

 その音を聞きつけてか偶然か、壊れた扉がぎぃと開いた。


「蒼~、こんな所でなにしてんの~」


 そこへ現れたのは、先程一緒にバスケをしていた水無月達だった。

 唐突に飛び出して行った事を心配して後を追い掛けてきたのかもしれない。

 そこは素直に彼女達の優しさに感動すべき状況。

 しかし、現状が最悪だった。

 情事を目撃した水無月達は言葉を詰まらせ、目を丸くする。

 しかし、直後トロ~ンとした蕩けた表情を浮かべてゆっくりと蒼へと歩み寄ってくる。


「私も、蒼と楽しい事やりたいな~」

「私はやりたくないから!」


 魅了のホルモンの虜になった水無月達はのぼせた表情で蒼の身体へとにじり寄ると、それぞれ蒼の身体を弄んでいく。水無月が蒼の指を自分の口の中へと入れ、くちゅくちゅと唾液と混ざった舌と踊らせる度に蒼は甘い声で泣いた。

 ふと、彼女達に取り囲まれた状況の中、一部始終ハンディカメラで撮影する黒子を蒼は発見する。

 そんなバカな黒子の正体を蒼は只一人しか知らないが、この状況では彼にすがるしかないと、涙滲ませる瞳で父親に向かって助けを求めた。


「親父! 助けてくれ。このままじゃ違う世界にいっちゃう……」

「……蒼、ワシはそっちジャンルも結構好きなんじゃ」

「アホー、死ねー!」


 黒子の残酷な一言に蒼は必死に狼狽を浴びせるが、その唇は即座に塞がれてしまった。

 くちゅくちゅと音を立てたディープキスを果たしたアリスは、蒼の唇から離れて糸引くピンク色の舌で唇を舌舐めずりした。


「お姉さま、一緒に良い思いをしましょう」

「蒼、私と一緒に天国に行こっ!」

「いやぁぁぁぁぁっ、助けてぇぇぇぇっ!」


 蒼は魅了のホルモンの虜になった少女達に飲み込まれていく。


「なんともおぞましい……。科学への探求心が斯様な結末を迎えるとは……。我々は神にはなりえないのか……」


 青三郎は凄惨な現場の目の当たりにして、天を仰いで呟いた。

 浅ましき人間の業こそが、この世にとっての害悪。

 我々人類は、歩んできた道筋を今一度考えなおす時が来たのかもしれない……。


END


「妙な締め方してんじゃねぇよ。ちょっ、おっぱいは揉まないで~~~~~!」


 屋上の片隅で妄想にふける父親に向かって叫ぶも、その声は届く事は無かった。

 

 藤巻蒼の受難はまだまだ当分終わりそうにもない……。


THE END


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おっぱい揉ませて! らいちょ @raityo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ