第3話 出会い
あの後、ミリアはぐっすりと眠ってしまった。
俺に付いてきて貰えると知って安心したのか、疲れからなのかは分からないが、取り敢えず、寝せておくことにする。
今はもう、完全に夜もふけて、日付も変わっていた。
皆が幸せに暮らせる世界を…
あの言葉は間違いなく、自分自身で国を建て、この世界を統一するということだろう。
というかそれ以外に方法がない。
ミリアは認識しているのだろうか、
この事の難しさを、
(寝るか。)
悩んでいてどうなるわけでもない。
明日しっかりと話をすればいい。
そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちていった。
翌朝、俺は柔らかな陽の光を浴びて目を覚ました。
町からはすでに朝市が始まったようで、威勢のいい声が聞こえてきた。
(ミリアを起こすか。)
ミリアはほっておくと、昼過ぎくらいまで寝てしまう。
寝る子は育つと言うし、寝せておいた方がいいのかもしれないが、規則的な生活ではないはずだ。
俺的にもあまり育ってほしくない。
ミリアの部屋と俺の部屋は廊下をはさんで向かい合っている。
ミリアの部屋の前に行くと、
コンコン
「ミリア、入るよ。」
部屋をノックして入ることにする。
「えっ、ちょっと待ってください!お兄様!」
何か聞こえた気がするが、気にしない。
ドアを開けると着替え途中のミリアがスカートに手をかけた状態で固まっていた。
薄ピンクの上下の下着、…もうブラをしていたんだな……
少し感動した…
そんな感慨に浸っていると、ミリアからベットが飛んできた。
……ベット?
何をどうしたらベットが飛んでくるんだ?
途切れていく意識の中で
「お兄様!変態!嫌い!」
と絶望的な声が聞こえてきた…
「あ、謝ってるじゃないかミリア。」
「知りません!」
ミリア様は大分怒っていらっしゃった。
こういうときは、ひたすら謝り続けるしかない。
十年前まで、俺が入ってきても気にしなかったのに…
「ご、ごめんねミリア。」
「知りません!ちょっと出ていってください!」
追い出されてしまった。
まあ夕方くらいになればいつもの優しいミリアに戻るだろう。
(仕事でもするか。)
目下最大の問題はどうやって国を建てるかということだ。
それの目処がつかなければ話にならない。
平定どうこうなどはそのあとの話だ。
幸いこの世界で国を建てるのはそこまで難しくない。
恐らく家と庭があって『ここは、国です!』
と近隣諸国に宣言すれば国として認められる。
だが…
(それじゃダメだよなぁ)
建てるのはできても維持ができない。
それでは平定どころの話ではないのである。
そんなことを考えながら歩いていると…
ガヤガヤ
路地裏の方から言い争うような喧騒が聞こえてきた。
チラッと路地裏の方に目を向けてみると
大の大人二人が小さい女の子を囲んでいた。
もめているというより、絡まれているといった感じだ。
女の子の方は完全に萎縮してしまって、怯えていた。
始めに言っておくと、ジンは見知らぬ人を助けるほどお人好しではない。
だが、
(男として女の子を助けないわけにはいけないよなぁ……)
"小さい女の子"は話が別である。
「ちょっとちょっとお兄さん何があったんですか?」
たまたま見かけた感じをだして聞いてみた。
「お前には関係ねえよ!」
かなり気が立っているようだ。
少し仕掛けをしてみる。
俺はある紋章をとりだして
「この紋章が目に入りませんか?」
「入らね…!?」
男たちが急に慌てはじめて、地面に膝をついて、
「し、失礼しました!」
畏まった。
因みに俺が取り出した紋章は、
この公爵領を統治するクレル家の紋章の偽者である。
クレル公爵家の紋章は町のあちこちで見かけることができる。
だが、それを詳しく観察するものが何人いるだろうか?
恐らくほとんどの人々が曖昧なはずだ。
そこをついてみた。
紋章は素材は布だし、触らせる訳でもないから、偽造など簡単にできる。
「もう一度聞きます、何があったんですか?」
後は言葉遣いと態度を気を付けるだけで簡単に騙せる。
「こ、このガキがぶつかってきたんですよ。」
なるほど、まぁ仕事柄嘘を見抜く機会が多い。
素人がつく嘘はほぼわかる。
今回の言葉は黒…つまり嘘である。
そもそも目をみれば、目をそらしたタイミングで嘘は分かる。
まぁ、早く終わらせるには指摘しない方がいいだろう。
「今回は引いてくれませんか?」
適当に圧力をかけつつ聞いてみる。
すると、所詮は態度だけのチンピラだったのか、完全に呑まれて
「わ、分かりました。」
と、すぐに立ち去ってくれた。
「大丈夫だった?」
俺はすぐに、女の子の元に駆け寄って声をかけた。
女の子は何処から来たのか分からないが、
とても綺麗な服を着ていた。
恐らくは貴族だろう。
フードを被っていて顔はよく分からないが、息が荒いことから相当疲労が貯まっていたことがうかがえる。
すると、
「んっ、」
小さく悲鳴を漏らしたかと思うと、俺の方に倒れかかってきた。
一瞬俺に惚れたのかと喜びかけたが、
呼吸が穏やかになったところを見ると、気絶してしまったようだ。
(そんなに長い時間絡まれてたのか?)
と思ったが、ここに放っておくわけにもいかない。
路地裏だと、どんなに大きな都市でも誘拐などの犯罪に巻き込まれるのはほぼ確実なのだ。
(連れて帰るか。)
今泊まっている宿屋は幸い部屋も多いし、安全面も整っているので、セキュリティ面で問題はないだろう。
最大の問題はミリアの機嫌だが……
(他人がいる時に怒りはしないだろ。)
そんなことを考えながら、俺は女の子を担いでみた。
軽い!柔らかい!さすが女の子!
テンションがおかしな方向に上がっているのは決してロリコンだからではないと思う。
女の子を空いている部屋のベットに運ぶと、
「さあ、お兄様、説明してください。」
俺はミリアに説明を求められていた。
かれこれ一時間近く正座している。
さっきまでは朝の事について語られていた。
随分怒っていらっしゃった。
(今度から、週一くらいにしよう。)
そんなことを考えながら、俺は昼間の出来事を説明し始めた。
「なるほど、つまりお兄様は小さい女の子を見つけたから助けてきたというわけですか。」
ミリアが少し怖い顔になっている。
「でも、お兄様のそういうところは大好きです!」
ミリアはやっぱり優しい…
「お、お兄様!どうして泣いてるんですか!」
それはね、そこに優しいミリアがいるからだよ。
まあ、適当に嘘泣きは止めといてと、
「あー。嘘だったんですか……」
そろそろあの子の様子を見に行くか。
あれからもうそこそこだっているし、流石に起きるだろう。
女の子を寝せているのはミリアの部屋の隣、
俺の部屋の斜め隣になる。
まずは、ミリアが入る、と言って聞かないので、
最初にミリアに入って起こしてもらうことにする。
まぁ、起きてすぐに俺の顔を見るよりは、ミリアの顔を見た方が
安心するだろう。
しばらく待っていると、
「お兄様、どうぞ。」
ミリアがドアを開けて招き入れてくれた。
部屋に入ると、ベットに腰かけて、一人の女の子が座っていた。
さっきまで寝ていたからなのかキレイな金髪は少し乱れていた。
肌は透き通るほど白く、顔はとても整っていた。
間違いなく美少女である。
それに、
(どっかで見たような顔だな……)
既視感に襲われた。
間違いなく俺はこの子を見たことがある。
そんな確信をなぜか持った。
「えーっと、ここは、何処でしょうか?」
俺がそんな状態の時に、美少女がもっともな疑問を口にした。
少女は、少し混乱しているのか部屋の中をキョロキョロと見回して、不安そうな顔をしている。
見た目の年齢はミリアと変わらないように見えるし、
もっと年が上だったとしても不安になるのは当然だろう。
「ここは、私とお兄様が借りている宿屋の一室です。」
ミリアにそう言われると、少し落ち着いた様子で、
俺の方をじっと見て、
「あっ、」
路地裏で会った人だと思い出したのか。
俺に向かって、立ち上がりお辞儀をして、
「さ、先程はありがとうございました。」
丁寧にお礼を言ってきた。
急に立ち上がってお辞儀したが、とてもキレイな立ち振舞いだった。
(やっぱり育ちがいいんだな。)
俺は、初めて会った時と同じ印象を受けた。
「取り敢えず、服も汚れていますし、着替えをご用意いたしましょうか?」
ミリアが気のきいた配慮をしていた。
「た、確かにこのままでは流石に、」
「ではすぐにご用意しますね。」
「あ、ありがとうございます。」
ミリアとの会話を聞いている限り多少は緊張がほぐれた感じがするが、まだ話し方が少しぎこちない。
もともと人見知りなところもあるようだが、
(人と話するのに慣れていないような?)
俺が少しの違和感を覚えていると、
「お兄様?」
ミリアが冷たい目で、俺を見てきた。
(ミリアに冷たくされるとゾクゾクするな!うん!)
「着替えますので、一度部屋から出ていただけますか。」
「気にしないで、どうぞ。」
朝に引き続き、女の子の着替えが見られるとは、今日のラッキーボーイは俺だったらしい。
二人とも体つきはまだ子供っぽそうだし、
きっと素晴らしい景色に違いない。
「反省、」
「しています。」
どんなに大事なものでも未来のために捨てねばならないときがあるのだ。
そんなこんなで、俺は血の涙を流しながら、ドアの前で待たされることになった。
途中ミリアが着替えを取りに行くのに部屋を出ることがあったが、覗くこともできなかった。
「どうぞ、」
十分ほどで、部屋にいれてもらえた。
そこにはすっかりキレイな服に着替えた少女がいた。
きちんとした服に着替えると、人形にしか見えなかった。
「よく似合ってるよ。」
素直な感想を言ってみた。
すると、少女は顔を赤らめて俯いてしまった。
さっきまでの行動といい、箱入りに育てられてきたようだ。
このまま話していても何の情報も手に入らないので、
少し質問をしてみる。
「名前は何て言うのかな?」
会話のきっかけのつもりで聞いたのだが……
「クレル=ド=ユスティーナと言います。」
この一言で、俺は初めて出会ったときの既視感の正体を知った。
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