第2話 決意
「まずはどこに行こうか?」
時刻はちょうど十二時を回ったあたり、昼食も兼ねて俺はミリアと約束の買い物に出掛けていた。
宿屋を探していた頃と比べても、人が増えさらに活気が増した様子だ。
今俺が歩いているのは、この町のメインストリートにあたる通りで、道の両側には趣のある立派な店が立ち並んでいた。
様々な種類の店があり、服や食べ物、家具に馬のような日常でよく目にするような商品もあれば、ゴミとしか思えないようなガラクタまで売っている。
そして…
「やっぱりここでも売っているのか…」
「見てあまり気持ちよくないね…」
人も売られていた。いわゆる奴隷と呼ばれる人達である。この世界では今だに身分制が強く残っている。ここが伯爵領と言われているかとからも分かるように、その地位を活かし莫大な富を気づくものも居れば、奴隷のように物としか扱われない人もいる。クーデターによって一歩間違えば自分達もああなっていたと考えると、ゾッとする。幼いミリアも身分制社会の頂点にいたにしては珍しく、奴隷を所持する人に対して忌避感をもっているようで、城にいたときは自分は一切奴隷を使わなかった。今も奴隷売買の光景が嫌なようで、可愛い顔を歪めている。
それでも奴隷達のエリアを過ぎるとすぐに明るさを取り戻し、
「お兄様、まずは何処かでお昼を食べましょう!」
と元気に提案してくれた。
もちろんミリアの提案を断ることなどするはずもないので、何処か店を探してみる。飲食店と言っても、さまざまな種類、ランクがあるわけである。
まぁ、ミリアが選ぶなら店は一つしかないだろう。
「お兄様!ここにしませんか!?」
やっぱり…
ミリアが選んだ店は、大量の砂糖を使った料理が自慢の店。
どこの町にも一軒はあるいわゆるチェーン店のようなものである。ミリアはどうもこの店がお気に入りなようで、町でご飯を食べるとなるとほぼ必ずこの店を選ぶ。
別に俺としても嫌いという訳ではないので…
「いいよ。ここにしようか」
そういって、店内に入った。店内は赤とピンクをベースにした派手な内装になっていた。それぞれのテーブルは個室になるように仕切られていて、プライベートな空間を確保出来る。
この店は料理の味も追及したうえで、このような店内構造をとることにより、一大チェーン店として発展した。
「ミリアはいつものでいいよね?」
「はい!」
ミリアがこの店で頼むメニューは一種類しかない。
この店でも一二を争う極甘メニューである、パンケーキだ。
俺としては、できればミリアと同じものを食べたいのだが、流石に耐えきれない。
「パンケーキ一つと、パスタ一つ」
順番が来たので適当に注文を済ませることにする。
因みにパスタとは一般的なパスタを甘くするという普通なら考えもしない料理である。最初に食べたときは、開発者の味覚を疑ったのだが、食べ慣れてくると中々癖になる味だったのだ。
席につきながら、ミリアと談笑をして待っていると、料理が運ばれてきた。
料理が運ばれてくると、ミリアは堪えきれない様子で、満面の笑みを浮かべていた。
「それじゃあ食べようか」
「はい!」
ミリアはパンケーキを一切れ口に運ぶたびに、嬉しそうに頬に両手を当てて、黙々とパンケーキを食べ続けている。俺の方もそんなミリアの様子を見ながら、パスタを食べ始める。
およそ20分ほどで、お互いに料理を食べ終えた。俺一人ならもっと早く食べ終わるのだが、ミリアがパンケーキを小さく切って食べるため、どうしてもゆっくりになってしまう。
会計を済ませると、二人で店を出た。店に入った時と比べると、通りの人も少し減っていて、穏やかな雰囲気か漂っていた。
「お兄様、次は港の方に行ってみませんか?」
ミリアがそんなことを聞いてくる。今までに立ち寄った町は、どれも海に面してはいなかったから、やはり気になるのだろう。
俺も行きたいと思っていたので、
「いいよ。行こうか」
素直に了承する。まぁ、俺はミリアのように純粋な好奇心で行きたいわけではなく、仕事で訪れる機会が多そうなので確認したいというのが本音だ。
港までは町中を張り巡らされた運河に、小型の船があるのでそれで行くことができる。
ミリアは、初めてのった船に感動した様子で、あちこちをキョロキョロ見回しながら、落ち着かない様子だった。
港に着くと、心地よい潮風と他の地域からのたくさんの交易船で非常に慌ただしい様子だった。
ミリアもその様子に萎縮してしまったのか、いつもは、先に行ってしまうのに、今は俺の手をギュッっと握って俺の方を見つめている。
俺個人としては、とても幸せなのでこのままでも良いのだが、ミリアが可哀想なのでミリアの歩幅に合わせてゆっくりと歩き始めた。
俺の想像していた通り、港には酒場やバーなどが数多く立ち並んでいて、口の軽そうな野蛮な連中が昼間から酒を飲んでいた。しかし、彼らは貴族など大口の客とも取引するし、他国の情勢にも明るいため、貴重な情報が手に入ることが多い。
(ここは久しぶりにいい場所を見つけた。)
そんなことを考えながら、ミリアと歩き続けていると、
「お兄様!あれを見てください!」
ミリアが目をキラキラ…正しくはキラッキラさせながら俺をよんだ。
その視線の先には…
(ガラスで出来た皿か…)
ミリア自身光るものには目がないらしく、城にいたときも宝物庫にこもっていた。
「買ってあげようか?」
まぁ、ガラス程度なら大して高くもないし買ってあげてもいいだろう。
実際、ガラスは一般に普及していて数も多い。
「お兄様、これがいいです」
そんなことはなかった。金貨二枚、正直ぼったくりじゃないかと思う値段である。
因みにこの世界のお金のレートは
銅貨百枚→銀貨一枚
銀貨百枚→大銀貨一枚
大銀貨百枚→金貨一枚
このようになっている。
一般的な平民の収入が大銀貨一枚~二枚なことを考えると、このガラス製品の価値が分かると思う。
金貨二枚くらいなら今後の生活を無視すれば買うことはできなくもないのだが…
収入が不安定なため、出来る限り出費は避けたい。
仕方ない…
思いっきり犯罪行為だが、ミリアのお願いならお上も見逃してくれるだろう。
「じゃあ、これをください」
「はいよ!金貨二枚だ」
それを聞くと、俺はしっかりと金貨二枚を店主に差し出した。
「まいど、確かに受け取ったぜ」
すると店主はしっかりと金貨を受け取った。
別に
俺は真面目に金貨二枚を支払った訳ではない。
せいぜい銀貨四枚分といったところか。
方法は簡単で、
盗み出したのだ、金貨の原版を、
この世界金箔なら銀貨一枚半くらいで買うことができる。
なので、原版さえあれば簡単に金貨は作れる。
~~情報屋の三分で猿でもできる貨幣偽造のコーナー~~
一、 まずは金貨の原版に鉛を流し込みます。
二、 次に形に沿って息を吹き掛けながら金箔を貼っていきます。
この時に、貼り残しがないように気を付けましょう。
三、 貼ったばかりの金箔は剥がれやすいので、上から薄く糊を塗 りましょう。この時もムラがでないように注文です。
四、 新品同様にきれいだと怪しまれます。床に落としたり、手垢 を着けたりして汚れをつけましょう。
五、 これで完成です。
こんな感じで、適当に金貨を何枚か作っておいたのだ。
注)現実の貨幣偽造に利用することは出来ません。
この世界でも貨幣偽造に対する対策はとられてはいるが、他の国の貨幣に換金するときだけチェックされるので、しっかりと作ればほぼ気づかれない。
まあ、騙される方が悪いのだ。
そう自分に言い聞かせながらミリアのもとに戻った。
「お兄様!ありがとうございます!」
そう言うミリアの顔を見ていると犯罪などどうでもよくなるので不思議だ。
そのあとも港をうろついたり、通りの方に戻って、買い物を楽しんだ。
ミリアが途中で寝てしまったので、宿屋に戻って休むことにした。が、宿屋につく直前にミリアが起きてしまった。いつもは俺と一緒に年齢の割には遅くまで起きていることが多いので、やはり寝ていられなかったらしい。
あ、因みに宿屋の店番は弟のヒデブさんになっていた。
何でだろうね?
そんなこんなで、俺たちは宿屋に戻って来た。
昼間からずっと町を歩いていた疲れもあってか、俺とミリアはのんびりとしながらそれぞれの時間を過ごした。
ミリアは部屋に備え付けの雑誌を読んで過ごす中、
俺は今後の事について一人頭を悩ませていた。
(そろそろ、本格的にどうするか決めないといけないな。)
(俺一人ならこんなタ○リ散歩みたいな旅をしていてもいいけど。ミリアがいるなら、俺はこの子を幸せにしてあげないといけない。)
それは、他の人が聞いていたら誓いの言葉に聞こえたかもしれない。俺は頭の中とはいえそんな言葉がでてしまう自分自身に少し驚いていた。昔なら絶対有り得ないことだったのだ。
(ミリアは、クーデターが起こったとはいえ王族だ。元の地位が戻れば、何だってすることができるが…)
だが、しかしそれはあまりにも茨の道である。
一つの国家を立ち上げると一言で言ってしまえば簡単だが、
そう簡単なものでもない。
単純に考えても、人民、領地、資金、兵力など様々な問題が浮かび上がってくる。
しかも、今この地には五つの国家勢力による戦国時代の様相を呈している。
新興国家など領地を手にいれる絶好の機会と、すぐに踏み潰されてしまう。
現実的な話ではなかった。
(まぁ、ミリアに聞いた方が早いか。)
自分一人で考えるよりは本人に聞いた方が分かりやすいだろう。
「ミリア、ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか?」
やはり、こういうことを聞くのは少し緊張する。
お兄様と別々になりたいですとか言われたらどうしよう…
一応窓の位置は確認した方がいいのかもしれない。
「ミリアはこれからどうしたいのかな?」
「今から?ですか?」
ミリアが不思議そうな顔をしていた。
少し言葉が少なかったようだ。
「そうじゃなくて今後、大人になったら
何をしたいかってことだよ」
それを聞くと、ミリアはとても真剣で、真っ直ぐな瞳で、
淀みなく、質問されるのが分かっていたかのように、
こう答えた。
「私は、皆さんが平和に暮らせる世の中を作るつもりです」
この時、俺は時間が止まったんじゃないかと思った。
後ろの窓から漏れる夕焼けの光がミリアを照らし、
輝いていた。
そのせいで、ミリアの顔から目が離せなかった。
いったい、いつから決めていたのだろうか。
まだ子供だと思い込んでいた。
甘いものとキラキラしている物に目がなくて、俺に甘えてくれる女の子だと思っていた。
だから、ミリアに話すこともせず一人で考えていた。
違った…
万人の前に立ち、道を示すのが王ならば、この少女も正真正銘の王だった。
生まれ持った資質の前に年齢という壁は存在しないと見せつけられた。
「しかし、私一人ではできそうにありません…」
迷いは…なかった。
「俺が付いていきます。ずっと、」
もしかしたら、ミリアもタイミングを図っていたのかもしれない。
俺の言葉を聞いたミリアは、
「ありがとう、ジンお兄様」
うっすらと目に涙を浮かべながら、笑っていた。
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