爪切り

男は湾曲した刃が対になった道具を手にした。

爪切りにしては大きすぎる。

ただ、その湾曲した形は

にピタリと合いそうだった。

店の薄暗い光が湾曲した刃に反射し、ギラリと光った。


私は硬直した。


男は対になった刃をパチンパチンと音を立てて合わせながら、カウンターの奥に入っていった。


私はその間、硬直していて逃げることができなかった。

息が肺に入る音が聞こえる。

鼓動が聞こえる。

それだけ。


男はこちらに戻って来た。

二つの箱を持ってこっちに来た。

黒い箱と、白い箱。


「どちらの箱に入りたい?」


男が尋ねた。


口ごもっていると、


「言わないと、こっちにするよ」


と男が語気を強めて、黒い箱を指した。


私は、


「白い方で」


とぎこちなく応じた。

舌も満足に動かせないくらい固まっていた。


「そっちにするのね。じゃあ、先に君が選ばなかった方を開けてみよう」


男が黒い箱を開く。


カサカサ


見たい。

やっぱり、見たくない。


カサカサ


爪だ。


大量の爪だ。


この間、新幹線で見たのとは違う。

マニキュアの付いた爪、子供ような小さく柔らかそうな爪。

色々な爪が入っている。


一体、誰の爪なんだろう。


「もう僕の爪は切れなくなってしまってね」


男は自分の指を差し出した。

男の指先は無かった。


「爪切りするとき、勢いが余ってね」


男が白い箱を揺らし始めた。


コロコロ


なにかが転がる音だ。


「見たい?」


見たくない。

見たくない。

見たくない。


「開けるね」


見たくない。

見たくない。

見たくない。


箱の中には、黒い肉片が十個入っていた。


「こっちの箱に入りたいって言ってたね」


男は湾曲した刃が対になった道具を手にした。

爪切りにしては大きすぎる。

ただ、その湾曲した形は

にピタリと合いそうだった。

店の薄暗い光が湾曲した刃に反射し、ギラリと光った。

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