爪 切 り

エンジニア

新大阪 と 東京の間

母の三回忌の帰りだった。

残された父のやつれた背中が可哀相で、つい帰るのが遅くなった。

東京へ行く最終の新幹線だ。

水曜日のこの時間の新幹線は、空いている。


指定席を買う時、隣が空席であることを確認した。

その上、車両のほとんどが空席であることも確認した。


それでも、私の席の隣に男が座っていた。

膝に小さな風呂敷を抱えて座っていた。

風呂敷に添えた手をじっと凝視し、静物のようだった。


切符を二度三度確認し、自分の席に間違いがないことを確かめた。


気味が悪い。


既に読み終わった小説を熱心に読む振りをして、やり過ごそう。

半ば諦めた心持で、男の隣に座った。


発車のメロディが空しく響く。

前方の電光掲示板に、これから止まる駅の名が読点で区切られながら流れていく。


私は、小説を開いた。


数ページ読むと、気配を感じた。

気配というより、気迫。

圧倒的な視線に潰されそうだ。


「綺麗な爪をしていますね」


堪え切れずに、堰を切るように、男が話しかけてきた。


気味が悪い。

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