第14話 その日の終わりに
携帯電話の振動に、俺は強制的に夢から現実へと戻される。
液晶の明るさに目が眩み、誰から掛かってきたのかが見えない。だが、誰が掛けてきたのかは分かる。
出なかったら諦めるのではないかと微かな望みに賭けてみるが、電話が切れたあと間を開けずに再び携帯が震え始める。
どうやら、こちらが出るまで諦めるつもりはないらしい。
仕方なく俺は、通話のボタンを押した。
『もしもし、港後輩? ダメだよ早くでないと。緊急の用事だったら大変なことになっちゃうよ』
「緊急な用事なんですか?」
『いや、全然違うけど』
電話の向こうで、先輩の笑い声が響いてくる。
なんだか、無性に電話を切りたくなった。
「電話をするにも適切な時間ってのがあると思うんですけど。今、何時だと思ってるんですか」
『まだ、二時だよ。高校生なら、これからが夜じゃないか』
「俺はいつも寝てる時間ですよ」
ベッドから起きあがり、窓を少し開く。
冷たい空気が部屋の中へと流れ込み、頭の中が少しだけすっきりとしてくる。
こうでもしないと、電話中に寝てしまいそうだ。
「で、用件は?」
『風の噂で、港後輩と矢吹君が事故に巻き込まれたと聞いてね。大丈夫かなと心配になって電話したってわけ』
果たして、どこから情報を手に入れたのか。
まさか、オロチとの遭遇のあとに一軒一軒周囲の家を回って事情聴取したわけでもあるまい。
実際に見ていたということも考えられるが、どうでもいいと考えるのをやめた。
『まぁ、電話に出られるってことは無事だってことだよね。いやぁ、良かった良かった』
「用件は済みましたね、それでは」
『待った待った! 今のはついでで、これからが本番』
死にそうになったというのに、ついでなのか。
酷いにもほどがあるだろう。
『矢吹君ってさ、なんか怪しいよねぇ』
「屋上から降ってくるようなヤツを普通だというなら、ソイツが異常ですよ」
『いやいや、そういうことじゃなくてさ』
勿体ぶるように、間を作る先輩に俺は苛立ちを覚える。
早く用件を済ませて、眠らせてくれ。
『なんで、ヘルタースケルターを倒すことに拘るんだろう』
「正義の味方かぶれだからじゃないですか」
『それはそうなんだろうけど、なんか違和感が拭えないんだよ』
そもそもが電波なのだ。違和感があるに決まっていると思うのだが。
『一番疑問なのがさ、なんで港後輩の力を知らないはずなのに、ヘルタースケルター壊滅をお願いしたんだろう?』
「偶然じゃないですか」
『偶然。うん、偶然かもしれないね。まぁ、ちょっと気になったんで電話しただけだから、気にしないで。それじゃあ、また明日』
返事を待たずに、電話は一方的に切られた。
俺は携帯を床へと放り投げて、ベッドの上に倒れ込む。
先輩は、俺に何を伝えようとしたのだろうか。考えても仕方がないことと分かりながらも、頭は色々と詮ないことを考えてしまう。
結局、これはただの嫌がらせなのだろう。
その証拠に、俺は空が明るんでくるまで一睡も出来ないのだった。
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