第 拾漆 話 それぜってぇパクリじゃん。







曰く、バートリ・エルジェーベトの”生まれ変わり”である、坂崎聖来さかざきせいらは皮肉なことに”歪み”との相性がいいらしい。


そもそも”歪み”というのは、こいつらが転生しているおかげで起きる”矛盾”の弾みだそうで



「本来なら僕たちに限らず人間は記憶を抹消して次の生へと移っていく。けれど僕らは前世全ての記憶を持つ。2、3回転生しているヤツもいるがね。それはまぁ置いといて、記憶を持っていることで傾いでしまうんだよ」

「かし、ぐ…?」

「前に直治の部屋で言ったでしょう?ようは超時空的な一般論では説明できない超常現象が常識をおかしくしてるんですよ、全く、いらないおまけですねぇ」

「その中に”鬼火”と呼ばれる”歪み”がある。それをこのランタンに入れてラッパを鳴らすといい」



傍らからアーサーはえらく古ぼったいランタンを手に取る。ランタンっていうか、カンテラっていうか、ここまでファンタジー持ってくるかっていう感じだ。うん。


ガシャン、と大理石の床に置かれたそれはもちろん灯りはない。それどころかロウソクや油さえもなかった。


どうやってつけんだ?これ。



「”鬼火”は特に何もしない、燃えているだけの”歪み

だ。だけど扱いは難しくてね。特別なランタンでなければ持ち運びができない。そのランタンに入れるのでさえ難儀だ」



つま先でもてあそぶようにアーサーはランタンに触れる。どこか憂いを帯びた表情のその意味を、俺が理解できるわけもなかった。心なしか声音もさっきより弱い。いきなりシィンとしてしまった空間で、俺はすんげぇビクビクしながら口を開いた。



「て、てかさぁ?その、”歪み”って、ざっくりいうとありゃりゃぎくんの怪異みたいなもん…?」

「…え、ああ、うん、まぁ、そんな感じだな…?」



通じるってことはお前も大概現世楽しんでんな。つーかこいつらラノベ一通り読んでんじゃね?S○Oとか狼と香○料とか知ってるか1人ずつ聞いてきたい勢いなんだけど。いやぁ西○維新読んでるってことは結構ラノベ好きって事じゃね?そうでもない?


って、そうじゃなくて。


”歪み”っていうもんがそういうもんだってことは改めて再確認。んでもってその中でも扱いがメンドクセーっつー”鬼火”を回収。とりあえずそれであの中二病【ルール】の示したヒント(なのにルールって)は完了ってわけだ。



「じゃあとっととカンテラ持って血の伯爵夫人のとこでも行こうぜ。もう疲れたしよ。入学初っ端から何回死に目にあったと思ってんだ。もう少しでばあちゃん見えてくるわボケ」

「アーサー、これが貴方の言っていたヒントですかねぇ」

「ああそうだよ。僕の知っているヒントはそれで全部だ。安心したまえ、僕は嘘をつけないのだから・・・・・・・・・・



その言い回しに微妙な違和感を覚えつつも、俺は

カンテラを受け取った。こいつも例に漏れずいろいろあんだろう。聖王とか言われるくらいだし、そこらの奴よりよっぽど悩みがありそうで深そうだ。


…まぁその悩みが『かっこよすぎて云々かんぬん』だったら殺してやるけど?


さて、俺たちはもうこの東屋にいる必要も無くなったわけで、とっととそのバートリちゃんこと聖来ちゃんに会いに行くべく、立ち上がった。


ら。


もうお決まりかな。なんか、目の前に、すんげぇ目つきの悪い本郷とかがいんだけど…?



「お前…何してんの」

「何って、君ら捕まえに来たんだよ?」

「ハイ?おかしくない?だって、お前【泥棒】じゃん…」

「【ルール】にあったでしょ?【警察】は堕ちることができて【泥棒】は更生することができるって。だから僕は”更生”したんだよ」

「なっ…!じゃあ、お前は今!」



そ、とにっこり笑って本郷がはっきりと言う。



「僕は【警察】だよ」



と。


俺たちは固まった。まさか裏切られるとは思わなかったからだ。だけど合点もいった。どうして地下書庫に本郷が来なかったのか。


いいタイミングできてカッコつけたかったなこいつ……!!!


じり、と思わず後ろに下がる。忠勝や無笛も驚きを隠せない…表情じゃなかった。なんですか、あんたら、最初っから本郷のこと信用してなかったのか!?


ちら、と視線を本郷に戻せば人数は増えていて、本郷を入れて4人になっていた。全員うちのクラスにいた奴で、こいつらもやっぱりかなり有名人だった。



「はっ、最初からこんな気はしていたんですよ、貴方が辰二から離れるわけありませんしねぇ」

「うるさいなぁ。お互いそれがちょうどいいからいいんだよ、ね、辰二」

「…そうだね、別に利害の一致でいるだけさ」



これまた和製イケメン野郎が忠勝の言葉を否定した。辰二ってことは…確か、太宰治の【生まれ変わり】だったな。うわ、自殺作家きちゃったなおい。


ちなみに芥川龍之介が睡眠薬自殺、太宰治が入水だ。川端康成もガス自殺してるからここに来てくれるとかなり面白い状況になるんだが…


いささか不謹慎か。


てかその隣さ、巻岡だろ、元谷崎潤一郎の。でその隣のメガネ野郎は宮賀じゃね。志賀直哉だっけ?前は。え、全員元作家じゃん。え、つか、これ



「ただのリアル文豪ストレイ○ッグス」

「「「それ言っちゃダメ!!!」」」

「うぉっ!!??」



左右そして前から全力で怒られた。あ、やっぱり言っちゃいけなかったのね…。


だってさ?言いたくなんない?志賀直哉はまだ出てこないけどさぁ、谷崎に芥川に太宰が出てきちゃったら1人だけ敵だけれども言いたくなんない?中島敦いれば最高だけど。わかんない人に説明するとね、文豪の名前を持った超能力者がガチンコバトルする漫画があんだけども…


ちなみに角川コミックスね。10巻まで出てるよ。


…やっぱこの学校すげぇよ!いろんな意味で!



「あんまりそういうギリギリな発言するとこの小説書けなくなるから。いろんな意味と事情で」

「お前こそメタ発言すな。つか【警察】は校舎に入れないんじゃねーの」

「ここ、校舎っていうの?」

「…言うと思ったぜまったく。屁理屈野郎が」

「お褒めにあずかり光栄です〜」



どうせあの地図に書いてあんだろ、ここに通じる地下道か何かが。んでそれ使えば校舎を通らずにここに来れるってか。


あ、ちょっとまてよ、本郷が【警察】になったってことは、誰が【警視総監】か知ってるんじゃね!?


俺がそう思ったのが顔に出たのか、本郷はすかさず残念と言ってきた。



「僕も知らないんだ。僕がこっちに入ったのはこっちにいた方がいいって彼女に言われたからだよ」



まぁでも?



「今から捕まる君らには関係ないね。アーサーくん、君は手出し無用だからね?ていうか手ェ出したら殺す」

「仰せの通りに。文豪殿グレイトライター



おいおい厄介だぞ…今までほぼ最強伝説を作ってきた本郷が敵にまわるって。いいか、よく考えてみろ。こっちの陣営は


超頑固策士:本多正信

笛吹無官大夫:平敦盛


だぞ!?


不利にもほどがあんじゃね?


とか思ったら向こうはほぼ文豪だ。体力なしの。やっぱこれ有利じゃね?そう思うけど、それって大概フラグで



「じゃあ、辰二行こうか」



そう言った途端、隣の2人が身を屈めた。俺は何が何だかわからんかったけど、忠勝にシャツを引っ張られてほとんどすっ転ぶように身をかがめる。


すると頭上を通り過ぎて行ったのは確かに銀の筋で。


東屋の大理石・・・の柱にブッ刺さっているそれは確かに薙刀で。



「言っとくが、僕は確かに体は悪かったが体育ができなかったわけではないんだよ。成績は操行だけ悪かったのさ。いつもふざけていたからね」



だってその方が楽しいだろう。



そう言って細かい破片を落としながら刃を抜く。

その目は、全くもって信じがたいことに、文人の目じゃなかったんだ。


…この学校、どうなってんだぁぁぁぁぁ!!!!

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る