第 拾伍 話 裏切ったのは誰ですか。
□□□◇
「………おやおやぁ?侍の片割れだわ。こいつがこうなってる感想は?」
高校第二棟入り口。その獣の嗅覚で何を嗅ぎつけたのか、鬼と狐が、やってきた。少し周りを見てくると言った日向を担いだ女と、背の高い傾国の女が。
「負けたんだろ。そいつに。だからくたばってるわけだ」
「そうね。やっぱり
「人が大量に死ぬよかマシだと思わないか。
そうかしら?と頬に手を当て小首を傾げる。
「
「俺的には戦場以外で引っ掻き回された、という印象が強いんだが。主に上司に」
刀を握りなおす。
残念ながら貞安ではないが充分に使える刀、目の前の女と戦うにはちょうどいい模造刀だ。ククリ刀なんていうクソの役にも立たない武器が、遊政の獲物だからだ。貞安は面白い刀だったんだが、今の俺では決して持ち出せないだろう…
そういえば刀といえば、最近は刀剣なんちゃらというゲームが流行っているらしいが、その中にどうやら俺の刀は無いようだ。追加されないかここ最近の密かな楽しみだ。近藤と土方のはあるんだからよ。
…第一、今この時代だからこそとりあえず仲良くやってるが、俺とあいつらは元来敵同士。地図も分けてもらったりしているがそれとこれとは別の話だ。
銀○じゃあ俺だけすっっっっっっごい適役だしよ。なに、紅○編の時の俺なに、あんなにかっこよく書いてくれるのは有難いが土方もう少しブサイクだぞ。もう少し太いぞ。『俺ァただ壊すだけだ』とかなにかっこつけちゃってんの、見てて恥ずかしいんですけど!空○さん本人がこの世にいること知ってるのかね。
「…ねぇ、何1人で百面相やってるのよ。見てるこっちはつまらないったらありゃしないわ」
「いや、今後あのアニメ見るか迷っててだな」
「アイデンティティが崩壊するからやめときなさい?」
「ああ、そうするよ」
じゃなくて!
「お前にしては行動が遅いな。麻雀でもやってたのか」
「あら失礼。お仕事をしてたのよ、お・し・ご・と」
「どんな仕事か知れたものでは無いな」
ぼやいて、俺は遊政の傍らに立つ、肩口で黄色味がかった乳白色の髪を切りそろえた、青い眼の女に目をやる。そいつは制服を軍服のように改装していて、手には槍がある。無表情のそいつの名前は本多正信。ややこしいことに本多忠勝の〈生まれ変わり〉だ。
…そして正信の前には日向が転がっている。
気を失っちゃいないが、しばらくは歩けないだろう。三半規管が狂い、脳が揺れ、歩くどころか立ち上がることすらままならいはずだ。正信はそういうヤツだ。
なんとまぁ面倒な2人が【警察】になったもんだ。
遊政はともかく
『徳川四天王』
『徳川十六神将』
『徳川三傑』
13で初陣、14で首を取り、天下三名槍が一つ蜻蛉切を自在に操り、
…徳川には過ぎたるものが二つ。内一つは忠勝なり。
そう歴戦の武将言われるほどの豪傑。俺が一対一で戦ったところで勝つかは微妙だ。
「そこのと戦うくらいなら連合艦隊を十相手した方が楽そうだな」
そう思わず本音が漏れる。本当、そっちの方が言いくるめることができて楽そうだ。
その俺の本心に、遊政が笑う。髪にさした数多の簪のうち、一つだけ銀光のそれを抜くと改造制服の上着のポケットに手を入れる。
「あら、じゃあ私はどうかしら。
「………面倒だ」
「そんなこと言わないで楽しみましょうよ、折角の
「お前とここでやりあうこと意味がない」
「意味なんていらないと思うわよ。それに今日は特解が許可されていないの。だから私は戦わないわ」
狐は紙を一枚取り出す。
「そんなことはどうでもいいの。兎に角私たちは悪い子を捕まえなきゃいけないのよ。もし理由がいるとしたら、それだけね。悪い子は捕まえなきゃ」
「悪い子っていうのは貴様みたいなことを言うんじゃないか?酒池肉林の女王様?」
「失礼ね。私に溺れた
妲己。
古代、中国史に登場する女狐の名前だ。紂王に取り憑き世を弄んだ悪女。それが今目の前にいる、遊政狐々だ。どうやら九尾の狐だかいう伝説は本当で、クラスで唯一、本当に呪術が扱える貴重な人材だ。
「そうそう、
「本郷から…?」
「ええ、何も私たち勘でここに来たわけじゃないのよ。ちゃんとした情報源があるの」
「まさ、か…」
「ええ、だだ漏れよ。貴方たちの行動は全部。だから今頃地下書庫に向かっているはずよ。
まだ、この【ルール《グィジー》】は知らないのかしら。
そう遊政は言う。
「【
「…堕ちることも、更生することもってヤツか」
知ってるじゃない、と小馬鹿にして手を叩く。そしてまぁ勿論、と言葉を続けてポケットから液体の入った小瓶を取り出した。嫌な予感が全身を駆け巡る。遊政は蓋を開けて簪の先をつけた。
「裏切りの代償は高くつくわ。彼の場合は今後の自由ってやつね。貴方なら授業免除の禁止、かしら」
「おいおい、俺はもう引きこもったりしないぜ?」
遊政の言が本当ならば、本郷は【泥棒】から【警察】になったっていうことだ。そして遊政たちに俺たちの行動を教えた。どこまでかは知らないが、それなりの大軍が地下に行っただろう。
そこまで考えて、遊政の台詞を俺は思い出した。
こいつ、二井八って、言わなかったか?
「おい、おっぱじめる前に一個だけ聞きたいんだが」
「何よ。充分待ってるじゃない。貴方だけを相手してるわけにはいかないのよ」
「二井八葉月は、最初から【警察】だったのか?」
にやり、と遊政は笑う。一体何人の男がコレに騙されてきたんだろうか。
「ええ、そうよ」
あーあ、亜沙比の野郎も可哀想に。初っ端から騙されてやがる。
俺は呆れて溜息を吐き、遊政の前に一歩踏み込んだ。縦に刀を振り下ろし、その細首に一太刀入れんという勢いで。
□□□◇
そろそろ、だとは思っていた。
そろそろたどり着いてもいい頃合いだ、と。
この【ルール】を知らされた【警察】は少ないけれど、少なくとも10人は聞き出して謎を解いてここに来てもおかしくはない時間だ。何、至極簡単な謎解きだ。少しずつつ、少しずつ、丁寧に当てはめていけば、少しずつ少しずつ、閃いていけば、簡単にここへは辿り着く。
そろそろだと、思っていた。
そろそろ彼が入学してもいい頃合いだ、と。
そうしたら、ここへ一番最初に来たのは彼だった。さすがに1人じゃあなかったけれど。おまけとしては、本多
「ねぇ」
話しかけてみる。何やら【ルール】の謎解きに苦戦しているみたいだけれど、そしてメモを取ったようだけれど、間違っているよ。一箇所だけ。間違った問題じゃ答えもずれてしまう。
だから僕はヒントをあげようと持ちかけた。
確かにあいつからはヒントを教えるように言われたけど、それ以外にも教えてあげようと思った。もちろん間違っているところも。
だから
「では、倒さないといけませんねぇ
こんな茶番、とっとと終わらせるに限る」
「ははっ、あんまり焦ってはいけないよ。焦りは死を招く。君らも体感しただろうに」
「ですが、貴方ほどではないと思いますよ。聖王アーサー先輩」
可愛い後輩に少し、意地悪をすることにした。
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