第 拾惨 話 惨めな話です。
「え、後天性?」
「ええ、彼女は後天性転生者。通称、
細い煉瓦造の坑道のような道を、カニ歩きしながら前に進む。その途中、俺は
無笛はジブリの川の神様人間verの時のような髪型をしていて、俺よりも背が高い。やっぱり武人気質なのが残っているのか動きは無駄がない。だからか威圧感は、かなり、あった。
「後天性なんて…そんなことあんだな…」
そんな無笛の言った言葉に、俺は少々驚きを隠せないでいた。
【転生者】、つまりは生まれ変わりのことだけど、そいつらは物心ついた時にはもう、それだっていう自覚はあるらしい。成長と共に記憶は事細かに蘇り、小3くらいでほぼ大体は思い出すそうだ。で、個人差だけれど、中2から高校入学くらいまでにほとんど全てを思い出す。大人になったんだからもう前世なんて処理しきれるだろってことらしい。
つまり、
だからほとんど昔の通りに、性格は形成される。
…アレ、テコトハ…………
「…芥川龍之介ってあんなんだったんだ……」
なんかショック。
まぁそんなことは置いといて。
「後天性ってのがわかったのいつ?」
「不登校になった少し前ですよ。むしろ彼女は後天性だったが故に、不登校になった」
「そんなんなるくらい酷かったのか?その、前が」
「ええ、何せ、悪女中の悪女と言っても過言ではない人が過去でしたから」
淡々として言葉を続ける。俺はそれをただ聞いているだけだった。話してる内容はここの薄暗さと比例していた。出口が中々見えないのも、同じだ。
「彼女の生きた時代でも彼女が行った事は大罪です。ですがまだ、今よりも、それが行える可能性は高かった。彼女の地位なら、尚更」
後ろの本多が無笛の言葉を自然に引き継いだ。その声音には呆れが混じっていて、見えないけど、眼鏡を押し上げているだろう。
「彼奴は罪を背負えきれなかった。今の常識を知った彼奴では、あの罪は大きすぎた」
だから、壊れてしまった。
だから、堕ちてしまった。
「地下書庫の番人、彼奴はバートリ・エルジェーベト、血の伯爵夫人その人の”生まれ変わり”だ」
もちろん記憶は全て、ある。
そう本多は付け足した。
□□□◇
中々どうして、こういう時に限ってこういう奴がいるんだかねぇ…。
「なぁアンデルセンの旦那?」
「うるさいカス」
「あらぁ、ご機嫌斜めか」
高等第二棟玄関。その階段に俺と旦那は座ってた。周りは少し鬱蒼とした林。んで、今ここには俺と旦那ともう1人しかいない。俺の故国でも珍しいくらい綺麗なブロンドヘアー。もっと珍しいオッドアイ。性格も猫みてぇと来やがる。面倒な野郎だぁ、と中身の無い酒瓶をひっくり返す。
「あら、お二人はん、こないなところで何してはるん?まだ終わりとちゃうで?」
「おうおうそりゃこっちの台詞だぜ、ボケ」
酒がねぇんじゃやってらんねぇなぁおい。特に、
だから俺は立ち上がって左手首の
「2年生様が一体何の用だよ、こりゃ1年のお遊びだぜ」
「生徒会長は監視役で範囲を巡回せなあかんのやで?ほら俺ちゃん会長代理やから」
「けっ、もぎ取っただけのニセモノがよく言うぜ」
「知っとったー?ニセモノっちゅーんは」
———お前みたいなこと言うんやで?
シュン、と鋭い音を立てて頬をダガーが掠めていく。牽制にもなりゃしない攻撃を、こいつはしてくる奴だったか?確かしなかった。
だけど、まぁ、なんてこった。こんなカスい攻撃を避けれなくなったなんて俺も落ちたもんだ。やっぱり酒をやめようかねぇ。旦那にもよく言われるし。そういうとこだけ厳しいからなー、旦那。遅刻しようがサボろうが何も言わない癖に、酒と煙草と薬に関しちゃお巡りよりも怖いと来やがる。ったく、やめてもらいたいねぇ。
だけど今日は珍しく口煩くないアンデルセンを近くに寄せて、目の前のウザッてぇ奴に言ってやった。
「はっ、俺がニセモノ、だって?」
「違うん?俺がホンモノのエドガーやっちゅうのに、後からノコノコやってきたお前にエドガー・アラン・ポーを名乗られるとか、最悪やわ。大体、俺、そないだらしなかったで?それこそ軍隊で鍛えられたからなぁ」
「エドガー・アラン・ポーの記憶がほとんどなくなりかけているのにか?」
「は………記憶が、ない?ふざけんのも大概にしぃや」
この科は、互いに因縁がありすぎる。過去云々じゃなくて、むしろ、過去があるから今を揉めていた、過去が原因っちゃあ原因だがそれで争っているわけじゃねぇっつーこと。
だって俺たちは紛れもなく現代人なのだから。
いてぇなぁ。いてぇよ。俺もお前も。こんなたかがお遊びの時でさえ遊べねぇんだから。そんで、そのお遊びにレディが関わってるのがもっといてぇ。あのクソッタレにレディはもうこっちに関わらせるなとあれ程言ったのに、やっぱり約束は守られない。
あいつは悪くないんだ。あいつはただ歴史が好きだったんだ。だから彼女のことも知っていた。だから、その罪も。余計に悪い。俺は今でも時々思うんだ。彼女が俺みてぇに狂っていたら。ってよ?
「あぁ、悪りぃ。言い間違えた。無くなるんじゃなくって…わかんなくなってんだろ。記録がないから」
ぶちん
と何かが切れたみてぇだった。江戸川はパチンッと指を鳴らす、そして氷が割れるような音がして辺りが陽炎みたいに揺れた。
「似たもん同士だよなぁ…お前と俺って。似てるから助けられねぇんだよ。俺たちじゃあ。なぁ?アンデルセンの旦那」
言っても、珍しい、旦那は返してくれなかった。隣にいてくれてるからいいか。
「
淡いピンク色の唇を小さく動かして、旦那はそう言って、こう言った。
「また死ねばいい」
□□□◇
…なんというか、予想通り。
なんていうか、でっかい、そう、強いて言うなら金庫を保管しとくためのでっかい金庫的な雰囲気。ルパ○とかに出てきそうな丸い扉ではないけれど、規模はあれくらい、だと思いたい。
「なに呆気にとられてるんですかねぇ。これくらいでビビってたら授業中に失神しますよ」
相変わらずの口調で本多が肩を叩いて扉の中に入っていく。うん、授業中に失神するのはあれかな、担任の体罰でかな、授業内容が(つか歴史の授業が)リアルすぎるからかな。もうこの際どうでもいい。
俺たちは長い長い地下通路を通って(つか地下通路あるんなら林で死にかけることなかったんじゃね?)第二棟の一階に来ていた。一階の1番東側。そこに地下書庫への扉があるってんで、授業を妨害しないように———ほとんどしてなかったけど———しずかーに歩いて扉まで来たんだが…
「なんでこんなに護符貼られてんの…」
仕方ない、この際だ、俺も意を決して銀光りする分厚い扉の向こうに足を踏み入れた。
俺の問いに答えたのはもちろん本多でやっぱり嫌味ったらしい。
「ここはねぇ、この学園一歪むんですよ。地下で、しみったれた本がごまんとあって、しかもそこに強烈な隠の気。これ以上ないくらいうってつけでしょうが」
「…怪異みてぇの?」
「…アラリャギくんはいませんよ」
「アララギじゃね…?」
「…カミマミタ」
メタ発言するけどさぁ。この小説いろいろパクりすぎじゃね?もうちょっとじりきでいこうよ。
ともかく護符が貼られてる理由はわかった。俺からしたらバートリ・エルジェーベトってすげぇオカルトに分類されてるからまぁ雰囲気にあってていいんじゃね?とか思う。けどガチで現実的にヤバいんだろうなとも…。
朝倉(覚えてる?)ってすげぇーオカルト好きで、俺も若干その影響は受けてる。だから血の伯爵夫人って聞いた時はすげぇビビった。だって彼女、1日1食、陽の光もないところで3年半近く生きてたんだぜ?まぁもちろん彼女の所業にも興味あるけど。
これで普通に”生まれ変わり”として生まれてたんなら、面白かったんだろうなぁ。
「しかも1人に2つの人格だろ…?面白すぎんだろ」
しかしまぁ、どっちに転んでも面白そうだったことに、今気がついた。
その俺の発言に2人が顔をしかめたのは、またかなり別の話、ってことで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます