第 拾壱 話 ため息ばかりです。
結局、と俺はため息をつきながら本郷に聞いた。
「そいつの知ってた【ルール】って、なんだったんだよ」
「ああ、それ?えっとねぇ、【警視総監】を時間内に倒さなければいけない、だって」
「「【警視総監】〜??」」
「うん、【警視総監】」
警視総監って、東京都警察トップのことだよな?まぁある意味警察のトップみたいな雰囲気の。つかそんな役職このゲームにあったんだ…
「去年はあった?高杉くん」
「いや…ないと思ったぞ」
「そいつが嘘ついてんじゃねぇの?」
「ううん、ジャックは嘘をつかないよ。だからこの情報はあってるんだけど…」
本郷がうーんと考え込んで、放置されてた気を失っているジャックの上に座った。お前のそういうとこ好きだぜ、うん。
ともかく一旦本郷を休ませることにした。高杉がその怪我した手を手当して叱ってた。その表情がマジで鬼なもんだから、怒られてない俺が怖くなった。もちろん本郷はへらへら笑ってのらりくらりかわしやがる。
ともかく、このゲームの趣旨のようなものはわかってきたので、とっとと寮に行って本郷、の、武器、を…
「って、お前持ってんじゃん武器!」
じゃあ寮に戻る必要もなくって、地雷地帯を走ることも銃を乱射されたことも、全部無意味だったってか!
俺がそうがなれば本郷は大丈夫だってぇ、と笑った。
「【ルール】じゃ持ち込んでいい武器は1つ。だけど元からフィールドにあった武器は持ち込んだってカウントしないと思うな」
「んなっ!じゃあその物騒なベストは落ちてたってか!」
「ま、僕はそんなセコイことしないけど」
「はぁ?」
「本郷は銃撃戦の方が得意でな。このベストはいつも仕込んでいるもので今日の倒会議用ではない」
「てことはつまり」
「寮に行ってこのベストと銃を交換しまーす。勝率はちょっとでも高い方がいいでしょ?」
一個だけツッコミたい。この学校って制服の下にナイフ仕込んでてもいいのかよ!!!!てかいつもそんな重くて暑苦しいもん着込んでんの?尊敬するわー。本当にお前、隣の高杉と交代した方がいいんじゃね?だってさ、今日高杉働いてるとこ見たことないよ。
…戦ったら戦ったでまたすごいことになんだろうけども。
今日何度目かマジでわかんないため息をして、とりあえず休憩を終え寮に向かう。【警視総監】のことは追々情報収集をすることにして、一回寮で改めて作戦を立てようということになった。
寮までの道のりは運よく誰にも会わなくて、地下から行かなくても裏口から余裕で行けた。本郷の部屋は3階の角部屋で高杉と同室だ。間取りは大体俺んとこと同じだが、一発でどっちがどう使ってるかがわかる部屋だった。
リビングは原稿用紙やらペンやら本で埋まってるから本郷だろうし、 一段上がった畳んとこは刀が何本もあって、アメリカイギリスフランスオランダの国旗がズタボロで飾って(?)あるから高杉だろうし。
「散らかってるけどまぁ適当に座って?高杉くん、学園の地図ってどこにしまったっけ?」
「俺の部屋の茶箪笥の上から2番目の棚を外して天板のつまみを回せ。板が外れて筒が出てくるはずだ」
「りょーかいー」
たかだか学校の地図をなんでそんなに厳重に隠してるんすかね。てかその茶箪笥すげぇなおい。
俺はリビングの紺の座椅子に座って、高杉は座布団に座った。ローテーブルの上の原稿とかをザサーッと床に落としてまっさらな状態にすると、硯やら筆やらを用意し始める。普通にペンはないのかよ、さすがににお前らの時代でもペンくらいあったろ。
そう俺が思っていると、本郷が何やら金属をガッチャガッチャ言わせて部屋から戻ってきた。その両手には銃が1丁ずつと黒い筒があって、腰にはホルスターとマガジンが大量に入ったウエストポーチがあった。
「はい、地図。それと今日向くんから電話があってね、【泥棒】で一旦集まらないかって」
「なんでだよ、集まったって情報交換くらいしかねぇぜ?」
「だが【警視総監】を倒さねばいけないのだろう?恐らくそれが成せぬならあの爺のことだ、何かある。だったらば集まった方がいいだろう」
「とりあえず僕ら【泥棒】は【警察】に捕まらなければいいんだけどね」
じゃあ移動か、と高杉が言ったが本郷は首を横に振る。
「みんなここに来るって」
「何人」
「20人くらい?」
本郷がそう言った瞬間、玄関の扉がすごい音を立てて開いて、ドタバタと足音が大きくなった。
「芥川ぁぁ!!来たぞ!亜沙比も高杉も一緒らしいなっ!?」
「日向!人様の家なんですから静かにしなさい!」
「はっはっはっ、いいじゃあないか、篤。所詮腹切野郎の家よ、踏み荒らすのがよかろう」
「おうおう日本人の思考は怖いもんだな、え?なぁそう思わねぇかい、アンデルセンの旦那」
「僕はどうとも」
それまでそこそこ静かだった部屋が一気にうるさくなって、玄関には靴が山を作った。先頭集団はオレンジ頭の島津義久の〈生まれ変わり〉
まぁまたなんとも濃い奴らで。こいつらは俺と同じクラスだが、ちょっと後ろにいる2人はわからなかった。本郷に聞けば、酒瓶片手に持って目の下のクマがすごいのがエドガー・アラン・ポーの〈生まれ変わり〉レイヴン・ウィリアム・アッシャーで、金髪碧眼の華奢な女子がアンデルセンの〈生まれ変わり〉イアン・リンドらしい。
女子が1人しかいない…むさっくるしい…つかその女子もある意味女子じゃないっていう…
「あれ、これだけ?」
「20人も入ったら迷惑だろう?他の奴らは隣の部屋で待機してもらっている」
そう言いながら地図を広げたローテーブルの周りに座り、あるで円卓の騎士みたいになって会議を始めた。
「そういえば本郷。相方のあれはどうした。あの根暗」
「ああ、津島くん?彼は今回【警察】だからね。一緒じゃないよ」
「珍しいこともあるのだな。彼奴はお前から離れないと思っておったぞ、まるで恋仲のように一緒におるものだからの」
「はは、黙らないと殺すよ?本多くん。それより情報交換、するんだろ?とっととしようよ。ここだって安全とは限らないんだからさ」
本郷がそう言うと、本多は制服のシャツの上に羽織った打掛の褄を直しながら鼻で笑った。
「やはりお主は阿呆のようだ。【警察】は建物の中に入れんということを」
「知っているよ。けれどね、君の方こそ阿呆じゃないかな?裏があるって考えないの、屋内にずっといたらゲームが成立しないだろう。時間制限か何かしらあるはずだ。全くこんなことも考えられないなんて、軍師失格じゃない?よく家康も君みたいのを友だと言ったね」
向かい同士に座る本郷と本多の間に火花が散っているのが見えて、俺は目をしばたかせた。本郷って、さっきのジャックと言いこいつと言い、敵作りすぎだろ。俺のイメージとしては芥川龍之介ってもっと、こう、なんていうの、もっと知的で少し過信気味な感じだったんだけど…
これじゃただ喧嘩っ早いだけだ…煽り検定一級かな?
「また始まった…」
「お二人さーん?今度は家壊すんじゃねぇぞー!俺ぁ厄介ごとはごめんだぜ」
「単細胞」
「いい加減にしなさいよ2人とも!!!」
こいつらとまともな話し合いって、できんのか?俺超心配。とか思ってるうちになんで2人とも武器が手の中にあんのかな?ほんと、まともな奴いないのかよ…毎回こんなんだよ…
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