第 捌 話 一応学校の敷地内です。








『じゃあ、三十年戦争は何年に始まって何年に終わった?』

『えーっと…、1613年から…1643年?』

『おしいな、1618年から1648年だ。どういった内容の戦争だ?』

『…神聖ローマ帝国、今のドイツで起きた宗教戦争。家と、ブルボン家を背景にして、えっと、疫病とかが流行ってドイツは負けて…ウェストフェリア条約でオランダなどの独立も認められ戦争は終結します!』

『ハプルスルブクじゃなくて、ハプスブルク家、な?お前はいつも間違える。だが内容はまぁ、及第点だな。もう少し勉強しな』

『うん!俺もね、×××××××の生まれ変わりだからね、頑張るよ!』







□□□□□□□□


「俺たち【泥棒】には知らされていない【ルール】は3つ。【警察】は檻の半径5m以内に10人以上いてはいけない。【警察】は校舎内に入ってはいけない。【警察】・【泥棒】は新しく武器を作ってはいけない。これであってるか?大統領」



サードとかいう、顔面が山に造られた男は必死に頷いた。どうやら嘘はついていないらしい。意外にも、【警察】にだけ与えられた情報は少なかった。それでもまぁ、知らないよりはマシだろう。


俺と本郷、そして高杉は顔を見合わせ今後の作戦を立てる。



「校舎内に入れねぇんなら俺たちが校舎内に引きこもったらどうすんだ」

「多分それはできないと思うよ。ただまだ知らされていないだけで」

「じゃねぇとゲームが成り立たねぇか…」

「つかさー、俺たち【泥棒】が【警察】をしょっぴいたらどうなんだ?なんか起きんのか」

「それがさっきのカウンターかなぁ」



うーん、と頭を悩ませるが、余計にわからなくなってしまった。【警察】は【泥棒】を捕まえることによって賞金を手に入れられ、【泥棒】は逃げ続ければ自分にかけられてる賞金の3倍を手に入れることができる。じゃあ途中で参加不能になった場合、特に【警察】はどうなるんだ?処理でもされんのか?


つかその前に、



「逃げ続けるって、何時までだよ」



そう、そもそもそこだよ。そこなんだ。俺たちは何にも教えられていない。言われたのは武器を持っていいことと、さっき言った賞金のこと。そして檻に入った【泥棒】は助けることができるということくらい。


高杉は俺の疑問にピクリと反応して、ヤンキー座りで大統領に問いかけた。…さすが元攘夷派、アメリカさんには大統領だろうがそういう態度でいいってか。



「貴様、時間制限については何か言われたか」

「い、言われてないっ、去年は1週間続いたから…今年もそうなるかもしれないけどな」

「…1週間も続いたのか、去年」

「ああ、しかもえげつないことに、食料、寝床、着替えなんかは自己調達。寮に戻ろうにももちろん【警察】共が彷徨いてやがる。栄養失調になった生徒が何人も出たそうだ」



よく摘発されねぇなおい。もうさ、モノホンの警察入ってきたら一発でおじゃんじゃね?この学校。


心の底からそう思ったところで、俺のスボンのポケットに入っていたスマホが震えた。取り出して見れば、LI◯Eにメッセージが届いていて、差出人は二井八だった。


一応クラスメイト全員分のL◯NEは登録してあるけど、二井八がお気に入りに入ってることはもちろん誰にも言えない。


高杉たちに画面を見られないようにさっさとトークルームを開く。



『28:)今どこ?まだ捕まってない?』

『KEI:)まだだけど…二井八って、どっち?』

『28:)泥棒。今ね、寧々ちゃんと一緒にいるんだけど、誰か【警察】捕まえた?』

『KEI:)ちょうど目の前に転がってる』

『28:)縄は誰が持ってたの(笑)』

『KEI:)本郷。てかどーした』

『28:)ブレスレット、その人のに近付けた?』

『KEI:)おう、本郷がやった』

『28:)ケータイにアプリ入ったでしょ?数字いっぱい出てくる』

『KEI:)おう』

『28:)私たちそれの意味がわかったの。時間がないからちゃっちゃと言うね。一番桁数が多いのは逃げる残り時間。増えたり減ったりするのが速いのがブレスレットの持ち主にかけられてる倍率。二桁が2つ並んでるのは残ってる【警察】と檻に入ってない【泥棒】の数』

『KEI:)どうやって知った!?』

『28:)説いたら言ってくれたの』

『KEI:)…まぁとりあえずサンキュ、お前らも気をつけろよ!』



あらぬところからの救い手で、直面していた疑問が解けた。本郷にそのカウンターアプリを見せて貰えば、二井八の言っていることが正しければ残り時間を示しているタイマーは8:33:12:59とある。あと8時間半、今の時刻は9時半。


6時がタイムリミット…


去年と比べると随分短い。本郷たちにそのことを告げれば、やっぱり訝しんだ。こりゃ何かあるな。


タイムリミットの決まった鬼ごっこ、か。



「今回はありえないくらい親切だな。今までこんなものは支給されなかった」



高杉が画面を覗き込みながらそう言った。



「知ったような口を聞くな」

「当たり前だ。一昨年、そして去年と新撰組の組員が高等科に入学した。その都度情報は流してもらっていた」

「え、ずるーい!中学生は倒会議の情報を知る権限は無いって、散々言われて誰も教えてくれなかったのに!」

「人徳というやつだ、芥川」

「僕だって人徳あったんだから!」

「うるせぇ巨根。てめぇは黙って小説書いて無駄打ちしてろ」

「ちょっと、どういう意味!?」

「あ?まんまの意味だが?」

「心外にもほどがあるよ高杉くん!僕は決して無駄う」

「わかったから2人共黙れ!本郷はズボン降ろそうとすんじゃねぇ!」



なに、やっぱり芥川龍之介ってデカかったのかよ。今の見た目超幼いのにか?すげえやだなおい。


ともかく、これで少しは逃げやすくなったんじゃ無いのか?リミットがわかったからいつ終わるのかと神経すり減らさなくてもいいし、あとどれだけ【警察】が生き残ってるのかもわかるし、【ルール】で建物内はまぁとりあえず安全だってことがわかったし。


ということで、とりあえずサード大統領はそのまま放置して、本郷の武器を取りに行くことになった。とりあえず武器が無いことにはこのケイドロを生き延びるのは難しそうだ。


…さっきのあの銃声やら何やらで大体察しは付く。


もちろん実弾じゃないだろうけど、気絶したりするくらいの威力は余裕であるだろう。しかも何気こん中で一番腕が立つのが多分本郷だし。


鬼に金棒とかいうやつだ。


ここから寮に行く最短ルートは体育館前を通り正門を突っ切る。そして寮まで一本道を走る。


だけどそれはもちろん一番危険なルートだ。だから今回はグランドの方から回って、林の中を走り、寮の後ろにあるボイラー室の地下から寮に入るっていうルートで行く。ちなみにこのルートは高杉が考えた。なんでも【新世紀新撰組】とかいう新撰組の生まれ変わり達が代々使っている道らしい。



「安全なのー?本当に」

「多分」

「体育館前通るよりはマシだろうな」



本郷だけイマイチ乗り気じゃなかったけれど、自分のせいで寮に行くんだから仕方がない。


隠れていた倉庫のから顔だけ出して、周りに【警察】がいないか確認する。グランドの向こうの林までとりあえずはいなさそうだった。恐らくこんな体育館に近いところに隠れているわけが無いだろうと、もっと奥の方に行ったんだろう。



「チャンス、だな」

「おい亜沙比。お前先鋒切れよ」

「はぁ?なんで俺」

「貴様が一番どうでもいい人間だからだよ」



どうでもいい!?ひでぇ!!


だけどごもっとも!!!!


ここでギャーギャー言っても仕方がない、確かにチャンスは今だけだろうな。俺はため息を吐きながら倉庫から足を踏み出し、一気に走り出した。それに続いて高杉、本郷が出てくる。


…びっくりするくらいいねぇな。


走りながらそう思う。それは後ろの2人も同じようだ。



本当に何もないままグランド脇の林までたどり着いて、少し休憩する。木に寄りかかって息を整える。意外と距離があって、日頃から運動をしていない俺にとっては少し辛かった。ま、やっぱり文化人の本郷も少し息が荒い。高杉だけ平気な顔で立ってた。



「あと10秒したら行くぞ」

「ちょっと、待って…俺たち疲れてんだけど」

「そう、そう…」



ったく、と高杉は舌打ちをして仕方ねぇと呟きながら林の中入っていく。あんまり遠くに行くなよ、と俺が口を開きかけた時だ。カチ、と何かが起動した音がしたのは。



「っ、伏せろっ!!!」



高杉がこっちを向いて飛んできた。数メートル離れたところにいた高杉が俺の隣に来た瞬間、ものすごい風が巻き起こって、ガサガサと葉が音を立て、土埃が舞い、爆発音が響いた。



「ノーベルだ!あいつしかいない!」

「はぁ!?」



本郷がそう叫んで、高杉は俺の隣で寝っ転がる。クソ、と顔を上げた高杉はまた何かに反応して俺たちのシャツの襟を掴んで自分と同じ格好にさせる。それよりもコンマ1秒くらい遅く発砲音がして、それを皮切りに様々な銃の発砲音が木霊した。


おいおいおい、一体どういう状況だよおい!


爆発して、狙撃されて、デコ地面にぶつけたんですけど!



「本郷!これは本当にノーベルの爆弾か!?」

「絶対そう!あいつくらいだよ!爆弾使うやつなんて!」

「確かにそうだな!亜沙比、俺たちは完全に狙われてた、このルートを行くのは危険だが恐らく戻るのも危険、どうする!?」

「だからなんで俺に聞くっ!?」

「お前が一番、新しい戦略を立てることができるからだ」



真っ直ぐ俺を見て、高杉はそう言った。



「俺たちの立てる戦略は古い。今俺たちを狙ってるやつのもだ。だが、お前唯一、純正の現代人だ。なら何かいい案でるだろ」

「無茶にも程がある…!」



俺たちがここに来ることが割れてたんならさっきの場所にはもちろん戻れないし、手短な建物は全然手短な位置にない。発砲音と連射音を考えて、相手はかなりの数いるし、爆弾があるんなら手榴弾だってあるだろう。俺のバタフライナイフに高杉の刀じゃ分が悪すぎる。


だから、逃げるのは得策じゃあない。


そういや高杉が作動させた地雷、時間差で作動したな。なら、行けるかもしれない。



「この林、突っ切るぞ!」

「はぁ!?」

「抜けりゃすぐにボイラー室だ。銃弾だって、殺傷能力がなけりゃおもちゃだろ?高杉は戦闘慣れしてるし本郷はとりあえず撃たれても走れるだろ」

「僕の扱い酷いねっ!?」

「俺はなんとかするから、とにかく、林を抜ける!これしか今のところ案はない!グランド脇の道を行ってもいいけど、一本道だから待ち伏せされて終わりだ。林ならどうにかこうにか逃げられる可能性が上がる!」



確かにな、と頷き仕方がないねとため息をつかれる。俺だってな、なんで入学早々こんな死にそうなってるか疑問だよ。ため息つきたいのこっちだから。


だけどまぁ。


こんなんもありかな、とか思い始めてるわけで。普通の学校じゃ体験できないことを、やってるわけで。



「じゃあ、林を抜ける作戦は?」



本郷が尋ねてくる。俺は上体を起こしてクラウディングスタートの体制をとる。



「簡単だ」



銃声が止む。弾切れだ。俺たちが逃げる体勢をとるのには十分すぎる時間が生まれる。



「ダーティーハリーみてぇに生き急ぐだけだ」












































…やっぱ言うんじゃなかった!!!!

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