番外編:愛しい子供に2
キルキトが私の後を追ってくる。
「にいちゃ、にいちゃ」
両手を差し出して、にこにこと笑みを浮かべている。その顔に私も頬が緩む。
「どうした」
振り返って屈んで、手を広げる。私の腕の中にキルキトが飛び込んでくる。
「にいちゃー!」
頭を撫でるとさらさらした髪が気持ちいい。私を見上げて、かわいらしい笑みを向けてくる。
「すっかりお兄ちゃんになってしまったな」
キルキトの背後からのんびりとやってきたのは、彼の父であり私の叔父だ。
「叔父さんが毎日私のところにキルキトを寄越すからでしょう?」
「あははは、だって鍛冶場に入らせるのは危険だしさ。君が鍛冶場に入るまでお願いするよ。もう一年、二年すればこの子も少しは物事の分別がつくようになる」
村の少年達は一定の年齢になると鍛冶場へ入るようになる。それは誇らしく、そして名誉なことだ。私もあと一年ほどで許される年齢になる。
「にいちゃ、あそんでー」
「キルキト、ちょっと待て」
叔父からキルキトに視線を移すと、幼いその子はびたっと体を硬直させる。
ちょっと面白い。
「今、お父さんと話してるから終わるまで待っていろ」
「はーい。はやくねー」
キルキトはちょっとだけつまらなそうに口を尖らせたが、傍を跳ねる虫にすぐに興味を奪われた。微笑ましいと思いながら私は視線を叔父へ戻す。
「我が息子ながら、ホント懐いてるよな。俺が一緒に遊ぼうって言っても、にいちゃとあそぶーって言われちゃうんだぜ」
「それは叔父さんがキルキトで遊ぶからでしょう。一昨日父から小言をもらってましたよね」
兄である私の父には弱いらしく、事あるごとに怒られていた。その光景は滑稽で、面白い。
「うーわー、兄貴にそっくり。君は本当にかわいげがないねえ。ま、それが君らしいんだけどさ」
「余計なお世話です」
父に似て無愛想なのは理解している。まだ私だって子どもなのに老成しているとか言われるし、同年代よりももう少し年齢が上の子との方が話が合うし。自分でも少しは気にしているんだ。
「あっはは、それが君だからいいけどな。で、キルキトのことなんだけど、そろそろ言葉は段々達者になってきたけど文字書きも教えたいんだ」
「……教えたいんだって、私が教えるんでしょ」
「うん」
素直に頷かれてがっくりする。親子揃って素直なのはよいことだが納得がいかない。
「にいちゃー」
どすっと足に衝撃が走る。後ろからキルキトに突撃されたらしい。
「まだー?」
「キルキト、すまなかったな。もういいぞ」
「わーい」
私の足にまとわりついて、キルキトが両手を挙げる。
その手を取って、私は頬を緩めた。
それはまだ、私がキルキトと一つ屋根の下で暮らす前のこと。
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