10: 逢えないことが愛を高める
我らが領主代理ヴィオラッサの外見を一言で言えば、か弱い。
線が細く、身長も高くない。普通にしていればやさしいし、表情もやわらかい。だから時々勘違いする輩がいる。――ヴィオラッサを女だと。
過去にハジータムナクは見たことがある。勘違い男の末路は凄まじかった。
ヴィオラッサは最初会話での交信を試みた。けれどそれは受け入れられず、逆上した相手が騙されたと叫び始めると、ヴィオラッサは表情を消した。それからはヴィオラッサの独壇場である。見た目に反して沸点が低い彼は、まず殴り、そして蹴り、最後に警察に突き出した。
ヴィオラッサを正しく理解している人は憐憫の目でその光景を見ていた。
けれどそんなヴィオラッサも齢三十を超えて妻を迎えることになった。三十に達した頃にはもうヴィオラッサを無条件で女性と間違えるような者は居なかったが、そういう相手が居ることに皆が驚いた。出会いはとても普通で、知り合いを通じて出会ったのだという。ハジータムナクはヴィオラッサが妻を迎えると聞いてとても驚いた。
ディーアやキルキトはただ喜ばしいと笑っていただけだったが、する気があるとも思っていなかったのだ。相手に引き合わされたとき、すごく緊張していた。会う前はどういう人なのかと色々考えたけれど、どうしても想像が出来なかった。
果たして相対した時、ハジータムナクは不思議に思った。どうして彼女だったのだろうかと。
「不思議そうな顔してるな」
その思いは顔に出ていたようで、ヴィオラッサは簡潔に答えた。
「彼女はさ、ずっと待っていてくれたんだ」
「ずっと? 待っていた?」
「そう。領主代理として仕事で色々な所に出向いただろう。戦ったりもしたし、死に掛けたこともある」
大陸を一つにしたいというのはヴィオラッサの願いだった。争わなくてもいい世界が欲しいと言っていた。それがディーアの力で可能になるのだと。
「そんな時でもさ、彼女はずっと待っていてくれたんだよ」
静かにヴィオラッサは語りだす。
「僕だって代理を引き受けた時点でこういうの半分諦めてたよ。ディーアは我儘だし、常識が足りないし。ハジータムナクもまだ僕からすれば心配だ。キルキトだってもっと好きに生きれるようにしてやりたい。だからいつもは紹介をされても、二回目に会うことは難しいことが多かった。でも、待っていてくれたんだ。それが嬉しかった」
ヴィオラッサがにっこりと笑った。
その顔は幸せそうで、ハジータムナクは彼がこうして笑えるのならいいのかもしれないと思った。ハジータムナクには恋や愛といった感情はあまりわからない。経験も乏しいが、それより特に興味がわかなかった。自分の顔を見ると大抵の女性は怖がるのでそういう機会も得られにくい。
ただ、幸せそうに笑うヴィオラッサを眩しく思った。
「彼女を愛しているんですね」
するりと口に出た言葉はハジータムナク自身も意外な言葉だった。自分の発言に驚いていると、目を丸くしながらもヴィオラッサが照れた顔を見せた。
「そうだね。愛しているよ」
真面目に頷くヴィオラッサを羨ましいと思った。
そして笑うヴィオラッサを嬉しく思った。
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