第三部-第五章〈中〉 『ザ・ファイナル・バトル・イン・オール・アウト・ウォー』
流輝は順調に無双していた。
後ろから近づいてきた『イタクァ』を振り返りざまに右手に握っていたナックラーで殴り飛ばす。
そして、それに付いているレーザーポットからレーザーを四本放つと、それが『イタクァ』の体を貫く。
しかし、それでは完全に破壊することはできない。
まだ、動いている。
流輝はそれを確認すると、ナックラーのミサイル発射口を展開すると、四発のミサイルを『イタクァ』に命中させる。
すると、大爆発を起こし『イタクァ』は木端微塵になる。
その欠片は重力に縛られること無く四方八方に飛んで行き、『FAクトゥルフ』にも襲い掛かるが、そんなこと関係ない。
後ろから五機の『ビヤーキー』の接近を確認する。
すると流輝はバックパックのビームガン四つの銃口を向けると、そのうち三機の『ビヤーキー』を破壊し、爆散する。
しかし、残った二機が攻撃を仕掛けてくる。
ミサイルを放ち、『FAクトゥルフ』に攻撃を仕掛けてくる。
それに気づきながらも、流輝は振り向くことなくナックラーに搭載している小型二連ビームライフルの銃口をそちらに向ける。
そして、光の弾丸を放つと、ミサイルごと二機の『ビヤーキー』を破壊した。
流輝は見なくても、それを理解していた。
そしてそのまま、前を向き、そこから迫りくる『イタクァ』六体に狙いをつける。
バックパックのカノン砲を前に向け『ク・リトル』と『リトル』の砲口も向ける。
そして、攻撃を仕掛ける。 四筋のビームが伸びて行き、一気に六体の『イタクァ』を撃破する。
しかし、それで終わらない。
後ろから六機の機体が迫ってくることに気が付く。
それに応じてバーニア型レーザーポット一つを起動させると、十門のレーザーを同時に発射する。
すると、五つの爆発が背後に起きる。
五つ?
「はぁ?」
流輝は高速で振り向くと、そこにはレーザー全てを躱した敵機体『ハスター』がいた。どうやら『ビヤーキー』を楯にして直撃を避けつつ接近して来たらしい。
流輝はミサイルポットを開くと、『ハスター』を睨みつけながら叫ぶ。
「このクソ野郎が!!」
そして、一斉にミサイルを発射する。
その数、一九二発
さすがの『ハスター』でも躱せないだろう。
流輝がそう思った時、『ハスター』はエネルギー膜発生装置を起動させ、それでミサイルを凌いで行った。
「チッ!!それがあったか!!」
流輝は悔しそうにそう言うと、腰と肩にあるビームガトリングガン六門を起動させると、一斉に発射した。
そして、数で押しつつエネルギー膜発生装置を破壊しようと試みる。
が、上手くいかない。
複雑な軌道を描きつつ、接近してきているのでなかなか狙いの場所に当てられない。
流輝は接近されないように後退しつつ攻撃を繰り返す。ガトリングガンは火力高いものの命中率がいささか低い、それが悩みだった。
ちなみに、この装備は大量破壊が目的なので、全体的に命中率が低く、破壊力、射程が求められる設計になっていた。
流輝はそれでも止まらず、攻撃を仕掛け続ける。
やがて、『ハスター』は嫌気がさしたのか、いきなりエネルギー膜発生装置を解除すると、高速で下に回り手の平のビームを放って攻撃を仕掛けてくる。
流輝はそれを確認しつつ、バーニアのレーザーを数本放つ。
もちろんそれは『ハスター』を落とすため
しかし、それは回避され、的確にビームを放ってくる。
「畜生!!腐っても旧支配者か!!」
他の機体と比べて圧倒的に速かった。
それにイラつく流輝だが、どうしようもなかいので、とりあえず絵距離から叩き潰すことは諦める。
と、どこからともなく大型のビームが放たれてくる。
流輝は何とかそれを回避すると、一体何が攻撃を仕掛けてきたのか、それを確認することにした。
と、その前に弾幕が張られる。
其れで気が付いた。
確認するまでも無い。
『ガタノトア』だ。
流輝は勝負に水が差されたことに途方も無い怒りを感じた。しかも、『ガタノトア』如きに邪魔されたのである。
よく分からない理屈だが、どういうわけか流輝は怒り狂っていた。
なので、一度『ハスター』の事を無視すると、そのまま真っ直ぐ『ガタノトア』へと向かって行く。
『ハスター』はどういうわけか流輝への攻撃を止めると、あらぬ方向を見た。流輝は少し気になり、サブカメラをそちらに向けると拡大して見てみる。
するとそこには『ナイア』がいた。
納得した流輝はそのまま何も気にすることなく『ガタノトア』へと向かって行った。
道中、レーザーやビームを放ちつつ、群がる敵を蹴散らし、弾幕を躱していき、『ガタノトア』へ向かって行く。
そこで流輝は攻撃を仕掛ける。
まずはミサイルを一斉には放つ。
それらは全て『ガタノトア』に吸い込まれていくと、周囲に纏っている強固なシールドを完全に破壊する。
これで、『ガタノトア』は無防備となった。
流輝はそれを見て笑うと、一斉にビームを放ち『ガタノトア』を落とそうとする。
主砲のある第一艦橋その他を潰し、反重力推進装置を全てその火力で叩き潰した。これで『ガタノトア』は航行不能に陥った。
それを見て、流輝は満足そうに笑うと、動けなくなった『ガタノトア』に取りつくと、再びカノン砲の砲口を向ける。
それも、ゼロ距離で
そして発射する。
「落ちろ!!」
二筋のビームが『ガタノトア』の装甲を貫き、そのまま真っ直ぐ貫いて行き、その先にある動力中枢を破壊する。
といっても、大きいものだから完全に破壊できたわけでは無い。
しかし、内部で爆破を起こすには十分すぎる起爆剤であった。
『ガタノトア』は内部から崩壊を起こすと全身がバラバラになって行き、爆破を起こしつつ破片が辺りにばらまかれていく。
流輝は離れたところからそれを眺めていた。
「ハハハハハハハハハ、壮観じゃないか!!」
流輝は満足そうにそう叫ぶと一度機体の動きを止めると、エネルギー残量など兵装の状態を確認することにした。
ポットのエネルギー残量、六七%
兵装損傷率二%
機体損傷率〇%
ミサイル残量二七八三発
これを見て、流輝は言った。
「まだまだ戦えるな」
そして、反重力推進装置を起動させると真っ直ぐ敵が集まっているところまでビームを放ちつつ、突っ込んで行った。
その頃アリサは、流輝が落としたのと別の『ガタノトア』へ向かって行っていた。
それはもちろん『ガタノトア』を落とすためだったが、傍目で落ちていく『ガタノトア』を見て、何とも言えない気持ちになった。
「本当に流輝だけでよくね」
ミリアと同じようなことを言っていた。
が、そんなことで腐っていられない。何故なら、アリサの狙いを察した数体の敵が迎撃するべく襲って来たからだった。
アリサはそれを見て、ため息を吐く。
めんどくさいことこの上なかった。
なので、さっさと終わらせることにした。
バックパックのアームパックを起動させると、六本の腕を全て敵に向け先にあるビーム砲からビームを放つ。
しかし、当てるつもりはない。
隊列を組んでいる『ビヤーキー』をばらけさせるのが目的である。
そして、狙い通り『ビヤーキー』は隊列を崩し、上下左右にバラれていく。
大鎌を手の下から出るワイヤーに接続すると、大きく腕を振るい大鎌を弧を描くように動いて行く。
地球なら重力に引かれてしまい、すぐに地面に転がることになるのだが、ここは宇宙、重力に引かれること無く大鎌は空を切って行く。
すると、躱し損ねた二体の『ビヤーキー』を破壊して、大鎌はそのまま空を切り続ける。
そSの隙をついてか、残った四機の『ビヤーキー』がレーザーを放ちつつ接近してくる。
アリサは空いている左手を腰のアーマーに持って行くと、そこからナイフを取り出し、握る。
そして右のアームパックを分離すると自立移動を開始させる。
「さて、と!!」
まずアリサは、左手に向かって飛んで行き、そこにいる二体の『ビヤーキー』に接近していく。
レーザーを躱しつつ、ナイフを投げつけると一機の『ビヤーキー』を貫き、破壊する。
そして左手からワイヤーを射出するとそれを残った『ビヤーキー』に巻きつけ行動不能に陥れる。
そして、ワイヤーを収納しつつ、『ビヤーキー』を自分のところに引き寄せると、両手でそれを掴み、銃口を向けられないようにしつつ言った。
「終わりだ」
そして、両手に力を籠め『ビヤーキー』を二つに引き裂いた。
そしてそれを捨てると爆発に巻き込まれないようにそこから離れて行った。
ちなみに、分離していた右のアームポットは勝手に動き、残った『ビヤーキー』二機をビームで撃ち落としていた。
そして、それを収納しつつ、戻ってきた大鎌を手にする。
うし、完璧!!」
本当に完璧だったが、優越感に浸る暇は無かった。
なぜならまだ敵は多く残っている。
しかも、戦艦は落とせていない。
目的は何一つとして達成していなかった。
「少し、急ぐか」
しかし、そううまくいかなそうだった。
索敵装置を起動させ、敵の数を計測してみたら約四十機もいることが分かった。
かなりの数が流輝迎撃のために割かれているとは言え、戦艦は大切らしい、完全に防御用の布陣であった。
そしてそれは、アリサG苦手とする布陣だった。
「どうするかな?」
アリサが悩んでいると、通信が入った。
それはダーレスからだった。
ついでに『アザトース』も隣にやって来た。
『アリサ、いいか?』
「なんですか?」
『これから『コス―GⅡ』部隊が側面からあの集団目がけて攻撃を仕掛ける』
「はぁ」
『君と私はその隙にあそこを突破する、いいな』
「あいよ」
アリサはそう返事を返すと、戦闘態勢を整えた。『アザトース』もアサルトライフルを構えると、すぐにでも叩ける準備を整える。
ここで、アリサは疑問に思っていたことを聞くことにした。
「ダーレスさんよ、一ついいか?」
『なんだ?』
「流輝のおばさん、あれってお前の仕業だろ?」
『…………』
「答えろよ」
『行くぞ!!』
「あ、おい!!」
ダーレスが返事を返す前に『アザトースは』敵に向かって突っ込んで行った。どうやら、『コス―GⅡ』の攻撃が始まっていたらしい、敵の布陣はバラバラになっていた。
『アザトース』はその隙をつくと、取り残された『イタクァ』に接近すると、その背中にライフルの銃口を押し当て、引き金を引く。
いくら威力の低いライフルといっても至近距離で連射されてはかなわない。
『イタクァ』の背部ユニットや装甲はボロボロになる。
ダーレスはそれを見届けると一旦距離をとりつつ、銃を構えるとグレネード弾を一発撃ちだす。
それは見事命中し、爆発を起こし『イタクァ』が吹き飛んだ。
すると、別の機体が背後からナイフ片手に『アザトース』に向かって行っているのが見えた。
完全に死角からの攻撃だったので、アリサは手を貸す稼働する一瞬悩む。
しかし、ダーレスは気付いていたらしい。
背を向けたまま体を大きく回すと迫って来た『イタクァ』の腹に回し蹴りをくらわせ、期待を吹き飛ばした。
そして、もう一度ライフルを構えると、弾を乱射する。
それは『イタクァ』頭部に命中するとAIを完全に破壊して機能停止に陥れた。
そして、『イタクァ』はそのままどこかへ飛んで行く。
アリサはそれを見て、素直にこう思った。
「すごい手際」
『当たり前だ』
ダーレスはそう言うと、次の機体に狙いをつける。そして、攻撃を仕掛けつつ、つないだままの通信からアリサに返事を返す。
『さっきの返事だが』
「おう」
『事実だ』
「…………やっぱし」
『で、どうする?流輝に言うか?』
「…………」
別に衝撃的なことでもなかったので、アリサにはじっくり考える。
そして一つの結論を出す。
「いや、言わない」
『そうか』
「言ってもしょうがないしな、だが」
『だが何だ?』
「もう、あんたの事は信頼できない」
『……そうか』
これで通信は途切れる。
そして、アリサも残った敵を落とすために向かって行った。
といっても、『アザトース』に気を取られていた為、かなり手薄になっており、数体の機体を落とすだけであっさり『ガタノトア』に接近することができた。
ただし、前回のように適当なところに取りついたりはしない。
今回は回収した『ガタノトア』のデータから、主砲のある第一艦橋の裏側に動力中枢やAIがあることが確認で来たので、今回はそこに向かうことにしたのだ。
しかし簡単に接近できるものでは無い。
敵も狙いを察したのか、レーザーやビームを集中させてきてなかなか容易に接近することができなかった。
「ウザい」
何とかして接近できないだろうか。
そんなこと考えつつ後ろに回ると
「あれ?」
いきなり弾幕が薄くなった。
どうやらここが弱点らしい。
「もーらいっ!!」
アリサは意気揚々と接近すると、上手いこと残った弾幕を避けつつ、目的の場所に到達することができた。
そして、前回の要領でビームを集中させシールドに穴をあけ、そこから内部に侵入する傷をつけると、そこから入った。
すると、疑似無限機関と思われる、巨大なエネルギー炉を発見することができた。
「うし、じゃ、これを破壊すれば」
そう言ってアリサは何のためらいも無く、腕のビーム砲全てをエネルギー炉に向けると、一斉にビームを放ち、破壊した。
すると各所に爆発が起こり、それが拡大していく。
アリサはそれを見ると首を傾げて行った。
「あれ?これだけだと爆発しないんじゃなかったっけ?」
どうやら貫通したビームは、エネルギー炉を破壊するだけでなく、別のところも撃ち抜いてしまったらしい。
アリサはこのままでは巻き込まれると思い、急ぎ脱出した。
アリサが脱出してから数秒後
『ガタノトア』は各所から爆破による高級を放ちつつ、そのまま月の重力に引かれ、月面に向かって落ちて行った。
アリサは何となく罪悪感を抱いたが、気にしないことにした。
それに、まだ敵は大量に残っているのだ。
気を取り直すと、また別の敵の方へとアリサは飛び立っていった。
ダーレスはその後ろ姿を見送りつつ、攻撃してきた敵を撃ち落とすと言った。
「さて、ここからが大変だぞ」
そして、辺りを見渡すと、ある程度敵の空くない場所に目星を付ける。
すると、『ガタノトア』が落ちたことからか、残った敵機の八割が最後の『ガタノトア』の方へ集結しているのが見えた。
どういうつもりかは分からないが、そこを集中的今盛ることにしたらしい。
また、流輝の落とした『ガタノトア』周辺は未だ敵の数が多い、流輝を囲んでいるのだろう。容易に推測することができた。
つまり
「ここが一番手薄、か」
そう言うと敵を警戒しつつ、急いで『シュブ・ニグラス』に通信を繋ぐと、新しい命令を下す。
「操舵手に連絡、今からステップBに移行する、速やかに今私のいる地点まで移動すること」
『了解!!』
「よし」
ステップB
それは何かというとたいしたことでは無い。
ある程度戦闘が行われた後、敵の少ない所から月の裏側に回り、『ヨグ―ソトース』の元に向かうというだけである。
こうして『シュブ・ニグラス』は本格的に動き出した。
そこでダーレスは誰かに護衛をさせようと思い、通信を繋いでみる。
すると繋いだ直後から返事が返ってきた。
主に罵声で
『こちらミリア!!今無理!!』
『ダーレスさん、邪魔』
『話聞く暇なんかねぇよ!!』
「……すまない」
なんか悪い事をした気分になったので、通信を切ろうとした時、どういうわけか琉生が話しかけてきた。
『あ、ダーレスさん』
「何だ?」
『エネルギーポットのエネルギーが二割切りました、補給したいんですけど』
「分かった、ついでに『シュブ・ニグラス』の護衛を頼んでいいか?」
『前線はどうするんです?』
「敵の数はもはや半数以下だ、それに『コス―GⅡ』の撃墜数も三体と予想をはるかに下回っている、何とかなるだろう」
『でも…………』
「それに、『シュブ・ニグラス』が動けば敵も来る、それを到達する前に倒せばいいのだ」
『分かった』
「なら、こちらも準備を整えさせよう」
ダーレスはそう言うと、一度通信を切りもう一度『シュブ・ニグラス』に通信を繋ぐとエネルギーポットの準備をするよう通達した。
ちなみに、『FAクトゥルフ』のエネルギーポットは『コス―GⅡ』のものを流用した物なので、いくらでも交換ができるのである。
こうして、流輝は『シュブ・ニグラス』で補給を受け、護衛をすることとなった。
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