第三部-第五章〈上〉 『ザ・ファイナル・バトル・イン・オール・アウト・ウォー』

 作戦開始時刻

 流輝は既に精神同調を完了させて、いつでも出撃できるように準備を整えていた。

 武装とのシンクロ率は百パーセント、エネルギーポットからのエネルギー供給こそまだだが、供給が始まればすぐに戦闘は可能だった。

 しかし、供給を始めるのは出撃してからと決めてある。

 なので、流輝はハッチが開くのを心待ちにしていた。

 と、そこでミリアとアリサからも通信が入って来る。

 左右に画面が現れて、二人が能天気な声で話しかけてくる。

 『流輝、調子はどう?』

 「最高ですよ、ミリア」

 『武装はどう?』

 「最高ですね、一体多での戦闘ではこれ以上のものは望めないかもしれません」

 『そうか』

 「ま、最高の気分ですよ」

 流輝は笑顔でそう言うと、ミリアも笑って応える。

 それを聞いたアリサも笑顔になると言った。

 『ハハハ、流輝らしいぜ』

 「そうですか?アリサ」

 『おうよ』

 「まぁ、礼だけ言っときます」

 『はいはい、ありがとよ』

 そんな馬鹿話をしていると、指令室から通信が入った。ダーレスからの野茂らしく、全員は強制的に通信に出された。

 すると、ダーレスの声が聞こえてくる。

 『君達、出撃だ』

 「『『はい』』」

 『いいか、少し話をするぞ』

 「どうぞ」

 流輝がそう言うと、ダーレスは全艦放送を始めた。


 『いいか、我々はこれから最終決戦の場へと向かう。これは命令であり、義務でもある。しかし、戦力差は圧倒的な物だ、三百体二十という数は簡単に覆せるものでは無い』

 『そりゃそうだな』

 「アリサ、うるさい」

 『二人とも、静かに』

 三人が漫才やっている間も話は続く。

 『しかし、こちらには『クトゥルフ』、『ナイア』『アトラク―ナクア』を含む精鋭がそろっていると、私は自負している。それは『コス―GⅡ』を扱う者達もであり、整備係りの人間も含む』

 「…………」

 このころになると、『シュブ・ニグラス』に乗っている人たちの中で話している人間など、誰一人いなくなっていた。

 その完全なる静寂はまるで嵐の中の静寂のようでもあった。

 『いいか、ここにあるすべての機体はある意味『神』である。人知を超え、人を支配できる力を持った『神』だ』

 そこで一旦言葉を切ると、ダーレスは言った。

 『君たちは『神』に乗っているのだ』

 「……!!」

 『以上、世界の為に励んでくれ』

 流輝は感じた。

 いくら自分たちをだましてきたとはいえ、人では無いとはいえ、ダーレスほど人を先導するのがうまく、またカリスマ性がある人はいないだろう、と

 そして、指令室から通信が入る。

 『『フルアーマー・クトゥルフ』出撃準備!!』

 『ロック解除、『フルアーマー・クトゥルフ』エネルギー供給開始』

 『ハッチ開きます』

 「…………」

 『FAクトゥルフ』は反重力推進装置を起動させると、直立していた。

 そして、ハッチを眺める。

 鈍い機動音が響いて来てハッチがゆっくりと開く。

隙間から空気が漏れて行き、星々の明かりが目に入る。目前まで迫った月はその輝きを増しているようにも見えた。

そこに、大量の敵正反応。

 流輝はそれを睨みつけると言った。

 「『FAクトゥルフ』行きます」

 そして、反重力発生装置の出力を上げて、一息の内に一番艦のハッチをくぐり、高速で宇宙空間に飛び出して行く。

 重力の縛りを受けない、自由な宇宙

 流輝は一瞬、操作性の違いと姿勢維持の方法に戸惑うも直ぐになれると、真っ直ぐ敵に向かって行った。敵はそれに気づいたのか、一斉に弾幕を張り、『FAクトゥルフ』を撃墜しようとして来る。

 流輝はそれを見ると、的確な動きでそれらの弾幕を回避すると、躊躇う事無く、高速で敵集団の中心部分に向かって行く。

 流輝の仕事は、敵の布陣に穴をあけること。

 なので、中心部分まで向かって行く必要があったのだ。

 「――クッ!!」

 宇宙特有の上下移動、急加速と減速を繰り返した不規則な軌道、流輝は持てる技術全てを注ぎ込んで敵の攻撃を避けて行き、敵の集団内に突っ込んで行く。

 しかし、躱しきれないものもある。

 それは、武装の各所に取り付けられた、シールド発生装置が、その攻撃を防いでくれる。

 流輝はどういうわけか反撃をしない。

 そのままひたすら敵の集団内を突き進んでいく。

 その姿に恐怖を覚え、離れていく敵もいる。

 それでも、流木は止まらなかった。

 少しして、中心部にたどり着いた流輝は上下左右、四方八方を敵に囲まれ、攻撃を仕掛けられる。

 そんな弾幕の中、流輝は一旦動きを止めた。

 真意を測りかねる敵たち

 攻撃が一瞬、弱まった気がした。

 そんな中、流輝は無言のまま『FAクトゥルフ』に命令を飛ばし、全武装を展開する。


 エネルギーパック十二個がうなりを上げ、全武装へとエネルギーを送る。

 バックパックのカノン砲が上を向き、近くのビームガンは下を向き、そこにいる敵をロックする。

 ミサイルポットも開き、すべてのミサイルの発射準備を完了する。

 バーニア型二十連レーザーポットの砲門が開き、レーザーが重ならないように、様々な方向へと銃口が動く。

 左肩のミサイルポットも展開し、右肩の二連装ビームガトリングガン二門も銃身がカラカラと回り始める。

 『ク・リトル』と『リトル』、それに付属している小型二連ビームガンも銃口をそれぞれの方向に向け、『ハイドラ』にある八連レーザーポットも銃口を開く。

 四連装ミサイルナクッラーとそれについている小型二連レーザーポットの発射準備も整う。

 増設された腰アーマーについている十六連ミサイルポットと二連装ガトリングガンもうなりを上げる。


 すべての準備は整った。

 流輝はそれを確認すると、嫌な笑みをかおいっぴあに広げ、狂気に満ちた目で敵をにらみつけると、思いっきり叫んだ。

 「吹き飛びやがれ!!このクソ野郎どもがッ!!」

 そして、展開した全武装を一斉に発射する。

 レーザー六十門、ビーム二十門、ミサイル二四○発

 その火力に偽りも、妥協もなかった。

 まるで『FAクトゥルフ』の全身からレーザーやミサイル、ビームが放たれているかのようだった。

 カノン砲がビームを放ち、ガトリングガンが火を噴き、ミサイルが飛び立ち、ビームは貫き、レーザーが焼き尽くす。

 その姿は絶対的に強く、圧倒的に不条理だった。

 『FAクトゥルフ』を中心として、周囲に大量の爆発が起きる。

 添えはまるで宇宙に咲いた一輪の花のごとく美しく、暴力的だった。

 危機を察知した『ハスター』やシールド機構を持ち合わせている『ガタノトア』こそ撃ち漏らしたものの、大量に敵を破壊することには成功した。

 流輝は、全武装を放出した後、すぐに行動に移った、残った敵を殲滅するためだ。


 一方のミリアたちは、戦慄していた。

 それは何にかというと、ダーレス達から届く流輝の攻撃による落とした敵の情報についてである。

 『レーダー回復しました!!』

 『敵機体総数、四二体減少!!』

 『『FAクトゥルフ』戦闘再開』

 『エネルギー残量八二%、戦闘はまだ可能です』

 『『コス―GⅡ』出撃準備完了、十五分以内に出撃可能です』

 『『ナイア』『アトラク―ナクア』出撃します、二人とも、準備はよろしいですね』

 「あ、はい」

 『うぃーっす』

 二人は元気に返事をすると、機体を一歩前にだし、『シュブ・ニグラス』のハッチが開くのを待つことにした。

 やがて、ハッチが開くと二人は宇宙空間に飛びだす。

 反重力推進装置を起動させ、バランスを整えようとする。

 が、初めてでうまくいかない。

 変な踊りを踊っているようにも見えてしまう。

 「うわ!!」

 『ン、難しいな』

 しかし、それも一瞬の事だった。

 やがてコツを掴むと、二人は普通に浮くことができるようになっていた。足場の無い所で立つ感覚、二人は一瞬のうちにそれを掴んでいた。

 そして、戦闘態勢に入る。

 ミリアはカノン砲を召喚すると、遠距離から敵を狙う。

 ちなみに、ミサイルは使用しないことにしている。

 なぜなら、ミサイルポットのミサイルは『シュブ・ニグラス』の武器庫から転送し、ポットに装填、発射している。

 その為、今回は『FAクトゥルフ』が主力なので、ミリアは自重することにしたのだ。

 なので、カノン砲で敵を殲滅しつつ、接近戦に持ち込むつもりだった。

 カノン砲で狙いをつけ、敵が集中しているところを攻撃しようとする。

 が、そこでは流輝が無双していた。

 下手に撃つと邪魔になるかもしれない。

「…………」

 そう思ったミリアは少し離れたところにいる敵を狙って攻撃を仕掛けることにした。

 そして、一言

 「流輝だけでよくね?」

 カノン砲が火を噴く。

 ビームが二筋伸びて行き、小さな爆発をいくつか起こす。

 それに驚いたのか、敵の布陣はバラバラになる。

 ミリアはその隙をつくと、カノン砲を携えたまま、そこに向かって突っ込んで行った。

 断続的にビームを放ちつつ、ミリアは敵のいる所へと向かって行く。

 敵もそれに応戦し、ビーム何筋も放って来た。

 ミリアはそれを下に回りつつ回避すると撃って来たと思われる『イタクァ』達にカノン砲の砲口を向けると、冷静に撃ち返した。

 すると、『イタクァ』が一機落ちる。

 そこまで来て敵は遠距離戦だと埒が明かないと感じたのか、いきなり接近戦を仕掛けてきた。

 それも四方八方に散らばって囲む用意して襲って来た。

 ミリアはそれを確認すると、カノン砲を一度後ろにしまうと、腰にサブマシンガン二丁を携え、手には刀を召喚すると、『イタクァ』達を迎え撃つ準備を整えた。

 といっても、大したことはしない。

 ただ、切るだけである。

 「行っくよー」

 ミリアは陽気にそう言うと、レールガンの弾を躱しつつ、近づいてきた『イタクァ』目がけて刀を振るい、胴体を切り裂いた。

 そして、その流れで刀を一度鞘に納めると、サブマシンガンを取り出し、別のところにいた『イタクァ』目がけて乱射する。

 すると、致命的なダメージは与えられないものの、確実に装甲を削り、傷を与えていく。

 ミリアは完全に破壊するつもりは無かった。

 戦えなくなるまでダメージを与えることができればそれでよかった。

 まだ敵は二○○を超えているのだ、いちいちザコ相手に時間を割く必要は無い。

 これが今回の作戦の方針だった。

 なので、ミリアは『イタクァ』の駆動系を破壊しつくし、戦闘不能に陥ったのを確認すると、そのまま移動し、もう片方の手の刀で残った敵を切り裂いた。

 「よし!!」

 ミリアがイケると思った時、したから敵が近づいて来ているのを感知した。

 『ツァール』『ロイガー』が合体済みで二体

 それに対してミリアはバックパックのカノン砲を百八十度回すと、下にいる敵に照準を合わせると、ビームを放った。

 思いもよらない攻撃に『ロイガー』『ツァール』は反応が遅れ、ビームで貫かれることとなった。

下の方で爆発が起こるが、ミリアは一切気にせず、大きく弧を描くように飛ぶと、並んでレールガンを放っていた『イタクァ』の後ろに回り込む。

 そして、刀を二本構えると、二体同時に貫いた。

 「まだまだ!!」

 ミリアは爆発する『イタクァ』から離れていくと、大剣を召喚すると、それを握った。

 反重力推進装置内蔵のそれは、宇宙空間では圧倒的優位を誇るだろうと思われたからである。

 そして、その予想は当たることとなった。

 大剣の反重力発生装置は急旋回などに効率的で、高速移動が楽になったのだ。

 ミリアは高速で移動すると、そのまますれ違いざまに何度か『イタクァ』を切り裂いていく。

 こうして十数機の敵を落とし終わった時、ダーレスから通信が入る。

 『ミリア』

 「なんです?」

 ミリアはカノン砲を放ち、『ツァール』と『ロイガー』を狙いつつ、適当に返事を返す。

 ダーレスはそんなことに一切構わず、話を続ける。

 『今から『コス―GⅡ』を出撃させる、その水先案内を頼みたいんだが』

 「そんなこと!?」

 ちょうど、カノン砲が命中した時、

 『ツァール』と『ロイガー』は分離を行い、『ツァール』を犠牲として『ロイガー』だけが突っ込んできた。

 つまり、特攻

 ミリアは少し焦る。

 カノン砲は冷却中で撃つことはできない。

 サブマシンガンに持ち替えようにも両手はカノン砲のグリップを握っているため、話している間に命中してしまう。

 なのでミリアはあえて、兵装を変換せず肩のアーマーに展開式の楯を洋館すると、それで身を守ろうとする。

 『ロイガー』が命中し、楯が破壊され大爆発が起こる。

 ミリアはその勢いに押され、後ろに飛んで行ってしまう。

 宇宙特有の現象。

 ミリアは反重力推進装置の出力を上げるとなんとか持ち直し、楯を戻すと戦闘態勢を整える。

 「クソッ!!宇宙じゃ飛ばされる威力が違う!!上手く踏ん張れない!!」

 『ミリア』

 「なんです!?」

 『水先案内は私がやる、その代り、指定する座標の敵をある程度減らしておいてくれ』

 「分かりました!!」

 直後、ここから少し離れたところに向かうようにと指示が出る。

 ミリアはそれを確認すると、再びカノン砲を構え、そちらを向いた。

 「行くよ、『ナイアーラトテップ』」

 ミリアは反重力推進装置の出力を上げ、一気にそちらへ向かって飛んで行った。


 ダーレスは指令室の椅子に座り、満足そうに戦況を映した画面を眺めていた。まだまだ敵の数は多いが、順調に数は減らしていっている。

 しかし、それではもう敵の四割も果たせない。

 あくまで目的は異世界『ゾス』に行くことであり、間違っても『レイク・ハス』を殲滅では無い。

 もし、必要だと言うなら殲滅はするが、必ずしも必要とはいえない。

 敵を減らし、月の裏側に回り、そこにある『ヨグ―ソトース』から『シルバーキー』システムを利用して『ゾス』に向かう。

 これが、本命であった。

そう考えると流輝で攪乱、アリサで本丸に被害を与えつつの一点集中攻撃は効率の良い作戦といえた。

しかし、味方への被害は格段に多くなる。

 それを理解したうえで、ダーレスはこの作戦を立てたのだ。

 これでもし、何人か死んでもダーレスは構わないと思っていた。

 「……行くか」

 ダーレスはポツリとつぶやくと、おもむろに席を立ち、目を閉じると呟いた。

 「来い、『アザトース』」

 すると、『シュブ・ニグラス』の甲板に『アザトース』が出現する。

 ちなみに、どうしてダーレスが乗ることなく『アザトース』を扱えるかというと、前述したとおり、それは『アザトース』に『ツァトゥグア』の電脳が搭載されているからである。

 本来『アザトース』は記録用の機体、なので、戦闘や移動は全て失われたサブ電脳のかわりに『ツァトゥグア』の電脳に頼っているのである。

 つまり、ダーレスは自分の本来の脳味噌を『アザトース』に搭載していることになる。

 そう言う理由でダーレスは乗ることなく、『アザトース』を扱えるのだ。

 ダーレスは目を閉じたまま、『アザトース』に意識を集中させると、『コス―GⅡ』を扱う人たちに向けて通信を繋ぐ。

 「いいか、お前たち、私に付いて来い、そして三人の援護を頼む」

 『ハイ!!』

 「指令室、一番艦、弐番艦ともにハッチ開け」

 『了解、ハッチ開きます』

 しばらく後にハッチが開き、『コス―GⅡ』達が次々と発進していく。

 『アザトース』はグレネード射出装置を備え付けたアサルトライフル片手に、刀の入った鞘を背負ったまま、宇宙空間に飛びだす。

 すると、『コス―GⅡ』十七機が後ろからついて来る。

 ダーレスはそれを見て、満足そうに笑った。

 「さぁ、本番だ」


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