第三部―第四章 『ヒアー・イズ・ザ・ユニバース』


 「高度上昇中、間もなく大気圏を抜けます」

 「予想時間まで、あと三十五秒」

 「なお加速、反重力発生措置、出力を九十八パーセントから九十九パーセントに上昇」

 「エネルギー出力、変化なし」

 「疑似無限機関、冷却液増加」

 「無重力空間用に重力制御装置稼働準備」

 「酸素生成機関、稼働」

 「大気圏突破まで、三、二、一、〇」

 「間もなく、重力消えます」

 するとほどなく、重力が消える。

 『シュブ・ニグラス』に乗っていた人たちはみな、シートベルトをかけていた為、椅子から離れることは無かったが、どこか違和感を感じる物ではあった。

 「重力制御装置、稼働」

 「酸素適性濃度での放出開始」

 「シールド展開、宇宙線などの影響を遮断」

 『シュブ・ニグラス』内部に一Gの重力が生まれ、みな、普通に床に足がつくようになった。

 そこで、ダーレスが放送を流した。

 「各員、シートベルトを外せ、そして、業務に戻ってくれ」

 こうして宇宙に進出した。


 その言葉を聞いた後、流輝は自室の椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。文字通り椅子に縛られていたので、何となく体が鈍っている気がしたのだ。

 伸びをした後、流輝は部屋から出て何か食べに行くことにした。

 少し、腹が減っていたのだ。

 「うーん、なんかあっけないですね」

 「流輝もそう思う!?」

 面白ポーズをしながらアリサが部屋に飛び込んできた。後ろではミリアが呆れた顔をしてため息を吐いていた。

 流輝はここで初めてどっと疲れが出たのを感じた。

 なので、背を向け、部屋に戻るとそこにある窓から地球を見ようとした。

 見えなかった。

 残念

 と、アリサがしかめっ面をして文句を言って来た。

 「何さ、無視して」

 「いえ、『イカン』の基地が心配だな、と」

 「大丈夫でしょ、買収した『カダス』が『ミ・ゴ』総動員で警備にあってるし、それに残った『ガタノトア』は全部宇宙に行ったらしいじゃん、地球は平気だよ」

 「そうそう、私たちは目の前の敵に集中していればいいの」

 「そうですね……」

 流輝は納得すると小さく頷いた。

 そして、アリサは言った。

 「じゃ、何か食いに行こうぜ」

 「そうですね」

 三人は廊下を歩きながら、これからの事を話す。

 「月まで、どれだけかかるって言ってたっけ?」

 「えーと、二日だっけ?」

 「早くね?」

 「そうですね、かなり早いですね」

 「『シュブ・ニグラス』ってすごいね」

 「そうですね」

 こうして一日は過ぎた。


 そして、二日後

 流輝達は月を目前にしていた。

 そして、ダーレスから敵の情報を聞いていた。

 なぜなら、月の目の前で『ガタノトア』が三隻待ち構えており、今までにないぐらいの布陣を整えていたのだ。

 まだ、詳しい数は効いていないが、ダーレスの表情からかなりの数だということが分かっていた。

 それに、三人だけ呼び出されたということは、戦法を務めさせられるのだろう。

 流輝はそう確信していた。

 が、分かっていたのは流輝だけだった。

 残り二人は、何となく状況を飲み込めずにいた。

 そして、ダーレスはしばらく黙ったのち、重い口を開いた。

 「いいか、これから私たちは『レイク・ハス』との総力戦を開始する」

 「はい」

 「しかしだ、敵との戦力差が尋常でじゃないのだ」

 「どれぐらいですか?」

 流輝がそう訊ねると、ダーレスは索敵した画面を浮かび上がらせた。するとそこは一面の赤い点で埋め尽くされていた。

 これは敵の印である。

 数えきれないその数に、驚き慄いた流輝は、小さく呟いた。

 「本当に、どれだけの数が……」

 「三○八機だ」

 「わーお、こっちは二十機だ、ざっと十五倍だな」

 「敵は、何がいるんですか?」

 「内訳は『ハスター』五機『ビヤーキー』百八○、『イタクァ』九十『ツァール』『ロイガー』の合体後が三十、『ガタノトア』が三隻だ」

 「最悪ですね」

 「こっちの総力なんかゴミじゃん」

 「だからこそ、私はこれを用意したのだ」

 そう言って、ダーレスはひときわ大きい画面を空中に表示させる。それはまるで設計図のような物だったが、流輝たちにとって見慣れたものだった。

 なぜなら、そこに映っていたのは『クトゥルフ』だった。

 が、似ても似つかない姿をしていたのは確かだった。

 流輝はのそりと呟いた。

 「何なんです、この『クトゥルフ』は」

 「『フルアーマークトゥルフ』だ」

 そこには大量の武装を兼ね備えた『クトゥルフ』が映っていた。

 それを見て、一番目を輝かせていたのはアリサだったが気にしない、流輝は淡々とダーレスに質問を飛ばした。

 「一体、どれだけの武装を?」

 「たいしたことない、カノン砲二門に中距離ビームガン四門、四八連ミサイルポットが四つに右肩にはビームガトリングガン二門、左肩には六連ミサイルポットが二つある、さらに、『ハイドラ』の上下に『ク・リトル』『リトル』を接続し、左右に八門のレーザー砲を二つ、二連装小型ビームライフルが二門」

 「すごい……」

 「まだまだだぞ、右手にはミサイル四門が付いたナックラーに二連装中距離レーザー二門、さらに腰部アーマーを増設し、スラスターと十八連ミサイルにビームガトリングガンを四門、最後にバーニア型拡散型レーザーポット二つにエネルギーポットが十二個だ」

 「一体、どれだけの火力なんですか?」

 「さぁ?簡単に言うとガトリングやカノン砲含めビーム二十門、レーザー六十門、ミサイル二四○発だ」

 「どうしてこんなに……」

 「回収した『クトゥグア』のパーツや戦闘データから作った、この時の為にな」

 「武装、多すぎですね、ただでさえ低い機動力がさらに落ちますよ、それに的になりますよ」

 「心配ない、宇宙だからな重力が無い、そのため最低限の反重力発生装置で何とかなるはずだ。それに随所に低出力ではあるがシールド発生装置を備え付けえてある、安心したまえ」

 「そうですか」

 「難点は一度装着するとコクピット内に入れないことだ、だから、先にコクピット何に入りその後で装着する手はずになっている」

 「そうですか」

 「では、そういうわけだから、出撃だ」

 「はい!!」

 流輝は良い返事を返すと大急ぎで指令室から飛び出し、一直線に格納庫へと走り去って行った。

 ミリアとアリサはその後ろ姿w見送ってから、ダーレスに訊ねた。

 「で、私たちは何をすれば?」

 「ミリア、君は前線で戦ってもらうつもりでいるが、それは『コス―GⅡ』が宇宙での戦いに慣れるまでだ、その後は遠距離からの援護を頼む」

 「はい」

 「で、ボクは?」

 「前線で戦いつつ、『ガタノトア』を落としてくれ」

 「おいーっす」

 それを聞いてから、二人は顔を見合わせて頷くと、流輝の後を追って『ナイアーラトテップ』や『アトラク―ナクア』が待つ格納庫へと向かって行った。

 そして、ダーレスは一人取り残される。

 が、通信を繋ぐと、こういった。

 「「『イカン』本部のAIを『∀』から『∀―Ⅱ』に切り替ろ」

 『はい』

 「『アザトース』の出撃準備を整えておけ、武装は『コス―GⅡ』のものでいい」

 『分かりました、通信を繋いでおきます』

 「頼んだぞ」

 こうして戦いの準備は整えられていく。


 流輝は精神同調を行わず、『クトゥルフ』のコクピット内の椅子でくつろいでいた。何となく、懐かしい所に帰って来た気分になる。

 久しぶりに、流輝はリラックスすると、コクピット内に外部の映像を映し出す。

 すると、大量の武装が備え付けられていく様が確認できた。

 これからは、この武装を背負って戦う。

 そう考えると、シュミレーションぐらいしておけばよかったと思う流輝だった。

 が、時すでに遅し、色々と諦めることにした。

 「さてと、武装とのシンクロ率は」

 流輝はシンクロ率の表を表示させる。

 すると次々と増えていく武装とのシンクロ率が表示されていく。これが無くてはまともに武装を動かすことはできない。

 だからこそ、大切なのだ。

 後数分で、出撃することになる。

 流輝はそれを察すると、にやりといい笑顔を浮かべた。


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