第三部-第二章 『ジャイアント・トゥ・フォール』

 流輝は悩んでいた。

 何をかというとそれはアリサの言っていたことでは無い。おばさんが死んだことでもなければ夕食を何にするかという事でもない。

 それは、目の前に置かれている、一冊のノートについて悩んでいたのだ。

 このノートはおばさんが取材していたことについて書かれたノート

 覗いてみたい気もするが、おばさんは流輝がノートを見ることをひどく嫌っていた。

 おばさん曰く

 『結構汚い仕事も多いから』

 という事である。

 しかし、少し知りたい気持ちもある。

 そんな板挟みに葛藤していたのだ。

 「うーん、どうしましょう……」

 明日にはこの家を引き払い、『イカン』に戻る手はずになっていた。

 残された家はダーレスが管理し、後々琉生が使えるようになるまで面倒を見てくれるらしい。おばさんの遺産や貯金も管理してくるという。

 何の保険かは知らないが、保険金も数千万下りたらしくその扱いに困っていたところなのでちょうどよかった。

 それでも、最低限の掃除ぐらいは済ませておきたい。

 そう思い、掃除をしたらノートが出てきたのである。

 死ぬ数日前まで使っていたのか、埃は殆ど乗っておらず、部屋の隅にある資料の山の中に紛れ込んでいた。

 「さて、どうしますかねー」

 流輝がのんびりと悩んでいるとき

 突然、腕の端末が音を鳴らした。

 まさかここで鳴るとは思っていなかった流輝は少し面食らい、一瞬反応が遅れてしまうが何とか応答することに成功する。

 と、少し慌てたダーレスの声が聞こえてきた。

 『流輝君か』

 「あ、はい、そうです」

 『大変なことが起きた』

 「なんです?」

 『『レイク・ハス』の『ガタノトア』がそちらに向かっている、至急戦闘態勢に入ってくれ』

 「えぇ!?どうしてここに!?」

 『君達がいるからだろう、しかも、『ガタノトア』だ、はっきり言うと、やばい』

 「分かりました、すぐに『クトゥルフ』を呼びます」

 『整備は済んでいる、作戦などは後から伝える、二人への連絡はもう済んでいる、だから安心して戦え』

 「周辺の人達は?」

 『避難警報があと五分で鳴る』

 「分かりました」

 流輝は通信を切り、ノート片手に家から飛び出す。

 すると、少し遠くからミリアとアリサの二人が走って来ているのが見えた。それを見た流輝は大きく手を振り、ここにいると合図を送る。

 すると二人も手を振りながら近づいてきた。

 「流輝!!」

 「分かってます、すぐに出撃します」

 「OKじゃ、ボクらも」

 「えぇ」

 三人は片手を上げると、叫んだ。

 「『クトゥルフ』!!」

 「『ニャルラトホテプ』!!」

 「『アトラク―ナクア』!!」

 すると、どこからともなく三つの巨体が出現する。ちょうど、三人の背後に膝をつく形で並んでいた。

 と、コクピットが開いて中から触手のような物が出てきて、三人の体を包み込み、それぞれのコクピットへと誘って行く。

 そして、流輝達はそれぞれの椅子に座るとグリップを握ると精神同調を始める。

 「よし、完了ですね」

 『こっちもいいぞ』

 『私も、でも、早いね、敵』

 「『クトゥグア』が落とされて焦っているんでしょう」

 流輝はそう断定すると手早く『ハイドラ』に『ク・リトル』と『リトル』を接続し、遠距離戦闘に特化した形にする。

 ミリアも遠距離戦用の兵装に身を固めると、敵が繰思われる方向にビームカノンの砲口を向ける。

 アリサはアリサで、バックパックの腕の先にあるビーム砲八門を開いたり閉じたりして遊んでいた。

 すると、ダーレスから通信が入る。

 『三人とも、これから作戦内容を説明する』

 「『『はい』』」

 『いいか、簡単に説明すると流輝君とミリアは直接攻撃と陽動が任務だ』

 「分かりました」 

 『つまり、撃ちまくればいいと』

 『そうだ』

 『で、ボクは何したらいいんだ?』

 『潜入だ』

 「え、蛇ですか?」

 『何を言ってるんだ、流輝君』

 「いえ、気にしないでください」

 流輝がくだらないことを言ったせいで、話が一旦途切れてしまう。

その隙を突き、アリサが悪態をついた。

 『何でボクがそんなことを……』

 『いいか、そもそも『アトラク―ナクア』は潜入任務に作られたオーダーメイドの機体だ、その大鎌やナイフ、ビーム砲付の腕もその為にあるのだ』

 「なるほど、確かにバックパックの腕は引っ付くのに便利そうですね、ナイフも装甲を切り裂くのに使えそうだし」

 『あれ、ボクの機体なのに流輝の方が察しがいいってどういうこと?』

 「いいから、やってくれますね、アリサ」

 『しょうがないなー、流輝が言うならやってやるよ』

 『よし、なら今すぐ海岸沿いにどうしてくれ』

 「『『はい!!』』」

 三人は殆ど同時に反重力発生装置を起動させると、宙に飛びだし真っ直ぐ海岸線に向かって行く。

 すると、その先に黒い影のような物を確認することができた。

 しかも、そこから大量の反応が確認できた。

 「敵ですね」

 『ちょっと待って、敵の数は……三十機ほど?』

 『『ガタノトア』が出てるのを考慮すると、少し少ないと思わない?』

 「多分、第二陣も準備してあるんだと思います、さっさと終わらせないと面倒なことになりますよ」

 『よし、行きますか!!』

 三人は殆ど同時に全ての砲口を受けると、一斉にビームを放ち、敵の数を一斉に削ることにした。

 ビームの総数は十四本

 それが全て敵に命中し、爆発が起こる。

 すると、大量の花火のような物が空に咲き乱れる。

 アリサは『アトラク―ナクア』の特性を生かし、何機落としたかを即座に測定する。

 『うん、十機はおとせたかな?』

 「十分です、敵には何がいます?」

 『『イタクァ』に『ツァール』と『ロイガー』ま、そんなとこだな』

 『『ビヤーキー』や『ハスター』は?』

 『いないね』

 「分かりました、それなら!!」

 流輝は『ハイドラ』を大きく振るうと、真っ直ぐ敵が群がるところへと向かって行く。

 それに気が付いた敵はレールガンを乱射したりビームを放ったりすると、『クトゥルフ』を撃ち落とそうとして来る。

 流輝は最小限の動きでそれを躱していくと、『ク・リトル』と『リトル』からビームを放ち、敵を撃ち落としていく。

 その結果、敵を一機落とすことに成功すると、『ダゴン』を引き抜き接近戦を仕掛けることにする。

 目と鼻の先には六体の『ロイガー』と『ツァール』が合体を済ませ、片手にレールガン、片手に刀を持つと向かって来ていた。

 「来ました、ね!!」

 流輝はまず、『ハイドラ』の引き金を引くと触手を射出すると、攻撃を仕掛ける。

 触手は敵をロックすると、自動追尾を始める。

 すると合体した二体の『ツァール』と『ロイガー』はレールガンを乱射し、触手を牽制しつつ後退していく。

 ところが、比較的近くにいた『ツァール』『ロイガー』は下半身を触手で破壊され、分離する前に大爆発、二体とも犠牲になった。

 流輝はその隙に接近すると、『ダゴン』を振るい、一体の『ツァール』『ロイガー』を切り裂こうとする。

 が、そこで邪魔が入る。

 別の機体がレールガンを放つと、流輝の邪魔をしてくる。 

 「チィッ!!」

 流輝は一旦後退すると、レールガンを放ってきた敵に向けてビームを放つ。

 すると見事命中し、爆発が起こる。

 しかし、ぎりぎりで分離を行うと、『ロイガー』だけが残って『クトゥルフ』に向かって特攻を仕掛けてきた。

 「クッ!!」

 流輝はぎりぎりでそれに気づくと、『ハイドラ』の引き金を引き回収して置いた宿主を放つ。

 すると回避に失敗した『ロイガー』にそれが巻き付くと、動きを止める。

 流輝はそのまま大きく腕を振るうと『ロイガー』を巻きつけたまま触手を横薙ぎにないだ。

 が、敵はそれを全て回避し、爆発四散したのは『ロイガー』だけだった。

 が、流輝はそれを見ても気を落とさず、『ハイドラ』の触手を収納すると、『ク・リトル』からビームを放ち、それを横に振るう。

 するとビームサーベルのように三体の敵を切り裂いた。

 「ラスト!!」

 流輝は残った一体の敵目がけて『ダゴン』を放り投げる。

 も、回避されてしまう。

 しかし、それはそうていないだったので、流輝は一気に加速し接近すると左足を振るって最後の『ロイガー』『ツァール』を蹴り飛ばす。

 後ろに飛び、姿勢を崩す『ロイガー』『ツァール』

 流輝は畳み掛けるように接近すると、『ク・リトル』の砲口を突き付けて、発射した。

 「くらえ」

 一筋のビームが『ロイガー』『ツァール』を貫き、機能停止に追い込む。

 流輝はとどめと言わんばかりに、動かなくなった機体を蹴り飛ばすとそのまま交代していった。

 そして、完全に姿を現した『ガタノトア』を視界に入れると、戦闘態勢に入る。

 「さて、大物が来ましたね」

 すると、『ガタノトア』に異変が起きた。

 中心部分の巨大な円柱形をしたところが開き、その中から巨大な砲台が十二門全て展開される。

 さらに、中心部両脇にある一番艦と二番艦からも大量の砲門が展開される。

 そして、一斉に対空砲火の弾幕を張ってくる。

 「マジですか!?」

 流輝はすっかり油断していたので、面食らい、急いで回避運動をとる。

 なぜなら『ガタノトア』に搭載されている砲門の数は『シュブ・ニグラス』の物と比べて倍以上の数があるからだった。

 更に『ガタノトア』は一番艦と二番艦のハッチを開くと、そこから一斉に『イタクァ』を出撃させる。

 それを見て、流輝は搭載している機体の数多いな、と思い、そこで気が付く。

 「そうか……『シュブ・ニグラス』と違って人が乗ってないから、内部をハッチや武装で埋めることができるんですね」

 流輝はそう納得すると『イタクァ』目がけてビームを放ちつつ、『ガタノトア』へ接近していった。


 一方のミリアは無双状態だった。

 二門のカノン砲からビームを放ちつつ、ミサイルポットから大量のミサイルを放ち、撃ち漏らした敵を撃ち落としていた。

 本当は接近戦や中距離戦で楽しみたいところだったのだが、今回の目的は『ガタノトア』の撃墜なので、遊ぶのは程々にしようと決めていたのだ。

 適当に残った敵を全滅させたミリアは盛大なため息を吐くと砲口を『ガタノトア』に向けた。

 ところで気が付いた。

 『ガタノトア』が砲門を展開し、対空砲火を開始したことに

 そして中心部の砲門から放たれたビーム砲が完全に直撃コースであることに

 「やばい!!」

 焦ったミリアは一気に左に飛ぶと直撃だけは躱そうとする。

 ところが、そのせいで別の砲撃に当たってしまい、カノン砲が貫かれ、使用不可能の状態に陥る。

 「チッ!!」

 ミリアは舌打ちすると、カノン砲その他の遠距離戦用の兵装を解除すると、中距離専用のスナイパーライフルや高機動用の反重力発生装置を装着すると光速移動をしつつ弾幕を回避していく。

 その間も、しっかりと狙いをつけてスナイパーライフルの引き金を引く。

 徹甲弾が真っ直ぐ『ガタノトア』へ向かって行くが、装甲に命中する前にシールドに阻まれてしまい、ダメージを与えることには失敗する。

 「あー、やっぱりね」

 半分予想通りの結果だったため、別に落胆はしない。

 というか、落胆している暇なんてない。

 弾幕の量と密度が『シュブ・ニグラス』の比じゃないので回避しつつたまにスナイパーライフルを撃つぐらいの事しかできない。

 が、この選択は間違いではないと思っていた。

 カノン砲では狙わなくてはいけないので、少し静止時間ができてしまう。そうなると確実に撃ち落とされてしまう。

 そう考えると何とも言えない気分になった。

 「あ、そうだ、ミサイルポットでミサイル放てばいいじゃん」

 そう思ったミリアは円柱形をしたいつものポットでは無く、細長い形をしたミサイルポットをバックパックに二つ装着する。

 そして、回避運動をとりつつミサイルを乱射していく。

 それらは一斉にあらかじめロックしておいた『ガタノトア』へと向かって行く。

 すると、『ガタノトア』は対ミサイル用のレーザー砲を展開すると一斉に発射し、次々とミサイルを撃墜していく。

 宙に汚い花が咲き、煙が辺りを充満していく。

 ミリアはミサイル迎撃のせいで一瞬緩んだ弾幕の隙をつくと、スナイパーライフル片手に接近していく。

 「これなら!!」

 いける、そう思ったミリアだったが、その試みはうまくいかなかった。

 なぜなら『ガタノトア』から出撃した『イタクァ』数機が、一斉に手の平からビームを放って来たからだった。

 ミリアは警告でそれに気づき、回避すると接近戦用の刀とそれが入った鞘をいくつか召喚すると、いくつかを装着し『イタクァ』の方を向いた。

 そして、上手いこと弾幕を避けつつ、接近していく。

 「ちょこざい!!」

 『イタクァ』は五機いた。

 彼らは背面にマウントしてあったレールガンを手に取ると、それの銃口を向けて乱射してくる。

 ミリアはそれらを最低限の動きで回避していく。

 が、あまり大きく動くと弾幕に引っ掛かってしまう恐れがある。なので、少しぐらいなら当たっても気にしないことにした。

 レールガンの弾がかするぐらいなら一瞬で自己修復を行える。

 そう開き直ると、片手でスナイパーライフルを構え、適当に狙いをつけると引き金を引く。

 も、片手では反動が強く、撃つ瞬間に大きくぶれてしまい命中することは無かった。

 それでも警戒した『イタクァ』達は連携を崩し、ばらける。

 ミリアはそれを見てほくそ笑むと、一機の『イタクァ』に目を付けると刀を放り投げた。

 が、それに気づくと『イタクァ』はレールガンを放ち刀を撃ち落とす。

 が、その間に一気に近づくと刀を振るい『イタクァ』を一刀のもとに切り捨てる。

 なるべく動力中枢は狙わず、爆破が起きないように配慮しながら切り裂く。

 「よしっ!!」

 そして、それは見事成功すると、爆破することなく『イタクァ』は破片をばらまきながら落ちて行った。

 ミリアはそれを確認することなく急加速と急停止を繰り返し複雑な軌道を描きつつ別の機体に接近していく。

 その間にスナイパーライフルをサブマシンガンに変更すると弾をばらまきつつ接近していく。対する『イタクァ』は、それを躱しつつ、お返しとでも言わんばかりにレールガンの弾を乱射してくる。

 が、腕はミリアの方がはるかに上だった。

 複雑な軌道を描きつつの回避を繰り返しながらも、サブマシンガンの弾を確実に命中させていく。

 次第に『イタクァ』は劣勢に陥り、ミリアが切りつける距離まで接近する前に全身をサブマシンガンの弾に貫かれていった。

 どうやら、反重力発生装置に異常が生じたのだろう、黒い煙を上げつつ、『イタクァ』は高度を下げて行った。

「所詮、量産型か…………」

つまらなそうにそう答えると、ミリアは後ろに敵が来たことを検知する。

 そして、振り返りざまに右腕の手首周辺にビームポットを召喚すると、そこにいた『イタクァ』を無造作に撃ち抜いた。

 これで、残り二人

 ミリアはビームポットを戻してから刀を二本握ると、その先を二体の『イタクァ』に向けてかっこつけようとした。

 が、すぐそこに主砲の一撃が来たので回避することにした。

 「もー、ウザいな、あの戦艦」

 そう言いつつ複雑な軌道を描くと、二体の『イタクァ』へと急接近していく。

 そして、確実に一機ずつ切り裂くと海の方を見て一言つぶやく。

 「アリサ、はやくしてよね」


 その頃アリサは『ガタノトア』の裏側に到達していた。

 裏側は比較的弾幕が薄く、取りつく島も無いと思われていた表と比べて隙しかなかった。

 アリサは退屈そうにそれを眺めると一言言った。

 「敵、来ないかな?」

 来た。

 「あれ?」

 言ってみたものの、敵が来るとは思っていなかったので、少し拍子抜けしてしまう。

 どうやら『ガタノトア』が自分を発見したらしく、『イタクァ』を差し向けてきたらしい。とりあえず、それだけは分かった。

 それにしても、経った三機しか差し向けてこないのは、完全に舐めているとしか思えなかった。

 「うざ、ウザいわ

 なので、とりあえず倒すことにした。

 アリサはバックパックの腕を展開し、起動させると砲口を前に向けると、八筋のビームを一斉に同時に放った。

 が、そんなことで簡単に落とされる『イタクァ』達では無い、三機はそれぞれの方向に飛び立つと、攻撃を回避していった。

 アリサはとりあえず上に飛び立った『イタクァ』に狙いを定めると一気に接近していった。

 そして、攻撃を仕掛けられる前に、手首の下にあるワイヤー射出装置を起動させ、狙いを定めて発射する。

 と、完全に虚を突かれた『イタクァ』はそれを躱しきることができず、ワイヤーをくらってしまい、それが足に絡まるとしっかり巻き付いて取れなくなる。

 アリサはそれを見て、にやりと笑うと言った。

 「ボクの勝ちだ」

 思いっきり腕を引き、絡まった『イタクァ』を自分の方に引き寄せつつ、残った左手で大鎌を構える。

 『イタクァ』は対抗しようとするが、それより先にアリサが敵を引き寄せる。

 そして、思いっきり大鎌を振るうと一息に『イタクァ』を切り裂いた。

 胴体部分が見事真っ二つとなり、動力中枢を切り裂くことに成功した。

 そして、爆発四散する前にワイヤーを解除すると破壊した『イタクァ』から距離をとる。

 すると、両側から殆ど同時にビームが放たれる。

 アリサはそれに気づくと、危機一髪、紙一重で回避した。

 「うーん、一難去ってまた一難」

 そう呟くとアリサは右側にいた『イタクァ』の方に近づいて行く。

 しかし、『イタクァ』は身の危険を感じているのか、後ろに下がって背ありくるアリサから距離をとろうとする。

 それを見た、追いかけることに嫌気の差したアリサは、バックパックについている腕の付け根にある二つのアームパックの内、一つ、それを起動させると、バックパックから分離させた。

 そして、アームパックに搭載されている反重力発生装置を起動させるとそのまま真っ直ぐ『イタクァ』に向けて射出する。

 ちなみに、アームパックはバックパックとワイヤーで繋がっているので『アトラク―ナクア』から離れすぎることは無かった。

 『イタクァ』は面食らったのか、一瞬、速度が落ちてしまう。

 その隙に、アームパックが『イタクァ』を四本の腕でつかみこむ。

 すると腕の先についているヒートクローで『イタクァ』の機体を切り裂くと、バラバラになって機体の破片が落ちていく。

 そして、海に入る前に爆発して、より一層バラバラの破片になって落ちていく。

 アリサはそれを確認する前に、残った『イタクァ』の方に向けると四筋のビームを同時に放ち、破壊した。

 アリサは背後で爆破が起きたことを確認すると、何のためらいも無く『ガタノトア』の方へ向かって飛んで行った。

 そして、『ガタノトア』の側面に張り付こうとした。

 が、ある程度まで近づいたところでシールドが張られていたので『ガタノトア』の装甲に張り付くことができなかった。

 アリサは困った顔をすると、ダーレスに通信を繋いだ。

 「ダーレスさんよ」

 『何だ、私たちが付くのにはまだ十五分ほどかかるぞ』

 「いやね、『ガタノトア』、シールド張っているから入り込めないんだけど」

 『あぁ、そんなことか』

 「そんなことかって……」

 『常に至近距離でビームを放ちシールドを破るだけでいいはずだ。その為に、君の機体にはビームが八門もついているのだろう』

 「あ、はい分かりましたー」 

 アリサは納得すると腕を八本とも起動させ、大きく開くとシールドの目の前にかざし一斉にビームを放つ。

 連射はできないものの、暫く使えなくなること覚悟で良ければ、そこそこ長い時間放つことはできる。

 三十秒ほど放射し続けただろうか。

 すると、一点集中の不可に耐えきれなくなったのか、突然、辺りのシールドが一斉に消失した。

 「お、いけるぞ!!」

 アリサはその隙に大鎌を振るい、バックパックの腕も振るうと、装甲に大きな傷をつけ、そこを掴み、思いっきり引っ張った。

 すると、装甲が剥がれて内部に侵入できるようになる。

 アリサは再びシールドが張られる前に入り込むことにした。

 「お邪魔しまーす」

 内部はメインの格納庫になっているようで、数機の『イタクァ』の姿を確認することができた。

 アリサもそこで気が付いた。

 『ガタノトア』は人が登場する必要が無いので、全体を格納庫やら武装やらに使えるという事を

 流輝程ではないが、アリサも結構鋭いのだ。

 「さて、めんどくさそうなとこだな」

 アリサはとりあえず、動力中枢があると思われるところまで行ってみることにした。

 そもそもそれが目的なのだ。

 が、動力室や指令室のような物がどこにあるか全く持って皆目見当がつかない。

 「索敵索敵っと」

 アリサはそう言うと、辺りを見渡して周辺機器、コードやエネルギーの移動を確認してどこにそう言ったものが集中しているのか調べる。

 が、どういうわけかジャミングがかかっていた。

 「うざ」

 ストレートに言ってみる。

 が、状況が改善されるわけでもない。

 といっても、ここは敵の拠点でもあるのでジャミングぐらいかかっていても、全く持って不思議では無かった。

 が、其れでも相当イラつく。

 なので、アリサは何も考えず、暴れまくることにした。

 辺り一斉に腕を伸ばし、その先からビームを放つと、辺りにある物を適当に破壊しまくることにした。

 とりあえず、残った『イタクァ』や『ツァール』『ロイガー』に向けて撃ちまくる。

 次々と格納されていた機体の装甲が焼かれ、内部機器が破壊され、火を噴き、動力中枢が壊れ爆散する。

 それはそこそこ大きいもので、格納庫内部から『ガタノトア』を傷つけて行った。

 「これ、いいかも」

 アリサは何となく楽しくなってきた。


 「ねぇ、流輝」

 「なんですか?ミリア」

 「あれってさ、絶対、アリサだよね」

 「ですね」

 二人は並んで『ガタノトア』を眺めていた。

 突然、弾幕が消えたので、自由に動けるようになり、手早く残った敵を全て片づけたところで暇だったのだ。

 そこで見たのは、内部からビームの筋何本も放つ『ガタノトア』だった。

 恐らく内部でアリサが暴れているのだろう、それぐらいの見当は簡単に付いた。

 更に、内部からの攻撃を想定していない設計らしいので、効果は抜群なのだろう、『ガタノトア』はゆっくりと高度を落としていた。

 と、そこで流輝が呟いた。

 「手伝います?」

 「手伝うかー」

 そう言ってミリアは遠距離用の兵装を召喚、装備する。流輝は『ク・リトル』と『リトル』を構える。

 そして、一斉に引き金を引き『ガタノトア』へ向かいビームを放つ。

 するとそれらは見事命中し、『ガタノトア』の主砲に命中した。

 そして、爆発が起こる。

 二人はその後も延々とビームを放ち、外側から『ガタノトア』を破壊していった。


 数十分後

 『ガタノトア』は海の藻屑となった。思っていたよりもあっけなく、どこか物悲しいぐらいに海に消えていくのは早かった。

 アリサは落ちる寸前に『ガタノトア』から飛び出すと、流輝とミリアのところまで戻って来て、一緒にビームを撃った。

 結局、ダーレスや『シュブ・ニグラス』がやって来たのは全てが終わった時で、まさに後の祭りと言った感じだった。

 そして今は、三人とも『シュブ・ニグラス』に回収され、休憩室で待機していた。

 ちなみに、海の沈んだ『ガタノトア』は現在回収作業中でしばらくの間、町の上空で待機することとなっていた。

 三人は休憩室で顔を突き合わせると言った。

 「今、チャンスですよね」

 「だな、あの本の話を聞くなら今がいいと思う」

 「そうね、善は急げともいうし」

 「じゃ、行きますか」

 「あぁ」

 「うん」

 こうして三人はダーレスがいると思われる指令室に向かって行った。


 その頃、整備中の『クトゥルフ』にて


 「おい、片山、コクピット内のメンテ頼むぞ」

 「おいっす」

 そう言って片山は開かれたコクピット内部に入って行った。

 中は手すりのついた大きな椅子と触手で埋め尽くされていた。片山は正直言ってここが好きでは無かったが、仕事なので仕方ない。

 そう割り切って椅子の拭き掃除をすることにした。

 正直言ってメンテナンスなんて名前ばかりのもの、下手に障ることもできないのでやることといえば掃除ぐらいだった。

 そもそも、『クトゥルフ』達には自己修復機能が備えられているので整備なんて必要ないのだ。

 「はぁ……」

 片山は小さな溜め息をつくと、雑巾と水が入ったバケツ片手に椅子に向かって行く。

 寒気がしっかりしているのか、汗ばむことも無ければ汗臭いことも無い、乾燥もしていなければ下手にジトッとしていることも無い。

 完璧だった。

 「最高じゃないか」

 一言そう呟くと、片山は椅子を拭こうと手を伸ばした。

 「ん?」

 そこで気が付いた。

 椅子の近くにノートのような物が転がっていることに


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