第二部-第六章〈中〉 『ジ・エンド・オブ・オールド・エネミー』

 「クソッ!!」

 謎の機体が接近して来たので、流輝は『ク・リトル』と『リトル』からビームを放つ。

 しかしそれは予期されていたらしく、見事に敵は回避しお返しとばかりにレールガンを乱射してくる。

 流輝はそれを回避しつつ、横に回るよう移動しながら海面に向かって行く。水中だと動きが鈍くなりがちで、下にいると不利だからだ。

 敵もそれに気づいたらしく、一旦攻撃を止めると海面に向かって行った。

 流輝はその後を追う形で海面に上がると、敵をしっかりと確認する。

 「これは、初めて見る機体ですね」

 その機体は、独特な形状をしていた。

 頭は丸く、卵のようにも見え、上半身と下半身は背骨のような細い何かでつながっているだけだった。

 機体のカラーリングは黒で、背中からは『クトゥルフ』と同じ翼タイプの反重力発生装置が搭載されていた。

 「名前は……」

 流輝がそう呟くと、名前が表示された。

 機体名『Night―gaunt』

 日本語名『ナイトゴーント』

 『ナイトゴーント』は左腕を突き出すと、そこに搭載されているレールガンの銃口を向けると、再び弾を乱射して来た。

 「チッ!!」

 流輝は左に飛び、その攻撃を躱すと『ク・リトル』を構え、牽制の為にビームを放つ。

 すると『ナイトゴーント』は飛び上がりそれを躱すと、右腕を後ろに回し腰裏に装着していた刀を引き抜くと接近してきた。

 流輝もそれを見ると『ク・リトル』と『リトル』を直すと、『ダゴン』を手にし『ナイトゴーント』を迎え撃つ。

 「喰らえ!!」

 『ナイトゴーント』が振るう刀を正面から『ダゴン』で受けると、流輝はそのまま力任せに押し込んで行く。

 すると、力では勝てないと悟ったのか『ナイトゴーント』は後ろに飛ぶと『クトゥルフ』から距離をとろうとする。

 が、流輝はそれを許さなかった。

 「逃がすかよ!!」

 反重力発生装置の出力を一時的に爆発的に上げる。

 すると、今までにないぐらい高速で接近、その勢いを乗せたまま、全力で『ダゴン』を投げつけた。

 するとそれは真っ直ぐに『ナイトゴーント』の首目がけて飛んで行く。

 「当たれ!!」

 流輝はそう叫ぶ。

 命中するかと思われた時、『ナイトゴーント』はまるでブリッジをするかのように体を曲げて、攻撃を躱した。

 これは胴体部分が無く、背骨のような物で上半身と下半身がつながっているため可能な回避方法である。

 「クソッ!!」

 流輝は悪態をつくと、再び『ダゴン』を召喚、右手に握ると普通に接近して切り裂くことにする。

が、『ナイトゴーント』の方が上手だった。

 次は刀で鍔迫り合いをするわけでは無く、『ダゴン』の刃を受け流すと力を受け流し、腕を上に跳ね上げ、『クトゥルフ』に致命的な隙を作る。

 そして、左手に搭載されているレールガンの砲口を向けると、引き金を引いた。

 すると弾は『クトゥルフ』の胴体部分の装甲に命中、傷をつける。

 しかしそれは致命的な物にならなかった。

 所詮、量産型のレールガン

 流輝は『ナイトゴーント』の腹を蹴りあげると隙を作り、後ろに下がる。

 「クソッ、ふざけるな!!」

 流輝は腹立ちまぎれにそう叫ぶと、もう一度、戦闘態勢に入る。

 すると、『ナイトゴーント』から通信が入って来た。

 『……通信はつながっているかい?』

 「……あんたは?」

 『私はクリスという物だ』

 「そうか」

 『君は?』

 「俺は流輝だ」

 『そうか』

 クリスはそう答えると、刀の先を『クトゥルフ』に向けてきた。

 流輝もそれを受けて『ダゴン』を構える。

 ところが、お互い攻撃を仕掛けずそのまま通信を続け、会話をしていた。

 『一ついいか?』

 「何だ」

 『君は、どうして戦うんだ?』

 「は?」

 流輝は質問の意味を理解できなかった。それは何故かというと、そういったことを今まで考えたことが無かったからである。

 というか、考える気も余裕も無かった。

 なので、聞き返した。

 「何でそんなことを聞く?」

 『知りたいからだ』

 「そうか」

 しばらく沈黙が続く。

 流輝は答えを考えていたのだが、クリスは無視されたと感じたのでいきなり大声で文句をつけてきた。

 『貴様!!なぜ答えない!?』

 「答えが思いつかない」

 『はぁ?』

 「いや、マジで」

 『ふざけるな!?』

 「ふざけてない」

流輝は冷静にそう答えると、呆気にとられ声の出ないクリスに向かって淡々と言葉を続ける。

「本当に、俺に戦う理由は無い。戦いたくて戦っているのかと聞かれると答えられないし、戦いたくないかと聞かれたらそうでも無い」

 『何が言いたい!?』

 「どうでもいいってこと」

 『はい?』

 「俺は楽しい、それだけで十分だ」

 『そうか』

 クリスは悲しそうにそう言うと、高速で接近し刀を振るい『クトゥルフ』の腕を切り落とそうとして来る。

 流輝はそれを最低限の動きで受け流すと、『ナイトゴーント』と抱き合うかのような形になる。

 そのまま二人は固まる。

 先に動いた方が負ける。

 お互いそう確信していた。

 『私の戦う理由は、復讐だ』

 「はぁ?」

 流輝の耳にクリスの声が響いてくる。

 あからさまに興味無さそうな流輝の返答を余所に、クリスは話を続けた。

 『あの日、あの場所で私は無力だった』

 「どこの話だ?」

 『私は力が欲しかった、欲しくて欲しくてたまらなかった』

 「何の話だよ」

 『今、私は力を手にしている』

 「だからなんだー!!」

 『ここで負けるわけにはいかない!!』

 そう叫ぶと、お互い頭突きを繰り出す。

 頭部の装甲がへこみ、傷がつく。

 しかし、重さ、大きさで『クトゥルフ』は勝つと『ナイトゴーント』を一時的に行動不能にする。

 流輝は隙だらけの『ナイトゴーント』の腕を掴むと、そのまま機体を大きく振るい、一回転すると床に叩きつけるようにする。

 『うぐっ!!』

 「隙あり――!!」

 叩きつけられ、無防備になった『ナイトゴーント』に『ク・リトル』を突き付け、機体を踏みつけると宣言した。

 「お前の負けだ」

 『…………』

 クリスは黙りこくると何も言わない。

 流輝はその姿を見て言葉を続けた。

 「力と言ったな?今のお前がそんな力を持っているのか?」

 『…………』

 「力を持ってるからって調子に乗るなよ、おまえ、勝てないくせして偉そうにするな」

 『うるさい!!』

 『ナイトゴーント』は体を動かすと、何とかして『クトゥルフ』から逃れようとする。

 が、流輝はより強く踏みつける。

 そして、言った。

 「それにさ、お前」

 『何だよ……』

 「俺たちの敵はお前じゃない」

 『じゃあ、なんだよ』

 「それはな……」

 流輝はそう答えようとした時

 『シュブ・ニグラス』から通信が入った。

 流輝は警戒を一切解かず、『ナイトゴーント』に銃口を向けつつも、ダーレスからの通信に応じる。

 「なんですか?」

 『わかってるだろう?『レイク・ハス』だ』

 「やっぱりか」

 『まぁ、当たり前だな。ここにこれだけ戦力が集中していたら来るだろうな』

 「いつ、到着しますか?」

 『三十分後だ』

 「そうですか」

 『ほかの二人に連絡頼む』

 「分かりました」

 流輝はその会話を最後に通信を切る。

 と、そこで二人がやってきた。

 『ナイア』と『アトラク―ナクア』が流輝の隣に降り立った。そして『ナイトゴーント』を見下ろすと通信を繋げ、会話を始めた。

 『終わった?』

 「あぁ」

 『さすが流輝、やるじゃん』

 「おほめに預かり光栄ですね、アリサ」

 『で、何か報告ある?』

 「あぁ、『レイク・ハス』が来たみたい」

 『マジで?エネルギー残量は?』

 「八割以上、まぁ、平気だろ」

 『そうね』

 三人は頷きあうと、『レイク・ハス』が接近してきている方へと顔を向けると、武装を整える。

 そして、飛び立とうとする。

 その前に、流輝はクリスの方を見ると言い放った。

 「いいか、俺の敵は『レイク・ハス』だ。お前らじゃない、眼中に入れる価値も無い」

 流輝はそう言い放つと、地面を蹴って宙に飛びだす。

 何となく流輝が心配で残っていたミリアとアリスだったが、『SANレベル』が下がっていることに気が付くと、冷や汗をたらしつつ流輝の後を追って行った。

 その後

 「クソ野郎!!!」

 クリスは一人、激昂していた。

 が、暫くして顔を上げる。

 すると、そこには

 宿敵がいた。


 流輝達は宙に浮き、敵を探していた。

 『シュブ・ニグラス』は一度『コス―GⅡ』の改修を行っており、三人の後ろで忙しく稼働していた。

 なので、索敵は自分たちで行うしかなかった。

 が、暫くすると、三人は索敵をする必要が無いことに気が付いた。

 「あれは……」

 『…………』

 『ねぇ、ボク初めて見たんだけど、あれは何?』

 「あれはな、『クトゥグア』だ」

 その言葉の通り、そこには『クトゥグア』がいた。

 他に敵英は無く、どうやら『クトゥグア』単体で攻撃を仕掛けてきたようだった。

 ミリアは静かにそれを見上げていたが、大きく息をつくと心を落ち着かせた。

 『……私から行くよ』

 『おぉー、いけいけ』

 「何するんだ?」

 『まずは、これ』

 そう言ってミリアは四八連ミサイルポットを四つ召喚すると、全てを装着『クトゥグア』に狙いを定めると一斉発射した。

 全一九二発のミサイルが『クトゥグア』に向かって襲い掛かる。

 『おぉぉ、スゲー』

 「いつみても壮観だな」

 と、その時『クトゥグア』はレーザー砲の全砲門を展開すると、レーザーを一斉放射、襲い来るミサイルを全て撃ち落とした。

 その上、流輝達に向かってビームを放つと攻撃を仕掛けてきた。

 アリスはそれを躱しつつ、言った。

 『ねぇ、何あれ化け物?』

 「大火力の球体だな、強いぞ、あれは」

 ミリアは大口径レールガンを召喚すると、それを構え『クトゥグア』に向かって乱射すると牽制する。

 弾は炸裂弾で爆発するタイプの物だった。

 なので当たりに黒煙が蔓延し、敵と味方の視界を奪って行く。

 ミリアは攻撃を仕掛け続け、他の二人に話しかけた。

 『アリサ!!』

 『ホイホイ』

 『海上、もしくは海中で敵の弱点探りつつ、粒子砲で援護して』

 『あいよ!!』

 と、それを聞くなりアリスは『ナイアーラトテップ』を基地から飛び降りさせると海中に潜り、『クトゥグア』の視界から逃れた。

 ミリアはそれを確認した後、流輝にも命令を飛ばす。

 『流輝』

 「俺は攻撃か?」

 『えぇ、私と一緒に殴り続ける』

 「分かった!!」

 流輝はそう叫び、『ク・リトル』と『リトル』を『ハイドラ』に接続した後、反重力発生装置を起動させるとそのまま『クトゥグア』に向かって突っ込んで行った。


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