第二部-第五章『フレリティング・ピース・アンド・ミステリー』

次の日、流輝は目覚めた。

 目覚めて一番初めて思ったことは、そういえば銃で撃たれてから記憶が無いなー、と言う事だった。

 流輝の頭では、銃で撃たれて気絶して、そのまま運ばれたということになっていた。

 がその考えは、それは壁にかかっていたカレンダーを見た瞬間、改めることとなった。

 「一日、経ってる?」

 「目覚めたかい、流輝君」

 「あ、ダーレスさん」

 「そろそろ起きる頃だと思ったよ」

 「この前、何があったんですか?」

 流輝が訪ねると、ダーレスは無症状のまま答えた。

 「『クトゥルフ』が暴走した」

 「あ、そうですか」

 「リアクション薄すぎないか?」

 「そうでしょうか?」

 これでもショックを受けているつもりだったのだが、ダーレスから見ると大して驚いていないように見えたらしい、心外だった。

 が、何言っても無駄な気がしたので黙っていた。

 それよりも気になることがあった。

 「被害はどれぐらいですか?」

 「死者、重傷者含めて数十人だ」

 「はぁ」

 「実感が湧かないかね?」

 「と言うかどうでもいいです」

 「ほぅ」

 流輝が思いもよらないことを言ったので、ダーレスは少し驚く。

 その反応は予想の範囲内だったので、流輝としてはやっぱりかという感想しかなかった。

 「どうして、どうでもいいのかね?」

 「だって他人の事じゃないですか、自分が殺したなら気分は悪いですし、なるべく避けたいところですけど、あまり気になりませんね」

 あっけらかんと言ってのける。

 ダーレスはにやりと笑うと言った。

 「本当、君が『クトゥルフ』の契約者で良かったよ」

 「そうですか」

 その言葉を最後にダーレスは病室から出ていく。その背中は何とも言えない満足感で満たされていた。

 流輝は腹が減ったな、と思いつつその背中を見送った。

 ダーレスが部屋から出て行った、次の瞬間、ミリアとアリサが入って来た。

 「元気?」

 「うぃーす」

 「あ、お久しぶりです」

 「何だよ、それ」

 アリサは豪快に笑いながら、手にしていたコンビニ袋を流輝が寝ているベッドの上に放り投げて渡してきた。

 食べ物かなと期待した流輝は急いで袋を開いてみると、中には招き猫が入っていた。

 「これは……」

 「いいだろう、日本のお守りってやつだろう?」

 「ちょっと違います」

 「そうか?」

 アリサはよく分からないと首を傾げる。

 ちなみに流輝はツッコみ損ねたが、アリサの服装は軍服だった。恐らくレプリカなのだろうが、よく似合ってるがだけに不自然だった。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 ミリアは招き猫を見て何とも言えない笑い顔を浮かべると、ポケットの中から携帯食料を取り出すと、流輝に手渡した。

 「はい、これしかないけど、いい?」

 「あ、ありがとうございます」

 流輝はありがたくそれをいただくことにした。

 包装を破って食べる。その間に二人は病室の隅にあった椅子に座り込んだ。

 水が欲しかったが、贅沢は言わないことにした。

 そして、食べつつアリサとミリアから『クトゥルフ』が暴走してから何があったかを大体確認した。

 二人は流輝に一切構う事無く、真実のみを話してくれたので、とてもわかりやすかった。

 話を聞き終わり、携帯食料を食べ終わってから流輝は二人に質問を飛ばした。

 「で、その『アザトース』っていう機体は間違いなくダーレスさんの物なんですね」

 「そうみたいだな、ダーレスはあれか何も喋らないけど」

 「なるほど、ミリア、あなたはあの機体を見たことが無いんですね?」

 「えぇ、初めて見る機体だった」

 「ということは、あの機体が『コス―GⅡ』の元となった機体?」

 「分からない」

 「おい、何の話だよ、ボクを置いて行くな」

 「あ、すいません」

 二人は今までの事をかいつまんで説明した。

 アリサはそれを聞くと、「それなら」と話を切り出してきた。

 「『アトラク―ナクア』にあの機体の分析データがあるぞ」

 「「え?」」

 「あぁ見えて『アトラク―ナクア』は解析とか分析とかの機能が高いんだよ、だからさ、万が一の為にやっといたんだ」

 「グッジョブ!!アリサ」

 「イェイ!!ミリア!!」

 二人はハイタッチをする。

 流輝もやろうかと思ったが、少し動いて腹の傷跡がひきつり、少しだけ痛かったので止めることにした。

 アリサは急いで立ち上がると、一旦病室から出ていき『アトラク―ナクア』の情報を引き出しに行った。

 結果、ミリアと流輝の二人きりになる。

 先に口を開いたのはミリアだった。

 「で、どうするの?」

 「何がです?」

 「それはもう、色々だよ」

 「もっと具体的に言わないと分かりませんよ」

 「ほら、『アザトース』についてわかった後とか、その、死人とか出たじゃん、それも含めて」

 「なるようになりますよ」

 流輝は間を開けず、即答する。その速さと答えの内容にミリアはとても驚いた。

 それは予想の斜め上どころか考えもしなかったものだった。

 なので、ミリアは聞き返す。

 「え、なんて言ったの?」

 「だから、なるようになります」

 「それは、どういう事?」

 流輝は聞き分けのない子供をあやすような喋り方で説明を始める。

 「いいですか、先に言っておきますけど、僕は戦いを続けます、全ての決着がつくまで『クトゥルフ』に乗り続けます」

 「それはどうして?」

 「あれの決着がつくまで、僕は平穏でいられないからです」

 「なるほどねー」

 「そして、僕は真実を知りたいだけです、それ以上でも以下でもない、真実を知ってスッキリした状態で戦い続けたいんです」

 「そういう事ね」

 ミリアは納得した。

 つまり流輝は心置きなく戦いたいだけなのだという事を

 と、そこでアリサが戻って来た。

 あまりに早い帰りに二人は小首をかしげる。

 「だいぶ早いじゃん、どうしたの?」

 「嫌な、それが」

 「私が直々に話そうと思ってな」

 と、アリサの後ろからヌッと現れたのはダーレスだった。

 流輝とミリアはその姿を見て何となく身構えてしまう。アリサは困惑した顔を浮かべるのみだった。

 「煙草を忘れて言ったことに気がついてな、戻ろうとしたらアリサ君にぶつかってね、話を聞いたらおもしろそうだったから来たんだ」

 ダーレスはそう言いながら、アリサを押しのけ病室に入ると、開いていた椅子に座り流輝の方を見る。

 「いいか、あの機体は私の物だ」

 「そうなんですか?」

 「そうだ」

 「いつからあるんです?」

 「『イカン』創設からずっとだ」

 「普段はどこに隠されているんですか?」

 「隊長室からいける地下格納庫だ、あの機体は特別でな、特殊なAIを用いているため普段は『∀』と言う名前で『イカン』の管理やデータベースの役割を果たしている」

 「どうして今まで戦わなかったんです?」

 「『アザトース』はそもそも戦闘用じゃない、そのためかエネルギー効率が悪すぎてな、『バルザイ』もエネルギーを使用しすぎるんだ、フルで戦うと三十分も経たずにエネルギー切れだ」

 「なるほど」

 流輝は納得する。

 ミリアとアリサは頭に『?を大量に浮かべさせながら困惑した顔をしていた。どうやらダーレスのいう事に対応しきれなかったらしい。

 しばらく沈黙が続くが、ふと流輝が顔を上げるとダーレスに訊ねた。

 「で、今その機体はどこに?」

 「帰した、今は『イカン』で本来の業務に戻っている」

 「で?」

 「で、とは?」

 「他には?」

 流輝がそう聞くと、ダーレスは目を細めて言った。

 「他には、とは?」

 「他に隠していること、ですよ」

 「知りたいか?」

 そう言うと、ダーレスはにやりと笑った。

 三人はそれを見て全く同じものが頭に浮かんでいた。

 それは昔TVでいた悪役の笑顔

 虫唾が走る、あの笑顔だ。

 ダーレスは笑顔のまま、固まっている流輝達をよそに、淡々と言葉を紡いだ。

 「知りたいなら、本を読め」

 「なんです、突然」

 「あの本だよ」

 「……あー、あれですか」

 そこまで言われて流輝は『アル・アジフ』と『ネクロノミコン』とか言う謎の二冊の本の存在を思い出した。

 今頃『イカン』の寮の机の上で埃を被ってるんだろうなーと、他愛も無いことを考える。

 が、すぐ正気に戻ると、ダーレスに問いかける。

 「どういう事です、それは?」

 「それも教えるわけにはいかない」

 そう言ってダーレスは病室から出て行こうとする。

 流輝はその背中になんと声をかけたらいいのかよく分からず、中途半端な恰好のまま、ベッドから半分身を乗り出したままかたまった。

 ダーレスは手を振りつつ言った。

 「流輝君、君が立てるまでに回復したら三人に『カダス』についての報告がある、それまで楽しみにしておいてくれ」

 「ダーレスさん!!」

 流輝は何とか言葉を見つけ、ダーレスを呼び止めようと声をかける。

 ところが、ダーレスはそれを無視すると、さっさと病室から出て行ってしまう。 

 「――――ッ!!」

 流輝は悔しそうな顔をすると、そのまま寝転び、布団の下に隠れてしまう。

 何となく取り残されてしまったミリアとアリサは、気まずい空気に耐えきれず、流輝に断りを入れると病室から出て行った。

 そんななことは関係なしに時間は経つと、ゆっくりと日は暮れていった。


 次の日

 ミリアとアリサの二人は、流輝のいる病室から少し離れたところで、ちょっとした悪だくみをしていた。

 廊下で不自然に屈んで息をひそめていた。

 近くを通りかかった黒服の男が怪訝そうな顔をするが、声をかけることはしなかったし、二人海そんなことは望んでいなかった。

 どうしてこういう事になったのか

 事の発端は見舞いに行く途中の二人の何気ない会話からだった。

 「ねぇねぇ、ミリア」

 「何さアリサ」

 「流輝ってさ、一人のとき何してるの?」

 「えーと」

 よくよく考えてみると、知らなかった。

 落語が好きとか和菓子が好きとか純文学が好きとか、他にもいろいろ知ってはいるが一人のときは何をしているかまでは知らなかった。

 考え込むミリアを見て、アリサはにやりと笑うと言った。

 「見に行かない?」

 「え、どゆこと?」

 「病室に一人でいる流輝を見に行こうよ」

 「…………」

 一瞬考え込むミリアだったが、好奇心の方が勝った。

 好奇心は九つの命を持つ猫を殺すというほどだから、ミリアはそれに抗うことができなかった。

 「よし、行こう」

 「うし、いっちょ行きますかー!!」

 こうして二人は不自然な恰好で流輝の病室前にいたのだ。

 アリサは無言のままポケットから針金を取り出すと、扉の隙間にひっかけ、ほんの少しだけ開くようにする。

 すると小さな隙間ができ、そこから中を覗き込む。

 アリサが先の覗き込んだので、ミリアが後から覗き込む。

するとそこから病室の中がしっかりと見ることができた。

 「よし、見える」

 「観察しよう」

 「イェッサー」

 二人は小さな声でしゃべりながらこっそりと覗き見る。

 すると、ベッドから状態を起こしてのんびりとしている流輝の姿が見えた。

 TVは点いてこそいたが、外国の番組だったため、流輝には何を言っているのか理解できなかったため、何とも言えない悲壮感が漂っていた。

 流輝は手元の小さな机のような物の上に置いてある湯呑みに手を伸ばすと、中に入っている熱いお茶を一口飲む。

 そして、湯臣の隣に置いてあった開いた煎餅の袋から一枚取り出すと、ゆっくりと齧りだした。

 顔は窓の方を向いていて、そこから広がる雲海を眺めているようだった。

 流輝は十分以上かけて煎餅を食べると、もう一度お茶を飲み、のんびりと窓の外を眺め続ける。

 それだけ、ただそれだけを延々と繰り返していた。

 はっきりいおう、枯れていた。

 なんかいたたまれなくなったミリアとアリサは、いい加減観察するのを止めて病室に入ることにした。

 「ヨース、流輝」

 「お邪魔しまーす」

 「あ、観察するのはもう終わりでしたか」

 「「!?」」

 二人は戦慄する。

 ばれていたという事実にすら気が付かなかったのだ。

 それだけ流輝は自然にしていたのだ。

 アリサは狼狽しつつも訪ねた。

 「どうして……ばれた!?」

 「不自然に開いた扉、二つの視線、サルでもわかりますよ」

 「うぐっ……容赦ないな」

 「そうでしょうか」

 ニコリと笑う流輝に圧倒されながら、アリサはすごすご退場する。

 ミリアはさすがナチュラルな毒舌、と思いつつも気を取り直して質問を飛ばした。

 「で、あれがいつもの暮らし方?」

 「いえ、そういうわけでは」

 「あ、そうだよねー、普通そうだよねー」

 ミリアは少し安心してそう答えるが、流輝の次の言葉に固まった。

 「いつもは大河ドラマとか朝のドラマとか刑事ドラマとかを見ていますね」

 「「渋い!!」」

 二人はツッコみを我慢することができなかった。

 流輝は不思議な顔をすると、小首を傾げて言った。

 「何がそんなに面白いんですか?」

 それは本気で何言ってるのか分からないとでも言いたげな言葉だった。

 二人は呆れて声も出なかった。

 何故、流輝がそうなったのか

 二人はそのことについて流輝から話を聞いていた。

 あの後二人は気を取り直すと、椅子に座りつつ残り少なくなった煎餅をかじりながら、話を聞くことにしていた。

 流輝はお茶を飲み干すと話を始めた。

 「えーとですね、全ての原因はおばさんですね」

 「おばさん、ほぅほぅなるほどねー」

 「何も言ってません、アリサ」

 「冗談だよ冗談、アメリカンジョーク」

 「そうですか、ならいいです」

 話の腰をぽっきりおられたので、流輝は一度咳払いをすると、一度リセットしてから話を続けた。

 「えーとね、おばさんの趣味って古いんですよ」

 「へー、そうなんだ」

 「いや、もうそれは驚くほど古くって」

 「具体的には?」

 「『暴○ん坊将軍』と『水○黄門』を一日に一回必ず見てます」

 「うん……?」

 ミリアはここで不思議に思ったことがあったので、流輝に訊ねてみた。

 「ねぇ、流輝」

 「なんです?」

 「その二つってどっちの方が古いの?」

 「十年ちょいの差で『水戸○門』の方が古いらしいですよ」

 「え、知ってるんだ」

 「何で引くんですか」

 ちょっと心外だった。

 アリサは煎餅がとても気に入ったのか、袋から次から次へと口に運ぶと勝手に食べていて、もう残り少なくなっていた。

 流輝は少し複雑な気持ちになったが、何も言わないでそっとしておくことにした。

 「それでですね、僕もそれを見るうちに気に入っちゃって」

 「刑事ドラマとかは?」

 「学校帰り、ちょうどやってるんですよ、それで見ている内にはまっちゃって」

 「どこが面白いの?」

 「なんか突然犯人が出てきて事件が解決するところですかね

 「ごめん、理解できない」

 「別にいいですよ」

 「そう……」

 ミリアは何も言うことができなくなった。

 アリサは煎餅を食べきると、袋の中を覗き込んだりしていたが、やがてあきらめるとみリアに話しかけた。

 「ミリアー」

 「何?」

 「ミリアっていつも何してるの?」

 「え、私?」

 「あ、僕も聞きたいです」

 「…………えー」

 そこまで言われて喋らないミリアではない。

 渋々ながらといった様子で口を開くと喋った。

 「ゲーム、音楽を聴く、アニメを見る、寝る」

 「なんか……」

 「普通だなー」

 「なんでそんなに落胆してるの!?」

 面白いことを言うのかと期待していた流輝とアリサは、あまりにも普通の答えにがっくりきてしまった。

 ミリアは心外だ、と言う顔をしていたが、そのことを気にする人は誰一人としていなかった。

 「で、アリサは?」

 「ボク?」

 「いつも何してるの?」

 「あ、アリサだけ言わないなんて無しだからね!!」

 ミリアも食いついて来た。

 面倒くさそうな顔をするアリサだったが、一切渋ることなく、思いの外あっさりと答えてくれた。

 「勉強」

 「「え?」」

 「勉強してる」

 実はアリサ、すごく頭がいいのだった。


 その三日後

 歩けるまでに回復した流輝を含め、ミリア、アリサに三人はダーレスのいる指令室に来ていた。

 『カダス』についての報告を受けに来たのであった。

 椅子に座るダーレスの周りにはいくつもの映像が浮かんでいた。

 ダーレスはそのうちの一つを手元に引き寄せると、おもむろに話を始めた。

 ちなみに映像には何かのビルと工場のような物が映っていた。英語の表記があることから外国の企業だということが分かった。

 「この工場と本社ビルを見てくれ」

 「これは?」

 「アメリカの兵器製造社『リバーサイド』の本社ビルと工場だ」

 「それが?」

 「ここで、『ミゴ』が製造されていることが確認できた」

 「はあ」

 あまり驚きはしなかった。

 はっきり言うと予想通りだった。

 リアクションの薄い三人をよそにダーレスは話を続けた。

 「ここで作られた『ミゴ』の数は二○○機、『コス―GⅡ』と比べて安価で量産ができている」

 「それでいいんですか?」

 「あぁ、機動力は高いが、防御力と攻撃力にかける、量産機としては優秀だが、邪神や旧支配者と戦うのは火力不足だ」

 「そうなんですか」

 それはそれで納得だった。

 アリサは経ったまま寝ていて、それに気が付いたミリアに足を踏まれその痛みで目覚めていた。

 その間にダーレスは別な映像を引き寄せると、よく見えるように少しズームをした。

 そこにはどこかの海上にある五角形をいくつもつなぎ合わせたかのような海上基地が確認できた。

 少し考えてみても分からなかったので、ミリアが質問を飛ばした。

 「それは何です?」

 「『カダス』の基地だ」

 「ほー、これがです?」

 「あぁ、ここから輸送機を飛ばし、『ミゴ』を運んでいるらしい」

 「へー」

 話が終わったのを見計らい、流輝は打^レスに質問する。

 「ダーレスさん、気になっていることがあるんですけど」

 「何だ?」

 「僕達はアメリカ政府から許可を得て戦っているんですよね、それならどうして『カダス』が攻撃してくるのか、分かったんですか?」

 「あぁ」

 「それは?」

 ダーレス急かされたので、奥の方にあった一つの映像を引き寄せると、それを見せた。

 が、そこには一面の英語が描かれていたので、流輝には読むことができなかった。

 ミリアとアリサは一生懸命読んでいた。

 「いいか、ここにある通り、『カダス』はアメリカ海軍の特殊部隊だ」

 「はい、そうらしいですね」

 「いいか、アメリカ政府は許可した、しかし、ここにある通り、『カダス』は独立した組織だ、独自の判断で動いていいことになっている」

 「そういう事ですか」

 流輝は少し納得した。

 が、それでは半分だった。

 「で、どうして僕らを狙うんです?」

 「分からないか?」

 「分かりません」

 「自分の国に巨大ロボットがいる、それは危険だし手に入れたくなるだろ」

 「あー、そういう事ですか?」

 「あぁそういう事だ」

 これで代替の事情は分かった。

 ミリアと流輝がそれぞれ思いを走らせていると、アリサが何の気も無しに口を開くと、ちょっと大きめの声で言った。

 「でもさー、『ミゴ』ってどうやって作ったのか不思議だよねー」

 「「?」」

 一瞬、ミリアと流輝は固まるが、流輝はすぐに意味が分かった。

 ダーレスは笑うと感心していた。

 「ほぅ」

 「あー、そういう事ですか」

 「??」

 アリサは突然変わった空気に耐えきれず、辺りを見渡してみるがどこにも助けてくれそうな人はいなかった。

 なので比較的小さな声で愚痴った。

 「そんなに深い意味は無いのだけど」

 「いや、それでもすごいと思うぞ」

 「はい、僕もそう思います」

 「え、何が?」

 「ねぇ、私にも説明するよ」

 ただ単にどういう風に作ったのかと言う意味の質問だったため、深く考えていなかったアリサと、ついていけないミリアは説明を二人に求める。

 すると、流輝が答えた。

 「えーとですね、今の技術で『ミゴ』が作れると思いますか?」

 「え、どゆこと?」

 「ですから、こっちとは違い旧支配者や邪神とかのデータ無しにどうやって人型機動兵器を作ったって言うんですか?」

 「「あ」」

 二人は気が付いた。

 言われてみればそうである。

 ぶっちゃけ、今の技術で作れる筈が無い、と言うか作れたら今頃世界の戦争は大きく変わっている。

 三人がそれに気づいたことなので、ダーレスは話を始めた。

 「いいか、この施設からは邪神の反応が確認された」

 「じゃあ……」

 「あぁ、しかも初めて確認されるパターンの物だ」

 「それが元に?」

 「あぁ、その可能性が高い」

 「なるほど……そういう事ですか」

 完全に把握した流輝だった。

 しかし、どこか納得いかないことがあったが、それが何なのかよく分からなかったので、考えるのを止めた。

 この後、細かい指令とそれぞれの機体の確認をすること、などを聞かされたあと解散となり、三人は指令室から出て行った。

 一人になったダーレスは一人呟いていた。

 「さて、これは罠かもしれないな」

 邪神の反応が確認されている。

 それなのに、『レイク・ハス』が『カダス』の本拠地を襲撃したという情報が今まで入ってきていない。

 つまりは見逃している。

 これはおかしかった。

 さらに、この機体がどこで回収されたかという情報も無い。

 ここ数十年の情報を網羅している『アザトース』にもそう言った情報が無い。

 つまり、回収していない。

 以上の事から考えられる結論は一つ。

 「『レイク・ハス』が与えた、か」

 意図はよく分からない。

 が、これしか考えられる答えは無かった。

 「いよいよ面倒だな」

 ダーレスはそう呟くと、次の作戦の段取りを考え始めた。


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