第二部-第三章〈下〉 『ゾース・フロム・ユゴス』

 「なんですか、これ」

 『分からない、ちょっとダーレスさんにつないでみて』

 警告から三十秒が経った。

 二人は一度通信を切ると、相談をしていたが、どうにも状況が呑み込めないので、ダーレスに聞こうという結論になり、通信を繋ごうとしていた。

 が、その前にダーレスから通信が入る。

 驚いた流輝は一瞬固まるが、ダーレスの話を聞く体勢に入る。

 『二人とも、警告を聞くことは無い』

 「どうしてです?」

 『いいか、私たちは既に上から許可をとっている、アメリカ軍は私たちにでは出さないという契約をしている、したがって、こいつらは契約違反だ』

 「なるほど、それなら、どうします?」

 『こちらとしては、この謎のロボットの情報が欲しい、しかし、『コス―GⅡ』達は先ほどの戦闘でエネルギーをかなり消費してしまっている』

 「撤退しますか、戦いますか?」

 『撤退、でも君達には殿を務めてもらう』

 「分かりました、戦いますね」

 『そういう事だ、頼むぞ、私は他の機体にそれを知らせる』

 「そうですか」

 『後、なるべく破壊するな、情報が入るまでは受け身でいろ』

 「はい、分かりました」

 流輝はダーレスとの通信を切ると、謎のロボットの方を見る。

それと同時に再び通信が入ったので流輝はそれに応答する。

 すると、さっきと同じ男の声が響いてきた。

 『三分だ、返事を聞こう』

 「そのロボットは何ですか?」

 流輝はあえて、話を逸らしてみることにした。まだ、『コス―GⅡ』に話が伝わっていないかもしれなかったからだ。

 もちろん、返事は期待していなかった、が、男は素直に答えた。

 『これは対邪神決戦兵器Ver三・五』通称『ミゴ』だ』

 「『ミゴ』……ッ!!」

 流輝は何となくその言葉に戦慄する。

 次に一番気になっていたことを質問する。

 「どうして日本語を?」

 『昔、仕事で日本に行く際、習った。私しかしゃべれないから、代表で通信している』

 「なるほど……」

 『で、どうなんだ、降参するのか?』

 流輝は口ごもる。

 と、同時にメッセージが入る。

 十秒後に『コスーGⅡ』の回収を行う、という物で、『ナイア』もこちらを見ると小さく頷いた。

 すべて納得した流輝は『ダゴン』をより強く握ると、答えた。

 「断固拒否で」

 『よろしいならば戦争だ』

 「どうぞ、お好きに」

 流輝がそう答えると同時に雲の裏から巨大な影――『シュブ・ニグラス』が出現すると、ハッチを開き『コス―GⅡ』の受け入れ準備をする。

 そして『コス―GⅡ』達は地面を蹴り、宙を舞うと真っ直ぐ『シュブ・ニグラス』に向かって行く。

 それを見て、一瞬驚いた『ミゴ』達は一斉に上を見る。

 ミリアはその隙を見逃さず、グレネード射出装置からプラズマグレネードを発射すると爆破、敵を一時的に行動不能に陥れる。

 流輝はプラズマに巻き込まれないように後ろに下がると、『ミゴ』の前の地面にビームを放ち、巨大な土埃を舞い起こさせる。

 それで視界を奪うと、流輝とミリアは一旦離れると距離をとる。

 『あと数十秒はこのまま』

 「その間に観測が終わると良いですね」

 『無理でしょ、邪神とは違うんだから』

 「そうかもしれないですね」

 そんなことを話していると、土埃が収まり、プラズマ波の影響も溶け『ミゴ』達がゆっくり動き出す。

 すると、棒で挟まれた腕を向けると、二本の棒の間からエネルギー弾を放ってくる。

 「おぉ!!」

 狙いが甘かったせいか、その弾は二人にかすりもせずどこか遠くへと飛んで行く。

 どうやら、二本の棒はエネルギー砲らしく、俸と棒の間にエネルギーを集中、凝縮させて撃ちだしているらしかった。

 エネルギー効率も悪く、弾速も遅いがなかなか威力の高い兵器らしかった。

 「うーん、何とも言えないですね」

 流輝は『ダゴン』を構え突っ込んで行くと、一番近くにいた『ミゴ』の腕を切り裂き、左手に持っていた『ハイドラ』で殴りつける。

 すると、『ミゴ』はバランスを崩したものの、何とか後ろに下がって行くと、転ばずに立て直すことができた。

 どうやら下半身全体が反重力発生装置になっているらしく、多少バランスを崩したところで転ぶことは無いようだった。

 「なら……」

 流輝は『ハイドラ』を構え、触手を射出すると、下がった『ミゴ』の胴体と下半身のつなぎ目辺りを貫き、巻きつけると、そのまま『ハイドラ』ごと大きく横薙ぎに動かした。

 すると、それに巻き込まれて数体の『ミゴ』が倒れていく。

 「これで!!」

 その時、捉えていた『ミゴ』の後頭部が開くと、そこから小さな筒のような物が飛び出して行った。

 「あれは……?」

 流輝は一瞬動きを止め、それを見る。

 するとエネルギー弾が大量に飛んできたので、宙に舞い左に飛ぶとそれらを躱していく。

 その途中、ミリアの様子を見ると、拳銃のような物を手に全壊させない程度に『ミゴ』を次々と傷つけていった。

 と、ほぼ戦闘不能になった『ミゴ』からはさっき流輝が見たのと同じような筒が後頭部から射出されていく。

 「あれは……」

 『流輝君、どうやらあれは脱出用ポットらしいぞ、生命反応が観測された』

 「つまり…………」

 『つまり『対邪神決戦兵器Ver三・五』は有人機だ』

 「いちいちフルネーム言わないでください、ウザいです」

 『そうか、すまない』

 「しかし……」

 困ったことになったと流輝は思った。

 搭乗している人がいるということは、下手すると人殺しになってしまう。それは避けたいところだった。

 と言うことは、爆破とかしないように気を付けながら、的確に弱点を突き、機能停止に陥れなければならない。

 「面倒ですね」

 流輝はそう呟くと、しっかりと『ダゴン』を握りしめる。

 とりあえず、弱点を探す。

 「今分かるのは……胴体と下半身の付け根と…………定番の首ですかね」

 『クトゥルフ』を加速させると、一機の『ミゴ』に近づくと、下半身に蹴りを入れると一瞬ひるませ、首に『ダゴン』を叩きこむ。

 『ミゴ』の首は顔から伸びる装甲に隠れていたので、その装甲ごと切り裂く。

 すると、頭が地面に向かって落ちていく、と、その途中脱出用ポットが射出され、どこかに飛んで行く。

 流輝はそれを見送ると、次の『ミゴ』に狙いを定める。

 すると、数体の『ミゴ』が怯えたかのように一歩下がると、エネルギー砲を構えるとエネルギー弾を乱射して来た。

 ところが、一発たりとも当たらない、腰の引けた射撃ではまともに照準を付けられないのだ。流輝はそれが分かっていたので、より恐怖感を与えるため、一歩ずつ近づいて行く。

 すると、一機の『ミゴ』が躍り出るとエネルギー砲をパージ、右腕を自由にすると、足に装着していたナイフを引き抜き、接近戦を仕掛けてくる。

 「へぇ」

 それを見て、少し興味の湧いた流輝は『ダゴン』を構えると、そのナイフを受け止める。

 すると、勝手に通信がつながり、男の声が聞こえてくる。

 それは先ほど警告して来た男の物と同じだった。

 『なかなかやるな』

 「あなた達とは違うんですよ」

 『ガキのくせに……大きい口を叩きやがる』

 「ガキで悪かったです……ねっ!!」

 流輝は叫ぶと同時に右足を大きく振りあげ、『ミゴ』を蹴り飛ばす。すると『ミゴ』は大きく後ろに飛び、衝撃を減らした。

 そして空を飛びながら左腕に装着していたエネルギー砲を向けると、エネルギー弾を発射してくる。

 と言っても、先程の『ミゴ』達のような乱射では無い。

 正確無比なエネルギー弾の攻撃だった。

 「へぇ、すごいですね」

 『何度シュミレーションをしたことか……』

 自慢するだけあって、なかなかいい動きをしていた。

 が、流輝はそのエネルギー弾を全て躱すと、『ハイドラ』の砲口を向け『ミゴ』をロックすると、二本の触手を射出する。

 男はそれが何なのかよく分からなかったが、当たってはまずいと思ったので、横に飛んで回避しようとする。ところが『ハイドラ』から出る触手に追尾機能があることを男は知らなかった。

 触手は『ミゴ』を追尾、機体に巻きつくと『ミゴ』の自由を奪った。

 『何!?』

 「僕の勝ちです」

 流輝は動けない『ミゴ』に近づくと、『ダゴン』で首を切り裂き、機能を停止させた。

 すると、脱出用ポットが飛び出し、どこかへ飛んで行く。

 流輝はそれを見送ると、残った『ミゴ』の方を見てみる。

 すると『ミゴ』達は一斉に飛び立ち、空へ飛んで行った。戦う意思はもうないらしく、エネルギー砲を向けることも無く背を向けて飛んで行く。

 流輝は後を追う気も湧かなかったので、そのまま見送ることにした。ミリアも数体の『ミゴ』の破片を踏みつぶしながら見送っていた。

 そこで、ミリアから通信が来た。

 『流輝、私『シュブ・ニグラス』に戻るわ』

 「分かりました、僕はもう少し辺りを探索してから――っ!!」

 警告音が鳴り響き、左から何かが来るというマークが出る、流輝は反射的に左の方に顔を動かし見てみる。

 すると『ハスター』がエネルギー膜を張らず、接近してくるのが見えた。両手のひらのビーム砲からビームを発射しつつの接近だった。

 戦闘が終わり、油断していた流輝はそのビームを躱しきれず、左腕と首をかするように命中してしまう。

 液体が漏れ出し、辺りにふりまかれる。

 「クッ!!」

 『流輝!!』

 何とか反撃しようと『ダゴン』を振りかざすが、その前に右腕の前腕部に『ハスター』のビームをくらってしまい『ダゴン』を取り落してしまう。

 流輝は反撃をあきらめ、飛んで躱そうとするが、その前に左側の反重力発生装置を撃たれてしまい、上手く飛べなくなってしまう。

 『クトゥルフ』は飛びかけだったため、バランスを崩し、地面に片足をついてしまう。

 その隙に『ハスター』は最接近するとナイフを露出させ、切りつけてくる。

 ミリアはそれを見ると、拳銃を『ハスター』に向けて構えると、引き金を引き、『ハスター』を撃ち抜こうとする。

 ところが、上から二筋のビームが放たれ、それが拳銃を焼き、溶かし、使用不可能になるまで追い込む。

 『なっ!!』

 ミリアは弾かれるように上を見る。

 するとそこには小さな機影があり、それを拡大して見てみると、手の平のビーム砲を構えた『ハスター』が見えた。

 上空の『ハスター』はビームを放ちつつ、接近してくる。

 『何でもう一機!?』

 ミリアは一瞬、流輝の方を見るが、とりあえず自分の身を守るために大きく飛ぶと、上からの攻撃を避けていく。

 途中、通信を切るとナイフの入った鞘をいくつか召喚、腰に装着すると、そのうち一本を引き抜くと『ハスター』の方へ飛んで行く。

 ビームは最低限の動きでかわしていき、接近、ナイフを突き立てると『ハスター』もナイフを露出させ、それに対抗する。

 ナイフ同士がぶつかり合い、火花を散らす。

 お互い睨みあうかのように顔を近づけると、ミリアはスピードを上げた。

 流輝はそれを見ると、とりあえず『ハスター』の方を見る。

 「どうしますか」

 はっきりってピンチだった。

 右腕前腕部は千切れかけで、修復はなかなか進まない。左腕もまだ時間はかかるので今すぐ戦闘に入るのは厳しいし、飛んで逃げることもできない。

 流輝は『シュブ・ニグラス』に通信を繋いだ。

 「ダーレスさん」

 『すまない、今ちょっと手が離せない、『ガタノトア』が攻撃を仕掛けてきてな』

 「そうですか、ならいいです」

 通信を切る。

 とりあえず、流輝は地面を蹴って飛び上がると、右足を前にだし、『ハスター』に蹴りを叩きこもうとする。

 が、『ハスター』は後ろに下がり、流輝渾身の蹴りを躱すとナイフを露出、再び接近すると胸あたりを狙ってくる。

 それを見た流輝は『クトゥルフ』の足を思いっきりあげると、『ハスター』の腕を払いのける。

 左腕が少し動くようになったので、戻しておいた『ク・リトル』と『リトル』の内一つを起動させ、グリップを展開させそれを握る。

 そして、引き金を引くとビームを放った。

 しかし、それは躱されてしまい、再びビームを放ってくる。

 流輝は何とかそれを躱すと、もう一度ビームを放とうとする。

 ところが『ハスター』の方が先にビームを放ち、『ク・リトル』に大きな傷をつける。

 そのせいでジェネレーターに傷がつきビームがうまく放てなくなる。

 「あー、クソッ!!」

 苛立つ。

 流輝は『ク・リトル』を放り出すと、地面を蹴って近づくと、照準をつけていた『ハスター』の隙を突き、顔面に蹴りをかます。

 それは命中し、『ハスター』にダメージを与えることに成功したが、『ハスター』はそんなこと一切気にせず、両手からビームを放ち、上下に動かすと『クトゥルフ』の両腕を切断する。

 両腕が地面に落ち、今までとは比べ物にならない量の液体が吹き出し、辺りに飛び散る。

 流輝は一旦足を止め、大きく息をつく。

 そして、叫んだ。

 「ふざけんなよ!!」

 反重力発生装置の修復が終了し、液体の流出も止まる。

 流輝は空を飛び、一気に速度を上げると、隙ができていた『ハスター』に近づくと、後ろ回し蹴りを叩きこむ。

 「まだまだぁ!!」

 そしてそのまま『クトゥルフ』を一回転させると片足を大きく上げ、『ハスター』の頭に振り落とす。

 『ハスター』の首が不自然に曲がり、またバランスを崩したのかそのまま地面に倒れこみ、巨大な土埃を上げる。

 そして流輝は高度を下げ、無防備となった『ハスター』の首元に右足を乗せると、そのまま自重で首をちぎった。

 「俺の勝ちだっ!!」

 『ハスター』の不気味な頭が転がり、首から血のような液体が漏れる。

 流輝は勝ち誇り、もう一度『ハスター』を踏みつぶそうとする。

 ところが、想像を絶するような出来事が起きた。

 『ハスター』に乗っていた『クトゥルフ』の右足がビームによって切断されたのだ。

 「なっ!!」

 流輝が下を確認すると、そこには頭をちぎったはずの『ハスター』の右腕があり、そこからビームを放ったようだった。

 右足が切断された『クトゥルフ』はそこから液体を吹き出しつつ、無様に尻もちをついてしまう。

 「クソッ!!」

 蠢くことしかできない流輝は何とか策を考えるが、いい策が思いつかない。

 すると、『ハスター』が『クトゥルフ』を踏みつけ、顔の前に手の平を近づけると流輝の視界を奪った。

 そして次に明るい光が視界を満たすと――――


 一方のミリアは『ハスター』相手に善戦していた。

 高機動用の兵装で『ハスター』を翻弄しつつ、サブマシンガンの乱射で少しずつダメージを与えていく。

 『ハスター』も『ハスター』でビームを放ったり、ときおり接近戦を試みたりするが、完全にミリアの手中にあった。

 この時、ミリアは気が付いていた。

 『ハスター』は強い、でも、最初から警戒していれば、何とかなる相手だということに。つまりは不意打ちさえ喰らわなければ、普通に勝てる機体であるという事である。

 「何だ、楽勝じゃん」

 それに気づき、調子に乗ったミリアは投げつくしたナイフをもう一度召喚して、鞘におさめなおすと、接近戦を挑むことにする。

 先ずはサブマシンガンを残弾すべて撃ち尽くすつもりで『ハスター』に向かって乱射する。

 『ハスター』はそれを見て、複雑な軌道を描きながら、サブマシンガンの弾を躱しつつ『ナイア』から離れて行こうとする。

 ミリアはそれを見て、含み笑いを浮かべると、サブマシンガンを投げつけて、『ハスター』の意表をつく。

 すると『ハスター』は一旦動きを止め、ビームを放つと、サブマシンガンを撃ち落とすと、空中で停滞し『ナイア』の姿を探す。

 その頃ミリアはステルス機能をフル活用し、『ハスター』の後ろに回ると、ナイフをロックし、ナイフを投げる準備を整えていた。

 「いける!!」

 ミリアがナイフを投げようとした瞬間、『ハスター』はエネルギー膜発生装置を起動、自身の体を防護した。

 ナイフはエネルギー膜に焼かれ、消失してしまう。

 「チッ、厄介な膜ね」 

 ミリアは悪態をつくと、三連ミサイルポットを召喚、一斉に発射して『ハスター』に攻撃を仕掛けるも、エネルギー膜で焼かれ、ダメージが入らない。

 「どうす……れ……ば?」

 その時、ミリアは気が付いた。

 『ハスター』が上空へ上空へと上がり、うっすらと雲の上に見える『ガタノトア』へと向かって行ってることに

 つまりそれは―――

 「撤退してる?」

 ミリアは『ハスター』を見送りつつ呆然としていたが、少ししてからあることに気が付いた。

 「あ、流輝のこと忘れてた!!」

 大急ぎでレーダーをフル活用し、辺りを見渡してみるが、上手く捕まえることができない。どうやら先程の戦闘で思いの外遠くまで来てしまったらしかった。

 「と言うことは、誘い込まれた!?」

 ミリアは大急ぎで流輝のいる所に戻ろうとした。 

その時、レーダーが不思議な反応を捉えた。

「これって…………」


 流輝は『ハスター』の手の平を見ながら奥の手を使うかどうか考えていた。

 それは、まだ生きている反重力発生装置を利用して、急上昇、『ハスター』に頭突きでも喰らわせてやろうかという物だったが、一握りの理性がそれを止めた。

 もし『SANレベル』がもう少しだけ低ければやっていただろう。

流輝はその代りに、反重力発生装置を起動、上に乗ってる『ハスター』を振り落すように機体を大きく揺れ動かす。

すると『ハスター』はバランスを崩し、浮き上がると後ろに下がって『クトゥルフ』の反重力発生装置を狙い、ビームを放とうとした。

その時、『ハスター』が無い顔をあらぬ方向へ向けた。

と同時に『クトゥルフ』のレーダーにもそれが引っ掛かり、小さな警告音と共に左にマーカーが出る。

「あれは……?」

流輝がそちらを向くと、見たことの無い機体が宙を飛んでいた。

 その機体は独特な形をしていた。

 本体は女性的なデザインをしており、『ナイア』と同じぐらい細く作られており、少し頼りなくも思えたが、全体的な絵で見るとそうは思えなかった。

 なぜなら背中から六本の腕のような物が生えており、それが大きく展開、威嚇するかのごとく腕の先をこちらに向けていた。

 また、片手に持った大鎌は機体より少し小さい程度で、どれがまた威圧感を醸し出していた。

 が、存在感があるというわけでもなく、カラーリングや全体的ない印象から見ると、どちらかと言うと存在感が無いように思えた。

 『クトゥルフ』はその機体の名前を表示する。

 機体名『Atlach―Nacha』

 日本語名『アトラク―ナクア』

 「あれは…………」

 流輝が見覚えの無い機体に困惑していると、『アトラク―ナクア』は六本の腕の先にあるビーム砲を起動させると、『ハスター』に向けて一斉にビームを放った。

 『ハスター』はそれを見ると、急上昇し、ビームで応戦する。

 それを見た『アトラク―ナクア』はビームを全て躱した後、『ハスター』目がけて、大鎌を投げつけた。

 まるでやり投げのように投げられた大釜は刃を上に向けたまま『ハスター』に向かって行く。『ハスター』はそれを上に飛んで躱す。

 『アトラク―ナクア』はそれを見ると、前に突きだしていた腕を大きく上げる。

 すると、どういうわけかそれと同じように大鎌が動き、上にいる『ハスター』を襲うように動く。

 『ハスター』は鎌の動きが予想外だったのか、回避運動に失敗し、隙だらけだった左腕を切り裂かれてしまう。

 流輝はズームして大鎌をよく見てみる。

 すると、なにやら細い線が確認できた。

 「ワイヤー?」

 どうやら大鎌の持ち手の一番下に、ワイヤーが接続できる部分があるらしく、腕の下から射出されたワイヤーを接続しているらしかった。

 流輝は他にできることも無いので、『アトラク―ナクア』の観察を続けた。

 一方、『ハスター』もワイヤーの存在に気が付いたのか、ナイフを露出、急降下するとワイヤーに向かって腕を突き出す。

 ところがワイヤーは切れずに伸びて、『ハスター』の行為は無駄となる。

 『アトラク―ナクア』はその隙に最接近すると、回し蹴りを『ハスター』の腹部に蹴りを叩きこむ。

 すると『ハスター』は後ろに飛び、エネルギー膜を張るとそのまま空へと飛んで行く。

 『アトラク―ナクア』はそれを見送ると『クトゥルフ』の方へ近づくと、横に立つと通信を繋げてきた。

 『えーと、あんた誰?』

 「その声は……アリサですか?」

 『お、流輝、だっけ?』

 「そうです」

 『無様だなぁ』

 「すいません」

 『いいや、謝ることは無いよ、そっちにもいろいろあるんでしょ』

 「はぁ……」

 『で、どこまで持ってけばいい?』

 「えーと、上です」

 『はい?』

 アリサがすっとぼけた声を出す。

 それとほぼ同時に雲をかき分け、巨大な影が姿を現す。

 それは『シュブ・ニグラス』だった。

 すると突然ダーレスから通信が入る。それはミリアとアリサにも通じているらしいが、流輝にはダーレスの声しか聞こえなかった。

 『三人とも撤退してくれ、流輝君は『アトラク―ナクア』の契約者に運んでもらってくれ』

 「あ、はい」

 『あー、アリサ君、頼んだぞ』

 恐らく了承したのだろう。

 『アトラク―ナクア』は『クトゥルフ』を抱きかかえると、反重力発生装置を起動させると空を飛び、ハッチの開いた『シュブ・ニグラス』の一番艦に向かって行った。


 「と、言うわけで、今日から仲間になる、アリサ君だ、よろしく」

 「アリサ・カテキーラです、よろしくな」

 「よろしくお願いします」

 「よろしく」

 さっきの戦いから数時間が経過していた。

 『クトゥルフ』達はすべて回収され、全て自己修復が進められていた。

 ボロボロだった『クトゥルフ』は回収され、格納庫に移動してから、自分のパーツを召喚して修復を始めていた。

 流輝は集めた『アトラク―ナクア』のデータを提出し、それからアリサとダーレスの話し合いが行われ、その後にこうして呼び出されたのだ。

 そこで、こうしてアリサが仲間になったという報告を受けた。

 その後ダーレスはアリサに単活を渡しながら言った。

 「アリサ君、君はミリアと同室でいいな?」

 「あ、いいよ、なんでも」

 「流輝君、部屋を代わってもらっていいか?」

 「いいですよ」

 「じゃ、部屋の位置の情報を転送する、それを確認してくれ」

 「分かりました」

 ダーレスは腕の端末を色々操作して、流輝の端末に情報を伝達する。流輝はそれを受け取ると、一旦自室に戻って荷物をまとめることにした。

 ちなみにあてがわれたのは隣で空いていた二人部屋で、そこを一人で使っていいとのことだった。

 まだ話があるというアリサは指令室に残り、ミリアはその後アリサを部屋までの案内するために一緒に残った。

 なので、流輝は一人長い廊下を歩きながら呟いた。

 「さて、これからどうなりますかね」


 「さて、これからどうするかな」

 アリサとの話を終え、ダーレスは椅子に深く腰掛け、そう小さく呟いた。

 無事『アトラク―ナクア』を回収することができた。しかし、『ハスター』に『クトゥルフ』はボロボロにされ、『ガタノトア』の情報を得ることができなかった。

 これは痛かった。

 正直、計画は大幅な遅れを見せている。

 その為計画推進の目的も兼ねて叶芽を通し、流輝に『ネクロノミコン』と『アル・アジフ』を渡したのだが、どうやらまだ読んでいないらしい。

 その上、アメリカ海軍特殊部隊『カダス』とやらの参戦で、事態が混乱、どうしようもなくなってきた。

 ダーレスは空中に投影される画面を眺めていたが、一つの画面に目を止めた。

 それは『コス―GⅡ』を製作している『鏑木工業』や、その他『イカン』に関係ある組織、会社に一人のジャーナリストがたびたび取材に来ているという報告だった。

 ダーレスはそれを見て、にやりと笑うと一人の黒服へと通信を繋いだ。

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