第二部―第二章『ニュー・エビル・サブスクライバ―』
次の日、流輝とミリアの二人は近くの町に来ていた。『シュブ・ニグラス』の小型輸送艦に乗って湖の沿岸まで行き、そこから車で移動したのだ。
本当、便利な物だと思う流輝だった。
二人は車で二時間と少しかけ、シカゴまで来ていた。
何故、シカゴなのかと言うと、どういうわけかは知らないが、ミリアが行きたいと言いだしたからである。
「で、本当にどうしてシカゴなんです?」
「いろいろあるでしょ、クラウドゲートとかミレニアム・パークとか」
「観光が目的じゃありません」
「分かってるよ、契約者探しでしょ」
「はぁ……」
流輝は盛大にため息を吐くと、腕の端末を起動させて、辺りの反応を調べる。これは、旧支配者、及び邪神の反応を持つ人を探知するものである。
と言っても、完璧なものでは無く、旧支配者相手だとほぼ間違いないのだが、邪神だと試したことが無いので、よく分からないらしい。
はっきり言って信用できない。
が、他にはどうしようもないので、面倒なことは考えないことにした。
流輝とミリアは離れたところの探索を命ざれており、そこでミリアがシカゴに行きたいと言い出したのである。
ダーレスは別にどこでもいいと思ったのか、許可したので車に乗って移動し、今に至るのである。
ちなみに、二時間の移動で流輝はすっかり酔ってしまい、気分を悪くしているので、少し気が立っているのだった。
「で、どこに行くんです?」
「シカゴ美術館に」
「どうしてですか?」
「女の勘」
「なんたるアバウト、で、本音は?」
「『グランド・ジャット島の日曜日の午後』が見たい」
「あぁ、あのジョルジュ・スーラの描いた点描画ですか、あれなら僕も見たいですね」
「よし、行こう、幸い資金はある、さぁ楽しもう!!」
「はぁ」
流輝は諦めた。
もう何を言って無駄だと悟ったのだ。
開き直って楽しむことにした。こうなったら楽しんだ者勝ちである。
時刻は午前十一時、昼ごはんには大分早いうえ、もう開館している時間なので二人は端末から地図を投影させると、位置を確認する。
「割と近いですね、歩いて三十分ぐらいでしょうか」
「よし!!行こう、デートだと思って楽しもう!!」
「はぁ、仮にも初デートが、海外ですか……」
何とも言えない気分になった。
一方のミリアは自分が言い出したことのくせして顔を赤くすると、「え、デートでいいの?」と尋ねてきた。
流輝は疲労困憊と言った顔をしながらミリアに返事をした。
「そっちが言い出したんでしょ」
「ま、そうなんだけど、ねー」
「行くなら早く行きましょう」
「うん、レッツゴー!!」
三時間後
「いやー、楽しかったですねー」
「お腹へった」
「近くのコンビニで何か買いましょう」
「結局、流輝が一番、楽しんでたね」
「そうでしょうか?」
「そうだよ!!」
ミリアが生まれて一番力を込めた渾身のツッコみを入れた。
それを見たひとりの外国人が何故か日本語で「オゥ、ジャパニーズツッコミ!!」と言うのが聞こえてきたが、そんなことはどうでもいい。
「流輝は何分あの絵の前にいたさ!!」
「あの絵とは?」
「『グランド・ジャット島の日曜日の午後』」
「あと十五分は見たかったです」
「すると一時間も前にいたことになるよ!!」
「いいじゃないですか」
「よくない!!」
ミリアは再び叫ぶ。
流輝はそれを無視しながら、コンビニを探すことにした、これ以上は付き合いきれないと判断したからである。
ミリアは付き合いきれないという顔をしつつも、これ以上文句を言う気も無くなったので、大人しくついて行くことにした。
正直なところ、ミリアも楽しんでいたのだ。
その頃後ろで、二人の人が流輝とミリアの事を見ていた。
耳に着けてある小型の無線機を起動させると、どこかへ通信を繋げた。そして何やら呟くと、服の裏に隠しておいた拳銃を握ると、速足になって近づいて行く。
が、途中で黒服の男に邪魔をされる。
男は顔をしかめると何やら文句を言った。
「――――――」
「―――――――!!」
が、それは英語だったため、黒服―黒月と服部には理解することができなかった。
なので二人は顔を見合わせると、服部が比較的先輩である黒月に質問した。
「先輩、こういうときはどうしたら?」
「これが一番だ」
黒月はそう言うと、男たちに顔を向けると一言言い放った。
「アイキャンノットスピークイングリッシュ!!」
と、次の瞬間、腰からスタンロッドを引き抜くと、右側の男の首元に向かって突き出した。
一瞬の出来事だったので、男は躱すことができず、気絶し、倒れこむ。
残った男は呆気にとられた顔をすると、そのままかたまってしまう。
服部はそれを見ると同時に自身のスタンロッドを引き抜くと、残った男の顔面に叩きこんだ。
すると、その男も気絶し、倒れる。
黒月と服部の二人はそれを見下ろしながら、慣れた手つきで結束バンドをポケットから取り出すと、それぞれ男の手首に巻きつけ、拘束した。
そして肩にかけるようにして抱えると、そのまま近くに止めておいた車のトランクに詰め込む。
「これ、傍から見たら誘拐ですよね」
「大丈夫だ、気にするな」
「そうですか……」
その時、二人は気付いていなかった。
この二人がアメリカ海軍の人間であるということを
それより、ミリアから連絡が入り、すぐ来るよう言われたことの方が大事だったからだ。
「おい、行くぞ」
「はい、運転します」
「頼むぞ」
二人は何も知らないまま車を転がして行った。
「イヤー、楽しかったね」
「そうですね、でも疲れました」
「そう?」
「ミリアは元気がありすぎます」
「そうかな?」
「そうです」
二人は適当に色々な観光名所を回って行った。
午前中は流輝のせいで時間を食ってしまったので、午後はミリアの行きたいところに行くこととなったのだ。
で、三つぐらいのところを回ったところで時間が無くなったので、『シュブ・ニグラス』に帰ることとなったのだ。
が、ミリアが自分の故郷に行きたいと言い出したので、帰る前にそこに向かっていた。
流輝はどうしてミリアがそんなことを言いだしたのかよく分からなかったが、何も言いだせずにいた。
シカゴを発ち既に二時間ほど、車は止まると二人はンガイの森の前に出た。
森の七割は焼けて更地となっていて、とても寒々しかった、どうやら跡地を買い取る人もいなかったようで、焼けたまま放置しているらしかった。
ミリアは森の前で少し佇んだが、すぐに歩き出す、流輝はどこに向かっているのか聞きたかったが、ミリアがかなり深刻な顔をしていたので、何も言いだせなかった。
数十分歩いたところで二人は小さな慰霊碑の前に立っていた。
それは、ミリアの故郷の跡地で、慰霊碑は災害の被害者のための物だった。
二人はしばらくの間、無言で佇んでいたが、ミリアが先に口を開いた。
「これさ、私が『イカン』に回収されてから、数日後に作られた物なんだ」
「そうなんですか」
「うん、ここがさ、私の戦いの始まりなんだ」
「…………」
流輝は何とも言えない気分になった。
一方のミリアは何も言わなかった。
再び沈黙が辺りを包み込む、それはまるで質量を持っているかのごとく、二人の肩にのしかかってきた。
そのせいか、二人は一歩も動くことができず、暫くの間慰霊碑を眺め続けた。
「……帰る?」
「そうですね、帰りましょう」
二人はゆっくりと歩きながら車の方へと戻って行った。
その途中、流輝は腕の端末が反脳していたことに気が付いた。一旦足を止め、腕の端末を起動させる。
すると、契約者探知が反応していることが分かった。
流輝は少し辺りを探そうかと思ったが、
「流輝、早く行こうよ」
ミリアが声をかけてくる。
「あ、あー……はい」
何となく引っ掛かったが、今はとりあえず帰ることにした。
二人は『シュブ・ニグラス』に戻り、相部屋でくつろいでいると、いつの間にか夜のとばりが落ちていた。
が、湖の中は大して変りが無いように思えた。が、気分的にも、日光的な問題でも、少し薄暗くなった気がした。
一日中遊び倒していたので、疲れたのだ。
が、流輝はだらだらし続けることが苦痛だったので、休むのをほどほどにして指令室に向かうとダーレスに反応があった旨を伝えた。
するとダーレスはコーヒーを飲みながら、重々しく頷いた。
「そうか」
「そうです」
「ところで、だな」
「コーヒー、僕にももらえませんか?」
「すぐには無理だ」
「分かりました」
流輝は諦めた。
ダーレスは何とも言えない顔をしたまま、椅子の手すりについているボタンを押して、ン何やら操作すると、いくつか映像を投影して何やら作業を始めた。
すると、ンガイの森付近の映像が出て、何かの反応があったことを示していた。
ダーレスはそれを見ると、にやりと笑った。
「なるほど、反応があるな」
「どうして調べたんです?」
「ここら辺に発信器を仕掛けているんだ、敵が来た時の為にな」
「用意周到ですね」
「あぁ」
流輝が感心していると、ダーレスは再び画面をいじくり、色々と捜査を始めた。何かを持ってくるように命令しているようにも見えた。
「で、流輝君に頼みがある」
「なんです?」
「今からそこに行ってくれないか?戦闘になった時、流輝君ならすG腐対応できる気がするし、ミリアを呼ぶ時間も惜しいからね」
「はい、わかりました」
「あれ、素直」
「別に、問題は無いですよ」
「夜の森だぞ、怖くは無いのか?」
「どこがです?」
「あぁ、流輝君はそういう人だったね」
ダーレスはそう言うと、少し苦笑いをした。
それとほぼ同時に一人の黒服の男がやって来て、何かが入った袋を持って来ると、それを流輝に手渡した。
流輝は中身を確認すると、そこにはバックと防寒着、懐中電灯や携帯食料、応急処置用のパック、拳銃までもが入っていた。
「これは?」
「これを持って行け、すぐ地上に行く準備を整える」
「銃刀法違反じゃないですか?」
「そこか…………」
大きなため息を吐くダーレス、もう慣れた物だと思っていたが、流輝の少しずれたところには、未だに驚かされる。
「いいか、ここはアメリカ、銃を持っていても犯罪じゃない」
「そう言えばそうですね、分かりました」
「いざとなったら『クトゥルフ』を呼べ、いいな」
「言われるまでも無く」
流輝は適当に上着を着ると、「こちらへ」と言う黒服の男について行き、指令室から出て行った。
ダーレスはその背中に声をかけた。
「じゃ、気を付けてな」
「分かりました」
またその数十分後、流輝は携帯食料をかじりながら、再び慰霊碑の前に立っていた。ここまでは車で送ってもらい、ここからは単独行動となる。
そして、腕の端末を見て、反応が強い所を探す。
「確か、ここら辺で」
辺りを見渡してみる。
反応が特に強いのは、ここから数百m離れた森の中であることが分かった。つまりは、ンガイの森の中である。
そちらを見ると、確かに不気味な森だった。
普通の人だったら恐ろしく思うところだが、流輝はお化けとか一切信じていないので物怖じすることなく、歩を進めていく。
「ここが、ンガイの森ですか」
『ナイア』が封印されていた地、『レイク・ハス』が本格的に侵攻を開始した地、そして今は邪神のいる地
「因縁の地ですね、本当」
流輝は森の中へ、一歩足を踏み入れた。
懐中電灯で足元を照らしつつ、ゆっくりと森の中へと向かって行く。
腕の端末から映像を投影させ、それを確認しつつ、向かうべき方向を少しずつ調整し、反応が強い方へと向かって行く。
「えーと、もう少し左ですか」
水筒の水を一口飲むと、さらに奥へと進んで行く。
最初の方こそ、森の中は面白かったが、十五分も歩いていると代わり映えのしない景色に嫌気がさし、森の中の光景もつまらなく見えてきた。
「うーん、そろそろ景色が変わったらいいのですが……」
ピーピーピー
そこで、新しい警告音が響く。
契約者探知の物とは違う音、流輝は腕の端末を見ると邪神の反応が確認されたという表示があった。
画面には、右に百m付近のところに強い反応があるらしい。
「これは…………」
「だれー、こんなところにいるのは」
「!!」
上から声がした。
流輝は急いで上を見る。
するとそこにはハンモックがかかっていて、一人の少女がそこに寝転がりながら、顔だけをこちらに向けて話しかけていた。
その少女はパッと見、少年にも見える顔立ちをしていて、ミリタリー風の服を着て、少し長めの金髪をしていた。頭をガシガシと掻きながらこちらを見る格好など完全に男のそれである。
多分、アメリカ人だが、あまりにも日本語が流暢なので、流輝は一瞬、何人なのかよく分からなくなる。
混乱する流牙をよそに、少女は話を続ける。
「あー、君、日本人でしょ、多分、アーユージャパニーズ?」
「そうですけど…………」
「やっぱり?いやね、ボクの初恋の人が日本人でさ、子供の頃その人と話すためにも日本語を覚えたんだ、六年ぐらい前かな、それからずっと、練習してたからさ、日本語喋れるんだ」
「そうなんですか」
「ま、結局片思いだったけどね、君は誰?」
「僕は立木流輝と言います、あなたは?」
「ボクかい、吾輩は猫である」
「はい?」
「つまり、名前はまだない」
「意味が分かりません」
流輝の歯に衣着せぬ言い方で、少女は眉をひそめるが、なんと文句を言っていいのか分からなくなったので、話を続けることにした。
「ま、本名はアリサ、アリサ・カテキーラって言うんだ」
「名前は女らしいんですね」
「あとで殴る」
「好きにしたらいいじゃないですか」
少女はそれを聞くと、ハンモックから飛び降りると、流輝の目の前に降り立った。
と、拳を握りしめ、殴ろうとするが流輝のすまし顔を見た瞬間、殴る気力を失ったので、拳を下ろした。
代わりに、盛大にため息を吐くと、手を前に出して言った。
「殴らないから携帯食料をくれ」
「はい、どうぞ、ところでどうして自分の事をボクと?」
「日本語を教えてくれた先生が、自分の事をボクって言ってたんだ」
「あ、そうですか」
流輝は残った携帯食料の内一つを取り出すと、それを手渡す。
アリサは「日本製か」と言うと、包装を破ると齧りついた。
そして、顔を輝かせると飲み込んでから言った。
「美味い!!」
「そうですか?」
「うん、ずっとレーションばっかり食べてきたから」
「あ、そうですか」
「食う?」
そう言ってアリサは缶詰を差し出してくる。
流輝はそれを受け取ると、一緒に渡された缶切りで缶を開けると、中に入ったレーションを一口食べる。
そしてすぐに返す。
「マズイ」
「でしょ」
「こんなもの、どこから?」
「まぁ、それはいいとして、君はどこに行きたいんだい?」
「ここから右に百m離れたところに」
そう言うと、アリサは厳しい顔をすると、流輝から数歩離れると、警戒態勢に入る、と流輝に今までと打って変わった声色で話しかけてきた。
「何、君もあれを狙ってるのかい?」
「あれ、とは?」
「『アトラク-ナクア』」
「それは……巨大ロボットですか?」
「ブール―タス、お前もか!?」
「僕は流輝です」
「冗談だよ、冗談」
アリサはハハハと笑うと、なれなれしく流輝の肩を叩いてくる。少し痛かったが、この際何も言わないことにした。
それよりも、急にアリサが警戒を解いたので、そちらの方が気になったのだ。
「で、どうしてそんなにフレンドリーに?」
「嫌だってさ、味方っぽい雰囲気だし」
「そうですか?」
「そうだよ、だっていきなり襲ってこないし、懇切丁寧だし」
「そうですか、じゃ、話を聞いてもらえますか?」
「いいよ、じゃ、こっち来て」
アリサは流輝を案内するかのように、森の奥に向かって行く。流輝もゆっくりとその後を追って行く。
その間もアリサは話を続ける。
「私って孤児でさ、北アメリカで生まれたらしいんだけどね、その後ミルウォーキー近くの施設に移ったんだ」
「そうなんですか」
「そうなんですよ、それでさ、ほんの少し前に『ナクア』と謎の敵に出会ったんだ」
「…………」
「で、施設を抜け出したかったボクは、それに便乗して逃げだして、ここまで来たんだ」
「大変でしたね」
「そうでも無い」
ちょうど話が終わった時、流輝は巨大な影が見える場所に来ていた。
夜が遅いことと、半分が森の中にあったせいで、その影が具体的にどんな形をしているのかよく分からなかったが、この際、気にしないことにした。
ただ、一つだけ分かったことは、これは邪神である、と言う事のみである。
アリサはブルーシートが敷かれた地面の上に座ると、ランタンの火をつけ明かりをつける。ついでに、ガスコンロにも火をつけてヤカンを火にかける。
お湯を沸くのを見ながら、アリサは言った。
「で、用事は?」
「詳しい話をすると時間がかかりすぎますので、簡単にいます、僕達のところに来てくれます?」
「嫌だ」
ちょっと予想外の答えだったため、流輝は面食らう。
一方のアリサはと言うと、残った携帯食料をかじりながら、何食わぬ顔をしていた。
「どうしてです?」
「うーん、深い意味は無いんだけどさ、まだ信用しきれないというか」
「はぁ…………」
「ていうかめんどい」
「あ、はい」
流輝が何とも言えない顔をするものだから、アリサは苦笑いをすると付け加えた。
「ま、次に敵が出てきたとき、一緒に戦ってくれたら、考えてもやるよ」
「それは当たり前です、僕らの目的は敵の殲滅ですから」
「ふーん」
と、そこでお湯が沸いたので、それを二つのカップに淹れると、ココアの元を入れて混ぜると、流輝に一つ差し出した。
流輝はそれを受け取ると、両手で包み、その温かさを感じる。
「自炊、してるんですか?」
「あぁ、最低限はね、まぁ、ホームレスみたいなものだよ、風呂に入りたいんだけどね、体を拭く程度しかできないんだよ」
「はぁ、いつから?」
「ここ最近、敵から逃れる意味もあってね、ここはどういうわけか、あまり見つからない場所なんだよ」
「…………」
流輝はここに『ナイア』が封じられていたことと何か関係があるのかと思ったが、よく分からないので考えないことにした。
ココアを一口飲むと、懐かしい味が喉を伝って行くのを感じた。
「美味しいですね」
「そうかぁ?普通のココアだぞ」
「それでも、ですよ」
二人はしばらくの間無言でココアを飲み続ける。
アリサは携帯食料を全て食べ終え、ごみをポケットの中にしまいこむと、ココアを飲み始めた。
「うん、普通」
「まぁ、人それぞれですから」
「あのさ、一ついいか?」
「何でしょうか?」
「君さ、ここに来たことある?」
「はい」
「まさか、今日来た?」
「はい、そうです」
「やっぱり!!変な銀髪の女と一緒だったでしょ!?」
「あぁ、見てたんですか?」
アリサはにやにや笑うと言葉を続けた。
「ちょっとね、偶然」
「あ、だからレーダーに…………」
「何か言った?」
「いえ」
流輝はココア飲んで誤魔化す、アリサは少し不機嫌そうな顔をしたが、何も言う事無くココアを一気に飲み干した。
「ふー」
「でさ、えーと……リュウーキだっけ?」
「流輝です、アリサさん、なんですか?」
「何歳?」
「十五です、誕生日はまだなので」
「あ、じゃあボクと一緒か、ボクも十五で、学校はさぼりです」
「……そういう事なら、そうなりますね」
「それならさ、敬語止めて、くすぐったい」
「無理です」
「きっぱり言い切ったねー」
「身についた習性なんで」
「そうか、なら仕方ないねー」
なんかもうただだべっているだけとなっていた。
それに気が付いた流輝は、これ以上ここにいても大した収穫は無いと思ったので、とりあえず『イカン』に戻ることにした。
腕の端末を起動させ、地図を表示させると道を確かめる。
アリサはそれに驚き、目を輝かせながら見ているが、そんなことは関係ない。
ついでに残った携帯食料を全て取り出すと、アリサに手渡した。
「これしかないですけど、いいですか?」
「おぉ、こんなに!?」
「はい、もう、必要ないですし」
「そうかい!!じゃありがたく」
「それでは、僕は」
「え、帰っちゃうの?」
「はい」
「うー、ま、いっかー」
「それでは」
「おう、さよなら」
流輝は背を向けると森の出口へと向かって行く。アリサは手を振りながら、流輝の背中が見えなくなるまで見送った。
その後、流輝は三十分かけて森から出ると、ゆっくりと車の方へと戻って行った。
『シュブ・ニグラス』にて
流輝は戻って来てから、ダーレスに報告した後、相部屋にてミリアに怒られていた。
「流輝、こんな夜中にどこ行ってたの?」
「ごめんなさい」
「謝れとは言ってない」
「それではどうすれば?」
「何でこんな遅くなったの?」
「それ以前にどうしてこんな遅くまで起きてるんです?」
「心配だったから、待ってた」
ぐぅの音も出ない流輝だった。
ちなみに、枕の下にはミリアがつい先ほどまでやっていたゲーム機が隠されているのだが、それはそれで置いといて。
目がちょっと充血してるのは画面の見すぎだというのも置いておいて
「で、どうしたの?」
「邪神と契約者の捜索に……」
「何で流輝が?」
「えーと、ダーレスさんが言うには、戦闘のときすぐ対応できるからとか」
「あー、召喚できるからね」
「ま、そういうことなんですよ」
「なら、仕方ないかー」
ミリアは納得する。
流輝は安どのため息を吐くと、とりあえず寝る準備をしようと足を崩しもそもそと動き出そうとする。
が、ミリアに止められる。
「で、見つけたの?」
「あ、はい、見つけました」
「どんな機体?」
「いえ、それは暗くてよく見えず、契約者とは会話もしました」
「そうなんだ、で、どんな人?」
「えーと、アリサ・カテキーラっていう男っぽい女の人ですね、歳は同じです」
「女!?」
ミリアが驚く、ちょっとオーバーなんじゃないかと思ったが、あまりにも真剣な顔をしていたのでツッコみを入れ損ねた。
「女!?」
「何で二度も言うんですか?」
「不潔……この野獣が……」
あまりの言われように気分を害した流輝はつい、口が滑ってしまい、言わなくてもいいことまで言ってしまった。
「そうやってすぐに下半身に直結するミリアの方が不潔です」
「…………」
ミリアから圧倒的な殺気が流れ出る。
流輝は苦笑いを浮かべると、少し後ずさる、そして、両手を振りつつミリアに話しかける。
「え、どうして拳を握るんです、どうしてそれを振りかぶるんです、どうしてじりじりとこっちに近づいて来るんです!?」
「自分の心に聞けぇっ!!」
ゴン、と言う言い音が辺りに響き渡り、流輝は痛い目に合うこととなったのだった。
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