第二部―第一章〈下〉『ウィー・カム・トゥ・ザ・ユナイテッド・ステイツ』

 五分後

 流輝は『クトゥルフ』に乗り、壱番艦で出撃を待っていた。ちなみに『ナイア』は弐番艦の方に格納されていた。

 「さて、次はどんな敵ですことやら」

 『流輝君、こちらで手に入れた情報を送る、役立ててくれ』

 「はい」

 返事をすると同時に幾つかの情報が送られてくる。

 敵は邪神、数は一から二、『シュブ・ニグラス』の正面から向かって来ているらしく、到達するまでは後二分ぐらいであるらしい。

 『ハッチ、開きます』

 「はい、いつでも」

 流輝が答えるのと同時に、目の前の壁が開き、外へと通じる。外と言っても上空一二○○○mの空中ではあるが

 『クトゥルフ』を一歩一歩動かし、開いたハッチに近づいて行く。反重力発生装置を展開し、いつでも飛べるようにしておく。

 「『クトゥルフ』行きます!!」

 『あぁ、行って来い』

 一息に飛びだすとすぐに反重力発生装置の出力を最大にして、真っ直ぐ前に向かって飛んで行く。

 少し離れたところで『ナイア』が飛んでいるのも確認できた。

 通信を繋げると、流輝はミリアに話しかける。

 「どうです、調子は」

 『最高、修復も完全、ところで『コス』は?』

 「まだ出られないようです、遠隔操作のチューニングが終わってないらしく」

 『本当、使えないね』

 「そうですね」

 そんな無駄話をしていると、『クトゥルフ』が敵影をキャッチした。

 ズームをして見てみると、それは独特な形状をした戦闘機型の機体だった。二機いるが、それぞれ色と形状は違っていたが、とてもよく似た機体だった。

 「これは?」

 『楽勝そう、私から行くよ!!』

 「あ、ミリア!!」

 ミリアは『ナイア』にライフルを構えさせると、少し黒色をした機体に向けて弾を一発撃った。

 しかし、かわされる。

 ミリアは予想通りとでも言いたげに、かわした機体の方に向かって飛ぶと、ナイフを突き刺そうとする。

 が、敵はレーザーを放ち、『ナイア』を牽制すると、離れて行こうとする。

 『クソッ!!』

 ミリアも一旦離れると、兵装を変え高機動用のパックに切り替え、サブマシンガンを二丁手にする。

 そして、もう一度突っ込んで行こうとする。

 が、敵が不思議な動きを見せたので、一旦止まらざるを得なかった。

 「ミリア、あれって……」

 『まさか、ね』

 敵は両方とも可変すると、一機が上にもう一機が下に来ると、お互いがお互いに近づいて行き、合体した。

 そして、人型となると、上半身の機体にマウントされていたビームライフルを構えると、いきなり撃って来た。

 ミリアと流輝はそれを躱すと同時に叫んだ。

 「『マジか!?』」

 『二人とも、あれは『ツァール』と『ロイガー』だ、合体可変機だ、気を付けたまえ』

 「………はい」

 流輝は『ハイドラ』を撃ちだし、合体した『ツァール』と『ロイガー』を同時に捕獲しようとする。

 が、ビームライフルで応戦され、触手を焼かれる。

 流輝はそれを見て『ハイドラ』を『シュブ・ニグラス』内部に送ると、『ダゴン』を構えて接近戦を挑むことにする。

 と、『ツァール』『ロイガー』はビームライフルの銃身を掴むと、そのままそれで殴りかかってくる。

 「なんて雑なっ!!」

 流輝は開いて左腕でどれを払うと、『ダゴン』を胴体部分に叩きこもうとする。

 すると『ツァール』『ロイガー』は二つに分かれ、可変すると二つに分かれ上下に飛ぶと、『クトゥルフ』の攻撃を躱した。

 「んな!!」

 『すごい動きだね』

 ミリアは流輝にそう言いつつ、サブマシンガンを『ロイガー』に向かって乱射するが、なかなか当たらない。

 一瞬、『ツァール』とすれ違った瞬間、変形、合体するとビームライフルの引き金を引くと、『ナイア』に攻撃を仕掛ける。

 ミリアは『ナイア』を高速で動かし、ビームを躱していく。

 その間もサブマシンガンを乱射し続ける。

 流輝は左脇に『リトル』を持ってくると、グリップを展開、それを掴むと引き金を引いてビームを放つ。

 『ツァール』『ロイガー』はそれを躱すともう一度分離、『クトゥルフ』を囲うように動くと、ビームを放って牽制してくる。

 そこで、流輝は違和感を感じた。

 『ツァール』と『ロイガー』の攻撃にやる気が見えなかったのだ。

 なんというか、牽制ばかりで本気で攻撃していないような

 「どういうわけ……ッ!?」

 その時、流輝は気が付いた。

 『シュブ・ニグラス』の後方遠くに敵影があることに

 少し大きめな点にしか見えなかったが、『クトゥルフ』が自動で拡大したので、鮮明では無い物の、敵だと分かった。

 流輝はダーレスに通信を繋げると、言った。

 「ダーレスさん!!」

 『どうした?』

 「敵影があります」

 『何?』

 「『シュブ・ニグラス』の後方に、数機見えました」

 『おい、索敵班!!』

 ダーレスが何やら叫ぶ声が聞こえてくる。

 その間も流輝は『ロイガー』と『ツァール』に注意を払い続ける。

 と、索敵が終わったらしく、ダーレスが奉公してくる。

 『流輝君、ステルス仕様の『イタクァ』がこっちに来ているな、まんまとはめられたという事か……』

 「僕が迎撃に向かいます」

 『わかった、こちらからも援護しよう』

 ダーレスがそう言ったあと、『シュブ・ニグラス』の武装が展開、ミサイルやレーザーが放たれ、弾幕が張られる。

 ミリアは少し驚き、『ナイア』を止めるが、ダーレスから通信が入ったらしく、すぐに『ロイガー』と『ツァール』の迎撃に移る。

 『流輝、頼んだよ』

 「分かりました」

 流輝は『シュブ・ニグラス』の上を飛んで行くと、後ろに回り『イタクァ』を視野に入れる、と同時に『ク・リトル』と『リトル』を展開し、カノン砲を撃つ。

 『イタクァ』は五機いたが、ビームを躱し損ねた一機が爆散する。

 四機の『イタクァ』がこっちに向かってレールガンを撃ってくるが、そんなこと一切気にせず、流輝はビームを連射する。

 また『シュブ・ニグラス』の援護もあって『イタクァ』の連携がバラバラになる。

 その隙をつくように、大きく離れた一機の『イタクァ』に目を付けると、弾幕の間を縫うようにして飛び、近づくと『ダゴン』を叩きつける。

 するとその『イタクァ』は機能が停止し、下に落ちていく。

 流輝はそれには目もくれず、次の標的を探す。

 と、携行音が鳴り、左側から何かが来ると表示された。

 見てみると一機の『イタクァ』が手の平のビーム砲を構えているのが分かった、流輝は後ろに下がって攻撃を回避しようとするが、一瞬遅れた。

 左肩の装甲の前部分にビームが命中し、少し大きめな傷ができる。

 「チッ!!」

 傷がついた今、気にしたってしょうがないので『ク・リトル』を敵の方に向けると、ビームを放つ。

 その『イタクァ』は躱すことには成功したものの、たまたま対空防御のレーザーが命中し、片腕を貫き爆発を起こす。

 すると『イタクァ』はスピードを落とし、一瞬動きが止まった瞬間、ミサイルが命中し『イタクァ』が爆発し霧散する。

 それを見た流輝は

 「何か釈然としませんね」

 そんなことを呟いていると、残った二機の『イタクァ』が弾幕を躱しながら『クトゥルフ』に近づいてくる。

 「弾幕は火力だぜ、とはよく言いますね」

 流輝は余裕の表情のまま、近づいてきた『イタクァ』に内、一機に向かって『ダゴン』を投げつける。

 すると同時に散開し、左右に分かれる。

 流輝はそのうち一体に近づくと、攻撃を仕掛けられるより先にゼロ距離まで接近、『イタクァ』の体を掴むと、残った持一機に向けて投げつけ、『ク・リトル』にビームを放つ。

 完全に不意を突かれた『イタクァ』は投げられた『イタクァ』に当たり、その上ビームも命中する。

 そして、二体同時に爆散する。

 「よし、全滅しましたね、ミリアの方に行きますか」

 流輝は『クトゥルフ』を一八〇度回転させると、ミリアの方へと向かって行った。


 一方のミリアは苦戦していた。

 サブマシンガンだけでは火力が無く、致命傷にはならないが、ミサイルやビームでは辺り王にもない。いくら高機動タイプの兵装を備えているとは言え、接近戦を挑むには二体同時になるので少し厳しい。

 そのうえ、弾幕のせいで行動が制限されてしまう。

 「あー、もうめんどい!!」

 ミリアは自爆覚悟で特高を仕掛けることにした。

 先ずは装甲を、高機動を活かしたまま、防御力を重視した物に変える。

 そして、兵装を『チェーンボム』と言う特殊な物に変える。形状としては、円盤状の物が連なった鞭のような物である。

 また、腰に散弾を装填したバズーカーを召喚する、これは命令すると撃ちだすタイプの物だった。

 「よし、準備OK」

 ミリアはあえて弾幕の事は一切気にせず、比較的近くにいた『ロイガー』に向かって突っ込んで行く。

 すると『ロイガー』はビームを放ちつつ、『ツァール』の方へ移動しようとする。

 ミリアはそれを見ると、こしのバズーカーから弾を一発撃ちだす。

 するとその弾は途中でばらけると、大量の鉄の弾をばらまく。

 すると、いくつかの弾が当たり『ロイガー』は傷ついてしまい、『ツァール』から離れるように移動してしまう。

 ミリアはそれを見逃さなかった。

 弾幕の間を縫い、躱しきれないものはシールドで受けて、『ロイガー』野に接近すると『チェーンボム』を振るう。

 『ロイガー』はそれを躱そうとするも、一瞬遅れた。

 『チェーンボム』が『ロイガー』の全身に巻きついたことを確認すると、ミリアは持ち手にある引き金を引く。

 すると、巻きついた円盤が爆発を起こす。

 ミリアはその一瞬前、後ろに飛ぶと『ナイア』を爆発から逃れさせる。

 『ロイガー』は完全に爆散すると、欠片とも言えないようなゴミをまき散らしながら海へと落ちて行った。

 「この武器、嫌いなんだよねー」

 ミリアはそんなことを呟きながら兵装を変える、『チェーンボム』を太刀に変えると、片手に二本ずつ、計四本さらにいくつかの太刀の入った鞘を召喚しておく。

 そして、『ツァール』に接近する。

 「一機だけなら!!」

 ミリアはまず、指に挟み込むようにして持っていた左手の太刀二本を投げつける。

 『ツァール』はそれを躱し、『ナイア』の真上に来るような形になると、機首を下に向けてビームを乱射してくる。

 それを躱しながらミリアは腰にあるバズーカーから弾を一発撃ちだす。

 先程と同じ散弾で、弾がばらまかれると『ツァール』はそれを正面から受けてしまい、全身が大きく傷つき、バランスを崩す。

 黒煙を上げて、弾幕の方へと突っ込んで行く。

 「あ、」

 すると『ツァール』は一筋のレーザーに貫かれた。

 それを見たミリアは唇を尖らせると呟いた。

 「なんか複雑…………」

 と、そこに流輝の駆る『クトゥルフ』がやって来た。

 ミリアは通信を繋げると愚痴った。

 『ねぇ、流輝、一ついい?』

 「なんですか?」

 『弾幕が敵を倒すと複雑な気分になるね』

 「同感です」

 二人はそんなことを言いながら、『シュブ・ニグラス』へと戻って行った。


 戦いを終えた流輝とミリアは第一艦橋にある指令室で、外の様子を眺めていた。

 そこには大きな湖が広がっていた、出不精の流輝はここまで大きな湖は、今まで見たことが無かった。

 ミリアは子供のころこの湖の近くまで来たことがあるので、懐かしい物を見る目でそれを見ていた。

 「さぁ、着いたぞ」

 「ここは?」

 「エピリオル湖だ」

 「具体的な場所は?」

 「ウィスコンシン州の近くの湖だ、暫くの間はここの湖底で過ごすことになる」

 「あぁ、そういえば、これって潜水もできるんでしたね」

 「あぁ、そうだ」

 ダーレスがそう言うと、『シュブ・ニグラス』はゆっくりと潜水していく。ちなみに指令室はダーレス一人分の椅子しかない、他には空中に様々な映像が投影されているだけである。

 ゆっくりと期待がゆっくりと湖の名完備入って行くのが見える。

 画面が少しずつ水で埋められていく。

 ちなみに、ミリアは魚が見えるかと思ったが、既に逃げた後らしく、近くには生き物が見えなかった。

 一方の流輝は少し頭痛がしていた。

 湖の中を見た瞬間、少し気分が悪くなったのだ。

 流輝は悪いものでも食べたかと思ったが、そんなことした覚えはない。

 ダーレスはそんな流輝の姿を見て、小さく「なるほど」と呟いた。

 「あれ、流輝、大丈夫?」

 少し遅れてミリアが流輝の異変に気が付いた。

 流輝は手を振りながら返事をした。

 「大丈夫です、でも、一応部屋に戻りますね」

 「そうか……分かった」

 「あ、私ついて行きますね」

 「好きにしたまえ」

 ミリアは流輝に肩を貸すと、ゆっくりと指令室から出ていく。ダーレスはその後ろ姿を見送りながら、小さく呟いた。

 「やはり、こうなったか」

 すると、画面に何やら不思議な文字が出てくる。

 ダーレスはそれを見ると、小さく頷き言った。

 「あぁ、大丈夫だ、後で精神安定剤を送る、それよりも、お前の予想通りだったな」

 ダーレスは新しい文字が出るのを待ってから喋り出す。

 「嬉しくない、か、それよりも『アトラク・ナクア』の座標を探してくれ」

 そう言ったあと、ダーレスは椅子に深く腰掛けてたばこを吸うと、新しい映像を投影させ、それを凝視した。

 するとそこには、アメリカ海軍の保持する戦艦の様子が表示されていた。

 そして、顔をしかめると、小さく呟いた。

 「面倒事に、なりそうだな」


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