『スーパーロボット・オブ・ザ・クトゥリュー』 第二部
第二部―開幕『ビトウィーン・ザ・ハイ・ドロップ・イン・ケイオス』
半年前のあの日、私は家の外に出ていた。
理由は両親の痴話喧嘩、一年ほど前から繰り返されるようになって、その度に私は家から追い出されていた。
私はその間、とてつもなく暇だったので、星空を見ることにした。
と言っても、曇り空、星なんか見えるはずも無かった。
雲を見ていてもつまらないので、私はンガイの森の方を見た。
懐かしの森
昔、あそこで迷ったことがある。
今でも鮮明に覚えている、というよりは総理に焼き付いている、鬱蒼とした森、怪しい動物の鳴き声、少しだけ差してくる月光が余計に恐怖心を煽っていた。
私は、闇雲に走っていた。
走っていた。
お母さんの名前を叫んで、お父さんの名前を叫んで
何分経っただろうか
私は森の奥に少し開けた場所があるのが見えた。
私はそこに行くと、見えない何かにぶつかった。
それは…………
巨大な、人のような形をした何かだった。
そして、私は…………私は…………
何をしたんだっけ?
そこだけ思い出せない
次の瞬間、森のはずれで寝ていたことしか覚えていない。
私はそれ以上考えるのを止めると、気を取り直して、もう一度、ンガイの森の方に目を向ける。
そこで、気が付いた。
燃えてる
森が、燃えている。
その上空には…………
巨大な球体が浮かんでいた。
隊長室にて、ダーレスと『イカン』専属の精神科医である叶芽は、先程終えた流輝のカウンセリングの結果を伝えに来ていた。
ダーレスは窓の方を見て、たばこを吸っていた。
ちなみに『イカン』は基本禁煙である。
時刻は夕方、学校帰りの流輝に無理を言って、叶芽のカウンセリングを受けてもらったのだった。
叶芽は表情筋を一切動かさず、無表情のまま報告を始めた。
「ダーレスさん、報告します」
「構わないよ」
ダーレスは吸っていた煙草を携帯灰皿に押し込むと、火を消して椅子を回すと叶芽の方を向いた。
「まず、簡単に結果から報告させて頂くと、立木流輝は一種の二重人格である可能性があります」
「そうか」
「よくある話です、過去のトラウマをもう一人の自分に押し付け、主人格は普通の生活を送っています」
「まぁ、予想通りだな」
「ですが、少し興味深いことが」
「何だね、言ってみたまえ」
叶芽は腕の端末を起動させ、空中に映像を投影させる、すると、簡単にまとめられた琉生のプロフィールと『クトゥルフ』に乗っていた際に計測した脳波データ表示される。
ダーレスはそれを見て怪訝な顔をする。
「これは?」
「見てのとおりです、もう一つの人格は『クトゥルフ』の精神同調と完全にシンクロしています」
「ふーん」
「興味ないですね」
「まぁね」
ダーレスはそう言うと、自分の腕の端末を起動させると、叶芽の物と同期させ、その情報を自身の端末にも取り込む。
そして、再び煙草とジッポライター取り出すと、口にくわえて火を点けた。
叶芽はそれを見て初めて顔を曇らせるが、あえて何も言わなかった。
ダーレスは大きく煙を吐いてから言った。
「恐らくだが、流輝君のもう一つの人格は『SANレベル』が下がると表に出てくる」
「はい、そうです」
「つまり、流輝君は『SANレベル』が下がれば下がるほど、理性ある狂気に陥るというわけだ」
矛盾している。そう思う叶芽だが、それ以上に的確な言葉も思いつかなかったので何も言わないことにし、淡々と話を続ける。
「そうですね、『SANレベル』の低下スピードはミリアと比べて一・二五倍の速さですが、暴走状態に陥ってもおかしくないレベルまで下がった時、正気を保っていました」
「つまりは、『SANレベル』が〇にならない限り、暴走は無い」
「そうですね、そう推測されます」
叶芽がそう言うと、ダーレスはにやりと笑った。
それを見て、ぞっとする。
『イカン』に配属されてから早半年、叶芽は未だにダーレスという存在になかなか馴染めずにいた。
どう見ても、子供に頃に見た怪人とかぶって見えてしまうのだ。
例えばこの底意地の悪い笑みとか――
「まぁ、こちらの戦力増加につながることだ、ありがたいと思おう」
「…………」
流輝やミリアの事を一切考慮しなていない言葉、叶芽は勇気を振り絞り、一つの質問を飛ばした。
「あの」
「何だ」
「ダーレス隊長は彼らの事を、どう見ているんですか?あなたは何が大切なんですか?」
「…………」
ダーレスはにやりと笑い、もう一度大きく煙を吸い、吐くと、短くなった煙草を握り潰して言った。
「彼らは生贄だよ、私にとっては、旧支配者だけが重要なんだ」
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