第一部-第四章『アルソー・アンネッセサリー・ノット・ビー・ネセサリー』
流輝とミリアは『シャンタック』に自分の旧支配者を戻すと、コクピットの扉を開き、外に出て『シャンタック』の休憩室に向かうことにする。
ちなみに降りるときは、コクピットの出口から通路まで足場が出てきて、そこを通り、通路に立つことができた。
立つと言っても、手すりに体を預け、だらりとしている感じだった。
なぜなら、二人の全身を倦怠感と疲労が襲い、体の感覚がところどころおかしく感じていたのだ。
これは精神同調を解除した後に起きる、独特の感触だった。
流輝は腰に手を当てて、大きく伸びをすると、息を吐き言った。
「あー、疲れました」
「だねー、私も未だにこの感触にはなれないよ」
「そうですか……僕は初めて何で」
「あ、そう言えばそうか……」
「はい、そう言えばそうですよ」
二人はのろのろと歩き、通路を抜け『シャンタック』の内部にある休憩室に入ると、そこにある椅子に全身を預けて、思い思いにだらける。
と、そこにいた黒服の男がスポーツドリンクの入ったペットボトルを差し出してくる。
それを受け取ると、キャップを開け、一気飲みする。
流輝はあまりその味が好きでは無かったが、この時ばかりは文句ひとつ言わずに、ありがたく頂く。
そして、半分ほど一気飲みすると、ミリアに話しかけた。
「いやー、僕はこの後、目を開いたら知らない天井が広がってるんじゃないかと思ったんですけどねー」
「ま、前回は仕方ないけど、普通はこうだから」
「そうなんですか」
「あと、もう一つ」
「はい?」
「私は旧劇ファン」
「あー、そうですか」
一瞬何の話か分からなかった流輝だったが、すぐに何の話か見当がついた。
ちょっと意外な答えだった。
「何、その目は」
「いえ、深い意味は」
「…………」
そんな話をしている内に『シャンタック』は『イカン』に到着し、浮上した倉庫内に収納される。
到着したのを確認した二人は『シャンタック』から下りて、連絡通路を通り、そこから少し歩いたところにある寮棟に向かい、そこの食堂でくつろぐことにする。
「いやー、疲れましたね」
「そうだね」
二人は飲み途中だったスポーツドリンクを飲みつつ、適当に喋っていた。
と、そこに、寮棟の扉が開き、三人の見慣れぬ、がたいの良い男達が入って来た。
そして、だらけている二人の姿を見ると、一瞬、何を言うべきか迷った、という顔をしたまま黙り込んでしまった。
流輝とミリアからすると、話がある相手でもないため、黙ってスポーツドリンクを飲みながら、三人の顔を眺めることにする。
一人は齢三十ぐらいに見え、後ろに控えた二人よりは若く、そしてより日焼けをしているように見えた。
服装は三人とも同じで、灰色をした味気のない軍服のような物を着ていた。
顔を見る限り三人とも、日本人のようだった。
と、おもむろに一人の男が話しかけてきた。
「君たちがあのロボットのパイロットかい?」
「あなたは?」
「ここに配備されることとなった者で、名前は山城喜衛、後ろの二人は松田と葛城という、私と同じ『コス―GⅡ』のパイロット候補だ」
「へぇ、そうなんですか」
流輝は少し驚き、立ち上がると握手をしようと手を差し出す。
と、それに面食らった山城は、一泊遅れて手をだし、流輝の手を握ると、力強く握りあった。
ミリアはなにやら微妙な顔をすると、男達から目を逸らし、残ったスポーツドリンクを一気飲みする。
どうやら人見知りをしているらしかった。
と、そこで葛城と呼ばれていた男が口を開く。
「何だよ、こんな子供が世界を救うとかいうのか……」
「おい、葛城!!」
山城が注意するも、葛城は止まらない。
どうやら、人を馬鹿にするのを楽しむ、嫌な性格をしているらしかった。
また、戦うときに流輝達が上に立つとガキに食わないだった。
「お前ら、あのロボットを俺に寄越せよ、お前らよりうまくやってやるからさ」
「…………」
「ほんと、全く、意味が分からねぇよ、こんな子供がよ」
流輝が黙っているのを見て、調子に乗って来たらしく、余計に調子に乗って来た。
山城は、こうなると葛城は止まらないと知っているので、止めようが無く微妙な顔をして葛城の方を見ていた。
ミリアは起こって顔を赤くすると、立ち上がり、文句を言おうとするが、流輝に止められ、腰を半分浮かしたまま止まる。
と、笑顔のまま流輝が言う。
「そうですね、変わってほしいですよ、それで僕の両親が戻って来るなら」
「え…………」
葛城の饒舌が止まる。
流輝はさらにまくしたてる。
「それに、さっきあなた達を助けたのは僕ですよ、命の恩人に酷いこと言いますね」
「うぐっ……別に助けてくれと頼んだ覚えは……」
「頼まれてもいない相手に助けられたんですよ、あなたは、それもこんな子供に」
「――!!」
「あなたは黙っていてください」
葛城は、恐怖していた。
一歩下がると流輝の何も映していない、暗闇の目から逃れようとするが、ひとかけらのプライドが足を止めた。
他の二人は、流輝の目は見えていなかったので、葛城に怪訝そうな目を向けることしかできなかった。
流輝は普通の目に戻ると、明るい顔をして山城に向かって話しかける。
「気分が悪くなりました、帰って下さい」
「……すまない、こいつバカ、何だ」
「そうですか」
ここで山城は疑問に思う。
いつもなら、ここで葛城が起こりだすのだが、今日に限って怒りださない。
言葉が途切れた隙を狙って、流輝は出口を指さすと言った。
「その方が馬鹿だろうが、なんだろうが関係ありません、お帰り下さい」
「……本当にすまなかった」
「いえ、気にしてませんから」
流輝は笑顔でそう言うと、無言の圧力をかける。
山城はまだ話したりない、という顔をしていたが、渋々ながら小さく頷くと、葛城と松田を連れて出ていく。
ちなみに松田は一言もしゃべらなかった。
残された二人は、暫く黙って顔を合わせる。
と、ミリアが目を逸らして言った。
「すごいね」
「何がです?」
「いや、口悪いね」
「口調は常に丁寧にしているつもりなんですが」
「あ、うん、喋り方は丁寧なんだけど、言葉に毒が…………」
「そうですかね?」
どうやら自覚は無いらしい、ミリアは呆れた顔をすると、隅で空気のように佇んでいた黒服にもう一本スポーツドリンクのペットボトルを持ってくるよう要求する。
黒服は頭を下げると、部屋から出て行った。
流輝はぼんやりとすると、少し眠気が襲って来た。
「ミリア」
「何?」
「少し寝てもいいですか?」
「自室で寝て」
「分かりました」
流輝はフラフラしながら立ち上がると、ミリアの肩を借りながらエレベーターに乗り、三階まで上がり、自室に入ると何とかベッドまで辿り着き、そこに倒れこむ。
ミリアはしょうがないな、という顔をするとまどろむ流輝の姿を見下ろす。
そして、暫く流輝の顔を眺め、寝るのを確かめるとミリアは部屋から出て自室に戻ることにした。
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