第一部-第三章『エンカウンター・ウィズ・ネメシス』
三日後
ミリアと流輝が部屋でポーカーをしているとき、それは起きた。
ちなみに学校にはまだ行っていない。
なぜなら、流輝の分の教科書や、編入手続きがまだ終わっておらず、転校できる環境では無かったのだ。
なので、学校がある時間帯は一人で暇をつぶしたり、『クトゥルフ』達旧支配者について知ったり、いろいろとして、ミリアが帰って来てからは遊んでいる。
そんな何気も無い時間に、それは起きた。
手首の端末が勝手に起動して、映像を投影する。
すると、そこからダーレスの声が響いて来た。
『二人とも、集合、格納棟の三階、指令室で待ってるから』
「「!?」」
二人は手を止め、顔を見合わせると、同時に部屋を飛び出し、格納棟まで一直線に向かって行った。
数分後
二人は指令室とやらに来ていた。
ダーレスは一人、そこで佇んでいたが、二人が来たことを確認すると、空中に映像を投影して、話を始めた。
「面倒なことが起きた」
「何ですか?」
流輝が代表して訊ねると、ダーレスは表情筋一つ動かさず、答えた。
「この間、君が見た『コス―GⅡ』のパイロット候補が三十人、横須賀からここに送られることになったのだが……」
「それが?」
「それが、だな、その後を追うように、『レイク・ハス』の邪神が飛んでいるらしい」
「なっ!!」
「飛行機や自衛隊から送られてきた情報によると、接触まで推定で三十分」
流輝は反射的に時計を見る。
時刻は五時半
六時には接触してしまう。
そうなったら、ただの飛行機に勝ち目はない、数十秒で、あっさりと落とされてしまうだろう。
一度戦ったことがあるから、よく分かった。
「大変じゃないですか!?」
「恐らく、ここで落としてここの戦力を削るつもりらしい」
「どうするんですか?」
「君たちに守ってもらう」
「はぁ」
「『クトゥルフ』『シャンタック』『ナイアーラトテップ』三つとも起動準備はできている、今すぐにでも出撃できる」
「分かりました」
そう言うと流輝は指令室から出て、大急ぎでエレベーターに向かい、下の階に降りようとする。
ところをミリアに止められる。
「なんです」
「出撃ゲートはこっち」
「え?」
「この前教えたじゃん」
「…………」
と、そこで流輝は思い出した。
それと同時にエレベーターの前から離れると、大急ぎで格納棟から飛び出すと、裏にある出撃ゲートまでまわり、単活をかざして中に入る。
ミリアは一歩遅れて到着すると、立ち止まっていた流輝の隣に立った。
そして、施設の中に入ると、すぐにあるエレベーターに乗り込むと、自動で扉が閉まり、勝手に下に向かって降りていく。
階数の表示が無く、どれだけ下りたかは分からなかったが、数秒後に扉が開き、少し大きめのところに出た。
そこに出ると、二人は一度、立ち止まる。
二人の目の前には、二つの扉が並んであった。
片方には蛸の顔のようなマークが、もう片方には真っ黒の円が描かれていた。
流輝は蛸の方を指さすと、言った。
「えーと、こっちが『クトゥルフ』でいいんですか?」
「うん」
「じゃ、ここで」
「はい」
ミリアは慣れた手つきで扉を開くと、中に入って行った。
流輝も見よう見まねで入ってみることにした。
いつも通りに腕の端末をかざして、扉のロックを外すと、ロックの外れた扉を手前に引くと開ける。
すると、無駄に明るい一本道のような物が広がっていた。
照明が輝いていて、少し目に痛かった。
「……行きますか」
流輝はそう呟くと、その廊下を歩いて行く。
といっても、歩くのは最初だけで、数十歩言ったところで、小走りになり、さらにしばらく後に走り出す。
あまり長い距離は無かったがそれでも一分前後走っていた気がする。
途中、少し形が変わり、ちょっとした段差を通って行ったことに気が付いたが、そんなこと気にせず、流輝は奥に向かって行く。
一番奥には、何かおかしな光が光っていて、どこかの部屋のようになっているようだった。
と、そこで気が付いた。
あれは『クトゥルフ』のコクピットだ。
流輝はそこに滑り込むと、コクピット内に入り、中心で鎮座する椅子に近づき、ゆっくりと座り込む。
と、同時にハッチが閉まり、コクピットが閉ざされる。
周りは薄い光を発しているだけで、外の光景を映してはいなかった。
ちなみに椅子は少し高い所にあって、届かない分は触手のような物が階段代わりになって、座るのを手伝ってくれていた。
背もたれに全身を預け、グリップを握りこむ。
足を載せ、息を整える。
「よし」
次の瞬間、周囲の光景が内部に投影される。
ちなみにまだ精神同調は行わない、戦闘時のみ行うように流輝が設定した。
というか、いました。
流輝が今まで『クトゥルフ』に乗ったのは、今を含めてたった二度だが、流輝は完全に『クトゥルフ』を制御していた。
また、椅子に座った時、懐かしさすら感じた。
「ふぅ…………」
小さく息を吐いたとき、ピピっという音が鳴り、流輝の顔の右側に、ミリアの顔が映った映像が投影された。
どうやら『ナイア』のコクピットから、通信しているらしい。
『流輝、大丈夫?』
「はい、平気です」
『これからちょっと動くから、気を付けね、主に吐かないように』
「え、何が……」
流輝がそう言って訊ねようとした時
ガクン、と振動が襲う。
振動は後ろから来たので、後ろを見て見ると、コクピットまで続いていた道のような物が収納されていってるところだった。
実は、道中あった段差を中間として、そこから前の部分が後ろに下がって行き、収納される仕組みとなっていたのだ。
が、流輝がそれを知るのは、後の事だった。
なぜなら、再び大きな振動が『クトゥルフ』を襲い、周りに投影されている外の――というか、格納棟の内部の様子――が少しずつ下がって行くことに気が付いた。
「え、あれ、へ?」
どんどん下がって行き、目の前に見えていた人たちや、色々な機器が見えなくなっていき、ドンドン下へと下がって行く。
すると、何かの通路のような物が見え、順々に光が灯って行く。光は奥に向かうようにと持って行く。
が、その通路は『クトゥルフ』が通るには天井がかなり低かった。
と、そこで再び振動が襲う。
「え、なに?」
『お、本当に少し砕けた口調になってる』
いつの間にかミリアが通信をしていた。
流輝は目を白黒させて、ミリアに向かって訊ねた。
「何が起こるんです?」
『ん、まぁ、色々だね』
「それ、答えですか……」
流輝が苦笑する。
と、振動、と呼ぶには小さく、長続きしすぎているような物が『クトゥルフ』を襲った。
そして、少しずつ『クトゥルフ』が寝かされていってるのが分かった。
ピッタリ九○度回転し、足が通路を向かうようになる。
そして、再び動き出すと、『クトゥルフ』の巨体が通路を通って行く。
それも結構なスピードで
「――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!」
流輝は声にならない叫びをあげる。
動きは早かったものの、安定した走行だったため、コクピット内は全くと言っていいほど揺れなかった。
が、それでも矢継ぎ早に流れていく通路の壁や、照明だけでも十分恐ろしいものだった。
が、地獄の時間はあまり長くは続かなかった。
数秒後にゆっくり減速しながら動きは止まり、ゆっくりと『クトゥルフ』の体が九十度回転して、再びもとの姿勢に戻る。
そして、ゆっくりと上に上がって行く。
「はぁ……はぁ……」
『大丈夫か……?』
流輝が肩を大きく動かして、必死に息を整えていると、ミリアが通信を繋げ心配そうに訊ねてきた。
流輝は力なく笑うと、言った。
「大丈夫です、心配しないでください」
『なら……いいんだけど』
そして、気付くと『クトゥルフ』はどこかの格納庫の中にいた。
コクピット内で左右を見渡し、辺りを見てみる。
と、そこでミリアが種明かしをした。
『ここは『シャンタック』の格納庫だ、最大四体の機体を収納できるらしい』
「はぁ、そうなんですか」
『この前、私はここから出撃した』
「なるほど」
と、そこで巨大な何かが動く音がした。
そこで、流輝はダーレスからの通信が入ったことを確認した。ミリアのときとは違い、顔は映っておらず代わりに『SOUND ONLY』と出ていたが、その上に『ダーレス』という名前が出ていた。
『流輝君、すまないね、こんな手荒な方法を取って』
「いえ……」
『普段は『シャンタック』に乗ってから、機体に搭乗するのだが、今回は近いからね、こういう方法を取って取らせてもらった』
「はい」
『では準備良いな、『シャンタック』出発だ』
その言葉を最後に、通信が切れる。
その時外では、格納棟近くの海の中から巨大な倉庫のような物が現れ、完全に水面に出てきた。
と、そこで倉庫の海の方を向いている方が開き、そこから即席の滑走路のような物が展開すると、その上を滑るように動き『シャンタック』が飛び出した。
その速度は音速を超えているかのように思えた。
そして、そのまま敵影が観測された空域まで飛んで行った。
五分後
『シャンタック』は目標空域に到着したらしく、『シャンタック』内にあるブリッジから、通信が入る。
『目標宙域です、ハッチを開くので、そのまま出撃してください』
「分かりました」
『『クトゥルフ』には飛行ユニットが標準搭載されていますから』
「分かりました」
『では、ハッチ開きます』
その言葉が終わるとほぼ同時に、ハッチが開き、外の空気が一気に中に入って来る。と、格納庫内の気圧が一気に下がる。
が、そんなことはあまり関係ない。
流輝はここで初めて精神同調を行う。
一度目を閉じ、息を整えると、目を開く。
そして流輝は『クトゥルフ』になる。
一歩一歩踏みしめて、開いたハッチぎりぎりまで行くと、流輝は叫んだ。
「立木流輝、『クトゥルフ』行きます!!」
『クトゥルフ』を追伊作飛び上がらせると、そのまま空に飛び出す。と、必然的に重力に引かれ、眼下にある海に向かって落ちていく。
その途中、流輝は背中にある翼型をした飛行ユニットを展開させる。
「展開!!」
すると、機体が安定して、宙に浮く。
『クトゥルフ』に搭載されている飛行ユニットは、反重力発生装置で、二つの翼がそれぞれ反重力を発生させることにより、バランスを取っているのだ。
また、その際に生まれる余剰エネルギーが、展開した翼内で放射され、翼の被膜のようにも見えた。
ちなみに武装は左手に『ハイドラ』右手には何も持っていなかったが、『ダゴン』が腰裏のアーマーに装着していた。
また、腰から伸びる小さな尻尾のような形をしたアーマーに、二つのビームカノン砲が搭載されていた。
これは『ク・リトル』と『リトル』というらしい。
使用方法としては『ハイドラ』の両側に接続して扱うらしいが、使ったことが無いので、よく分からなかった。
今回の戦いで使って煮ようかな、と流輝がそんなことを考えている間に、通信が入って来た。
『ミリアと『ナイア』行きます』
「ん……」
流輝は後ろにあるカメラが捉えた『ナイアーラトテップ』の姿を確認する。
機体のカラーリングは黒で、全体的に細く、頼りない感じがした。もっと装甲をつける余地があったんじゃないかと思えるような感じだった。
が、腰裏のアーマーとバックパックの下側から『クトゥルフ』の尻尾状のアーマーに似た何かがついていた。
はっきり言うと、全体的に具体的な形がよく分からない機体だった。
その手にはレールガンタイプのスナイパーライフルを構えていて、反重力発生装置を駆使して宙に浮いていた。
が、突然機体が見えなくなった。
「え?」
流輝が困惑して、各種レーダーを駆使し、ミリアを探すも見つからない。
と、そこにミリアから通信が入った。
大急ぎで流輝はそれに応答する。
『ゴメン、説明して無かったね』
「いったい何なんです?」
『こいつには不可視迷彩、レーダー無視の効果があってね、姿を完全に消せるんだ』
「へー、すごいですね」
そう言えば、初めてのときにいた、姿が見えない襲撃者のからくりが完全に分かった。
が、どうしてミリアの位置を確認したらいいのだろうか
流輝が困り果て、そう訊ねると、すぐに答えが返ってきた。
『とりあえず、こちらからシグナルを送るから、それで私の位置は確認して』
「はい、分かりました」
『じゃ、行くぞ』
「はい!!」
そう言うと、二人は敵のいる所まで受かって行く。
すでに視界には捉えており、拡大をして見てみると、そこには普通の旅客機と、その後を追う『イタクァ』の姿が確認できた。
その数十二
と、そこでミリアはライフルを撃ったらしく、一機の『イタクァ』に命中する。
遠いせいもあってか、致命傷にはならなかったが、こちらに気を引くには十分だったらしい、『イタクァ』が全機機首を『クトゥルフ』に向け進路を変更した。
『気を付けてね、『イタクァ』は空中戦専門の機体、この前の戦闘みたいにうまくはいかないと思う』
「分かりました」
流輝はそう言うと、もう一度『イタクァ』を見た。
その形状は少し変わっており、下半身と足が収納され、腕のスラスターを大きく広げていて、より飛行に適した形状に変形していた。
確かにこの前よりは速くなっていた。
「なるほど」
流輝は『ハイドラ』の銃口を向けると、触手を撃ちだす。
あらかじめロックしてあった『イタクァ』に向かって、一直線に飛んで行くが、『イタクァ』は左に大きく曲がると、それを避けた。
触手は、先端についている部分からバーニアが吹き出し、自動的に追尾しようとするが、『イタクァ』のスピードに追い付けない。
と、そこで左側にマークが出て、携行音が鳴る。
「クッ!!」
流輝は反射的に機体を後ろに動かし、別なところから接近していた『イタクァ』が撃って来たレールガンの弾を躱そうとする。
が、一瞬反応が遅れたため、胸の装甲に弾がかすり、少し傷がついてしまう。
が、すぐに自己修復が行われ、回復する。
それを見て、流輝は小さく呟いた。
「すごいな……生体装甲って……」
実は『クトゥルフ』達、旧支配者の装甲は、『生体装甲』と呼ばれる特殊な物で、簡単に言うならば『鉄のように固い皮膚』なのである。
その為、傷ついた部分に少しエネルギーを与えれば、すぐに再生、修復が行われるのである。
その為、ちょっとの傷はすぐ治るし、大きな傷でも時間をかければ元に戻る。
が、エネルギーが切れると回復できなくなり、機体も動かなくなるのである。
ちなみに、旧支配者限定で、邪神は自己修復機能を持たないのである。
これはエネルギーを生成する『無限機関』の有無がカギとなっているのである。
『無限機関』とは、旧支配者に標準搭載されている物で、戦闘時のエネルギーを生成しているのが、この機関なのである。
行動停止状態のときにエネルギーを作り、内部に貯蓄する。
後は戦闘時にそれを利用して戦うのみである。
戦闘時はそちらに、サブ電脳が集中するため『無限機関』を制御できないので、エネルギーを生み出せないのであった。
流輝はこの三日間で習っていたことを思い返していたが、突然警告音が響いたので、流輝は機体を上に飛ばし、『イタクァ』の攻撃を避ける。
「埒が明かない……」
『流輝、『ク・リトル』と『リトル』を使ったら?』
「ミリア、そっちはどうです?」
『二機落とした、そっちに気を取られているみたいで、簡単だった』
「そうですか……では僕も」
流輝は『クトゥルフ』に命令を飛ばし、『ク・リトル』と『リトル』を『ハイドラ』に装着するようにする。
と、そこで尻尾のようなアーマーから、二つのカノン砲が外れ、それに付いていた触手がカノン砲を『ハイドラ』まで持って行き、接続する。
そして、発射できるかどうかを確認する。
どうやら既に接続が終了し、撃てるらしかった。
「行きますか」
近くにいる『イタクァ』に照準を定め、発射する。
と、カノン砲から通常の数倍の威力と、大きさのビーム二本同時に放たれる。
狙いを定めていた『イタクァ』はそれを躱したが、その奥に直線上にいた二体の『イタクァ』に命中し、体を貫いた。
すると、二体が爆散し、黒こげになった破片が次々と重力に引かれ、海に向かってゆっくりと落ちていく。
その威力には凄まじいものがあった。
「すごい……」
また、再び右方向から敵が接近してくるのが見えた。
流輝はもう一度カノン砲をそちらに向け、二筋のビームを放つ。
飛行形態を解除して、足の装着していたナイフを構え、一直線に突っ込んできていた『イタクァ』にそれを躱す術は無かった。
見事、命中し『イタクァ』は爆発霧散した。
それを見たミリアが小さく呟く声が聞こえてきた。
『すごい連射性能……』
「そうなんですか?」
『えぇ、普通ビームカノンは一発撃つたびに冷却しないと厳しいんだけど、どういうわけか連射できてるね、すごいよ』
「はぁ、どういうわけなんでしょうね」
実は『ク・リトル』と『リトル』には特殊な冷却液が循環していて、高速でジェネレーターを冷却できるようになっていたのだ。
これは『クトゥルフ』のみの特権であった。
ちなみに『ナイアーラトテップ』の場合は、特殊な不可視迷彩が『クトゥルフ』で言うところの冷却液だった。
流輝は少しいい気になると、再びビームを放つ。すると、それが命中して、またもう一体『イタクァ』を落とすことに成功する。
『流輝!!』
「!!」
突然、ミリアの叫び声が響き、流輝は機体を一二○度回転させると、そこから襲って来ていた『イタクァ』に向き合う。
『イタクァ』はレールガンを両手に構えると、連射してくる。
流輝はカノン砲を使うには距離が短かったので、右手に持っていた『ダゴン』を構えると、襲い掛かる弾を躱すように右に移動すると、小さく旋回しながら近づく。
と、『イタクァ』はレールガンをバックパックにしまうと、ナイフを抜き、接近戦を挑もうとして来る。
「ふぅ……」
流輝は息を整えると、『イタクァ』を迎え撃つ。
先ず、『イタクァ』がナイフを突き出してくるのを、機体を少し右に動かすと、最低限の動きで攻撃を避ける。
そして、右足で蹴りをいれ、バランスを崩させると、『ダゴン』を叩きつけた。
と、細い体が真っ二つに分かれる。
流輝は爆発を警告する音を聞くと同時に、『イタクァ』の体半分を蹴りだすと、一気に後ろに下がる。
そして、その『イタクァ』が爆発するのを見届ける前に、『ハイドラ』を右に向けて、そこから来ていた『イタクァ』に向かってビームを放つ。
が、『イタクァ』は飛行形態を解除すると、腕のスラスターを上に向かって吹かすと、一気に下に降りて回避する。
そして、手の平のビーム砲を向けると、ビームを放ってくる。
「チッ!!」
流輝は小さく舌を打つと、同じように下に回避し、もう一度『イタクァ』に攻撃を仕掛ける。
が、今度の『イタクァ』はしぶとく、もう一度飛行形態に切り替えると、真っ直ぐ右に飛び、連射されるビーム砲を次々と躱していく。
「――――ッ!!」
業を煮やした流輝は『クトゥルフ』に命令を飛ばし、『イタクァ』の軌道を推定すると、動きを先読みし、そこに向かって発射する。
その際、同時に触手を射出する。
『イタクァ』はビームを躱すため、さっきと同じように飛行形態を解除すると、今度は上に上がり回避する。
すると、触手は『イタクァ』を追尾し、命中すると、装甲を突き破り、機体に巻きつくよう動くと『イタクァ』を捕縛した。
「よし!!」
どうやら機関部を破壊し損ねたらしく、『イタクァ』は暴れて触手をちぎろうとする。
流輝はそれを見ると、一気に近づき『ダゴン』を振り下ろし、『イタクァ』の顔辺りを切り裂いた。
と、電脳からの指令が途切れたのか、『イタクァ』は機能を停止すると、動きを止め、触手につられるような恰好となった。
流輝は触手を収納すると、そのまま『イタクァ』を海へと落とす。
そして、満足そうな笑みを浮かべると、辺りを見渡して他の敵影を探す。
と、そこで通信が入る。
『流輝、敵は全滅したよ』
「そうですか」
『飛行機は無事、戦闘空域を離脱して、『イカン』に向かってるみたいよ』
「それはよかったですね」
『じゃ、今から『シャンタック』に戻って…………』
ミリアが話している途中
突然警告音が鳴り響き、『熱源体接近』の文字が現れる。〇時の方向、つまり絵の前から来ているようで、それを示すように赤い三角印が出ている。
そして、さらに情報が出てくる。
そこには推定だが、敵の数も出ていた。
流輝はそれを見て、驚きのあまり、叫んでしまう。
「熱源……三六!?」
『すごい……でも、反応が小さい……戦闘機かな?』
「自衛隊ですかね?」
『それにしちゃ数が多いし、速度も明らかに速い、それに私たちは自衛隊、とかそこら辺の許可は取ってあるんだよ』
「つまり?」
『敵!!』
いつの間にか隣に来ていた『ナイア』が姿を現すと、『クトゥルフ』と同じ方向を見て、そこに向かって行こうとする。
距離はあまりないので、すぐに到達ことができると思われた。
と、そこでダーレスから通信が届いた。
『二人とも、気をつけろ、おそらくそれは『ビヤーキー』だ』
「『ビヤーキー』……ですか」
『あぁ、おそらく『ハスター』も来ていることだろう』
『隊長!!それは本当ですか!?』
ミリアが突然大声を上げる。
流輝もそれを聞いて少し驚く。
なぜなら『ハスター』とは『クトゥルフ』と同じ、旧支配者で、敵のリーダーだと目されている機体だからである。
少し、悪阻惜しく思った流輝だが、唾を飲むと、少し震えた声で尋ねた。
「ダーレスさん、行きますか?」
『あぁ、これだけの数だ、おそらく敵の母艦『ガタノトア』も来ているだろう』
「マジですか?」
『あぁ、とりあえず、『ガタノトア』を発見してくれ、落とさなくていい』
「はい」
ダーレスからも許可が出たので、流輝がまず向かって行き、一瞬遅れてミリアが後を追うようにして向かって行く。
高速で移動しながら、ミリアは流輝に訊ねる。
『ねぇ、怖くないの?』
「怖いですよ」
『じゃあ、どうしてそんな躊躇いなく行けるの?』
「考えても無駄だからです」
『え?』
ミリアはよく意味を理解できていないらしく、首を傾げる姿が見えたので、流輝は説明することにした。
「簡単に言うと、いつか戦うことになるなら、今戦って少しでも情報を得た方がいいじゃないですか」
『なるほど……』
「それに……」
『それに?』
「ここで止まっていても、恐怖は消えませんよ」
『…………そうだね』
ミリアは頷くと、そのまま進んでいく。
と、そこで新たな携行音が鳴り響く。
大量の熱源が接近してくるという警告、これはつまり、ミサイルが大量に襲ってきている、という意味である。
その数四十、直撃までは推定十五秒
大雑把で良ければ、一機につき一発のミサイルを撃ってきた計算になる。
流輝はそれを見て、動きを止める。すると、ミリアも動きを止める。どうやら、流輝が動きを止めたことを不審に思って動きを止めたらしい。
そして、心配そうに声をかけてくる。
『流輝、どうかした?』
「ちょっと待ってください、試したいことが」
『はぁ、ならいいけど』
流輝は『クトゥルフ』から提示された方法を使ってみようと、『ク・リトル』と『リトル』を最大出力で起動させると、ビームを常時放つよう設定し、ミサイル群に向かい、放つ。
「ハァァァァァァ!!!!!!」
直線的に伸びたビームが途切れることなく、ミサイル群の一部に命中し、爆発が起こる。
そして、そのまま『ハイドラ』を横に振るうと、ビームを動かしていき、ミサイルを焼き切って行く。
それはさながら巨大なビームサーベルのようだった。
焼かれていったミサイルは、直線的に爆破が起き、ちょっとした花火のようにも見えた。
ちなみに『ビヤーキー』達と『ハスター』はビームが当たる前に上下に分かれ、かわしたらしく、大きな熱源は一つとして減っていなかった。
『すごいね』
「そうですか?」
『うん、でも、大丈夫?』
「駄目ですね、暫くカノン砲は使えそうにありません」
流輝は横に出ている画面からそれを確認すると答える。いくら冷却が早いからと言っても限界がある。
『ク・リトル』と『リトル』もジェネレーターが嫌な音を立て、心なし温まっているのが傍から見ると確認できた。
なので、右手の『ダゴン』をしっかり握りなおすと、もう一度反重力発生装置の出力を上げると、猛スピードで突っ込んで行く。
ミリアも後を追うように、再びついて来る。
「行きますよ」
『あぁ、行こう』
すると、『ビヤーキー』が編隊を組んでこちらに向かって来ているのが確認できた。
七機ずつ、五つに分かれると、二つは右に、二つは左に、残った一つは上に行き、機首を下げ、こちらを狙う。
先ず二人は、上から襲って来た『ビヤーキー』が機体の機首付近にあるマシンガンを乱射してくるので、それを左右に分かれて躱す。
次に、お互い目の前に来た『ビヤーキー』の相手をすることにした。
左側に行ったミリアはまず、『ナイア』の兵装を変更する。
『ナイアーラトテップ』のもう一つの特徴は、背中にある箱にさまざまな武装を搭載したり、召喚することで、様々な戦い方ができるのである。
近距離戦のときは刀に、遠距離はライフル、支援のときはミサイルポットに長距離カノン砲、などなど、決まった先頭パターンを持たないのだ。
この事から『ナイアーラトテップ』は『線の顔を持つ』と、ダーレスに評されていた。
今回はライフルをしまい、長刀と、小刀を取り出すと、反重力発生装置をよりスピード重視な物に変更すると、一気にスピードを上げる。
実は、『ナイア』の不可視迷彩は、一定以上のスピードを出したり、動きをしたりすると効果が薄れてしまうので、こういう場面では使わないことにしていた。
「行ッくよーーー!!」
ミリアはそう叫ぶと、向かってくる十機の『ビヤーキー』の内、五体が放ってくるビームを回避すると、下に回り、兆党で切りかかる。
も、『ビヤーキー』は五体ずつに分かれ、再び左右に分かれると『ナイア』を挟み撃ちにしようとする。
そして、同時にマシンガンを連射し、『ナイア』に一斉に襲い掛かる。
『ナイア』は肩に楯のようなあーあーを召喚、展開すると、マシンガンの弾から身を守りつつ、短刀を一度しまい、サブマシンガンに切り替える。
そして、左手にいる『ビヤーキー』に向かって弾をばらまく。
すると『ビヤーキー』は緊急回避を行い、上に向かって行くが、その内二機に弾が当たり、少し傷つき黒煙を上げ、スピードを落とす。
ミリアはそれを見逃さず、『ビヤーキー』の後を追うように上昇すると、二機の『ビヤーキー』を同時に切り伏せる。
切られた『ビヤーキー』はそこで機能が停止し、爆破すると、海へと落ちて行った。
機体のすぐ近くで爆破が起きたため、少しバランスが崩れ、一瞬機体が揺れるが、すぐにバランスを整え、再び構える。
「残り八!!」
と、その時、回避しなかった方の『ビヤーキー』がミサイルを五発撃ってくる。
「ちぃッ!!回避が間に合わない!!」
ミリアはそう叫ぶと、サブマシンガンの銃口を向け、ミサイルに向かって適当に乱射する。と、弾が当たった全てのミサイルは命中する前に爆破する。
が、その時ミリアは上を見ると、ビーム砲を搭載した残りの三機の『ビヤーキー』が襲ってくるのを確認したので、とっさに上に飛び、回避する。
すると『ビヤーキー』はそのまま『ナイア』の下をとおっいぇ行こうとするので、ミリアは反重力発生装置を使用し、下に戻るようにする。
すると、狙った通りに『ビヤーキー』が足元に来たため、二機を踏みつけ、蹴ると、宙に浮き一回転する。
踏みつけられた『ビヤーキー』は、機能停止にはならなかったが、両脇にあるブースターがいかれたため、高度を下げて落ちて行った。
「残り……六!!」
ミリアはそう叫ぶと、兵装を変換、ミサイルポットを召喚し、腰から伸びるアーマーに装着し、一斉に発射する。
四八連ミサイルポットから放たれた、四八発のミサイルは大木弧を描き、『ビヤーキー』に向かって襲い掛かる。
それを確認した『ビヤーキー』は三機ずつ、二手に分かれると、右斜め下、左斜め下に移動し、ミサイルを回避しようとする。
「もらった!!」
ミリアは両手にバズーカーを召喚すると、それを構え、二手に分かれた『ビヤーキー』に向けて同時に発射する。
バズーカーから、発射された弾は、途中でばらけると散弾となって広範囲にわたり飛んで行く。
回避行動に集中していた『ビヤーキー』達は、見事散弾に命中してしまい、致命傷を受けた四機が同時に大爆発を起こす。
が、残った二機は何とかバランスを整えようとする。
「ラスト二!!」
ミリアは『ナイア』の両腕前腕部に、三連小型ビームポットを召喚すると、それを二機の『ビヤーキー』に向けて発射する。
機動力の低下した『ビヤーキー』はその攻撃に反応が追い付かず、命中、爆発を起こし、破片一つ残らなかった。
「よし、後は……」
流輝と戦っている、筈である残り五機の『ビヤーキー』そして、後ろの方で傍観を決め込んでいる熱源、おそらく『ハスター』が残っていた。
「それにしても…………」
ミリアは違和感を感じていた。
さっきの『ビヤーキー』の連携、あまりにも整いすぎているのだ。
邪神たちに搭載されている電脳は、旧支配者の物と違い、量産系であることが確認されている。
そのため、似たような行動をとることは当たり前なのだが、それでも、ちょっとした個性という物が生まれる。
なので、連携という物を邪神はあまり好まないのだ。
しかし、『ビヤーキー』は気味が悪くなるぐらいに整った連携的な行動、攻撃、編隊を組んでいた。
「何か……ある?」
少し疑問に思ったが、そんなことより『ハスター』を狙うことにして、ミリアは奥にある熱源に狙いを定る。
そして、ミサイルポットを起動させると、残っていたミサイルの第二陣をリロード、発射体制に移行させると、一斉発射した。
「いっけーーー!!!」
その少し前
流輝は少し、苦戦を強いられていた。
交戦開始と同時に、少し冷却の終わった『ク・リトル』と『リトル』を最小出力で放射すると、かすっただけの三機の『ビヤーキー』を落とすことに成功した。
と、それを確認した、上空に逃げた『ビヤーキー』は、一斉に機首を『クトゥルフ』に向け、高度を下げると爆撃して来たのだ。
どうやら、この五機の『ビヤーキー』は小型の爆弾をばらまくタイプの兵装を搭載しているらしく、いくつもの爆弾をばらまいて来た。
流輝は後ろに下がり、緊急回避を試みるも、そこからはビームが迫って来ていたので、仕方なく斜め下へ向かい、回避した。
が、回避しきれず、バックパックの数発の爆弾をくらい、大きな衝撃が機体を襲った。
「クッ!!」
流輝は損傷を確認する。
どうやら、少し傷がついただけで、反重力発生装置には支障をなく、殆ど問題なく、戦闘を行えるようだった。
それを確認し、安堵した瞬間、五発のミサイルが襲い来た。
流輝はもう一度カノン砲からビームを放射し、ミサイルを撃ち落とす。
すると、まっすぐ伸びて行ったビームはそのままミサイルポットを搭載していた『ビヤーキー』二機を焼き切り、爆破させた。
「あとは……」
辺りに気を配りつつ、熱源数を確認する。
残り十一機
三機がビームポット、三機がミサイル、残り五機が爆撃機
先ずは『ク・リトル』と『リトル』を『ハイドラから取り外すと、元々ついていた尻尾のようなアーマーから伸びてきた触手に預け、そこに再び装着する。
「はてさてどうしますか……」
流輝はとりあえず、ビームポット搭載の『ビヤーキー』を潰すことにした。
『ダゴン』を握りしめ、少し遠くにいる三機に『ビヤーキー』を狙い、『クトゥルフ』の機体を大きく動かし、飛ばしていく。
と、後ろからミサイルが迫ってくるのが見えた。
なので、流輝は『ハイドラ』を後ろに向けて、触手を射出する。
すると、触手はミサイルを自動的に撃ち落とし、危機を回避する。
が、そのせいで先端部分と、触手の本体部分に大きな傷ができて、今にもちぎれてしまいそうになる。
なので、『ハイドラ』の触手を収納し、そのまま自己修復が終わるのを待つことにする。
すると、『ビヤーキー』は全弾撃ち尽くしてしまったらしく、ミサイルポットをパージして、身軽になると、『クトゥルフ』目がけて飛んでくる。
流輝はそちらには目もくれず、目の前の『ビヤーキー』三機を狙い続ける。
ある程度まで近づいたところで、前の『ビヤーキー』がビームを放ってくる。
それを最低限の行動でかわすと、流輝は狙いをつけて『ダゴン』を投擲する。
「これで!!!」
すると『ダゴン』は一番左にいた『ビヤーキー』に命中、爆発を起こすと、その爆風に押されて隣の『ビヤーキー』がバランスを崩し、また、その隣の『ビヤーキー』に激突してしまう。
その様子はさながら玉突き事故のようだった。
「よし!!」
狙っていた以上の成果が出て、流輝が喜んでいるとき、上に爆撃機型の『ビヤーキー』が来たとの警告が鳴る、
流輝はそれを受けて、尻尾状のアーマーに装着している、『ク・リトル』と『リトル』を起動させると、ビームを放射する。
元から銃口は上を向いているため、『ビヤーキー』に向かって一直線に向かって行く。
また、『ビヤーキー』もまさかそんな風に攻撃してくるとは思っていなかったようで、四機に命中、残る一機も羽を半分焼かれてしまい、飛行不能状態に陥り、海に向かって落ちて行った。
「あと三!!」
マシンガンを乱射しつつ、こちらに向かってくる『ビヤーキー』を見て、流輝は右手に投擲した『ダゴン』を召喚、呼び戻すと、上昇し『ビヤーキー』の上に回る。
『ビヤーキー』はそのまま『クトゥルフ』の下を通り過ぎて行こうとするが、流輝は一気に『クトゥルフ』を下降させると、『ビヤーキー』の後ろにゆくようにする。
そして、一気にスピードを上げると、『ビヤーキー』に追いつき、少し上に回ると一機の『ビヤーキー』を『ダゴン』で貫くと、そのまま横に振るい、二機の『ビヤーキー』を横から叩き落とす。
爆発はしなかったので、その場のとどまり、二機の『ビヤーキー』が落ちていく姿を眺める。
そして最後に、『ダゴン』を下に向けると、刺さった『ビヤーキー』は重力に引かれて落ちていく。
「これで終わり……」
いや、違う。
流輝は『ハスター』の事を思い出し、最後に残った熱源の方を向く。
すると、ミリアの駆る『ナイア』がそこに向かうのが見え、流輝も後を追って行くことにした。
すると、何やら黄色をしたものが見えてくる。
「あれですかね?」
『みたいだね』
「行きましょう」
『えぇ』
流輝は黄色をしたそれを、拡大して見てみると、そこには気色々をした、何かがいた。
パッと見は黄色の円柱のようにも見えるのだが、よくよく見るとそれは、『クトゥルフ』の翼の被膜と同じ、余剰エネルギーが放射されている物と似ていた。
それはまるで黄色の衣だった。
すると、ミリアはスナイパーライフルを取り出すと、おもむろに一発の銃弾を放った。
銃弾は真っ直ぐ『ハスター』と思われる機体へと向かって行く、が、『ハスター』は銃弾が来ていることに気付いているはずなのに、回避運動をとろうとしない。
銃弾は、黄色いエネルギーの膜に命中すると―――
そのまま膜の熱に焼かれて消失し、本体には命中しなかった。
『駄目だね』
「じゃ、次は僕で」
流輝は『ハイドラ』に『ク・リトル』と『リトル』を装着すると、狙いを定めて、高威力のビームを発した。
そのうち一本が『ハスター』に吸い込まれていく。
が、エネルギーの膜の中、一点にエネルギーを集中させると、膜の中により濃いエネルギーのシールドを生み出す。
そして、ビームを受け止め、威力を相殺する。
「僕も駄目ですね」
『やっぱり……どうする?』
「なんか腹が立ちますね」
『何が?』
「少しも動かず、堂々としているあの『ハスター』の態度、苛立ちますね」
『…………』
いきなりミリアが黙り込むので、そちらを見て見ると、何やら驚いた顔をしていた。
「何を驚いてるんですか?」
『いや、流輝も起こるんだな、と』
「僕も人です、そりゃ怒りはしますよ」
『まぁ……そうだろうね』
ミリアは納得すると、前を向き、『ハスター』を睨みつける。
確かに、『ハスター』の様子からは余裕綽々といった態度で、見ているとだんだん苛立ってきた。
その『ハスター』の態度は、どことなく王のような雰囲気を纏っていて…………
『……『黄衣の王』……』
「え、ミリア、今何か言いましたか?」
『いや……まるで黄色の衣を纏った王様みたいだな、ってね、それにあいつ、『レイク・ハス』のリーダーなんでしょ?』
「なるほど…………」
流輝にはミリアのいう事が的を得ているように思えた。
と、その時、流輝はあることに気が付いたので、ちょっと行動に移してみることにした。
「ま、とりあえず、あの衣を?がしますか」
『うん、そう言うなら何か考えでも?』
「えぇ、あの衣の上部を見てください」
『何かあるの?』
「はい、黒い輪の形をしたものが見えます、あれが発生装置なのでしょう」
『なるほど……』
ミリアも拡大して見てみると、確かに黒い輪の形をした装置がエネルギー膜の上部にあるのが確認できた。
ミリアはそれを確認すると、感心したかのように息を吐き、呟いた。
『本当、流輝って鋭いよね』
「そうでしょうか?」
『そうだよ』
「じゃ、ちょっとやってみましょう」
流輝は『クトゥルフ』の右手にしっかりと『ダゴン』を握らせると、接近戦を挑み、その輪状の装置を叩き切ろうとする。
が、接触する前に、『ハスター』が上昇を始めたため、一旦動きを止めて、様子を見ることにした。
その時、『シャンタック』から通信が入り、ダーレスの声が聞こえてくる。
『二人とも、撤退命令だ』
「どうしてです?」
『この上空に『ガタノトア』の反応が確認された、ここで『ガタノトア』と戦ったとしても、勝ち目はないだろう、エネルギーも減っているしな』
「でも……レーダーには……」
と、よく見ると、レーダーに熱源あり、との報告が表示されているのが見えた。
距離が遠く、射程外であるため、すぐに危機となることは無いだろうと、あまり大きく表示しなかったらしい。
『ハスター』はゆっくり上昇して、『ガタノトア』へと帰還していく。
『流輝』
「はい?」
『ダーレス隊長のいう事も最もだよ、撤退しよう』
「…………」
流輝は少し暗い目を『ハスター』に向けると、断腸の思いで見送ることにした。
「分かりました…………帰還します」
そう言うと流輝はミリアの後に続き、『シャンタック』の方へと『クトゥルフ』を飛ばして移動させた。
一方、『シャンタック』のダーレスは、小さく安どのため息を吐いて、椅子に深く腰掛けた。
実は、さっきの撤退命令は、ダーレスのとっても苦渋の決断だった。
ダーレスの計画としては、なるべく早く一隻でも多く『ガタノトア』を落としたかったのだが、問題点がいくつかあった。
一つは、先ほど述べた通り、二体の旧支配者のエネルギー残量だった。
余裕はある事にはあったが、『ガタノトア』とそれに乗ってる邪神達を相手にするには不安になる量だった。
もう一つが流輝の『SANレベル』だった。
『ハスター』を射程に入れた辺りから降下が激しくなり、これ以上戦闘を行うと一脾摘狂気に陥り、暴走する可能性もあった。
ちなみに『SANレベル』とは、契約者の精神の安定レベルを示したものである。
精神同調中は旧支配者のサブ電脳と契約者の思考が同時に働き、お互いがお互いを補いつつ、戦うこととなる。
大雑把な動きや行動の決定は契約者の思考が、細かい所や計算、携行や索敵はサブ電脳が行う。
その結果、必然的に、サブ電脳が精神に干渉を行うことになる。
すると、少しずつ自我が失われ、残虐性が表に出くる。思考が機体に呑まれていき、契約者の身体はただの生体パーツと化してしまう。
そうなると、機体は考える力を失い、暴走を始めることとなる。
そうなると、エネルギーが切れるまで戦うことを止めず、再び確保するには多大な時間と犠牲が生まれることとなる。
それはダーレスが、というより『イカン』の職員全員が望むことでは無かった。
「…………」
ダーレスは心配そうに流輝の顔が映し出されている一つの映像を見る。
そこに一瞬、映し出された流輝の目は、黒く淀んでいて、そこが見えず、何も見ていないかのようだった。
が、ミリアが話しかけると、すぐに普通の目に戻り、明るい表情で話を始めた。
ダーレスはそれを見て、小さく呟く。
「それにしても、自我の呑まれるスピードが、ミリアの比ではなく早い」
「はい、そうですね」
ちなみにミリアの方はほとんど変動が無く、それだけ強い意志を持って戦っているということの証明でもある。
「何かの精神疾患があるのかも知れないな、叶芽君、後で調べてきてくれ」
「はい」
ダーレスは連れてきていた精神科医にそう伝え、奥に下がり、流輝達を迎えに行くことにする。
その途中、誰もいない通路で、小さく舌打ちをした。
「まだ、時期尚早か……」
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