第一部-第一章〈上〉 『ファースト・コンタクト・オブ・ザ・クトゥリュー』

五日後

 「おばさん、ちょっと出かけてきますね」

 「はいはい、流輝君、気を付けてらっしゃい」

 「分かってますよ」

 「ところで……」

 「はい?」

 「どこ行くの?」

 「…………コンビニです」

 立木流輝は家から出てコンビニに向かう。

 あの事件から十年たち、流輝は立木のおばさんの養子になっていた。結婚せず、生涯独身を貫くつもりだったらしいが、流輝を大学卒業まで育ててくれるらしかった。

 他に頼る当ても無かったので、流輝はありがたくその申し出を受けたのだった。

 そして、今ではもう高校二年生

 この春に無事に進級し、大学進学に向けて頑張っている。

 将来の夢は特にないが、これから見つけるつもりでいた。

 今日は学校が休みなのだが、あまりにも暇なのでコンビニに行き、週刊マンガ雑誌を買おうと思ったのだ。

 その時海風が吹き、海特有の香りがする。

 ここは海から少し離れているので、よく海の香りがするのだ。

 「…………」

 今では平気だが、昔は苦手だった。

 らしい。

 実は流輝、昔の事故の事をあまり覚えていないのだ。

 溺れてからの後、流輝は相当錯乱していたらしく、海に関する何かを感じると、暴れ出したりしていたらしい。

 が、正気に戻ってからは事故にあってから治るまでの間の記憶を失い、事故に会う前の普通の状態に戻っていた。

 らしい。

 覚えていないので、それも伝え聞いた話でしかない。昔の事なんて気にしていては仕方がない。

 流輝はそう割り切っていた。

「よし、行きますか」

流輝は再び歩を進めると、徒歩十分のコンビニに向かって行く。

と、その時

「ん?」

 流輝の全身を大きな影が覆った。

 それと同時に、飛行機が飛ぶときに響くような、独特の音が聞こえてきた。

 不思議に思い空を見ると、何かが海に向かって飛んで行く巨大な何かが見えた。

飛行機にしては大きさが大きく、形がいびつだった。翼はまるで鳥のようで、何となく有機的に見えた。

 「何でしょう、あれ」

 少し疑問に思ったがすぐに興味が失せた。

 よく分からないことを深く考えても仕方ないのだ。

 もうコンビニも見えてきたので、さっさとマンが雑誌を買うことにした。時間は有限なのだ。

 「急ぎましょう」

 少し早足にすると、急いでコンビニに行こうとする。

 後数分で到着、というところで

 コンビニの上に何かが落ちてきた。

 コンビニがそれに踏みつぶされて、ひしゃげる。

 「はい?」

 落ちてきたそれは、約二十mの大きさがあって、いびつな人型をしていた。顔は無く、上半身は長い円柱の形をしていた、下半身は小さく、両腕は長く、四足歩行のような見た目になっていた。

 前腕部は大きく張り出したブースターのような物がついていて、翼のような外見になっていた。

 上半身の円柱の先には丸い何かが付いていて、そこには赤いモノアイが不気味に光っていた。

 円柱の上はバックパックと、二本の銃のような物が搭載されていた。

 つまり、それは

 「ロボット?」

 そう、ロボットだった。

 そのロボットは、両腕を上げてさっき飛んで行った飛行物体を狙うと、手の平にあるビーム砲の銃口を向けた。

 そして、ビームを放つ。

 ビームと言っても、光速の物では無い。

 空中にある光粒子を吸収し、弾丸状に生成すると、それにエネルギーを利用した熱量を持たせ、亜音速で放つものである。

 正式名称『光粒子弾』通称『ビーム』

 それが、空を飛んでいたものに命中する。

 すると、爆音が響き、飛行物体が大きく揺れる。

 「あれ、落ちたらまずいですね」

 ちょうど流輝の家の上あたりで命中していたので、落ちたら家がつぶれてしまう。

 すごい心配だった。

 が、飛行物体は落ちることなく、少し高度を落としただけだった。

 「え、っていうかなにこれ!?」

 流輝はここで初めて、非現実的な出来事が起きていると気が付いたのだ。ここで初めて脳味噌が正常に動き出したともいえる。

 「やばい、どうしよう」

 今ここにいるのは危険だと判断した流輝はどこかに逃げようと思ったが、近くに避難所も無いので、途方に暮れた。

 ちなみに一番近い避難所は、老朽化が酷く、封鎖されていた。

 そんなことを考えている間に、先程落ちてきたロボットと同型のロボットが空から数体降ってくる。

 その数、四

 さっきの奴と含めると、降って来たロボットは五体になる。

 そいつらは同じように手の平にある銃口を向け、一斉攻撃を仕掛ける。

 が、飛行物体はシールドのような物を張ると、直撃を防いでいた。

 何このオーバーテクノロジー

 「何、これ…………」

 すると、その時、偶然にもロボットが踏みつけてしまったガソリンスタンドから、火の手が上がり、引火して、大爆発を起こす。

 すると、近くの民家に延焼して、家事が起こる。

 すぐに大火事へと発展する。

 それを見た町中の人が当ても無い避難を始める。それを見て、流輝もついて行こうとするが、どこに行ったらいいのかよく分からなかった。

 多分町の人も良く分かっていないだろう。

 「さぁ、どうしましょう……」

 割と真面目に考えているのだが、流輝の周りに漂うのんびりとした雰囲気のせいか、そうは見えなかった。

 ま、とりあえず町の人が逃げる方向に向かうことにした。

 「こっちですかね」

 適当に海に向かって走り出した、その時

 宙を飛んでいた飛行物体に異変が起きた。

 地面の方を向いていた部分が展開して、開く。何かが出てくるかと思い、流輝は顔を上げて何となくそこを見る。

 が、そこには何も無かった。

 「期待した僕が馬鹿でした」

 と、思った次の瞬間

 一体のロボットの顔面が吹き飛んだ。

 そして、内部で爆発が起こり、機体が霧散する。轟音が響き、破片が飛び、町を壊していき、爆発のときの炎がさらに火事の被害を大きくしていく。

 「え、何が起きた?」

 他の四体のロボットは、攻撃する手を止めて辺りを見渡していた。どうやら何が攻撃を仕掛けてきたのか探しているらしかった。

 が、さらにもう一体が爆発し、残った三体は飛び上がると、散開する。

 それを見た流輝もつい、辺りを見渡してしまう。

 「はっ、何してるんだ、僕は!!」

 流輝は正気に戻った!!

 もう一度、海に向かって走ろうとする。

 と、そこで偶然にも流輝の近くに一体のロボットが舞い降りる。

 着地のときの衝撃波と振動に襲われ、流輝は地面に倒れこんでしまう。

 「うぐっ…………」

 流輝は飛んでくる破片から体をかばうように、腕をクロスさせて、より一層体を小さくさせ何とかしのぐ。

 「クッ」

 悪態をつきながら何とか立ち上がる。

 と、同時にロボットが何者かに撃ち抜かれ、大爆発を起こす。

 「あ――」

 流輝の近くで大爆発を起こす。

 それはさっきの衝撃波や振動とは比べ物にならないほどの威力で、辺りの建造物を見境なく崩壊させていく。

 流輝もそれに巻き込まれ、吹き飛ぶ。

 運よく、炎に巻き込まれこそしなかったのだが、それでも一瞬宙を舞い、崩れなかった塀に頭をぶつけてしまう。

 「ウグッ!!」

 生暖かい感触が後頭部を覆う。

 額から血が流れて口に入る。

 やっぱり鉄の味がした。

 正直、不味い。

 「うぅ……」

 流輝は小さく呻くと、目を開けた。

 目の前が揺れる、気分が悪い、頭が痛い。

手足にうまく力が入らない。

 前にもこんな感触を味わった気がしてきた。

 いつの事だっけ?

 あぁ、そうか

 あの事故だ


 ヤダ

 

 死にたくない。


 意識が混濁していく。

 何かが脳味噌を犯してくる。

 くらくらする、さっきのくらくらとは違う。

 気持ちのいいくらくらだった。

 「…………」

 いやだ

 その時

 何かが起きた。


 その頃上空で、ダーレスはパソコンを眺めつつ小型輸送空中戦艦『シャンタック』の内部で、反応を追っていた。

 ちなみに座っているのは指令席、周囲には数人の男たちがそれぞれ作業をしていた。

 と、その時、突然反応が消え、ダーレスは驚きのあまり立ち上がる。

 周囲の情報処理班もそれに気が付いたらしく、ザワザワとこえがあがる。

 ダーレスは椅子の手すりに拳を叩きつけると、叫んだ。

 「クッ……契約者に呼ばれたのか!?」

 「大変です!ダーレス隊長!」

 「分かっている、反応が消えたのだろう」

 「それもあるんですが…………」

 「何だ」

 「戦闘中の地域に反応が……」

 「!!」

 ダーレスは報告に来た男を押しのけ、窓際に張り付くと、そこから眼下にある戦闘中の町を睨みつける。

 するとそこには…………

 

 流輝は困惑していた。

 頭がぼんやりし、気分が悪くなり、目の前が真っ赤になった瞬間、目の前が真っ暗になり、何かが現れた気配がした。

 流輝は顔を上げると、そこには巨大なロボットが鎮座していた。

 その姿は、異形の物だった。

 無駄にでかい図体に、少しスリムな脚、背中からは長い棒のような物が伸びていた。全体から見るとずんぐりしているのだが、決して不細工な体つきでは無かった。

 顔は丸く不気味にデュアルアイが光っていた、有機的な形をしていたが、どういうわけか顔の下半分が管のような物で覆われていて、胸の上部に接続されていて、まるで蛸のような顔だった。

 片手には手斧、と言うには大きめの斧が握られていた。

 もう片方の手には、コの字型をした、不気味な銃のような物が握られていた。銃口は、上下に二つあり、よく分からない構造をしていた。

 「え?」

 突然、目の前にロボットが現れ、流輝は目を白黒させる。

 いったい、何だというのだ。

 が、現れたロボットのおかげで正気に戻り、何とか立ち上がることに成功した流輝は、何の気も無しにロボットを見上げる。

 すると、ロボットの目が光った。

 「あ…………」

 それを見て、流輝は頭の隅っこがうずくのを感じた。

 あれ?

 どこかで…………

 見たことが……

 ある?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る